第一章:四天王の華麗なる艱難-27
「ぎ、ギィィィィィ……」
リードデバウアーメガバットの身体から少しずつ、力が抜けていく。
限界出力時間二秒を超える運用をした《死中求活》により内臓の一部がミイラ化し、最早風前の灯である。
しかし──
「ぎ、ぎ、ぎィィィィ……」
執念の炎は、まだ僅かに揺らめいている。
「見上げた根性だ。感嘆に値する」
霞む視界。その景色の中にいつの間にやら影が差す。
「だがここまでだ。これ以上は許さん」
影から腕が伸び、斜めに構えられる。
「本当は彼等の役割なのだがな。今は余裕がない。代わりにやらせてもらう」
そして──
「感謝する。私の部下の礎になってくれて」
瞬刻。腕が振り払われた直後に視界は一瞬にして暗転。
そのまま成す術なく、実にアッサリと揺らめいていた灯火は吹き消された。
「……さて」
振り返り、見据える、
死力を尽くし、己が信念と強欲を貫き通した愛しき部下を。
「手厚く、報いてやらねばな」
「あ゛ぁ……くそ……」
頭が……バカみてぇに痛ェ……。
ゔぅぅ……。
「お゛ぇ゛ぇぇっ……」
あ゛ぁ、チクショウ……。吐いちまった……。
頭痛すぎっと……気持ち悪く、なんだなぁ……。
「はぁ……はぁ……」
「辛そうだな。大丈夫か?」
「──っ!? ぼ、ボスぅ……」
い、いつの間にこんな、近くに……。
「おぉ、おぉ。随分と顔色が悪いじゃないか。蒼白通り越して土気色しているぞ。相当に無理をしたのだな」
うずくまりかけてる俺の横に座り俺の顔を覗き込んで薄く笑うと、背中を優しく摩ってくれる。
するとなんか少しだけ頭痛が和らぎ、多少物事を考える余裕が出来た。
まだ油断したら吐きそうではあるけど、これもボスのおかげか?
「ふむ。……強引に魔力を操作して脳のキャパシティを超えたようだな。神経系が軒並みオーバーヒートを起こし、尚も動かして続けたせいでショートした……といった具合か」
ボスが……何かよくわかんねぇ事を言ってる。
これが今絶不調なせいなのか、それとも元々難しい事言ってんのかはわかんねぇけど……。
「辛いだろうが、コイツは小手先で治せる類のモンじゃない。私の魔力を流して多少マシにはしてやれているがあくまで気休めだ。一番は脳を無理なくゆっくり休ませる──何も考えずにボーっとするかぐっすり寝るかだな」
「ゔぅ……そ、そっスか……」
「安心しなさい。薬学の権威謹製の痛み止めがある。即効性と効果が強く頻用は憚られる代物だが、このままじゃ頭痛で寝るに寝れんだろう? コテージに戻ったら飲ませてやる」
「あ、ありがとう……ございます……」
「なに。部下のケアは上司の仕事だ。全霊を尽くすさ。……それと──」
ボスが立ち上がり、目線を移す。
そこにはポパニラによって肩のキズを応急処置されているヴィヴィアンと、ずっと魔術で周囲を明るくしてくれていたコンタリーニが居た。
……アレ? なんでまだ周り明るいんだ?
「ん? ……ああ、周りは私が代わってやっている。暗いままでは都合が悪いのでな」
「都合が?」
「ああ。君より優先せねばならん事がある」
そう言ってボスはヴィヴィアン達の元に歩み寄る。
「な、にが?」
今の俺より、ヴィヴィアンが?
でも、あの子はケガしたけど助かって……。
……。
頭痛のせいでやたらに重く感じる身体をなんとか起こし、ボス達の元に遅れて寄る。
「ぼ、ボス?」
「忘れたか? リードデバウアーメガバットのある種最大の脅威を」
「脅威……」
「……爪や牙に巣食う病原菌だ」
「あっ!! ──痛っつっ!?」
そう、そうだっ!
