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強欲のスキルコレクター  作者: 現猫
第四部:強欲若人は幸せを語る
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序章:浸透する支配-6

少し遅くなりましたが、何とか更新出来ました。




 ──ドワーフ族の国・マスグラバイト王国。


 円形状に(そび)えた切り立つ山──マスグラバイト山脈の中央に築かれた王都モースを中心とした国家であり。


 マスグラバイト山脈から採れる種々様々な鉱石を産出し、加工し、鍛治をし、裁縫する……。


 種族単位で鍛冶や工芸に注力し、またその殆どがそれらに対して強い興味と情熱を抱く、まさに職人種族とでも言うべき種族達だ。


 そしてそんなマスグラバイト王国には、他国からすら認知された反社会組織が存在している。


 それが空を飛ぶ巨大な木造船に乗って各地を飛び回り、町村や都市の近くに降り立っては金品や鉱石、または職人をすら略奪を繰り返す盗賊──通称「空賊・エルドラド」。


 ドワーフ族の魔王「怠惰の魔王」に率いられた一味であり、乗組員全員が非常に高い戦闘力を誇っている一流犯罪者集団だ。


 国はそんな彼等と幾度となく交戦し捕縛を試みていたものの、相手に既に制空権を奪われた状態での戦闘はかなりの苦難を強いられてしまい、今まで一度とて打倒に成功した事はない。


 加えエルドラドには〝未知の技術〟によって(もたら)された無数の武器が存在しており、特別魔法や遠距離攻撃に乏しいドワーフ族にとっては同族であるにも関わらず最悪の相手となっている。


 ──確か昔に一度ここティリーザラにも飛んで来たそうだが、我が国には世界が誇る最高位魔導師であったフラクタル・キャピタレウスが居る。


 彼に掛かれば幾ら相手が空を飛んでいようが関係無い。


 強大な魔術を空中に展開する事で空船ごと攻撃し、難なく撃退した──と、師匠が殊更自慢気に語っていたのをよく覚えている。


 それ以来、空賊はティリーザラへの領空へは入って来ることはなく、師匠はその名声をより一層に高めたらしいが……。


 ──まあ、それはいい。ウチの師匠の数ある武勇伝の一つというだけの話だ。


 問題は、そう。ノーマンの兄弟子であるビクターがその空賊・エルドラドの一員であるという事実だ。


 ──私は今、非常にデリケートな立場にある。


 権力自体はそれなりにあるが、それを執行出来る足場はまだ骨組みの状態で、少しの衝撃や歪みで瓦解しても不思議ではない。


 無論、例えそんな事態に陥ろうと何とかしてみせるが、その労力は要らん労力だ。避けられる労力だ。


 避けられならば避ける。弱腰への第一歩となる、権力者にありがちな思考パターンの一つ。


 では私もそこに落ち着くのか? それとも子悪党貴族よろしく犯罪者と癒着し破滅を辿るのか?


 私ならばどうするか。


 ……そんなものは分かり切っている。


「ノーマンさん」


「お、おお、おう……」


「空賊は取り敢えずいずれ潰すので、それまではどうか彼と私に繋がりが出来た事はどうか御内密に」


「あ、ああ分かっ──あ? つ、潰す? 空賊を?」


「はい。だって邪魔じゃないですか。空賊事態無くなればお兄さんとの関係があろうと問題無くなりますし」


「いやそりゃそうだが……」


「それに欲しくありません? 空飛ぶ木造船」


「は、はぁ?」


 都合が良い。なんとも都合が良い。


「怠惰の魔王」率いる犯罪組織? 潰して根こそぎ奪うのにこれ以上ない免罪符じゃないか。


 いずれ潰すなら今一時の繋がりなど幾らでも言い訳が効く。ならば利用しない手はない。


 全ては私と私の身内が幸福で欲満ちた未来を得る為にある。魔王率いる空賊も、その糧にしてくれよう。


「い、良いのかっ!? 俺が誘ったとはいえ兄貴は空賊の一味だ。今のオメェさんが関わんのは……」


「ノーマンさん」


「お、おう」


「私は全部欲しいんです。ノーマンさんの腕も、モーガンの才能も、メリーさんのセンスも、そしてビクターさんの技術も、何もかも」


「あ、ああ……」


「それにただ空賊(オマケ)が付いてくるだけです。相応の代価としてリスクを背負うなど、私の背にとっては軽いものですよ。何せ犯罪者に〝元〟をくっつけるだけですから。お安いものです」


