第一章:四天王の華麗なる艱難-20
私達が受けた彼の第一印象は〝大きな背中〟だった。
──数ヶ月前。戦争が間近というタイミングで行われた盗賊討伐戦。
戦争で万が一接敵した際、狼狽える事なく敵を討てるようにする為の〝人を殺す覚悟〟を芽生えさせるのが目的だったその戦いで、私達はピンチに陥った。
最初に盗賊を仕留めたのはポパニラだったのだけど、初めて人を殺めたショックで動揺してしまってケガを負い、それを慰めている間に盗賊達に囲まれてしまった。
そんな絶体絶命の中、まるで英雄譚に出て来る英雄みたいに現れたのが、私達の上司ディズレーさん。
彼はあっという間に盗賊達を倒すと、私達を落ち着かせながらポパニラに応急処置を施して、彼女をボスに送らせた後、まだ目標未達成だった私とヴィヴィアンを手伝ってくれた。
あの時差し伸べられた手。
たっぷりの優しさのある言葉。
頼もしい背中。
物語の英雄なんかより、何倍も私達には輝いて見えた。
多分この先、私達には幾通りもの選択肢があったんだろう。色んな人に出会ったんだろう。
ヴィヴィアンは何処かの貴族家に嫁いだかもしれないし。
ポパニラは遠征隊の隊長として国を方々周ってたかもしれないし。
私は市民に恨まれながらどうやって効率良く徴税出来るかを、毎日悩んでいたかもしれない。
その中で素敵な出逢いだったり、仕方のない政略結婚だったり、独り身を貫いたりもしたのかもしれない。
……だけど、そんなどんな先の事なんかよりも、私達は見たいと思ってしまったんだ。
彼の手、言葉、背中にどうしようもなく魅入られて、彼の元で過ごす事で訪れるであろう未来が、私達は欲しくなってしまったんだ。
だからこそ、私達は彼の部下となった。
いつかライバルになる──いやもう既になっていると言って過言ではない彼女達と共に、私はディズレーさんに尽くす毎日を手に入れた。
今は、毎日が幸せ……。
幸せ、だったのだけど……。
『あまりディズレーを困らせるようなら、お前達を部下から外す』
『『『え』』』
この任務に出発する前。唐突にボスに食事に呼ばれた食後、私達三人はそう、ボスに言われた。
『言っておくが、別に職場恋愛を禁じているつもりはない。過度な不純異性交遊は慎んでもらうが、基本的には自由恋愛だ。そこは好きにしなさい』
『じゃ、じゃあなんで……』
『彼が成長せんからだ』
『『『──ッ!!』』』
『好きな相手に尽くしたいという気持ちは分かる。ディズレーは優しいからな、尚のことだ。尽くせば尽くすだけそれに見合った言葉と感情をくれるだろう。これほど尽くし甲斐のある男もそうは居まい』
ボスはまるで自慢でもするかのように誇らしげに語った。自分自身がその最たる行動を取っている事を噯にも出さないで。
『だが、優しい優しい彼はそれを〝甘やかす〟という形でお前達に返礼する。乗り越えるべき壁を、突破すべき限界を、追い詰められた先を前に、アイツはついつい甘やかしてそれをお前達に諦めさせる……。良くない、非常に宜しくない』
マルガレン君が淹れた紅茶入りのカップをソーサーに置き、一つ溜め息を吐く。
そしてボスは眼を鋭くすると、それを躊躇なく私達に向けた。
『ハッキリ言おう。お前達だけならまだしも、可愛い直々の部下であるディズレーがその甘さで腐るのを、私は看過出来ん。このままならばお前達に恨まれようと、私はお前達をディズレーの元から外す』
『じゃ、じゃあボスっ!!』
『アタシ達まだやれますっ!!』
『何か……何かしらのチャンスをっ!!』
こういう時のボス──人に価値の再認識をする際の彼に、単なる謝罪は通じない。
彼が求めているのは〝改善〟だ。私達が彼にとってまだ〝価値のある人間〟のままである内に、私達が対応しなければならない。
『……ロリーナから一度勧告されていた筈だな? 私の意見も含めたモノだ。にも関わらず変わりなかったようだったが?』
『それは私達の認識の甘さによるものです。事の重大さに今し方改める所存……』
『次が最後っ! 最後だからっ!』
『お、おお、お、お願いしますっ!!』
『…………ふん』
頭を下げる私達に対し、ボスは小さく鼻を鳴らしてからお茶請けのロリーナさんが焼いたクッキーを齧る。
『……私とて、お前達を積極的に排除したいわけではない。度が過ぎはじめてはいるがディズレーの博愛はお前達を立派に成長させるだろうし、お前達の献身は適切な頻度ならば自己肯定感の低いアイツを支えてやれる……。要はやり方次第だ。分かるな?』
『『『は、はいッ!!』』』
『私の理想は、ディズレーとお前達も存分に成長する百尺竿頭から一歩を進む結果だ。そしてその能力で私を楽しませ、ディズレーもお前達も幸福に至る未来を築く事……。その骨子の近くに、お前達は居る。忘れるなよ?』
『『『はいッ!!』』』
『結構。粒粒辛苦の末、私達の理想を実現させてくれ。努努、怠る事ないよう。あまり私を失望させるなよ? ……以上だ』
──これは私達にとって幸福な時間であると共に、試練でもある。
ただただ彼との時間を過ごすだけではダメ……。私達なりに自分達の行動を少しずつ改善して、より良い未来を過ごすためにっ!!