あのクソコウモリ……あれの爪なんかに「狂犬病」とかを発症する病原菌がいんだった……。
だから俺たちは必死こいてアイツの直接攻撃を絶対食らわねぇようにしてたってのに、なんで俺はそんな大事なこと忘れて……。
「あまり興奮するな。辛いだけだぞ」
「で、でも、俺……。こんな事も忘れて呑気に助けれたって……」
「命を拾えた事に変わりはあるまい。一時の極限状態で思考や記憶が鈍る事は間々ある。それだけ君自身も身を削ったという事だろうさ。納得出来るかどうかは君次第だがな」
「く……」
情けねぇ……。こんな事で余裕なくなって……。
「まあ、厳しい事を言えばあのまま油断せず、最後の一撃にまで気をやれていれば──ん?」
ボスが振り返り、空を見上げる。
「……成る程。そういうパターンもあるか」
「え?」
後を追って俺もボスと同じ方を見上げると、そこには遥か向こうから高速でコッチに向かってくる何か──見覚えのある巨大なコウモリが見えた。
「番が居たか。同じ環境で同じ魔力を浴びればそういう事もあり得るか」
ふ、ふざけんなよっ!! どんだけ苦労してやっつけたと思ってんだよっ!!
「は、はぁっ!? あ、あんなのがもう一匹?」
「う、ウソ……」
「そんな……」
「でも、私達じゃもう……」
ヴィヴィアン達も同じように見上げ、顔色を悪くしてる。
クソ……。二匹も居るなんざ聞いてねぇぞっ!!
だ、第一アレともっかいやる余力なんざ……。
「コウモリに夫婦愛があるのかは知らんが、まさしく怒髪天を衝く勢いだな。……致し方無い」
そう呟くとボスは肩を庇うヴィヴィアンに歩み寄り、自身の懐に手を入れると何を取り出した。
その何が──
『う、うぅ〜〜ん……アレ、パパぁ?』
「すまんなドーサ。さっきやってくれたやつ、このお姉ちゃんにもやってあげられるか?」
それはボスとロリーナをパパママと言って慕う子蛇──ドーサだった。
『うみゅ? うぅぅん、わかったぁ〜〜』
「ありがとう」
ドーサは寝ぼけ眼でアクビをした後、するりとヴィヴィアンの元に行く。そして──
『お姉ちゃんゴメンね』
「え、ご、ごめんって──痛ッ!?」
唐突に、噛み付いた。
「えッ!? ちょ、ボス……アレ何をッ!?」
「説明は後だ。来るぞ」
「──ッ!?」
色々と状況が飲み込めないでいると、もうすぐそこまでもう一匹のリードデバウアーメガバットがコッチに突っ込んで来ていた。
このままじゃ俺たちに直撃しちまう……。なんとかしねぇと──
「退きなさい」
「え」
直後……上空から高速で飛翔し突進してきたリードデバウアーメガバットを……ボスがタイミングを合わせて真正面から思いっっきり、殴った。
「ギィィヤ゛ッッ!?」
「え゛ぇッ!?」
正確にヤツの顔面を捉えたボスの拳はバキバキと音を鳴らさながら骨を砕き、その勢いのままぶっ飛ばす。
「……ふむ。存外軽いな」
「え、えぇ……」
か、軽いって……。
そりゃあの図体で空飛んでんだから同じ大きさの他の魔物なんかよりゃ幾分か軽いだろうけどよ……。
それでもあの勢いで突っ込んでくる百キロ越えのモン殴り飛ばせねぇよ普通。
というか……。
「てか、ボス……やってくれんスか?」
「満身創痍の部下に新手を任せるほど鬼畜なつもりはない。それに君達に任せた分は君達自身でしっかり仕留めたろう? 業務外労働なんぞ部下にさせられるか」
「ぼ、ボス……」
「さて……」
ボスが鋭く、殴り飛ばしたリードデバウアーメガバットを見据えて歩き出す。
「丁度本格的に身体を動かしたいと思っていたんだ。サンドバッグとして、存分に応えてくれよ?」
──その後のボスとリードデバウアーメガバットの戦いは、ある意味で壮絶だった。
