終章:忌じき欲望の末-29
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強い光が、瞼の上から差す。
浅くなった眠りにその光は気持ちの良い目覚めを促し、徐々に意識もハッキリとしてくる。
「……む」
目を開けると、視界に飛び込んできたのはこの世で最も愛おしく、美しく、可憐で、艶やかな、ロリーナの寝顔だ。
髪は乱れ、口元に涎と目元に涙の跡が残るが、それすら彼女を引き立てる要素の一つだ。愛おしくて愛おしくて堪らない。
逢瀬の最中に数え切れないくらいにキスをしたが、その愛おしさに駆られてまたしてしまいたくなる。まあ、安眠を邪魔するのは申し訳なくて今はしないがな。
……それにしても──
「……ふむ」
ロリーナは私の腕を両腕でしっかりと抱き抱え、静かに寝息を立てている。
つまり今、彼女の豊満な双丘の谷間に、私の腕が挟まれている形になっているわけだ。
鍛えている私の腕は別に細いわけではないはずなんだが、二の腕はすっかり彼女の柔らかいものに埋もれて完全に隠れてしまっている。
前々から発育が良いとは思っていたものの、昨夜にロリーナを脱がして露わになったそれを改めて見て、思わず驚嘆してしまったものだ。
別に大きさで惹かれたわけではないんだが、これも立派な彼女の魅力で、私を魅了する一つの要素なのは間違いない。
この柔らかく大きなものも私のものだと思うと、燃え上がるような欲情が脳の奥から湧いて来る。ついさっきまで、あれだけ激しく堪能したというのにな。
これは毎晩求めてしまうかもしれない。ロリーナの都合も考えなくてはならないのに厄介だな、箍が外れてしまうというのは。今まで我慢し続けてきた反動か……。
気を付けねば。独りよがりは今後の私達の関係にヒビを──
「んっ……」
あれこれ考えながらロリーナの寝顔を眺めていると、彼女も差し込んだ光が眩しかったのか、瞼をゆっくりと開いた。
「あぁ……クラウン、さん……」
未だ微睡みから覚め切っていないロリーナが、私の顔を見て気の抜けた声音で名前を呼ぶ。可愛過ぎて思わず抱き寄せてしまいたくなるな。
「おはようロリーナ」
「おはよう、ございま──」
挨拶をしながら身体を起こそうとして、彼女は自分がどんな格好と寝方をしていたのかを再確認する。
すると数秒だけ固まり、ゆっくりと私の顔を見上げ──
「──ッッッ!!!?」
彼女は一瞬で顔を真っ赤に染めると驚くほどの速さで二人の下半身だけを覆っていた掛け布団を自分に引き寄せ、自身のあられもない裸体を隠す。
ああ勿体無い。もっと眺めていたかったんだがな……。
「あ、ああ、あ、あの……」
「む? なんだい?」
「……さ、ささ、昨晩は、その……」
きっと今、ロリーナは夜の事を思い出しているんだろう。
思い出すにつれ私に向いていた目線は私の身体に移動し、少しだけ眺めてから恥ずかしくなったのか掛け布団で顔を覆って蹲り、頭だけを出した団子のようになってしまった。
可愛いことだ。互いの裸など、昨夜は気にならない程に求め合ったろうに。
……ちょっとイジワルをしたくなるな。
「なんだい丸まったりして。しかしそれはそれで唆られるものがあるな……」
「──ッ!! な、ななな、なにを言って──」
「私が一晩で満足すると思うかい? 私は目覚めた直後から、また君を味わいたくてウズウズしているんだぞ?」
そう言いながら布団に包まったロリーナを優しく抱き寄せ、真っ赤なままの彼女の頬へキスをして、耳を甘噛みしてみる。
「〜〜ッッ……」
「良いんだぞ? 君も、私の事を好きにして……」
そう囁いてみると、彼女は目を限界まで見開きながら私を射抜くように見詰めてくる。
昨夜を振り返ると、あの時の私は興奮のあまり少々私主導の行為であったと思う。
まあロリーナは初めてであったから仕方がないのだろうが、私ばかりが好きに出来る状況というのはフェアじゃない。
次は試しに彼女の好きにさせてみよう。なんなら今からでも私は──
「い、いい、いえっ! い、まは……その……」
「……そうか。まあそうだな。焦ってするものでもないな」
ちょっと期待してしまったが、ロリーナに無理をさせてしまうのは私としては本意じゃない。
なに、焦る必要はないんだ。今は昨晩の互いの深い愛し合いを思い出しつつ、また雰囲気が良くなったタイミングで──
「でもっ!」
「ん?」
「…………また、ください。いっぱい……」
……。
「……君」
「は、はい」