「……今更だがオメェさん。相当にイカれてんな」


「ふふふ。本当に今更ですね。そんなイかれた私に気に入られて巻き込まれたんです。存分に後悔なさって下さい」


「はんっ! バカ言えっ! オメェさんに付き合って後悔した事なんざ一瞬も一分もねぇよ。それこそ今更だっ!!」


「ふふふふふ。では行きましょうか。二人で醜く手を汚しましょう」


「へん。多少汚れたぐれぇじゃ、職人の手は錆び付かねぇしなっ! ガッハッハッハッ!!」


「……仲が宜しいですね、お二人とも」


 背後からロリーナの小さな嫉妬の言葉が聞こえた気がするが、まあ、後でたっぷり慰めよう。


 だから今はちょっとだけ我慢してくれ。














 ──六人で狭い工房内の机を囲う。


 メンバーは私とロリーナとノーマン、そして話の中核を担うであろうビクターと、ノーマンの妻であるメリーと、彼の弟子であり「勤勉の勇者」であるモーガンというドワーフ族増し増しの一団だ。


「アタシまで呼ぶって事は、またその外套(コート)絡みかい?」


 メリーは急遽呼び出した。夜翡翠(よるひすい)朔翡翠(さくひすい)の強化も同時並行するためだ。


「あの時は英雄相手ではありましたが、今後また英雄級の敵と相見えるとも限りません」


「……また波瀾万丈な未来設計だねぇ」


「勿論、両防具共に性能は信用していますがね。やれる手があるならやり過ぎるくらいが私の願望です」


「相変わらず欲張りな事で……」


 メリーが呆れ気味に薄く笑う。


 世にはまだまだ強者は居る。私の実力はそんな彼等の中でもある程度は高い位置にはあるのだろうが、頂点ではないのは確か。


 私の存在が目立つにつれそんな指折りの強者達の目にも付き易くなる。私と敵対関係が有る無しにだ。


 その時の為、油断せずに準備は決して怠らない。


「では主題です。今回皆さんに集まって頂いたのは防具だけにあらず、私と、それからロリーナの装備一式を可能な限り製作、強化して頂くため。その為の素材は私が用意していますし、貴方方の要望があれば新たに採ってきます。私よりも頼もしい伝手があるならばそちらに依頼するのも良いでしょう。費用に関しては(いと)いません。例え屋敷が何邸も建つような額であろうと品質を優先して下さい。また、その際に掛かるあらゆる負担も私が──」


 (まく)し立てる私を、誰も止めない。


 そりゃあそうだろう。私が言っているのは、要は──自分達が思う理想を可能な限り追求してくれ。何一つとして負担は気にしなくて良い──だからな。


 ただ自分達の仕事を思う存分に発揮し、楽しみ、やれる限りをやり尽くす……。それを要求しているわけだ。


「加えて飲食に関しても全面的にサポートしましょう」


「「「「──ッッッ!! そ、それはッ!!」」」」


 ドワーフ四人が一気に食い付いてくる。予想通りに。


「そ、そのだな……」


「食事はと、ともかくとして……」


「嗜好品には、なっちまうが……」


「お、お、お酒とか、はぁ……」


 ……本当、気持ち良いくらいだな。寧ろ。


「流石に高級品を浴びるように呑まれるのは勘弁願いますが……」


「あ、ああ……」


「仕事に支障をきたさない程度であれば、好きな物を要望の量、ご用意致しましょう。なんなら酒に合う(さかな)も提供しますよ」


 直後、工房内が沸いた。実際に温度が上がったんじゃないかと錯覚する程に盛り上がり、ノーマンとビクターなんて肩を組んでいる。


「ただし一度でも、誰であろうと酒の影響で仕事に支障が出たら規制します。分かりましたね?」


「──っ!! わ、わかってるよんなもん……」


 緊張のし過ぎや連続はパフォーマンスを落とすが、気を緩め過ぎるのも問題だ。


 緊張と緩和の絶妙なバランスこそが、最善最良の結果を(もたら)す。酒と食事も、その例外ではない。


「──では、私が用意した素材を一つ一つを簡単な解説を交えながらご紹介します。まずは──」


 宣言通り、私はポケットディメンションから順にサンプル程度の大きさの素材を取り出し、囲んでいるテーブルの上に置いていく。


 最初は魔物の素材から。


 部下達が霊樹トールキンの地下研究施設を制圧した際に襲って来たという魔物の大群。その中から幾つか興味を唆られ、私の武器達を更なる高みに押し上げてくれそうな物を幾つか拝借した。


