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強欲のスキルコレクター  作者: 現猫
第三部:強欲青年は嗤って戦地を闊歩する
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終章:忌じき欲望の末-31

 


「それにしても、随分とエルフ語が上手くなってるじゃないか? スキルか何かか? 私も欲しいものだなぁ?」


 私は取り出したグラスを四つ手近なテーブルへと置き、その中へワインを注ぐ。


 このワインは以前にアールヴの南の監視砦の隠された蔵の中でグラッドが見付けたもの。


 かなりの年代物で、エルフ族の製紙技術で作られたラベルに載っている年代が本当ならば約百年前の代物だ。


 《究明の導き》や《品質鑑定》で腐敗具合も確認したが問題なく、蔵もワインにとって最高の温度と湿度が確保されていた。


 つまりこれは正しくエルフ族のワイン職人が作り上げた、他国では決して到達出来ない超が付くビンテージワインという事になるだろう。


 正直こんな場所、こんな時に振る舞うものではないのだろうが、同じ物があと十本はあるから問題ない。


 自分で一本開けた時に味わったが、まさに至高だったな……。


 樽の仄かな木の香りと今世で久々に感じた梅干しの様な爽やかな懐かしい香りが鼻腔を──


「一体、どうやってこの場所が判ったんだ?」


 ……。


「少しは自分で答えを導き出そうとする努力をしなさい」


「え?」


「ファーストワンがお前を見付けた時、一体誰の、何で見付けたか聞いていないか? アイツの事だ、自分からペラペラと喋ったろう?」


「──っ!!」


 顔を見るに、どうやらちゃんと聴いてはいたんだろうな。


 まったく。聴いていたのなら私が軌跡の指輪をヤツに貸していた事を思い出して推測くらい簡単に出来るだろうに……。


 まあ、それ以前に──


「大体だ。こんな判り易い場所に隠れていて見付けるなという方が無理があるだろう? いくら住み易いとはいえ、早計だな」


「い、いやでもっ! 今まで隠れられてて……」


「……」


「……まさか」


 ヴァイスが驚くと、少しだけあった私達の距離を詰めて来る。その目は何かを訴えるようであったが、掴み掛かってくるまでには至らない。


「……もしかして、君が?」


「地味に大変だったぞ。お前の義父、かなり血相を変えてお前の事を探していたからな。凱旋式にも祝勝会にも顔を出さずに、私財を矢鱈に投じて、な」


「なっ!?」


 言ったように、ヴァイスの義父であるアッシェ・ラトウィッジ・キャザレルはヴァイスの事を死に物狂いで探している。


 当然だろう。傷心し茫然自失となっていた可愛い義理の息子が、戦時中に唐突に居なくなりそのまま行方不明なのだから。


 加えて捜査協力に駆り出されたファーストワンが死に、余計に心配は加速されただろう。最早彼はキャザレル家の財産を使い果たす勢いで人員を投入している。


 私にもその際に協力要請が来たのだが……。


「私は《空間魔法》であらゆる場所に転移出来るからな。私の捜索能力は国一だ。その私が一言「見つからない」と言って軽く証拠を消して回る……。まあ、中々信用はされなかったがな」


