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強欲のスキルコレクター  作者: 現猫
第四部:強欲若人は幸せを語る
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序章:浸透する支配-11

久々にインフルエンザに罹ってしまいヤバかったですが、なんとか書き上げました。

 


 結局、ドーサは泣き出した。(さなが)ら人間の赤子のように、だ。


 別にポーシャ達が騒がしくして起こしてしまったわけではない。寧ろ蛇らしからぬ可愛らしい寝顔と寝息に興味を惹いてさえいた。


 では何故起きてしまったのかと言えば──


『や゛ぁ゛ぁだぁ゛ぁぁッッ!! パパとママといっしょがい゛ぃい゛ぃぃぃッッ!!』


 どうやら寝ながらにして《精神感応》によって私の思考の一部を受け取ってしまったらしく、それで自分が置いていかれると察して起き抜けに泣き出したようなのだ。


『置゛いてっちゃや゛ぁぁぁあ゛ぁぁぁぁッッ!!』


 加えて以前、魔生物部門の責任者であるエルウェにドーサの検査をお願いする為、一時的にマルガレンに彼女の元へ連れて行かせたのが相当に怖かったらしく。


 それからというもの、マルガレンとエルウェはドーサに嫌われ、私かロリーナの最低どちらかにベッタリくっ付いてなければ嫌がるようになってしまった。


 それこそ四六時中……。起床から就寝までである。


 普段の生活だけならば、まあ、許容範囲内だ。起きればご飯か遊びに付き合わなくてはならないが、大半の時間は先程のようにずっと眠っている。それだけならば問題無い。


 だが私とロリーナ……二人が一緒に何処か危険度の高い場所に赴く際は、そうもいかん。


 ドーサには数多の可能性が眠っている。


 私の推測とエルウェの検査結果を鑑みるならば、この子にはエルウェの七種の大蛇の能力と、私から吸収した《強欲》と《暴食》の因子を僅かばかり。それから私とユーリそれぞれから《嫉妬》の因子をそれなりの量と、ついでにロリーナの魔力まで取り込んでいる。


 将来的には世界中を探し回ったとしても類を見ない特別な存在へと至り、名付け元となった先代のドーサを軽々と凌駕するような凄まじい力を有する事になるだろう。


 ……だが、そんな潜在能力を持っていたのだとしても、今はまだ産まれて数ヶ月ばかり。身体は徐々に大きくなってはいるが、その精神性はアレから殆ど成長していない。


 産まれたばかりで既にある程度はコミュニケーションが円滑だった故にこれが遅いのかどうか分からんが、少なくとも一般的な蛇に対するイメージからは逸脱している。


 この世の何処に、親から数時間離れただけで寂しさにギャン泣きする蛇がいるのかという話である。


 そんな蛇というよりも、まさに人間の幼子そのものの様なドーサを、果たして危険地帯に無防備に連れ出せるのか?