そのためにもまずは前提条件、与えられた任務をディズレーさんに可能な限り負担を掛けずに熟す。
──今回私達の目的地は、ここから東……というよりももう少し南。王都から真東にそのまま行ったらティリーザラとかアールヴまで行ってしまうしね。
行くのは南東にある開発中の町──「ワートムーン」。
アールヴとの和平締結により、戦争の主戦場にもなった国境前の平原が比較的安全になった。
それによって広く使用可能となった土地は殆ど人の手が入っていなかったのもあって、大変に肥沃な土地が使えるようになり。
それが調査によって判明したキャッツ辺境伯家──主にボスだけど──は主導の元、その土地に新たな町が興される運びとなった。
戦時中に中間拠点として使用されていた廃村を軸にしてるとはいえ、まだまだ着手したばかりで全く整い切っていない。
住人は当然まだ居らず、居るのは国土交通も担当しているモンドベルク家傘下の大工ギルド、土木ギルドの人達が寝泊まりする仮住居くらいで、とても町とは呼べない状態。
ただ、住人でなくとも人が居るのならば、それに付随した問題は発生する。
戦場に残る血の匂いのせいなのか、はたまた巡る時節の影響なのか、それとも特殊個体に変質したせいで生態が大幅に変わってしまったのか、魔物がその町に突如として来襲したらしい。
襲い来たのは……巨大なコウモリ。
四枚の翼に四つの目。
並ぶ牙は全て鋭利で、口から放たれる超音波は人を狂わせる。
漆黒の闇夜を縦横無尽に飛び回るらしい。
しかもその巨大コウモリ一匹だけじゃなく、その巨大コウモリに率いられる形で無数の野生のコウモリまで来るという。
それもただのコウモリじゃなくて、親玉である巨大コウモリの血を吸って半魔物化してる凶暴凶悪な個体。
そいつらが夜、ワートムーンの職人達を一斉に襲う……。しかも血だけでなくありとあらゆる体液を啜り、更には巨大コウモリが精製した溶解液で死体すら溶かして全て啜り上げてしまうらしい。
その大量の使役コウモリと跡形もなく獲物を喰い漁る様から、魔物討伐ギルドと、新たに新設された魔物研究局で名付けられた名が──「リードデバウアーメガバット」。
もう何人もの職人達が犠牲になっていて、これ以上の被害者は出すことが出来ない……。だからこそ、私達が派遣された。
そんな職人達を救うために……。
「いやはやっ!! 学生とはいえ戦えんのが来てくれてありがてぇっ!! 俺らぁガタイばっか良くてまともにやれねぇからなぁ……。ホント、ありがてぇやっ!! なぁオマエらっ!?」
「「おうよっ!!」」
恰幅の良いおじ様が三人、私達の前で豪快に笑っている。
絵に描いたような職人然とした彼等は、見た目が学生丸出しの私達を快く歓迎してくれ、軽い宴席の場まで用意してくれていた。
みんな身体はキズだらけで、食べるモノだって贅沢出来るものではないはずなのに……。
「え。じゃ、じゃあ今は自らの、お力で?」
そんな宴席の最中、リードデバウアーメガバットの情報とかを聞いていたのだけど、その対処法について思わず眼を見開いてしまった。
なんでも家屋に閉じ籠りながら《炎魔法》で地道に牽制してたんだとか……。
全く使えないわけじゃないけど戦闘にまで使えるとは言い難い魔術で必死に……。だからちょくちょくケガもしちゃったりして、それでなんとか耐えているのだと。
「まぁよ。不幸中の幸いってヤツで、毎夜毎夜来るってワケじゃあねぇ。数日置きだ。ただ必ず犠牲者が出ちまう……。ったく、なっさけねぇ話だよぉ」
大将──ワートムーンの開発総指揮者であるクラークさんがヌルいエールを呷りながら悔しそうに言葉を溢す。
他に同席している職人さん達も同じで、中には涙を流している人までいる。きっと、部下とか同僚なんかの身近な人がやられてしまったのかもしれない。