 残りは全てその部下達の武器や防具用。とはいえ彼等の物は、申し訳ないが私の後かノーマン達以外の鍛冶屋に頼む事になりそうだがな。


「……なんだこりゃあ」


 と、素材達を並べる最中にビクターが小さく呟く。


 その表情は不服というよりも不可解さを刻んでおり、口をへの字に曲げて腕を組んで唸っている。


「この素材達ぁ、自然のモンじゃねぇな? なんだァ? 〝改造魔物〟ってのは?」


 そう。トールキンの地下研究施設で部下達を襲った魔物達は全て純正の魔物ではなく、それら魔物達を人工的に交配や実験、改造を施して生まれた改造魔物というやつだ。


 今では私の支配下となった魔生物開発部門部門長であるエルウェ・ビークイン・カラクウェンディが主導して開発された人造の魔物であり、自然界では決して再現出来ないような個性豊かな機能を有している。


「ほぉう……。生きモンイジくるってのはちぃっと感心しないが、性質は中々面白そうじゃ。やり方次第じゃあ類を見ないモンに仕上がるかもしれんのォ」


 加工職人の(サガ)なのか、未知の素材達に目を爛々と輝かせている。


 ドワーフ族の中でも有数の加工職人である彼は数多の魔物や鉱物素材を目にして来たらしいが、流石に改造魔物となると知見は無い。


 これをモチベーションに活かしてくれたらば幸いだな。


 そして、そんな改造魔物の中でも、群を抜いて〝質〟が違う素材達がある。それが──


「こちら、先程説明したエルウェが直々に改造し、そして自らの手足として使役していた七匹の大蛇型魔物──その素材達です」


 エルウェが使い魔(ファミリア)として使役し、他の改造魔物達より数段手間暇を掛けて改造が施されたそれぞれ七属性の大蛇の兄弟。


 それぞれの属性がエルウェの思う形で体現されており、武器や防具として利用すれば破損した私の武器に更なる躍進を──


「んあ? どうしたんだ? 急に黙りこくって……」


「……あのう、本当にいきなりで申し訳ないのですが、話を急旋回させても?」


「な、なんだよ……」


「魔物の素材──皮や角、爪や骨を利用するのは素人目からでもどう加工するのかは想像出来るのですが……」


「ああ」


「……内臓や筋肉なんかも、時折組み込みますよね? アレって、原理やら方法ってどうなっているんです?」


「……はあ?」


 前々から薄っすらと疑問だったのだ。


 先述したように皮や角、爪や骨を武器防具として加工し、それを刀身やら革として活用するのは理解出来る。


 だが内臓や筋肉は、一体何をどうやって武器防具に組み込んでいるのだ? 有り得んだろう普通。


 内臓やら筋肉──もしくはそれらに類似するような、所謂(いわゆる)〝生命活動ありき〟で漸く機能する器官は本来なら、その魔物を仕留めた際に機能を失いただの肉塊と化す筈だ。


 心臓が動きを止めるように、胃袋が食物を消化しなくなるように、脳が思考を停止するように……。


 でなければ死して尚も動き続けるという事になり、実質的な朽ちぬ臓器が存在してしまうという事に繋がる。それは……有り得ん。


 そんな技術がただ鍛治の一環として確立されているだけなぞ現実的ではない。必ず医療に転用されているに違いないのだ。


 にも関わらず、そんな医療技術があるなんぞ聞いた事もない。というかあってたまるか。


 つまりは、だ。


「武器防具の能力として転用可能そうな機能を有する内臓や筋肉等は、医療に転用出来ないような方法で加工し利用しているのでは? それこそ魔物の魔石のように魔力に反応して一時的に機能が復活するような……」


「……」


「あ。何かマズイ事を聞きましたか?」


 もしそんな技術があるなら──というか無ければ説明付かんのだが──鍛治職人や加工職人にとってはもしかしたら秘匿するような技術である可能性がある。


 それをここで口にしてしまうのは──


「ああいや……」


「鍛治職人以外でそんな疑問を持つ奴がいるのがじゃな」


「普通いませんよ。そんな事を気にするお客さんなんて」


「みーんな当たり前みたいに受け入れてるからねぇ。いやぁ、何だか新鮮だよ。素人にそんな質問されるなんてさ」


 四人のドワーフ達が、揃って何やら面白いものを見る目で私を見て来る。


 どうやら私の抱いた疑問は、少々常識から外れたものだったようだ。


 (さなが)ら幼子が大人の当たり前を不思議に思い質問するような……。そんな生暖かい目線だ。実に居心地が悪い。


「……ロリーナも、そうなのか?」


 私が助け船を求めるように愛しい恋人に目線を移すと、彼女も彼女で今まで私に向けた事の無い慈しみを湛えた笑みで私を見詰め返し……。


「疑問に思う事は大切な事ですよね。勉強になります」


 いや答えになっていないっ!