 ……問うまでも無い事だ。


「ああぁ……はいはい、いい子いい子……」


 私からドーサを受け取ったロリーナが、(さなが)ら赤子の様にその小さな頭を撫でながらあやす。


 ……若干やりにくそうだな。


「え、ええと……」


「あ、預かるってのは……その、ちっちゃい蛇で?」


 ポーシャとエダインは当然のように困惑。子供達はそもそも何が起こっているのか理解出来ておらず、ただコチラを静観している。


「そうだ。見ての通り特別な子なのだが、危険な場に連れ出すには心配が尽きない。万が一の事があってはならんから、お前達に預けたいんだ」


「ま、まぁ、言いてぇ事は分かるがよう……」


「へ、蛇でしょう? 子供とはいえ……」


 ……そうだな。それが正しいリアクションだ。


 こうして泣き姿だけを見れば人間の赤子の様な印象を受ける事もあろうが、どう足掻いたところで外見は滅紫色の蛇。


 オマケに精神性がまだまだ未熟であるならば、下手をすればポーシャやエダイン──そして何より子供達に危害を加えかねない。


 勿論、私とロリーナでキチンと一般常識的倫理観の教育はしているが、それでも事故や間違い、勘違いで傷付けてしまうかもしれない。善意悪意の話でないのだ。


 ましてやドーサの吸収した力の中には、まだ眠ってはいるものの極めて危険な毒を精製出来るものが含まれている。


 仮に牙や締め付けで傷付けなくとも、極々一部でもあの劇毒の一端が預けたタイミングで発現してしまえば、最悪な結末に結び付いてしまうかもしれない。


 懸念は尽きない。


 このドーサの絶妙な存在は、私とロリーナの元に存在するから成り立っていると言っても過言ではない。


 故にポーシャ達の元に置いておくなど、本来ならそんな判断は選択肢にすらないのだが……。


「他に、頼める相手は?」


「ホラ、居るでしょう? 貴方の部下とか、家族とか……」


「部下の一部は私達に同行させるし、残りは学院で授業がある。家族に関しては今、稼業の引き継ぎ処理や仕事に追われていて手が離せん」


「頼り甲斐のある知り合い、とかは……」


「頼り甲斐となると……師匠は人も良いし能力め申し分ないが、あの人にこの子の世話──というか他人の世話は向いてない」


「おばあちゃんも居ますけど、あの人一応薬学のプロなので……。この子の事を預けたら色々とちょっかい出しそうで少し怖くて……」


「……」


「……お前達しか、居ないんだ」


 不甲斐無い事に、今の私に〝信用〟出来る者達──所謂(いわゆる)交友関係というのは限りなく少なく、そして狭い。


 人間関係に妥協して来なかった、ある意味でのツケが回って来たといったところだろう。


 加えてこの戦後という最も忙しい時期……。頼れる者は限られてくる。


 寧ろポーシャ達という選択肢が私にあったのは、ある意味で幸運であったと言えるかもしれん。


 ……まあ、別にドーサの面倒を見させる為に彼等を保護したわけではないのだがな。


 ともあれ、ドーサを預けるという選択をする以上、私にはポーシャ達くらいしかいないのである。


「恩返ししたいし、頼って貰えるのは本当にありがたいんだけどぉ……」


「ムッッッずかしぃっすねぇ……」


「ふむ……」


 二人の心情も懸念も分かる。だがここを諦めたらば、もう本当にいよいよ師匠かリリーに頼まなくてはならなくなる。


 そうなれば高確率でドーサは嫌な思いをするだろう。それは親として看過出来ん。


 何とかして二人に納得を──ん?


 ふと気が付けば、つい先程まで響いていたドーサの泣き声が止んでいた。


 あの聞いているだけで庇護欲を否応無しに掻き立てられるような、悲痛な声が……。


 私は咄嗟にドーサをあやしていたロリーナに振り返る。


 すると、そこには驚くべき光景が広がっていた。


『わぁーっ!! すごいすごいっ!!』


「ゔーんっっ……。あ゛ぁ、ダメだ……」


「これ以上は……ムリ……」


 ロリーナはドーサを抱えたままではあった。


 しかし少し離れたところで座っている彼女の周りを子供達全員が囲い、先程まで泣きじゃくっていたのが嘘だったかのようにドーサが笑っている。


「あ、アタシ達……まだあんまり飛ぶ練習してないから」


「これが限界だよぉ〜……」


 今し方ドーサに見せていたのは、ポーシャの実子である天族の三兄弟の長女、長男の二人がその背の翼を使い、僅かばかりだが飛んでいた様。


 普段は周りから悪目立ちすると家の中で無理のない範囲の練習しか出来ていないようで、飛ぶと言っても体を数センチ浮かす程度しか出来んようだが……。


『キャッ! キャッ!』


「じゃあじゃあっ!! 次はボクたちねっ!!」


「ほらほらっ!! アタシたちのシッポっ! 細くて長くて」


「先っちょとがってるんだよっ! ほらほらっ!!」


『わぁぁー!! ドーサににてるっ! ちょっとにてるっ!!』


 今度は一番の末っ子のダイナとキティが、自身の独特な形をした尻尾をドーサに向けて左右に振り、それをドーサが見て喜んでいる。


「あらあらあら……」


「い、いつの間に打ち解けたんだ?」


 これにはポーシャとエダインも困惑しているようで、断るつもりでいた二人の口実の一つが無くなったと言えるかもしれん。


「……子供達とは、仲良くやれそうではあるな?」


「うっ……」


「で、でもなぁ……」


 ふむ。これだけではまだ渋られるか……。しかし私とて引けん。


 寧ろドーサが子供達と仲良く出来るというのなら尚更だ。何としても彼等にドーサを預け──


 ──ドンドンドンドンッ!!


