第一章:四天王の華麗なる艱難-25
耳鳴りが止まない。
平衡感覚は風前の灯が如く弱々しく、吐き気と頭痛が集中力を削り取っていく。
それでも二本の足を地面に食い込ませる勢いで踏ん張らせ、ふらつく身体を振り絞った力技で押さえ込む。
──ヤツは大技を放った。
体力も魔力もごっそり持っていく、確実に獲物を仕留める為の正真正銘の必殺をだ。
仕留め切れぬ獲物は居らず、次の瞬間には一様にして眼前にフルコースが並ぶ絶命の音。
放ち、命中すればその未来に疑問を挟む余地など無い、確殺の自信を以って繰り出した大技だ。
……だが、仮にそれを耐える事が出来たなら?
未熟ながらも自らの持ち得る技術と知識を総動員し、可能な限りを……出来得る限りを振り絞って抗う事が出来たなら?
……得られるモノは、きっと計り知れない。
──ドンッ!! と、重く肉肉しい音を立ててリードデバウアーメガバットが地面に落下した。
直後全身をくねらせるようにしてその場で暴れ散らし、巻き上げた砂がその周囲に砂煙として立ち昇る。
「だいぃ……じょうぶだッ!!」
ディズレーは様々な絶不調襲う最中、《精神魔法》の魔術「不不屈よ不撓たれ」を三人へ発動。
大音声によって折れかけていた彼女達の心を暖かく優しく支え、下に向きかけていた視線を前に向かせる。
「今だッ!!」
「「はいッ!!」」
未だ体勢整い切らぬポパニラとヴィヴィアンは無理矢理に身体に喝を入れると駆け出し、リードデバウアーメガバットに迫る。
「縛れっ!! 我が仇に嶄巌たる頑強な束縛をっ!! 「クラッグチェイン」っ!!」
のたうち暴れる巨体をその盾で耐えながらポパニラが《地魔法》による対象を拘束する魔術を発動。
中空に出現した岩石の塊が大蛇のように形状を変化させ、暴れるリードデバウアーメガバットに絡み付いていく。
「ギィィッ!?」
「ヴィヴィアンっ!!」
「う、うんっ!!」
ヴィヴィアンが両手を合わせ、目を閉じる。
クラウンの部下中屈指の魔術精度を誇る彼女が集中し、魔力を研ぎ澄ませ、術式を織り成していく。
「清浄、我が純然たる願いの結実……。重ね編み出すは殺意と慈悲の剛槍なり……」
それは宛ら思わず息を呑んでしまいそうな緻密さで編まれた平織り物のキリムのように、最早芸術の域に達した彼女にとっての理想。
「射抜け。貫け。踏み躙れ」
己の吃音症をものともせず、細心の注意を払い、一言一言を確実に、正確に詠唱を口にしていく。
「彼の敵を磔刑に処し、傲慢の権化に裁きの閃光をっ!!」
そして──
「降り注げッ!! 「赦し能わぬ光輝の閃鑓」ッ!!」
両手を掲げ放たれたのは、二本からなる巨大な光の槍。
中空にて舞い踊るそれはその矛先を眼下のリードデバウアーメガバットの両翼に定めると、間断なく射出。
そして宛ら雷光のように奔り、音すらも置き去りにして裁きを下す。
──刹那。
「──ッッッ!! ギィィィィィィィィィィッッッ!?!!」
一瞬の静寂の後、目を覆わずにはいられない程の光が溢れ出し、遅れて肉が弾けるような破裂音が谺すると同時に甲高い奇声が上がった。
血と、吹き飛んだ翼膜が辺りに散らばる。
四枚ある翼全てとはいかなかったものの、四枚揃って漸く満足に飛行を可能としていた関係上、最早飛ぶ事は叶わないだろう。
これでリードデバウアーメガバットをこちらの土俵──地上へと引き摺り下ろす事が出来たが……。
「ぎ、ぎ、ギィィアァッ!!」
唐突に、苦しみ唸った。
そしてリードデバウアーメガバットは頬を風船のように膨らませ──
「──ッ!! 二人とも退がれッ!!」
「「は、はいッ!!」」
ディズレーが叫び、二人が退がり切るよりも早く前へと躍り出る。
直後──その口からヘドロのような高い粘度の液体を噴出させた。
ヘドロの正体は、そう、触れれば忽ち肉を腐らせ融解させる、極強酸性の溶解液である。
「……ッ!! 集えッ!! 極小のその身を束ね上げ、万装の防壁と成せッ!! 「シュッツヴァル・マクネーティート」ッ!!」
