誤解
「はぁ……」
広場から少し離れた所で康生はため息を吐く。
ため息の原因となるのは早朝の出来事だ。
広場で目を覚ましてエルと話している所を翼の女に目撃された時、壮大な勘違いをされてしまった。
そのせいか、多少はマシになり始めていた康生と翼の女との関係が一気に崩れてしまった。
といっても、街の人達と異世界人達の関係は良好なものとなったのでよかった。
でもどうも誤解から生まれたことなので、康生自身どこかやるせない気持ちだ。
「大丈夫か康生?」
「時雨さん……」
ここに時雨さんが来たという事はどうやら広場の片づけかあらかた終わったようだ。
どうして康生も広場の片づけを手伝わなかったのかというと、翼の女の機嫌が悪くなるからだ。
結局誤解も解けないので、しばらくの間そばから離れることになったわけである。
「あの人の様子は……?」
恐る恐る尋ねるが、時雨さんは首を横に振る。
「いや、だめだ。今もエルが付きっきりだよ」
「そうですか……」
これからどうしようかと康生は頭を悩ませる。
「それにしてもまさかあそこまでエルにご執心だとは……」
「ほんとですね……」
また、ため息をこぼしながら康生はこれから先の事を考える。
といっても今の最重要課題は翼の女との誤解を解くことだ。
でもエルがいうには、しばらく一緒にいたらどうにかなるようだ。
どうやら、今回のようなことは初めてではないようで、扱いが手慣れたようだった。
そのエルが言うだから恐らく大丈夫なのだろう。
「……それよりあの約束は覚えているか?」
「約束?」
時雨さんが急に頬を赤らめてもじもじと体を動かす。
「忘れたのか?」
康生が聞き返すと少し不機嫌そうに時雨さんは頬を膨らませる。
なんだか、急にそんな可愛い態度を見せられ康生はついドキマギしてしまう。
「――も、勿論覚えていますよ!?」
なんていうが最初は全く覚えていなかった。
しかし時雨さんのその態度を見て康生は思い出した。
ポンッ。
「…………これでいいですか?」
少し背伸びをした康生は時雨さんの頭に上に手を置く。
そのまま手を動かす康生。
そう。康生は時雨さんの頭を撫でている。
「うっ…………」
些細なその行為で時雨さんは顔を赤くする。
「…………」
そしてしばらく時雨さんは固まってしまう。
「あ、あの……?」
固まった時雨さんを見た康生は僅かに戸惑う。
「――――ありがとう」
時雨さんはそれだけ言って広場の方へと戻っていった。
康生はしばらくの間、時雨さんの可愛い態度に呆けていたのだった。