「……なんで」


「ん?」


「君は……なんでそんな事をっ!? 僕は……ぼ、僕は君の知己であるふ、ファーストワン隊長を……」


「そんなもの知っている。一から十まで、全てな」


「なっ!?」


「どうだ? 初めて人を殺した感想は?」


「ち、違……ぼ、くは……」


 言いながら震え出すヴァイスの顔色が、みるみる真っ青になっていく。両手を眺め血に染まった様子でも幻視しているのか、唐突に手を服で拭う仕草まで始めた。


「あ、あ、あの時は……ああ、する、しか……」


「言い訳にもならんな。実に滑稽だ」


「う……ああ……」


「ふん。これだから意志の薄弱な未熟者は手に負えん。お前の義父が聞いたらさぞ絶望するだろうなぁ?」


「……義父(とう)さん……」


「ああでも、アッシェ侯はお前には甘々だからなぁ? 言い分次第じゃあ許してくれるかもな?」


「と、義父(とう)さんだって絶対に許さない……。敵前逃亡どころか上官殺害……敵である彼等を助けすらしたっ!! そんな僕を、なんで助けるような真似をッ!?」


 ──ファーストワンの死体に工作し犯人も私がでっち上げているから例えヴァイスがアッシェに見付かったとしても捕まらんだろう。


 ただ普通の父親のように心配するだけで済む筈だが……。何にせよ、わざわざそれを伝えて無意味に手札を切る意味はあるまい。


 それより──


「……お前に言ったところで理解出来んだろうがな」


「え」


「お前──いや、お前達に自由に動いてもらう事が、私にとって都合が良いからだ」


 そう言って私はヴァイスを含めたディーネル、ダムスの三人を視界に収めるように振り返る。


 双子は私が部屋に入ってからずっと臨戦態勢を取っているが、何処で拾ったかも分からないボロボロの剣と弓を構えたところで何ら脅威ではない。


「私はな、ヴァイス。お前にそれなりの〝価値〟を見出しているんだ」


「価値、だって?」


「私個人から見ての価値だ。お前に解りようはない。……ただその価値を最大限に発揮してもらうには、お前には自由でいてもらわねば困るんだ。私としては、な」


「そんな、勝手な……」


「なら私の勝手を許さない為にと義父の元に戻るか? その二人を見捨てて?」


「くっ!?」


「前にも言ったな? 誰かを助けたら、助けた相手に責任を持て、と……。それをお前はちゃんと受け止めていたと思ったんだがな? ……あの三人を死なせた事で……」


「──ッッ!!」


 ヴァイスが殆ど無意識に、私の胸倉を掴む。


 その目には、激しい悔恨と怒りが浮かんでいた。


「今その事は関係──」


「無いと? お前は彼女達を死なせた事から一体何を学んだ? 一体何を思い、何を受け取った? 後悔か? 怒りか? そんなくだらんものか?」


「そ、れは……」


「違うから、ディーネルとダムスを助けたんじゃないのか? あの三人を死に追いやった二人を、上官を殺してまでして助けて、一緒に逃げて隠れたんじゃないのか?」


「……」


「……それともお前は──まだ〝正義〟なんてものに振り回されるだけの人形でしかないのか?」


「──ッ!?」


 胸倉から手を離し、ヨロヨロとヴァイスは後退する。


 そして後退先にあった椅子にぶつかると、そのまま椅子に崩れ落ちるように座り込み、頭を抱えた。


 今までで一番の狼狽(ろうばい)……。まさかコイツ、本当に〝正義〟に振り回されているんじゃなかろうな?


 ……まあいい。


「お前達の今の立場は弱い。故に私に見付かった時点で、お前達の選択肢などあってないようなものだ。罪を犯して逃げているなら尚更だな」


「……」


「故に、私が助けてやろう」


「──え?」


 私はワインを注いだグラスを半ば無理矢理三人に持たせ、空いたテーブルに先程祝宴から持ち出した料理と当面の食料、そしてカネの入った革袋を敷き詰める。


「これは……」


「『は……?』」


「『え……?』」


「料理は今すぐ食べてしまいなさい。野菜メインのものを中心に持って来ている。食料もそうだな。アールヴから持って来ているから二人の口にも合うだろう。カネに関しては無駄遣いさえしなければ国境を越えるだけの──」


「ま、待ってくれっ!!」


 私が簡単な説明をしているのを少しだけ正気に戻ったヴァイスが遮る。一応彼等の今後を左右する話だ。聴いてやろう。


「き、君の世話にならなくても僕達だけでなんとかやれるっ! そこまで君に──」


「くだらん」


「──っ!!」


「プライドは大事だ。決して曲がらぬ信念の骨組みになってくれるからな。だがお前のはただの下らん〝意地〟でしかない」


「う……」


「プライドを語って実行するには、それを引っ張って余りある実力が必要だ。お前達にはそれが無い」


「そ、んな、こと……」


「ほう? 着の身着のまま逃げて来て? 丸一日使って野うさぎを二羽獲って来るのが限界で? 今後の展望や目的も、手段や知識もまともなものが無い……。これでは明日には捕まるなぁ……」