そういう経験をしたことが無い身で同情なんて烏滸がましいけど、想像するだけでも胸の奥が締め付けられる。
「んでよぅ。実際どうなんだい?」
「どう、って?」
「やれそうかって話だよっ。ちょっと前に来た魔物討伐ギルドの連中も手ぇ焼いて今ぁ寝たきりだ。おめぇらに、やれんのか?」
そう。実は数日前にも、主に調査目的で魔物討伐ギルドの調査員の人達が派遣されていたらしい。
その人達がリードデバウアーメガバットの生態や弱点を調査して、あわよくばその場で倒してしまおうという計画だったみたい。
だけど予想以上──特殊個体だったのもあって大苦戦してしまい、魔物討伐ギルドの面々は死傷者こそ出なかったものの全員が重傷人となってしまった。
だから心配なんだろう。
歓迎こそしてくれているけど、やっぱり私達は学生には違いない。
確かにボスやディズレーさんに鍛えられてそれなりに戦えるようにはなったけど、それは目で見て判断出来るものじゃないもの。
猜疑的な目で見られるのは仕方がない話よね。
「……任せて、ください」
「声に覇気がねぇようだが?」
「……誤魔化したり、煙に撒くみてぇな事したくねぇからハッキリ言っちまいますと……。やってみねぇと分かんねぇっス」
「なにぃぃ?」
一気にクラークさんを含めた職人さん達の顔付きが険しく、鋭くなる。
だけどディズレーさんはそれわ怯まず、真正面から見据えて、答えた。
「でも俺に出来る限り──いや、出来る以上の事はしてぇと思ってます。ここには上司の命令で来たけど、命賭けるつもりで来ました。やれる事を、やれるだけ、やるつもりです」
「……」
──ディズレーさんは、ある意味ボスとは別方向の人誑しだ。
ボスみたいに言葉遣いや声音のトーン、感情表現や表情仕草で誘導されるのとは違って、彼はただ、その真っ直ぐさに〝魅入られる〟。
真っ直ぐな直線や綺麗な曲線に美しさを感じるように。
数字のゾロ目やキリの良い数字に安心感を覚えるように。
予定通りの道順、時間で目的地に着いた満足感を得るように。
彼の理想的なまでの実直さに、本能に近い部分が無意識に好感を覚えるんだ。
そしてそれは、より感情的に生きる人ほど、惹きつけられる。
「く、くくく…………。ガッハッハッハッハッハァァッ!!」
クラークさんが、大声で笑う。
そしてそれを皮切りに他の職人さん達も高らかに笑い上げ、豪快にエールを飲み下した。
「気ぃ持ちぃぃニイちゃんだなぁオイっ!! バカみてぇに素直じゃねぇか、なぁっ!?」
「「「おうよっ!!」」」
「ガッハッハッハッハッハッ!! よっこいしょいっ……」
するとクラークさんが立ち上がり、ディズレーさんの横にまで寄ってくると新たに注いだエールが入ったジョッキを彼の前に持ってくる。
「さぁ呑めっ!!」
「え、お、俺がっ!?」
「ったりめぇだろうがっ!! 別に呑めねぇ歳じゃあねぇんだろ? なら付き合えよ、な?」
「あ、ああ……」
促され、ディズレーさんは渋々ジョッキを持ち上げて顔に近付けた。
漂う酒精の独特の香り……それが香ったのか、彼は顔を一瞬だけ顰めると、意を決したように口を付け、傾ける。
直後──
「──っ!? んがっ!? がはっ、がはっ!?」
「ガッハッハッ!! なんだニィちゃん顔の割に呑めねぇのかっ!?」
「んぐっ……、い、いや……。ちょっとなら、呑めるように、なったんだけど……」
「あ゛ぁ〜、まあ、このエールあんま質良くねぇからなぁ……。ヌルいのは仕方ねぇにしても、やたら酒精だけ強くて炭酸も殆ど無ぇ。ちぃと後味もクセあって渋いしなぁ」
「う、ゔぅ……。なら、せめてコッチで……」
「あぁ?」
ディズレーさんが私達の方に視線を向ける。
すると三人の中で一番察しの良いヴィヴィアンがすぐさま荷物を漁り、中から三本ほどの瓶を取り出してディズレーさんの近くに持って行く。