ディズレーが振るった手に反応するように、周囲数十メートルの範囲から黒い靄のようなものが地面から立ち昇った。
だがそれは靄などではなく、確かな手触りを持った極小の集合体──砂鉄である。
彼が唱えたのは《磁気魔法》による魔術。
周辺の砂鉄を大量に集結させそれによって壁を作り出す術であり、《磁気魔法》の魔術としては初歩的なもの。
術者の技量にもよるが、先程ポパニラが発動させた「ガードオブメナス」と防御性能自体はそう変わらない。
事前にわざわざ樽に砂鉄を集める事なく、広範囲の地面から現地調達する事で補える程度までに腕を上げたディズレーでも、そこに大差はない。
「グァッ!! グァッ!! グァッ!!」
何発もの溶解液がリードデバウアーメガバットから放たれる。
それらは容赦無くディズレーの展開した「シュッツヴァル・マクネーティート」に降り注ぎ、着弾した箇所から異臭を放つ黒煙が上がった。
リードデバウアーメガバットの吐く溶解液は人体を一瞬で骨ごと液状化させ、地面をすら抉れさせてしまう濃度と強酸性を誇る。
加えてその性能の高さによって本来は不純物のせいで衰える筈の溶解性は中々衰えず。
暫くの間は溶解性を維持し続けるという厄介な性質がある。
故にただの壁では──「ガードオブメナス」程度の防御性能でしかない「シュッツヴァル・マクネーティート」ではまともに防ぐ事など到底出来ないだろう。
……しかし、「シュッツヴァル・マクネーティート」はただの砂鉄の壁ではない。他の防壁系魔術には類を見ない特性を有していた。
「グァッ!! グァッ!!」
超音波同様、溶解液にも自信を持っていたリードデバウアーメガバットは繰り返し、幾つも浴びせ掛ける。
岩だろうが砂鉄だろうが問答無用で溶かし尽くす……。その確信の基に連射する……が──
「──ッ? グァッ!! グァッ!! グァッ!?」
……いつまで経っても、貫通しない。
溶かし、削り、貫く……その筈なのだ。
だがいくら吐き掛けても、浴びせ掛けても、一向に壁は聳えたままである。
「グァッ!! グァッ!! グァッ!? グ、グァッ……!?」
「ムダだバカコウモリっ!! テメェの溶解液じゃあ、これは破れねぇよっ!!」
先述したように、「シュッツヴァル・マクネーティート」は砂鉄による重厚の防壁。
ただの分厚い岩壁や何層にもなる多重壁とは違い、壁を構成するのは0.1ミリの極小粒の集合体であり、加えてそれらは一所に留まっておらず流水のように常に流動している。
つまり例え何らかの要因で砂鉄の防壁表層が破壊なり崩壊させられたのだとしても、その穴は瞬く間に塞ぐことが出来るという事だ。
更に言えば極小粒である関係上、本来なら破壊、崩壊で役目を終える筈の破片等も再利用可能であり、術者の魔力が途絶えない限り並の手段では突破不可能な壁となっていた。
「グァッ! グァッ……! グァッ」
このままでは埒が開かないと察したのか、
リードデバウアーメガバットは己が身体に溶解液が掛かるのを覚悟で我が身を拘束している岩による束縛を溶かして破壊。
自由になると一瞬だけ貫かれ使いものにならない翼膜を一瞥して忌々しそうにし、振り返るとそのまま四翼二足をぎこちなく動かしながら回り込もうとする。
「はっ! なっさけねぇなぁ、ムダだってのっ!!」
再度言うが、「シュッツヴァル・マクネーティート」は流動する砂鉄の壁である。
故にその形も、大きさも、向きも、変幻自在だ。
「ギ、ィィィィ……。グァッ! グァッ!」
リードデバウアーメガバットも、最早意地だ。
どれだけ回り込もうと眼前に追従してくる砂鉄の壁に、自棄になって更なる溶解液を吐き掛ける。
なんとか貫通させようと、同じ箇所に何度も、何度も……。
しかし──
「グァ……ッ、グァッ……グァッ……」
溶解液を防ぎ続け幾ばくか。リードデバウアーメガバットの表情に疲労の色が差し込み、吐き出す溶解液が徐々に弱々しくなっていく。
然しものリードデバウアーメガバットでも、無制限に溶解液を吐き出せるわけではない。