「……」


「もっと貪欲になれヴァイス。欲する事──貪欲に生きようとする事は決して悪ではない。施しを受ける事は恥ではないし、それで生き延びる事は正しい事だ」


「そう、だね……」


「私の思惑が気に入らんと言うのは勝手だが、それを受け入れるしか選択肢がないのなら受け取れ。私がお前の立場ならば、遠慮なく頂くがな?」


「……」


 ヴァイスは私から視線を外すと、テーブルに並べられた料理を見て喉を鳴らす。


 料理は流石に冷めてしまっているが、どれも冷めても味が落ちにくいものを選んだつもりだ。


 先程から香ばしく豊かで、大変に食欲を唆る匂いを醸し出している。空腹であればさぞ胃袋を刺激するだろう。


 勿論、持って来たものの三分の二は野菜を活かした料理であるからディーネルとダムスも誘惑している。ここ数日まともな料理を口にしていないコイツらには大変魅力的に映るだろうな。


 ──それはさておき。


「逃走ルートを記した地図をカネの入った革袋に入れてある。二、三日以内にはここを出立し、身分を隠せるように変装し、適当な国に逃げなさい。オススメはドワーフの国であるマスグラバイト王国だ。彼等は種族柄、他種族に良くも悪くも関心が薄いからな。多少怪しまれても犯罪さえ犯さなければ存外どうにかなる」


「え。あ、ああ……うん」


 人族が国外逃亡する際、よく使われるのがマスグラバイト王国だ。


 流石に指名手配されるような犯罪者であればその限りではないが、命を狙われての逃亡や亡命なんかには割と寛大だと聞く。


 政府が管理する〝人族街〟なんていうのもあるくらいだ。そこに身を寄せれば、少なくとも一時的な拠点には出来よう。


 それと──


「ただ今あの国はドワーフ族の〝魔王〟が率いる〝空賊〟が幅を利かせているとも聞く」


「魔王で、空賊?」


「忙殺されている中軽く調べただけ故、詳細は分からん。だが国がある程度は放任しているところを見るに、悪逆の限りを尽くしているわけでも無いんだろう。下手に刺激しなければ問題無いだろうが、くれぐれも無謀な正義感で突っ掛かるんじゃないぞ?」


「いや、それは……」


「まあ、無理だろうな。お前には」


「……」


「だが他の獣人族のシュターデル複獣合衆国やヴィルヘルム帝国よりはマシだ。二国とも紛争終戦直後で規制が厳しいからな。入国審査の時点で身元が割れてコッチに即刻伝わるだろう。お前の父親がすっ飛んで来るな」