「ありがとう、ヴィヴィアン」
「い、いい、いえ……」
「んあ? なんだそりゃあ」
「これは、ウイスキーっス」
アレは出発前に、事前にワートムーンの職人達への手土産にと買っておいたモノ。
私達は嵩張るからって一回だけ止めてみたけど、「きっと必要になる」って言って詰め込んだんだ。
「旅路だったもんでこんだけしか持って来れませんでしたけど、これなら俺も最近ようやく呑み慣れたんで、少しは付き合えます」
「おおっ!!」
「炭酸水もありますし、なんなら氷もあります」
「ああ? そりゃどうやって……」
「それは……企業秘密っス」
「ほぉん……。まあいっかっ!! んなら呑み直そうやっ!! なぁお前らっ!!」
「「「おうよっ!!」」」
「ははははっ。あ、ああ三人とも。悪ぃんだけど、簡単なんで構わなねぇからつまめるモン作ってくんねぇか? あるモンで出来るだけで構わねぇからよ」
「は、はいっ! な、ならわたしはチーズで何か作りますっ!」
「んじゃ、アタシは肉で何かやっかなー。コンタリーニは?」
「なら私はお魚で。皆様お疲れでしょうから、酸味を利かせたものをご用意しますね」
節約したお陰で、買い込んだ食料には余裕がある。帰路についても考えなくちゃならないけど、ここで多少放出しても問題ない。
「お。なんだネェちゃんら、なんか作ってくれんのかっ!?」
「はい。あぁ、食料倉庫を覗いても?」
「構わねぇ構わねぇっ!! じゃんじゃんやってくれやっ!!」
「はい。じゃあ二人とも、頑張ろっか」
「う、うんっ!」
「はいはーいっ!」
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──「ディズレー君とヴィヴィアンちゃん達に全く別の助言を?」
「ああ。私の部下の中じゃ、ああ見えて一番足並みが揃っていないからな。それは改善提案書をまとめている君も感じているだろう?」
街中、ロリーナとディズレー達について話す。
今し方彼女にも言ったが、部下の中だと一見してディズレー班が最も和気藹々としているが、その実最も互いの意識の差が激しかったりする。
勿論、根本的な部分は一緒ではあるが、ディズレーは彼女達に厳しくし切れず甘やかし、それを受けた彼女達はそれに更なる度を越した報恩で返してしまう……。
ディズレーは己の甘さに。彼女達は彼からの甘さに毒されてしまっているのだ。
これでは互いに腐らせ合うばかり。大変に宜しくない。
「彼女達に言った事は理解出来ます。ですがそれで、何故ディズレー君にはハッキリするようにと?」
「……アイツの甘さの原因は、向けられている好意を持て余して別の形で返している故だ。曖昧な意思で中途半端にやっているから歪みが生まれる。それを正すには、根っこにある好意を正しい形で返すしかない」
「それで件の三択を……」
「どれを選ぶにしろ、ディズレーの中で一応は決着をつけられるだろう。そうなれば自然と、アイツの中で接し方が導き出されるはずだ」
「……クラウンさんとしての理想は?」
「二択目のハーレム路線……だな。彼自身にも語ったが、ディズレーのポテンシャルなら出来ん事はないだろうし、何より愛の力は偉大だ。それが常人の三倍ともなれば、成長率は著しいだろう?」
「……」
ロリーナからの目が、少しだけ据わる。これは……。
「……なら、私からの愛では足りませんか?」
「……ん?」
「貴方に私は一人だけ……。ディズレー君が三人とも選んで三倍の愛を得られるなら、クラウンさんは私一人分しか与えられません。それを、不満に感じたり──」
「馬鹿なことを言うんじゃない」
彼女と繋いでいた手を強調するように、少しだけ力を込める。
つられて握り返される手に、温かみが増す。