 …………。


「え?」


「チッ! んなこんな時に来やがって……」


 唐突に聞こえたのは、木製のドアを乱暴に叩いた音。玄関の方からだ。


「……なんだ?」


「あ、いやコイツぁ、そのぉ──」


「おいッ!! 居んのは分かってんだぞッッ!!」


「……穏やかじゃないな」


 子供達の方を見る。


 皆が皆、先程のドアを叩く音と聞こえて来た薄汚い怒号に怯えるように身を縮こませ、中には捕らえられていた時を思い出すのか目尻に薄っすらとだが涙すら浮かべていた。


 ドーサは急に怖がりだした子供達に困惑し『どうしたの?』と不安そうに訴えている。


「……おい。説明しなさい」


「い、いやぁ……」


「……定期的に、ここに来るんです」


「あ、姐さんっ!? 迷惑かけたくねぇって黙ってるんじゃ……」


「こうなったらもうしょうがないわよ。実は──」


 ポーシャの話では、子供達とこの借り家で生活を始めてから一週間ほど経ったある日、唐突に訪れて来たという。


 理由は家賃滞納からの催促という話だったようだが、当然私がそんな愚行を犯しているわけがない。


 地主にはキチンと、契約書上の金額を定期的に支払っている。滞納など鐚一文(びたいちもん)、してはいない。


 ポーシャ達も無論その事は把握していたのだが、来訪者は実にふざけた理論を展開したという。


「……増えた子供達の分を上乗せ、と?」


「そう。でもそういう契約じゃないでしょう?」


「当たり前だ。あくまで土地と家を借りているに過ぎん。人数の増減で金額が変わるか」


「そうよね。でも向こうはそう言っても一切聞く耳持たないんですよねぇ……」


「しかも奴等、子供達の殆どが他種族ってんで法外な金額を要求しに来てんですぜ? あり得ますかッ!?」


「この国に他種族別の料金設定なぞあるか。適当な理由にも程がある。まったく……実に不愉快だ」


 席を立ち、玄関へ歩を進める。すると──


「だ、ダンナっ!!」


「なんだ」


「と、とっちめるんで?」


「あ、あまり騒ぐと、その……ご近所から色々と……」


 ……ポーシャ達は、この区画の中で最も異彩と異色を放つ一団と言えるだろう。


 何せ彼等はごく一般的な家族や家庭とは全く違う事情を抱えた者達の寄り集まりであり、言ってしまえば簡易的な養護施設のような体でしかないのだ。


 しかもそんな得体の知れない集まりは殆どが種族がバラバラで、唯一の人族であるエダインも元盗賊のガラの悪い印象の男だ。


 そんな彼等を見る近所の一般家庭の目は〝好奇〟と〝疑念〟であり、ポーシャの人当たりの良さで何とか今はギリギリ誤魔化せてはいるが、小さな亀裂で容易に瓦解する危うさを秘めている。


 少しでもそんなポーシャ達が面倒事を起こせば、すかさず周りは彼等を村八分にするだろう。下手な騒ぎは、彼等を苦しめる結果になる。


 ……。


「なァに、心配するな」


「え……」


「全部、私に任せなさい。お前達は何も、心配しなくて良い」


「そ、それは……どういう……」


「私はただ責任を取るだけだ。お前達を助け、幸せにする責任がな」


「ダンナ……」


「ふふふ。安心しろ。玄関の掃除なぞさせんさ」


「え、ええ……」


 ______

 ____

 __


 今日で五回目……だったか? いい加減かったるい……。


 ──オレたち新進気鋭のなんでも屋「闇夜の弓矢」を雇ってるのは、ここら一帯の土地の権利を持つ地主で、外面は実に温和そうなオッサンだ。


 どうも昔にそれなりの大きさの商会を持っていたらしく、ある程度の資金を稼いだ後はその商会と事業を丸ごと他人に売り、その金で土地を買い上げて人に貸し、地主として悠々自適な生活をしている。