間髪入れず数十発と吐き出せば、自ずと量は目減りし、濃度は薄まり、生成する際に消費する体内の水分等も枯渇していく。
無論、溶解液の質が下がれば到底「シュッツヴァル・マクネーティート」を破る事など出来よう筈もなく。
リードデバウアーメガバットにとっての最良の武器の一つが、今では寧ろただ己を追い詰めるだけの自爆攻撃に成り下がっていた。
「グゥ、ヒュゥ……ヒュゥゥ……」
そしてとうとう、リードデバウアーメガバットの口からは唾液と喘息のような浅く苦しげな呼吸音のみが漏れ出すだけになり、その足取りも覚束なくなる。
「……ふぅ……。しまいだな」
小さく息を吐いたディズレーは「シュッツヴァル・マクネーティート」を解除すると、それと同時にポパニラとヴィヴィアンが再び前に参入し、構える。
「あんま苦しめんなよ。いくらコイツに悪意があったんだとしても、俺たちが苦しめていい理由にはなんねぇからな」
「「……はい」」
ヴィヴィアンが両手を前に突き出し、ポパニラは盾をリードデバウアーメガバットに照準を合わせた。
息も絶え絶えなリードデバウアーメガバットはそんな彼女等に向け片翼を振り上げ、翼の爪で攻撃する。
だがその一撃に威力は然程乗っていない。
体力を大いに消費する大音声の超音波の直後に目眩しを食らい落下。
暴れた後に無理矢理拘束され、挙げ句の果てに翼膜を貫かれてからの限界まで溶解液を吐出し続けた。
いくら魔物、いくら特殊個体とはいえここまで徹底して武器を潰され、体力を奪われてしまえばもう、どうする事も出来はしない。
底を尽き掛けている体力を搾り出し、何とか爪で殴るか牙を使い噛み付くので精一杯だ。
一応それで擦り傷でも負わせられたら大打撃には間違いないものの、速度も威力も乗らない攻撃が当たる筈もなく。
その悉くがポパニラの大盾に防がれ、逸らされ、なんなら大盾を器用に使いカウンターで爪を折り、牙を弾く。
リードデバウアーメガバットの胸中に、絶望が染み渡る。
リードデバウアーメガバットは焦燥と絶望の中、何故こんな事にになったのかを漠然とだが考える。
しかし要因など無数にあった。
油断、侮り、自信過剰、慢心、驕り、出し惜しみ……。
特殊個体魔物として覚醒し、生態系の天辺に一気に繰り上がった。
狭い洞窟を飛び出し、ありとあらゆる生物を蹂躙し、捕食し、有頂天になった。
獲得した理性が、疼く野生が、更にそれらを加速させ、いつしか致命的な亀裂になっていた……。
…………果たして、それだけだろうか?
確かにあった。それらの感情は蓋し、リードデバウアーメガバットから湧き出たごく当然の感情だっただろう。
だがそれを振り返り、俯瞰し、我が身を顧みる事も出来たのではないか?
その程度の理性は魔物化に際して獲得していた筈である。
ではどうしてそうならなかったのか? どうしてその機会が来ぬまま、取り返しのつかぬ所まで落ちてしまったのか?
……いくら思考を巡らせようと、根本的な原因は分からない。
そこが限界。
特殊個体魔物として目覚めた知性の、浅い浅い限界であった。
「ギィィッ……ギィィィィィッッッ!!」
「……」
ディズレーはヴィヴィアンの放った無数の光の槍がリードデバウアーメガバットを貫くのを見届け、静かに自身の手に視線を落とす。
この戦いは、始まる前に決していたと言っても過言ではない。
床に伏すギルド調査員から得た情報と、自分達が出来る事で組み立てた対策の数々……。それが上手く噛み合い、徹底した事で掴み取った勝利と言えよう。
──などと、都合の良い事はそうそう無い。
ディズレー達はクラウンが鍛えているとはいえ魔物との戦いの経験は浅く、個々の練度も安心出来る水位ではない。
ヘリアーテ班のように人数差がそこまで優位に働かず、グラッド班のように決定的な勝ちの手段もなく。
そしてロセッティ班のような際立った個としての強さも薄い……。
悪い言い方を敢えてするなら器用貧乏な班……。それがディズレー班の特徴と言える。
ではそんな彼等の最大の強味とは何か? そんな器用貧乏をここまで綺麗な勝利に導いた要因とは何なのか?
