食事
「いよいよですね」
真夜中。静まりかえった地下都市の中で康生達はそれぞれ円で囲うように座っている。
現在広場には康生達をはじめ、異世界人と人間の兵士達だけがいる。
それ以外の住人は全てこの地下都市から避難させたのだ。
当然康生達も逃げるという選択肢もあるにはあったが、それをしてしまうと結局皆を危険にさらしてしまう。
だからこそ、皆との話し合いの末こういう形をとることになった。
「英雄様がしんみりとしているようじゃあ、信じてる者達にとって示しがつきませんよ?」
皆最後の晩餐とばかりに各自で談笑しながら飯を囲んでいた。
そんな中、一人しんみりとした表情を浮かべていた康生の元に上代琉生がやってくる。
「信じてる者達か……」
改めて上代琉生に言われ康生は自覚する。
今回の戦いでの戦力の要は自分自身なのだと。
勿論、今まで皆から頼られたり、自分の力を解決しようと必死に頑張ってきた成果なのだから不満は何もない。
でも、だからこそ、本当に自分にその役が務まるのか康生はたまに不安になることがある。
「そういえばお前はずっと英雄様って呼んでるな」
エル達は当然だが、街の住人達も宴会での場ではそう呼んでくることもあるが、基本的には名前で呼んでくれる。
だからこそ上代琉生だけが未だに英雄様と呼んでいることに少しの違和感を感じていた。
「そりゃ英雄様だからそう呼ぶんですよ。俺にとっての英雄。だから俺はいつまでもそう呼び続けますから」
「……」
上代琉生からシンプルに誉められたことに少しだけ恥ずかしくなった康生は、わずかに視線をそらす。
「まぁ、この話はまたいずれしますよ。今は楽しんでくださいね。あの人達も英雄様がそんな表情をしてると心配しますので」
「え?」
それだけ言って上代琉生は去っていってしまう。
あの人達とは一体誰のことかと思っていると、すぐに康生の元に人影が近づいてくる。
「大丈夫康生?」
「大丈夫か?」
「あっ……」
その言葉を聞いて康生はあの人達が誰を指していたか気づいた。
康生を心配そうに見ているエルと時雨さんを見て康生はすぐさま立ち上がる。
「大丈夫だよ。確かにちょっと不安はあるかもだけど、それでも俺は全力でやるだけだから」
「そうね。康生は今までも頑張ってきたからきっと大丈夫よ」
「何かあれば私たちがすぐに助けてあげるから何も心配するな。康生は康生の思うようにやればいいだけだ」
「二人共……。うん、そうだね。皆の為にも俺頑張るよ」
そうして康生達は改めて食事を始める。
康生の表情は先ほどのものとは違い、明るいものへと変わっていた。