 なんとも羨ましい話だが、そんな人間ってのは大なり小なり、悪い事に手やら首やら突っ込んでいたりするのが常だ。


 地主のオッサンも例に漏れずそんな人間の一人で、下街を根城にしてる組織──オレ達の親とも言える人達と懇意になっている。


 そして今回、そんな親組織からその地主の依頼だと、オレたちに指令が下ったわけだ。


 依頼内容はこう──


『貸している家の住人が増えたのだが、どうやらそいつらの殆どが〝希少種〟で、売り先によっては尋常ではない値段になる』


『理由は何でも構わない。必要なら幾らでも書類や契約の偽造・改竄もしよう』


『お前達はあの家の住人を追い詰めて、借金まみれにしろ。その後はコッチで処理する』


 ──という、ものだ。


 うん。中々に悪どい。犯罪の片棒を担いでる身で人の事はあんま言えないが、要は借金のカタに希少種を手に入れたいって話だ。本当、悪い地主もいたもんだな。


 とはいえそれなりの前金も貰ってる身……。依頼された仕事はキッチリこなして、親組織に顔を売りたい。


 そうすりゃいずれオレ達も幹部に……。


 そう意気込んで仲間達と仕事を開始した……のはいいんだが、正直、上手くいっていない。


 この家は二人の大人によって子供達が世話をされてるって構成をしているんだが、片方の人族は大して問題にならない。ただのチンピラだ。


 だがもう一人の……ああ、確か天族、だったか? 背中に羽生えたエラいベッピンの女。コッチが思いの外厄介なヤツだった。


 最初こそナメて掛かって定型分みてぇな脅し文句で色々と迫ったが、女はそんなオレ達相手に顔色一つ変えずに対応しやがり。


 あまつさえいつの間にか仲間が一人、また一人と言葉や妖艶な仕草で(たぶら)かされて、気付きゃとても渉外なんて出来る体裁無くしちまって、あえなく撤退した。


 マジで話にならない惨敗だ。新進気鋭が聞いて呆れるくらいの無様さだ。


 リーダーであるオレの叱咤でどうにか仲間達も反省したが、これじゃあダメだ。活躍どころか親組織の顔に泥を塗りかねない。


 オレたちはそこで改めた。ナメちゃならんと。しっかりせねばと。


 そこからは試行錯誤の日々だ。


 あらかじめ娼館に行ってみたり。あえて柔和にいってみたり。女や子供達と親交を深めようとしたり……。


 だが結果は散々。結局は毎回毎回女にあしらわれて、撤退せざるを得なくなっちまってる。


 正直な話、もう色々考えるのはかったるい。オレたち、この仕事向いてなくないか? そんな事を考え始めてさえいる。


 そろそろ依頼の期限も迫って来て焦りもある。もし未達成なんて事になりゃ、違約金として前金の二倍の額を払わなきゃならん。書類、ちゃんと読みゃよかった……。


 だから今回、五度目の正直だ。


 もう色々考えるのはかったるい。


 こうなったらなり振り構ってる場合じゃない。


 あの女の話が始まる前に殴ってでも黙らせて、無理矢理言う事聞かすしかない。


 やるしかないんだ。オレ達の将来の為にも……。


「……あ?」


 部下の乱暴なノックも三周目に突入しようとしていた時、ようやく玄関のドアが開いかれた。


 オレ達は身構えていたさ。油断してしっかり目に入れちまった途端、色んなもんが鈍っちまうあの柔和さと妖艶さが混じった表情に、気を持っていかれないようにって。


 だけど開けられたドアの隙間から覗いたのは、見た事あるような無いようなガキの顔──


「──ッッッッ!?!!」


 いきなりオレ達を襲ったのは、そう……〝恐怖〟だ。


 まるで……得体の知れない──この世のモンじゃないオッカナイ化け物の口の中にいつの間にか放り込まれてたみてェな……そんな取り返しのつかない、明確な〝死〟を感じた。


 一瞬で仕事の事も。仲間の事も。どっか遠くに吹き飛んだ。


 あるのは今、自分はどうやったら数分後──数秒後に生きていられるのか……その事だけが頭の中を支配して──


「おい」


「ひぃッ……」


「随分と、勝手をしているそうだな? 小石ども……」


 その目が、オレ達を捉える。


 身体が、泥沼に沈んでるみたいに、思い……。


 ぜんしんが、凍ったみてぇに、寒い……。


 い、息……息を、吸えてる、のか? ていうか、して……いいを、だよな?