(──これが……)
ディズレーは深く、息を吐く。
(これが……《精神魔法》の怖さ、か……)
──ディズレーはリードデバウアーメガバットが自身の魔法適応内に入った直後に、《精神魔法》の魔術をリードデバウアーメガバットに仕掛けていた。
術の名を「謙遜殺しの不遜売り」。
対象の傲慢や驕りの感情を徐々に増幅させ、視野狭窄にしてしまう最悪の魔術。
かつて第二次人森戦争最終盤にてクラウンという化け物からサンジェルマンが逃げる際に彼に辛くも仕掛けていた魔術であり、同様の《精神魔法》にて精神を防護していたにも関わらずその影響を若干受けてしまったものと同じもの。
増幅された傲慢さによって知らず知らずのうちに視野が狭くなり無駄な拘りが増長。
焦燥感は煽られ手段を誤り、更なるドツボにどんどんハマっていく……。それが「謙遜殺しの不遜売り」である。
そしてこの魔術を、ディズレーは《博愛》を利用する事でリードデバウアーメガバットのその精神性の理解を深め、より根強く、より自然に、より致命的に、その傲慢さを焚き付けた。
その結果が今回の戦果に繋がった最も大きな要因である。
(ちっとやり過ぎな気もしなくはねぇが……。まあ、サポートって面じゃ申し分ねぇだろ。ただ……)
内心、ディズレーは動揺していた。
禁忌指定魔法の一つとして知られる《精神魔法》。
クラウンからは重々その危険性や悪性、異常な程の利便性の高さを教えられ、無闇矢鱈な使用を控えるように厳命されていた。
それを彼としても重く受け止め、戦々恐々としながらも幾つかの魔術を教わったのだが……。
(……ちゃんと、分かってなかったな)
痛感する。震えるほどに。
彼女達を力付けた「不不屈よ不撓たれ」のように人を支え助けるような術にしろ、特殊個体魔物をも術中に落ちた「謙遜殺しの不遜売り」のような傲慢さを増幅させる術にしろ、だ。
対象の精神を自らの胸先三寸で操れてしまうのはあまりにも汎用性が高く、その割に性能は凶悪極まる……。
魔物だろうが人間だろうが関係無い。
これを悪用しては世界は混沌まっしぐらだろう。
それを、ディズレーは身を以って体感した。
(はぁ……。つくづく、厄介な魔法を身に付けちまったもんだ……。だけど、これでもう……)
改めて前を向く。
何はともあれ目標を達成し、ボスからの仕事とギルド調査員の無念を晴らす事に至ったのだ。
後は報告をして、ひとまずは休息を──
「──ッ!?」
ディズレーに向け、無邪気に手を振るポパニラとヴィヴィアン。
眩しい二人のそんな笑顔に、一柱の影が差す。
「ヴィヴィアンッ!! ポパニラッ!!」
執念の一迅が、振り下ろされる──
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重苦しい空気の塊から抜け出すように、重厚な両開き扉を開ける。
玄関ホールの受付に軽く笑顔を向けた後、対面の扉に向け足を運び、潜る。
飾り気より利便性が重視された廊下を少し歩き、「応接室」の看板が貼り付けられた扉の前に辿り着いてから気持ち一拍置いて扉を開けた。
「おや。もう済んだのか」
この待合室には複数人の人間が居る。
一人は真っ先に私に声を掛けた目が覚めるような紅の髪色をしたこの国の経済の女王──ルービウネル・コウ・コランダーム。
もう一人はその右隣にてニコニコと少々胡散臭い笑みをコチラに向ける、我が叔母にして「劈開者」に於ける私の部下──メラスフェルラ・プリケット。
そして左隣に座る静謐さと可憐さを併せ持つ我が最愛の世界最高の麗しの君──ロリーナ・リーリウム。
そんな三人を前に、信じられない量の滝の脂汗を流しながらまるで私を救世主かのように輝いた目で助けを求めるこの「禿鷲の眼光」のギルドマスター──エドワーズ・アーチャーの四人である。
「そう時間は掛からないとお伝えしたでしょう? 恙無く、要件は済みました」
「ほう? という事は晴れて悩める伯爵家の一つを救い、恩を売れたワケだ。私の身内に、よくもまあ、堂々と」
「ふふふ。そう意地の悪い事を言わないで下さい。私と貴方が手を取り合っている以上、別に彼女に辛い二択を迫ることはないのですから」