 何なんだ? 私が変なのかこれはっ!?


 ああ、クソ……。長らく感じていなかった屈辱感を感じる……。


 だ、だが気になるものは気になる……。


 くっ……。こうなれば最早自棄だ。


「それでっ!? どうなのですかっ!? えぇっ!?」


「お、怒んなよんな事でっ!!」


「別に怒ってませんがねっ!?」


「んだよ珍しい……。内臓なんかの武器防具に使えそうな能力を持った器官は、《転換》や《転写》、《付与》なんかのスキルを持ったスキルアイテムで魔石にくっ付けんだよ。んでその魔石を武器防具に組み込むんだ」


「……成る程」


 《転換》は特定の物同士の魔力でマーキングした機能同士を交換するスキル。


 《転写》は特定の物の魔力でマーキングした機能を別の物に複写するスキル。


 《付与》は特定の物の属性を別の物に与えるスキル。


 ──となっている。


 それらのスキルを持ってスキルアイテムを駆使する事で、本来なら生命活動が必須な内臓等の機能を魔石へと移し、魔力を流し込む事で利用可能とするそうだ。


「因みに利用する魔石は、移す機能と類似しているか、もしくは限りなく性能の低いものが好ましいな。類似していれば互いに能力を阻害する事は無いし、そうでないなら移す先の性能を食い潰せるくらい弱ければ問題ないからな」


「ほう」


「質によるが、容量の多い魔石なんかだと一つの魔石に幾つも付ける場合もある。まあ、そんくれぇのヤツは珍し過ぎて稀にしか市場に出回んねぇがな。そんなんやるくらいなら別の魔石探した方が安いし早ぇ」


「で、しょうね」


「ま。仮に出回ってんの見付けたら──」


「買って下さい。市場価格の二倍までなら迷わず、それ以上なら貴方方の常識の範囲内で。カネに糸目は付けません」


「おお、おう……」


 使い道はいずれ考えるにしろ、希少な物ならば買わない手はないだろう。


 ……まあ、だからといって法外過ぎる値段は勘弁願いたいがな。私は浪費家ではあるが無駄金を使う趣味はない。


「……で、納得したか?」


「ええ概ね。……因みにあるんですか? その《転換》等が付いているスキルアイテム」


「いんや。ウチは俺とモーガンが素で《転換》も《転写》も習得してる。魔力さえありゃ移せるぜ」


「成る程……」


 使い古しか何かあればスキルを吸い上げられるんじゃないかと少し期待したが、流石は私が見込んだ職人と「勤勉の勇者」だ。拘りを感じる。


「──んで? 話の腰折ってまで聞きたかった事はもう終わったんか?」


 私とノーマンのやり取りを興味なさげに聞いていたビクターが軌道修正に入る。


 実に良いタイミングだ。


「申し訳ありません。話を戻しましょう」


「おう。それで? 七属性の大蛇の改造魔物だったか? また随分と面白ぇ代物だな」


「でしょう? 一つ一つ解説しますが、なんと言ってもエルウェの一番のお気に入りだったニーズヘッグと名付けられた大蛇には、なんと体内にマンドラゴラを──」


 それからは大蛇達の解説だ。


 皮の質、丈夫さ、それに美しさにメリーは「人工的に、これを……」と漏らしながらは垂涎してしまいそうになり。


 骨や牙なんかはノーマンとモーガン、それからビクターが喧々囂々と意見を言い合い、ぶつけている。


 ……竜鏡銀などなくとも、彼等普通に信念ぶつけ合っていないか? これ……。


 それに素材はまだまだあるんだ。この程度で一々白熱されては日が暮れてしまう。ただでさえ昼過ぎに来ているというのに。


「はいはいっ! 大蛇については一旦終了っ!! 次行きますよ次っ!」


「あん? んだまだあんのか?」


「……まあ、これに関しては〝素材〟と銘打って良いのか疑問ではあるのですがね。念の為に見てください。気に入らないのであればそれで構わないので」


「あ? んだそりゃ」


「ではまず……これらですね」


「「「「──ッッッ!?」」」」


 私が取り出したのは、様々な部位に切り分けられた()()のパーツと、それに繋がれた明らかに生態由来ではない構造と見た目をした物体。


 人の手や足が大半で──おっとこっちは頭、だな。流石に異形に変質した頭をモーガンに見せるのは気が引ける。ひとまず手足だけに止めよう。


「な、な、なんだよ、これ……」


「……人種じゃな。どう見ても」


「うぅ……」


「あ、アンタこれ……」


「一応言っておきますが、私はどちらかと言うと()()を解放したまでで、これらの製造等には関わって──」


「最初からッ!! ……聞かせろ。簡単で構わねぇから」


「はい。これらは──」


 これらは私が転移の罠を踏んだ際に飛ばされた隔離施設にて襲って来た、憐れな元軍人エルフが人体実験と改造を施され、無理矢理にスキルアイテムと融合させられ兵器とされた怪人達のパーツだ。