「あまり私を誘惑するもんじゃないぞ。思わず襲ってしまうところだった」
「へ?」
「まったく。これは大変かもしれんな、色々と……」
私から誘う事はあるだろうが、ロリーナから誘われては理性を保てる自信がない。
今は心も体も欲望も満たされていて何とか耐えられるが、仮に溜まっている時にこんな可愛い誘惑をされては一瞬で理性など瓦解してしまう。
というか彼女からの折角の誘いを断りたくない。ロリーナからの勇気のお誘いは、可能な限り全力で応えよう。故に。
「次誘ってきたら、すぐにでもベッドに放り込むぞ? 良いか?」
「……はい」
ロリーナは布団を目深に被ると、弱々しい声でそう漏らす。
一線を跨ぎ、私達の中のハードルはある程度は下がったと言えよう。
ロリーナの態度と言葉から鑑みるに、私の技術はちゃんと彼女を満足させる事が出来たのだと思う。直接的には聞けんがな。
昨晩を機に、彼女が私との情事の虜になってくれていたならば万々歳だ。次の機会は、そう遠くならないだろう。
……まあ、私が辛抱堪らなくなったら早まるかもしれんがな。一度外れた枷はまた掛け直したところで脆くなり外れ易くなる。私の場合は顕著だろうな……。
何せ今この瞬間でさえ、情欲を我慢しているのだから。
──と、いつまでも全裸ではいかんな。
「流石にそろそろ服を着よう。君からはどうか分からんが、いつまでも君の姿を見ていては私が堪らない」
「……」
「ああ、先に身体を洗った方がいいか。先に風呂に行ってきなさい。私は後から入ろう」
「……わかり、ました」
ロリーナはそう言って包まっている掛け布団ごとベッドから降り、浴室まで引き摺りながら歩いていく。
さて、ロリーナが上がるまで暇になってしまったな。
全裸のままというのも落ち着かんし、適当にバスローブでも羽織って──
「あ、あの……」
「ん? どうした?」
何やらロリーナが浴室のドアから顔だけ出し、かなり逡巡しながらギリギリ聞き取れる声を漏らした。
「いっ、しょ、に……」
「む?」
「いいぃ、いっしょにッ!! 入りません、か……?」
「……」
この子、わざとやってないか?
だがそうか成る程。
ロリーナもバカではない。
なら、先程の忠告を聞いた上でそう言うという事はそういう事なんだろう。
ふっふっふっ。まったくこの……。
「君からのお誘いだ。遠慮なくご一緒しよう」
私は今、どんな風に笑っているのだろうか。
イヤらしくなければ良いが……。
殆ど無意識に歩み出した私の足がロリーナの元まで辿り着くと、彼女は私の顔と下半身を交互に目移りさせている。可愛い事この上ない。
「では、互いに汗やら何やらを流し合おうか」
「は、はい……!」
結局、私達が浴室から出て来たのは、その三時間後の事だった。
その日、午後から私達は市街に買い物に出掛けた。
なんて事はない。デートと散歩の中間のような、そんな複雑な理由のない、取り止めのないお出掛けだ。
服を買ったり、野良猫を少しだけ付けてみたり、気になる香辛料を買ってみたり、迷子の子供の親を探したり、露天の怪しいスキルアイテムを試しに買ったり──
「お? おうおうおうおうっ!」
……何やら面倒そうな輩に絡まれたり……。
「なぁんか目立ってるやつ居ると思ったらぁ? 表彰されてたガキじゃねぇかぁ、えぇ?」
体格は大きめ。筋肉はそこそこ。
顔は強面で、髪は短めに刈り上げられていて、服装は着古した古着だ。
腰には剣を佩ているが……側から見ても大した手入れをしていないのが窺える。恐らく脅迫用だろう。
背後に侍らせている如何にも子分という名に相応しい三人の男も、その類だろうな。
「戦争でたいそうな活躍だったらしいが、こんなお子ちゃまがねぇ? ご立派に女なんて連れやがって……。ムカつくハナシだ。なぁお前らっ!?」
「「「へいっ!!」」」
──こうして外を歩いていると、時々だが住人が私を見て様々な反応を見せてくる。あの凱旋式で大々的に表彰された影響なのだろう。
えらく畏まって頭を下げる者や大袈裟に怖がる者。
尊敬の眼差しを向けてくる者や私の実力を疑う者。
子供達なんかには一度囲まれてしまったくらいだ。中々の知名度を得る事に成功したと言えるだろう。
この知名度を利用すれば、ギルド「十万億土」の表の活動にも利用でき──
「はっ! だんまりか? まさか国の英傑様がオレ達なんかにビビってるわきゃねぇよなぁ? えぇ?」
……口臭がキツイな。
「……おい。なんだその顔は」
おっと。ちょっと露骨にイヤな顔をし過ぎたかな?