「ああそうだな。億が一の手札を一枚持っていかれたくらいですまなかったな」
「相応の礼は尽くさせて頂きますよ。今回はよそ見していただき、ありがとうございます」
一通りの応酬を繰り返した後、メルラとロリーナに目配せ。
それから所在無さ気なギルドマスターに視線を移す。
「改めまして……。劈開者元帥を任されております、クラウン・チェーシャル・キャッツと申します。本日は貴重な時間を私のワガママに割いて頂き、ありがとうございます」
会釈をし、礼を述べながら握手を誘う右手を差し出す。
私の「劈開者」という立場と、ギルドを治める貴族の立場というのは、至極曖昧だ。
これで私がキャッツ家を継ぎ辺境伯家当主であったなら話は別だが、私個人に爵位は無い。
とはいえ一定の権力はあり、裏社会では無類の効果を発揮するも、表社会でそれを振うのは憚られるもの。
加えて今回この場を訪れた理由は、私が個人でした約束を半ば無理矢理に「劈開者」として紐付けた案件が由来だ。
故に私はこの場ではあくまで「劈開者」の元帥としての立場で振る舞い、その対応をギルドマスターのエドワーズに委ねたワケなのだが……。
「お、お待ちしておりましたクラウン元帥閣下っ! いやぁ、ワガママなどとんでもないっ!! 私共としましても、彼の罪人の処遇を決めかねておりました故、ご提案は喜んで引き受けた次第に御座いますっ!」
私の手を迎えるように握ったエドワーズの脂汗は、まだ止まらない。
そしてまるで台本でも読み上げるような無感情で、イヤに丁寧な口調に敬礼まで交えている。
恐らく私が地下で仕事をしている間に、三人がそれぞれの手段で〝私〟という人間について説明し、今回の要件が私にとってどれほどの意味を持ち、断ればどんな未来が待っているのかを語って聞かせたのだろう。
片や経済の女王と拷問のスペシャリストと魔王の最愛の秘書というトリオ。
片や巷で「なんでこんな福々とした人が?」と噂されるくらいの恵比寿顔と温厚な性格という話のアーチャー伯爵家当主のギルドマスター。
どちらかに舌戦で軍配が上がるのかと言われたらば……結果の予想は難くない。
……少々同情してしまうな。
「重ねてありがとうございます。万が一にも今回の件に起因した有事が発生した場合は、責任を以って対処、処置をさせて頂きますので、その際はご連絡頂ければ幸いです」
「私としても、今回の件を皮切りに、「劈開者」とのより密な関係を構築出来たらと考えております。道行きは決して綺麗で、易くないものではあるでしょうが、共に歩めるのならばこのエドワーズっ! 粉骨砕身お供させて頂きますともっ!!」
……はぁ。
知らんと、思っているのだろうな。
随分と、舐めてらっしゃる。
「……一つ、お尋ねしたいのですが」
「はいっ──ッ!?」
未だ握手をしたままだった手を引き寄せ、耳元に口を寄せ、囁く。
「……死体は一体、金貨二十枚前後でしょうか?」
「──ッ!?」
「十代半ばの若造ならば今までより易いと、そう勘案するのはお好きにどうぞ。ですが私を前にして獣共相手に死体売りを続けようとするならば、翌日に商品になっているのは無価値になった貴方だ」
「な、なにを……。私はただ──」
「小金を注ぎ込み肥えた臓器、肉、骨……。そこらの罪人よりもたらふく蓄えた良い銭袋だ。あの連中なら群がって貪りに来るぞ? 素晴らしい釣り餌じゃあないか。ふふふふ……」
「いや……あ、あぁ……」
「頭の出来は良いんだろう? ならば理解るはずだ。私はお前の代わりをいくらでも、用意出来る……。その意味がな」
「……ぅぅ……」
「さあ、笑いなさい。笑って、頷いて、忘れて、綺麗になって、歩きなさい。くれぐれも寄り道せず。くれぐれも、私に寄り道をさせない事だ。つまみ食いは……嫌いではないぞ?」
最後にそれだけ言い、引き寄せていた手を元に戻してから握手を離し、震える肩に手を置く。
「何かアレば我々「劈開者」にご相談を。喜んで、芸術的に汚れましょう」
「は、ハハハ……はいぃ……」
エドワーズのとても素敵な笑顔が、私を照らした。
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