「さぁ、選べ」


「──ッッ!!」


「今ここで全てをぶちまけて私の下僕になるか、それとも何の意味も無い意地を通して苦痛の果てに死ぬのか……」


 そ、そんな、決まって……。


「ふ、ふざ──」


「え」


「ふざけ、んなッ!!」


 __

 ____

 ______


 四人組の輩の内一人が、錯乱したのか持っていた棍棒を唐突に振り上げ、私に襲い掛かって来た。


 少し雑に殺気と覇気系スキルを浴びせたせいか。やれやれ、いい大人が随分と脆弱な精神性な事で……。


 さて……どうするかな、これ。


 汚さないと言った手前、血が出るようなやり方は避けたいところだな。


 取り敢えずは、四肢の関節を逆にして動かなくするか。そこからはなるべく血が出ない方法で痛ぶり──


『パパァァァァっ!!』


 ……は?


 背後から、ドーサが飛んで来た。


 ドーサは私の首に瞬時に絡み付くと、無邪気に私の眼前にその可愛らしい頭を(もた)げながら、笑顔で何かを言おうとする。


 きっと子供達の誰がどんなものを見せてくれたのかとか、そんな話を聞かせてくれようとしているのだろう。


 だがそれがこの子から放たれる事はなく。


 代わりにその身に真っ直ぐ、輩の振り下ろした棍棒がヒットした。


「ドーサッッ!?」


 思わず心配で声を上げてしまう。


 何せドーサの頭など、十センチあるかないかの大きさしかないのだ。


 そんな頭に直径何十センチもの硬い棍棒が振り下ろされたのだから、そりゃあ慌てもする。


 だが咄嗟に出そうになった庇う為の私の手は、《超直感》と《予知演算》から来る〝ちょっとした未来予知〟によって直前で止まった。


 理解したのだ。この程度で、ドーサにキズ一つすら付かない、と……。


『んぎゃッ!? な、なぁにぃぃ……?』


 その小さな頭で棍棒を受け止めたドーサは、頭に走った経験した事の無い衝撃に何事かと振り返る。


 そしてその宝玉のような目に、全くそれに相応しく無い汚物どもが写ってしまった。


『う、うぅぅ……だれぇ?』


「ドーサ。良い子だから、私の服の中に隠れていなさい」


『ねぇねぇパパぁ? この人たち、だれぇ?』


「……パパのキライな人達だ」


『キライ? パパ、この人たち、キライなのぉ?』


「ああ。みんなキライだ。だからお前は大人しく──」


『じゃじゃっ! 食べていい? ドーサおなかすいたっ!!』


「……なに?」


『いただきますッ!!』


 一瞬……本当に一瞬だった。


 輩共の方を向いていたドーサは無造作に口を開けるとそのまま頭部が巨大化。


 あっという間にに何十倍にまでなると棍棒を振って来た男の頭上に被さるようにして迫り、そのまま口内へと収納。


 男の全身がドーサに収まってしまうと、頭を持ち上げたのと同時に全身を駆動、蠕動(ぜんどう)させながら嚥下(えんげ)し、瞬く間に大の大人の男が丸々一人、ドーサの腹へと飲み込まれてしまう。


「ドーサ、お前……」


『うーん……。あんまりおいしくない……』


 本来肥大して(しか)るべきドーサの胴体は、どういう原理か奥に進むにつれ小さくなっていき、私の首に巻き付いている箇所に至る頃には少しだけ膨らみがある程度にまで小さくなっている。


 これはまた……規格外な事を……。


『ねぇパパ?』


「ん、ん? なんだ?」


『ドーサこの人たちヤっ! たべたくないっ!』


「そ、そうか……そうだな。コイツらはマズイだろうな」


『ドーサ、パパとママのゴハンが好きっ! 食べたいっ!』


「おおそうか。ならちょっとだけ待っててくれるか? すぐにたらふく食わせてやるから」


『やったっ!!』


「ほら、危ないからママのところに行っていなさい」


『はーいっ!』


 元気よく返事をすると、ドーサは背後で静観していたロリーナ達の元へと向かう。


 何やら皆が皆、複雑な表情のまま固まっていたが……今は一旦、置いておこう。


 それより先に、お話しだ。


「さて」


「──ッッ!?」


「お前がリーダーで、間違いないな?」


「は、はひ……」


「私も人間を()()()()()()()たくはないんだ。お気に入りの包丁に、嫌な脂が染み付いても敵わん」


「ふひ……」


「さあ、滔々(とうとう)と語りなさい。今日の献立に、お前達を並べさせないでくれ」

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