「そう、だね……」


「他の国は論外だ。シナイ公国に辿り着ければいいが、大前提に帝国を抜けなければならん。何にせよお前達には無理だ」


「うぅ……」


「……という具合か。何か質問は?」


 そう促すが、場には静寂が広がる。


 ヴァイスは一応何かしら考えているようだが、私が色々と(まく)し立てた影響で頭が追い付いていないんだろう。そもそも情緒やら不安定なようだしな。


 双子は未だに戦闘態勢のままだが、無理矢理渡したワインの希少性を理解しているのかその手に持ったまま私を睨んでいる。かなりシュールな格好だな。


 ──さて、質問も無いようだし……。


「では私は失礼するとしよう。待たせている人が居るものでな」


 (きびす)を返し、わざとらしく足早にドアを潜る。


 すると──


「『ま、待てっ!!』」

「『ま、待てっ!!』」


 首だけを動かして振り返る。


 そこには緊迫と怯え、そして復讐心に燃える瞳を輝かせるディーネルとダムスが貧相な武器を構えていた。予想通りに。


「『……分かっているのか?』」


 私の色々とすっ飛ばした問いに、双子は緊張を走らせる。言葉の意味は、ちゃんと理解しているだろう。


「『そ、それでも……私達はっ!!』」


「『おじいちゃんの、仇をっ!!』」


「『ほう。エルダールが私に殺されたと確信しているのか? あそこから逆転したかもしれんぞ?』」


「『ふざけるなっ!!』」


「『いけしゃあしゃあと……。よくもっ!!』」


 ふむ。どうやら逃亡しながらでも、ある程度は戦争の内情を知っているらしい。これなら今後の逃亡生活でもそうそう野垂れ死にはすまい。


「『勝負しろっ!!』」


「『殺してやるっ!!』」


 ……暗く眩く光る、憎悪の瞳。


 親愛なる身内を殺され、湧き上がる激情に身を焦がしながら、(さなが)ら獣のように仇を滅殺する──しなければならないと動く身体に身を委ねる……。


 分かる。私にはその気持ちが痛いほど分かる。


 母を、父を、そして(ユメ)を殺された時のあの焦げ付くような不快な憎しみは、何をどれだけ葬ろうが癒えてはくれない。


 復讐は何も生まないわけではない。復讐にだって意味がある。復讐する事で救われる時だってある。


 だが復讐はいつだって、癒しにはならない。


 決してならない。


 ……。


「『いいだろう』」


「『──っ!!』」

「『──っ!!』」


「『お前達が今睨み付けているのが途方もない絶壁である事を、教えてやる』」


 双子に向き直り、後からのそのそと出て来たヴァイスに目線を移す。


「お前も混ざりなさい」


「え、でも……」


「お前が加わろうと変わらん」


 後ろ手に腕を組む。


 構えない私に、ヴァイスと双子は訝しんで目を細くした。


「『掛かって来なさい。お前達程度、無手でも過剰だ』」












 ──十分程だろうか。二振りの剣と一張りの弓による猛攻が私に振り(かざ)され、あるいは射られ、襲い来る。


 剣の刃先が髪を、裾を、睫毛(まつげ)の先を撫で、放たれた矢の(やじり)が産毛を、吐息を、視線を撫でる。


 それを何百と繰り返し、三人の息が荒くなり動きの精彩を欠き始めた頃、私は一人ずつ丁寧に三人を合気で転ばせた。


「痛っ!?」


「『キャッ!?』」


「『おわっ!?』」


「時間切れだ」


 仰向けで地面に寝転がる三人を、私は見下す。


「『十分やってただの一撃……どころか(かす)りすらせず、ただ(いたずら)に体力だけを減らし続けた感想でも聴いてやろうか?』」


「う……」


「『無闇に無益に無謀に武器を振り回してまぁぁみっともない。敵討の〝か〟の字も復讐の〝ふ〟の字にも掠らん。そんなんで今後逃げ切れるのか嗚呼心配だ』」


「『く……』」


「『そ……』」


「『いっそこのまま引っ捕まえてラトウィッジ侯に引き渡すか? それともサン家の当主にファーストワンの仇として突き出すか? 嗚呼困ったなァ? 選択肢が一杯だァ?』」


「……」


「……はぁ。冗談はさておき、せめて武器くらいはまともなものにしなさい。そんなゴミ、例え当たっていたとしても毛程のダメージにならんわ」


「そう、だね……」


「道中、常に見てはやれんし助けてもやれん。どうしようもない時は介入してやらん事もないが、一切期待するな。私の都合次第だと思っておけ」


「うん……」


「まったく世話の焼ける……。いいか? お前がこの双子の面倒を見るんだぞ? 助けた責任を果たせ。取り返しの付かん事になったら許さんぞ」


「……君って」


「む?」


「君って案外、世話焼きなんだな」


「ふん。私は釣った魚にはしっかりエサをやる質なんだ。精々水槽の中で私の思い通りに生きていきなさい」


「うん。分かったよ」