 あの時は《暴食》を使い私自身も怪物と化す事で奴等を食い殺して皆殺しにしたわけだが、アレでも一応、序盤は暴れながらも死体や部位を後程回収出来るように気を遣って食い殺していたんだ。


 ただ終盤はいつの間にか意識が《暴食》に侵食されていて、その気遣いもしなくなってしまったがな。


 今の進化した私ならば最早その心配は無いのだろうが、いやはや、恐ろしいスキルである。


 本当は繋がっているスキルアイテムだけ外せれば世話なかったのだが、《究明の導き》によれば完全に二つは同化していて、知識や技術が無いと上手く剥離出来んらしい。


 故にこうして一応、皆の前に出している。


 ──という事を、《暴食》等の説明を省きながら語って聞かせたワケだが……。


「けっ。とんだ鬼畜が居たもんだな。エルフ族には……」


「彼が突出してイカれていたんですよ。自分より何百年も歳下の部下に才能で足元を脅かされた凡才でしたから。焦燥感で倫理観を盲目したのでしょう」


 この怪人達を造ったのは、魔生物研究部門と魔導書研究部門を統括する魔力開発局局長「エル・シンゴル・ロコッチーク」。


 〝ヤル気のある無能〟を体現したような人格をした、一番上に立たせてはいけない部類の人種だ。


 変にカネとコネが家にあったせいで間違いであそこまでのし上がってしまい、結果多くの退役軍人や負傷兵達が無残な実験台にされ、挙句怪人にされてしまった。


 あの戦争で数多くのエルフ族を葬った私だが、その中で〝殺して正解だった〟と心胆から自信を持って感じられる筆頭は間違いなくコイツだろう。


 私は無駄遣いが五本の指に入るほどに嫌いなんだ。


「……で、まあ、わざわざ聞くまでもないかもしれませんが……」


「おう。使わんわ」


「でしょうね」


「早々に供養してやんな。オメェさんの事だ。どうせ手足だけじゃねんだろ?」


 ふふふ。付き合いが濃いと理解が早くて喜ばしい。


「そうですね。ではこれらは後日しっかりと──」


「待て」


 怪人達のパーツを仕舞い直そうとした時、腕を組み目を伏せるビクターがそれを止める。


 それにノーマンは何やら複雑な表情を見せたが、このタイミングで止めに入るという事は……。


「儂にやらせろ。仕上げてやる」


「……全て承知の上で?」


「俺ぁ素材に残留した魂の〝思念〟を感じる事が出来る。見たところそいつ等は元々は戦士……だったのだろう?」


 ……まあ、軍人や兵士も大きく括れば戦士か。


「ええ。大半が怪我や病気で已む無く退役した者達です」


「その意思は、まだ残っとる」


 ビクターが強い眼差しで私を見詰める。


 その眼光に宿るのは、恐らく覚悟だろう。


 私に倫理観を捨ててでも利用する気位があるのか?


 死して──怪物に改造されて尚、衰える事の無い闘気を残留させるそれに向き合う度量があるのか?


 彼等の枯れる事のない〝意志〟を、背負う意義を理解しているのか?


 ……私はどうやら試されているらしい。


 舐められたものだ。


「無駄にしたら承知しませんよ」


「ふんっ! 誰に言っとるっ!!」


「知りませんよ。まだ」


「なら見せたる。ドワーフ界随一の加工の御業をッ!!」


「……なぁんか気に食わんな」


「嫉妬ですか師匠」


「けっ。気色悪い事言うんじゃねぇよッ!!」

こういう武器作りパートをちょくちょく挟む本作ですが、ただの私の趣味ですので、好きじゃ無い人は残念ですがお付き合い下さい。


というか本作全部が私の趣味とやりたい事を詰め込んだものなので、色々諦めて下さい!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 《転換》《転写》《付与》の組合せで容量の大きい類似した機能の魔石さえあれば 僕の考える最強のスキルを作り出すこともできそうで面白い [気になる点] 《怠惰》がどういうスキルなのかが気になる…
[良い点] 怠惰の魔王がどんな人物か気になりますね。 空賊もFF12が大好きな自分的には楽しみです。 [一言] 武器作りパート自分は結構楽しみにしている要素ですよ。
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