「君からの愛が一人分? そんなワケが無いだろう? 君が与えてくれる愛は、私にとって誰からのモノよりも大きく、深い。三倍どころか数百数千数万倍だ。それの何処に不満に思う要素がある?」
「クラウンさん……」
「だからこそ、私も君にその愛を返す。君が幸せであり続けられるだけ、ありったけな」
「それは……私の方こそ……」
「ふふふ」
「ふふ」
「……」
「……」
「お兄ぃぃ様ぁぁぁぁぁぁあっっ!!」
「「──っ!!」」
見つめ合っていた私達を呼び覚ましたのは、何とも可愛らしい跳ねた声音。
その方向に目をやれば、少し不満げな小さな天使が元気よく手を振ってコチラに駆けて来る所だった。
「ミルトニア。淑女が往来で大きな声を出すものじゃないぞ」
私の小さな天使──妹のミルトニアは小さく息を整えると、少しだった不満顔が更に深まり、可愛らしく頬を膨らませる。
「出させたのはお兄様ですっ! せっかくお兄様と久々にお出かけだというのに、お兄様はロリーナお姉様にばかり構ってっ! いつの間にかわたくしがおざなりですっ!」
「ああ、すまない……。そうだな。今日はミルのために出掛けているのだものな。お前が主役でなくてはならなかった」
そう。今日は別にロリーナとデートに出ているわけではない。
約束解消行脚の一つ──ミルトニアと出掛けるという約束を果たすために、彼女のワガママを最大限聞いてやるという話であった。
しかしこれはいかんな。主賓であるミルトニアを蔑ろにするなど論外だ。
「ごめんねミルトニアちゃん。やっぱり、私はお邪魔だったよね?」
「それは良いのですロリーナお姉様っ! かねてよりお姉様とは仲を深めたいと思っていましたので、邪魔なんてありませんっ!」
「そう? なら私もミルトニアちゃんを楽しませなくちゃね」
「はいっ! よろしくお願いしますっ!」
──忙しくしていた間に、ミルトニアは随分と成長した。
礼儀作法は同年代と比べ卒なく熟し、言葉遣いや語彙は大人顔負けだ。
可愛い妹という贔屓目を抜きにしても、かなり優秀な子である事は間違いない。流石は私と姉さんの妹だな。
「寂しい想いをさせてしまったお詫びに、何か好きなものを買ってやろう。あまり贅沢品を与えてはやれんが、そうでないなら何なりと」
「本当ですかっ!? ならわたくし、最近お兄様が「じぎょうてんかい」している食べ物がいいです」
「事業展開、というと……アレか? コランダーム公に事業書を提案したファーストフードの屋台の話か?」
「はいっ! それですっ!」
「ふむ。しかしアレは闘技大会時の出展だけで、今はまだ市井に展開していない。街中では食べられないぞ?」
「えっ!? そうなのですか……」
おっとマズイ。
「ああぁ、その屋台の食べ物なら私が後でいくらでも作ってやるっ」
「本当、ですか?」
「勿論だ。だから今は街中で買えたり出来たりする事をやろう。な?」
「はいっ!」
ミルトニアの満面の笑みが、私達を照らす。
ああ、いつぶりだろうか。こんな純真無垢で屈託のない、純度百パーセントの喜びを抽出した笑顔を見るのは……。
「ではわたくし、お洋服が欲しいですっ!」
「そうかそうか。なら何店舗か回って見て、気に入り次第買おう。もしも目ぼしいものがなかったら、メアリーの店に行ってオーダーメイドも視野に入れつつ、な」
「ありがとうございますっ!」
「構わないとも。ああそれと、疲れたらおぶってやるからすぐに言いなさい。分かったね?」
「はいっ!!」
「ふふふ……」
「む? どうかしたかロリーナ」
「いえ。クラウンさんは普段から身内に甘いですけど、ミルトニアちゃん相手だと別格に甘々ですね。ディズレー君のこと、言えませんよ?」
「それは……あまり反論出来んな……」
「ふふ。ふふふふ……」
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