怒りに任せて翼の爪で攻撃してきたのを、ボスは防御すらとらずにそのまま受けて……けれども微動だにせず無傷でヤツに笑っていた。
そしてそのままヤツの翼を掴むと、「よっこいせ」なんてわざとらしい事を口にしながら軽々と背負い投げ。
地面に打ちつけられたリードデバウアーメガバットが苦悶の声を漏らすと、すかさずボスが仰向けに倒れたヤツの腹の上に飛び乗って、四翼ある内の左右一対ずつの翼を肩口に掴んで……。
……思い切り引っ張って翼を引き千切った。
当然激痛で叫び声を上げたリードデバウアーメガバットだったが、自身の両翼を放り捨てたボスに目掛け俺達も苦しめられた大音声の超音波を放って仕返し。
だけどボスはそれを涼しい顔で《音響魔法》の魔術で相殺して、直後にもう両翼を引っ掴んでまた引き千切った。
とうとう四枚の翼を失ったリードデバウアーメガバットは苦し紛れに溶解液をボスに放ったけど、ボスはそれを新しい素材だと喜んでポケットディメンションに回収。
何をしても無駄だと察したヤツは最後の足掻きに噛み付こうとしたが、それもアッサリと叩かれて顎を砕かれて。
完全に無力化され絶望に顔色を染めたところを、《磁気魔法》で手元に集めた砂鉄を《熱冷魔法》で融かして即席の刃を作り、それをヤツの眉間に力一杯に押し込んで……終わり。
俺達四人が必死こいて作戦を実行して、瀕死一歩手前くらいまで追い詰められてやっと倒した相手を、たった数分で片付けちまった。
…………正直なところ、尊敬が三割、悔しさ七割って感じ、だな……。
別にあのリードデバウアーメガバットが特別弱かったり強かったりしたわけじゃねぇと思うけど、それでもやっぱここまで実力差を感じさせられっと……。
「……遠いなぁ……」
「ならば精進する事だな」
「──っ! ……ボスみてぇになれって事っスか?」
「そうは言わん。これでも己の力量程度は把握しているつもりだからな。生半可な努力や運では私に追い付くのは難しいだろう。そもそもその頃には私は更なる高みに居るだろうしな」
「そ、そんなハッキリと言わんでも……」
「だが少なくとも、今日の君よりは確実に、絶対に強くはなれる」
「──っ」
「いつなどという保証まではしてやれんが、私が君を鍛え続ける限りは強くし続けてやる。それこそコイツ相手にさっきの私と同じ真似が出来るようになる程度に──君の村を君が救ってやれる程度にはな」
「……保証もないのに、っスか?」
「ふふふ。言うじゃないか。まあ、当選確率がバカみたいに高い賭けにでも乗っているつもりでいなさい」
「倍率は?」
「無限大だ。それは、保証してやる」
「──で、これはどぉいう事っスか?」
一段落ついてヴィヴィアンの方。
彼女の負った傷の近くにドーサが噛み付き、それを俺の部下三人がどうする事も出来ずアタフタしている。
引き剥がしたいところなんだろうけど相手は蛇とは思えないくれぇ愛嬌あるドーサだし、そもそもボスが意図して噛み付かせた感じだったからな。
それを勝手にどうのってのが、多分出来なかったんだろうな……。
「ドーサには今、治療をしてもらっている」
「ち、治療っ!? それって……狂犬病の?」
マジかよ……。ボスからきっと将来有望だって親バカ発動してたのは聞いてたけど、そんな事まで出来んのか。
しかもこんなまだ小せぇのに。
「君達には軽く話していたが、ドーサはユーリがまだ現役魔王だった際に実験的に精霊のコロニーに置いていた卵から孵った子だ」
「え。……あ、ああ確かそんな話聞いたな」
「それでその卵ってのは、元々魔生物専門家のエルウェが従えていた使い魔の大蛇のものだったのだが……。どうやらその大蛇や兄弟蛇達の性質を受け継いでいるようなんだ」
「へ、へぇ……。そいつはまた、特別感スゴイっスね」
