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理屈

「殺され……た?」

 都長の言葉を聞いた康生は呆然と繰り返した。 しかしその実、頭ではまだ処理しきれておらず言葉の意味を理解できずにいた。否、言葉の意味を理解することを脳が拒んでいるようだった。

「そう。異世界人に殺された」

 どういうわけか都長はそんな康生を見て、はっきりと現実を認識させるように繰り返し言った。

「都長っ!」

 まるで康生を攻めるような言動に時雨さんはすぐさま止めに入ろうとする。

 だが都長はそれを睨みを効かせるだけで止める。

「――康生一つ聞きたいことがある」

 そして都長はゆっくりと口を開いた。

 しばらくすると康生も少し落ち着きを取り戻すが、しかし未だショックを隠せないような表情で呆然と都長に顔を向ける。

「君は異世界人と和解を望んでいるようだが……これでもまだ君は異世界人とともに手をとれると思うのか?」

 都長の問いは康生の心にぐさりと刺さる。

 今まで疑いもしなかったエルの夢。それを絶対に叶えさせてあげると誓った思いが揺らいだ。

 それもそうだ。自身の親が殺されたとなったら、殺した相手を憎むのは当然。

 しかしも康生は両親を愛し、そして尊敬していたので尚更だ。

「どうだ?」

 そんな康生の揺らぎを知ってか知らずか都長は答えをせかすように言ってくる。

「そ、それは……」

 康生は答えられずに言葉を濁す。

 今、康生の心の中では大きく葛藤している。

 だからこそ康生は思考を切り替える。いつもの利己的な思考に。

「――両親を殺されたとなったら、確かに異世界人は憎いです」

「だろう?」

「でも、それと夢は関係ないです」

「なんだと?」

 康生の答えを聞いた都長は怪訝な表情を浮かべる。

「関係ないとはどういうことだ?君は憎い奴と仲良く手をつなげると言うのか?」

 怪訝な表情のまま都長は康生に質問を投げかける。

 しかしそんな質問にも康生は冷静に対処する。

「確かに異世界人は憎い。でもそれは俺の両親を殺した異世界人が憎いだけです。普通の犯罪だってそうですよ。いくら自分の両親が誰かに殺されようとも、人間全てを憎むことはしないでしょう?」

「…………」

 康生の答えを聞いた都長はしばらく黙り込む。

 先ほど表情が変化したことから康生の答えは予想外だったらしく、なにやら悩むように顔を曇らせる。

「…………なるほどな」

 やがて都長は小さく呟く。

「確かに理屈でいえば全くその通りだ」

 康生の意見を肯定するように話す。

 しかし、

「だが、理屈と気持ちは違う。そもそも殺される原因を作ったのは異世界人だ。異世界人が私達の土地を奪ったのが悪いんだ。私はそう思うがね」

 と都長はどこか悲しげな表情を浮かべたのだった。

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