「はあ。無駄に疲れたな」


 ヴァイス、ディーネル、ダムスの三人の元から去り、今私は屋敷に戻って来ている。


 ロリーナへの膝枕をネフラと改めて交代し、私は再び彼女の枕の任に就いた。


「すぅー。すぅー……」


「……ふふ」


 しかし本当によく寝ているな。


 まあ、彼女も彼女で私に振り回されたこの数ヶ月神経を尖らせていたろうからな。


 加えて過去を全て思い出し、それを私に何もかも吐露したのだ。ロリーナの不安や緊張は相当のものだった事は想像に難くない。


 存分に労わってやらねばな。その為にはまず──


「おや。なんだ寝てんのかい」


「ああ、丁度いい時にいらっしゃいましたね、リリーさん」


 客間に現れたのは、如何(いか)にも魔女然としたローブと帽子を纏った老婆──ロリーナの育ての親であるリリー・リーリウム、その人だ。


「なぁにが丁度いいだい。戦争終わったってのに(ろく)に顔も出さないでイチャイチャしてからに……。少しはあたしの心情も(おもんばか)って欲しいもんだよ」


「申し訳ありません。色々と立て込んでいたのですが──いえ、言い訳ですね。一分一秒でも顔を見せに行くべきでした。すみません」


「ったく……。まあ、こうして無事な姿見れたんだから、何だっていいさ」


 そう言ってリリーは眠るロリーナの頭を優しく撫で、ロリーナはそれを(くすぐ)ったがるように身を捩った。


「それで? あたしゃ別に戦争に参加しても、キャッツ家の復興にも関係無い。祝宴に参加する義理はないよ」


「ええ。そうでしょう。──私が貴女を呼んだのは、見ての通りロリーナを回収して欲しいからです」


「この子を? アンタが介抱してやりゅ良いじゃないか」


「そうしたい気持ちはありますが、やはり一番安心出来る場で体と心を休ませてあげたいんです。私の元に居ては、気を張り続けてしまうでしょうから」


「……そうかい」


「明日、何かしら差し入れを持って伺いますよ。久々にあの家で、三人で薬学について語りながらお茶を楽しみたいですね。問題ありませんか?」


「かっかっ。そうさね。それもいいね」


「そう言って頂けると嬉しいです」















 寝ぼけ眼のままのロリーナを伴い、リリーは屋敷を後にした。


 その頃には祝宴も落ち着き、参加者はポツポツと帰路に着いて行った。


 グラッドやディズレーのように家が無く寮暮らしの学院生の何人かはうちの屋敷か、或いは近くの宿に泊まる形になっている。


 私が皆を送り届けても良かったのだが、遠慮されてしまった。まあ、私は楽で助かるが……。


 ──さて……。


「マルガレン」


 そう呟くと、音もなく私の背後にバスケットを持ったマルガレンが出現し、まるでそこに居るのが当たり前のように私の左斜め後ろに控えた。


「……坊ちゃん。遠隔テレポーテーションでいきなり呼び付けるのはやめて下さい。心臓に悪いです」


「悪い悪い……。で? そっち──エルウェとオルウェ、それからヴァンヤールの三人の手配については順調か?」


「はい。アールヴの大臣達は基本的には貴方様には逆らえませんから、自分に致命的でないなら案外協力的でしたよ。三人のコチラへの異動手続きも恙無(つつがな)く処理されるでしょうね」


「それは重畳。それとドーサは? エルウェはなんて?」


「大変興味深い、と……。一度本格的な研究をしてみたいなどと言っていましたね」


「内容によるな……。で、当のドーサは?」


「坊ちゃんとロリーナ様に数日会えなかったんで連日泣き通しで……。今は泣き疲れて眠ってしまっています」


 マルガレンはそう言ってバスケットを差し出し蓋を開ける。


 中にはとぐろを巻き、涙を流しながら眠る小さな子蛇の姿があった。


「そうかそうか、可哀想な事をしてしまったな」


「はい。そのせいか、僕ちょっとこの子に嫌われてしまいましたよ」


「ふふふ。後で私とロリーナで弁明しておこう」


「お願いします」


「ああ。──で、だ。一番肝心なものは?」


「はい。この為に、折角の凱旋式での坊ちゃんの晴れ舞台をお預けになったんです。抜かりなどありません」


「流石だ。起き抜け早々、お前は本当に素晴らしい働きをしてくれている。最高の側付きだよマルガレン」


「勿体なき御言葉……。ですが暫くは側付きらしく貴方の側に控えさせていただきます。よろしいですね?」


「ロリーナとの慇懃(いんぎん)は邪魔するなよ?」


「それは勿論。無粋は働きません」


「ふふふ。頼んだぞ? 先は長いんだからな、マルガレン」


「あはは。全力で善処いたしますよ、坊ちゃん」

次話、最終話予定。


その次からは次部突入です!!

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