「ああ。それでその兄弟の中にあらゆる細菌を体内に貯蔵しておける〝菌庫〟という特殊な器官を有していたんだ。そしてドーサは、それを幼いながらに発現させている」
「──ッ!?」
「〝菌庫〟は最初は空っぽだが、噛み付いた対象から毒腺を介して細菌を採取し、菌庫内で培養、保管する。今ドーサにやってもらっているのは、ヴィヴィアンの体内に駆け巡っているであろう狂犬病の病原菌やそれに類する全ての細菌とそれが放出している毒素の採取だ」
病原菌と、毒素の採取……。それってつまり──
「ゔぃ、ヴィヴィアンは助かるんスかっ!?」
「多少の体調不良くらいには陥るかもしれんがな。だがドーサもまだまだ未熟だ。一度に一掃するのは難しいから間隔を空けながら何度か繰り返して根絶、根治まで持っていく。それが私が施せる治療だ。また、殆どドーサのおかげで私などやらせているに過ぎんがな」
「……よ、良かったぁぁ〜〜」
思わず安心感で膝の力が抜けて座り込んだ。
まだ頭ガンガンするし、言われたことの何割も理解出来てねぇけど、とりあえずヴィヴィアンが助かんなら、もうなんでも良いや……。
「あ。じゃあ被害に遭ったギルド職員さん達も?」
「無事、なのですか?」
同じように安心した様子のポパニラとコンタリーニが、ボスが治すと約束していた彼等について訊く。
でもこれに関してはもう分かりきってる話だな。
わざわざ別の手段取る意味ねぇし。
「まだ完治はしちゃいないがな。ヴィヴィアン含め、これからまたドーサには頑張って貰わなきゃならん」
そう言ってボスは少し疲れ気味のドーサの頭を指で優しく撫でてやる。
けどなんかこう……ボスにいつもの覇気がちょっと無い気がすんな。
……。
「……もしかしてボス」
「ん?」
「自分の力だけで狂犬病を解決出来ない事、気にしてんスか?」
「──っ! ……君は流石、人の機微をよく読み取る」
あ。やっぱそうなんか。
なんか横顔がこう……どうもいつもみてぇにしまってねぇと思ったら。
「無論、一人でなんでも解決しようなど思っていないさ。実際部下や仲間を囲っているからな」
「そっスね。正直最初はなんでなんかなと……」
「私がどれだけ努力しようが分身出来ようが、所詮は一個人だ。やれる事には限界があり、選べない道の先にも輝かしい何かがある。私はそれをなるべくこの手の内側に囲えるよう、君達のような者達と手を繋ぎ、可能な限り拾い集める。それこそが私の行動指針だ」
「……なるほど」
「だがな。自分の行動や決定で生まれた〝責任〟は、私の手で処理し、決着させたい。でなければそれによって得られる数多の利益に相応しくないからだ。……天秤は常に、平行でなくてはならない」
「いや……ですけどぉ……」
「ああ、分かっている。分かっているさ……。儘ならんよ、現実は。このワートムーンでもそう……。最初にあのコウモリ共の犠牲になった命──私の都合で消えた無辜の命に、私は真っ直ぐに報えん。彼等にとっては不本意で、私にばかり好都合な、汚く醜い私の〝強欲〟だ」
……分かんねぇけど、多分別に今だけセンチメンタルになってるとかじゃねぇんじゃねぇかな。
常に心の端っことかでいつも考えてて、けど解決なんざしねぇから答えなんて出なくて。
諦めたくて諦めてんじゃねぇ。
やりたい事も諦めねぇ。
だからこそ自分の可能な限りの欲望と犠牲が両立する最大限の策を考え抜いて、臆せず実行すんだ。
後悔も何も、しねぇように。
でもやっぱ現実ってのはいつだって、誰にだって、どうしようもねぇモンを突きつけんだ。
例えボスだろうとそれは変わらねぇ。
今まさに、それを突きつけられてんだな……。
にしても、珍しいな。ボスがある意味で弱気なこと漏らすなんざ。
……も、もしかして、俺たちにそこまで心を許してっ!?
「──と、君達に私の弱味を見せ付ける事で好感度を稼いで、だ」
「ぼ、ボスぅっ!?」
「さあ諸君っ! 今日は疲れたろう? 私が腕によりを掛けて美味いものを作ってやる。それまで各々のしっかり休みなさい」
「うぇっ!? あ、は、はい……」
な、なんかこう……。
「しゃ、釈然としねぇ……」
──その後、俺たちは数日ほどこのワートムーンで世話になった。
魔物の警戒と、狂犬病治療の為だ。
あのクソコウモリ──リードデバウアーメガバットが番だかなんだか知んねぇが二匹も居たからな。
下手すりゃもう一匹二匹くらい居んじゃねぇかって事で念の為に。
んで治療に関しては主にヴィヴィアンの方だな。
あの時ドーサにやってもらった一回じゃやっぱ根絶は無理ってんで暫く安静。
案の定ヴィヴィアンは体調をガッツリ悪くしたものの、狂犬病本来の病状までにはなんないで安心だ。
俺たちはそれを総出で看病して、元気付けた。ボスも忙しいってのに着いててくれて──って思ったら……。
「ん? 私は《影分身》だぞ?」
「……へ?」
「私の〝本体〟は君が言ったように忙しいからな。分身体である私は本体より全体的な能力もスキルも限定されてしまうもののそれなりには強い。こういった役割ならば十分に任せられるワケだ」
「……え、じゃああのクソコウモリを倒したのも?」
「ああ、アレも分身体だ」
「……なるほど」
弱くてあの強さなのかって気持ちと、本人じゃねぇって妙な寂しさが合わさって、なんだかスゲェ複雑な心境になったな……。
まあ、別に雑に扱わられてるワケじゃねぇんだろうがな。ハハっ……。
「さあ、もう体調は戻っているのだろう? やる事が無いのならドーサのご飯の確保にでも行ってくれ。最近は大食漢を発揮して野生動物一匹程度じゃ満足してくれんのだ。町の狩人の方々の狩りに同行させてもらいなさい」
「……それは上司命令っスか?」
「どちらかと言うとお願いだ。ドーサの体力が満たされたら、それだけ患者達の回復も早まる。ギルド職員は勿論だが、何よりヴィヴィアンにも早く回復してもらいたい。大事な部下として、な」
「……はぁ……。分かりました。狩りは一応経験者なんで、多分大丈夫っスよ。ウサギでいっすか?」
「あぁ……出来れば鹿か猪が良い」
「贅沢っスねっ!?」
「なんなら複数匹獲ってくれて構わんぞ? こう見えてジビエは好物でな。あの野生味溢れる脂がなんとも──」
「ってボスが食いたいだけじゃねっスかっ!?」
「ふふふふ。楽しみにしてるぞ? ディズレー」
「──っ!」
頭にフっと、村に居た頃のことが過ぎる。
隣のおばさん、ばあちゃん、ガキどもに頼まれて色々と手伝ったあの頃……。
それこそ猪やら鹿やらを獲って来て、村で夜通し宴にはしゃいだ、あの楽しかった夜を。
……。
「ん? どうした?」
「はぁ……。しゃあないっスねぇ」
「おお、行ってくれるか?」
「ハッハッハッ! 期待して待ってて下さいよッ!! 猪や鹿の一匹や二匹……それこそ宴でも開けるくれぇ獲って来ちまいますからねッ!!」
「ふははッ! 随分と頼もしいッ! ならば私も相応の準備をしなくてはな。楽しみにしている」
「はいっ! お任せ下さいっ!!」
──その日、自分でもちょっとどうかと思う数の獲物を持ち帰ってボスを驚かせ、町を上げて文字通りの宴に興じることになった。
デケェコウモリも寄って来ないような、馬鹿騒ぎの夜を……。