「あんま調子に乗ってんじゃねぇぞクソガキ……。どうせパパの背中にでもくっ付いてお溢れもらっただけなんだろ、えぇ?」
この言い分。さてはコイツ戦争に参加していないな?
あの戦場に居て私の活躍に疑問を抱く者はそうは居ない。
こんな態度と図体はデカイくせに戦争に参加する気概もないのか。魔法魔術学院の生徒以下じゃないか。
「なんとか言ったらどうなんだっ!!」
「……はぁ」
「あ゛ぁ?」
「ゴミ掃除の慈善事業など趣味ではないんだがな。八つ当たりで周りに面倒な被害が出ても敵わんが、致し方ない」
「あ? いまなに──」
人差し指を親指で抑えるようにしながら男の額に当てがい、弾く。
直後、男は背後の子分達を巻き込みながら吹き飛び、十メートルほど到達した辺りから地面を滑りだして、更に五メートルほどして漸く勢いが止まる。
男は……ふむ。死んでいないな。
力加減を考えてデコピンで済ませたが、少々見誤ったかな。脳震盪を起こしていそうだ。
ちょっと歩み寄って様子を見てみよう。
「で……でめ゛ぇぇ……」
お。目線が定まっていないようだが意識はあるようだな。良かった良かった。
「お、おれに、こんなこと、して……。た、ただですむと、おもうな、よ……」
「ほう?」
「おれ、は……。下街、西区を、牛耳るギャング……「不可視の金糸雀」の人間、だぞ……」
組織を盾に出すとは何という小物か。感動すら覚えるな。
しかしふむ。「不可視の金糸雀」か……。
「ならその親玉に伝えておきなさい」
「あ、あ?」
「……「いずれこのクラウン・チェーシャル・キャッツが〝挨拶〟に往く。努努、心待ちにしているように」……とな」
「な、にを、言って」
「いいから黙って従っていろ羽虫。それとも「不可視の金糸雀」の構成員というのはホラか?」
「ひぃっ……」
「ふん。まあいい。それでは伝言、頼んだぞ? 羽虫君?」
私が笑顔を向けると、男は全身を震わせながら全力で何度も頭を上下に振り、通り過ぎる時には背後から気絶でもしたのかドサリという音が聞こえた。
少し《威圧》やら《覇気》の出力を上げ過ぎたか? 試しに《魔人覇気》なんかも混ぜてみたが……ふむ。
《魔人覇気》は、悪人や罪人などの精神性が悪に傾いている人間に対して畏怖の感情を植え付け、影響下に陥った者の魔力を畏怖の感情の度合いに応じて吸い取る事を可能とする。
魔力の吸収はこの際は置いておくとして、畏怖をどれほど相手に植え付けられるのかは気になるところだ。
ただ恐怖されるだけなのか、逆に仲間を裏切る程の狂信者に仕立て上げられるのか……。まあ、やり方次第ではあるのかもしれんがな。
少なくとも、さっきの男の今後の行動次第だな。この検証が進めば──
「クラウンさん」
「ん?」
「下街への進出は、いつ頃になるのでしょうか?」
「ああ、そうだな……」
下街への進出、そして掌握は、十万億土の裏稼業活動に於いて必ずこなさなければならない案件の一つだ。
主にエメラルダス侯との公約による案件ではあるが、これはキャッツ家の裏稼業として、そして今後の私の確実な地位の構築に於いて必須の〝事業〟でもある。
エメラルダス侯の信頼を確実なものにするためにも、いの一番に実行する予定だ。
……だが。
「暫くは、少しのんびりしようと思う」
「暫く、ですか?」
「ああ。……今思えば、エルフや戦争やらで年単位でゴタゴタしていた。自分の時間はある程度は捻出していたが、本格的に頭も体も休めた事など、殆どなかったように思う」
「そう、ですね。私もそう思います」
ロリーナに心配な顔をされてしまった。まあ、普通心配するか。だが、今回でその心配を解消しようじゃないか。
「だろう? だから暫く──とくに期限なんかは設けないでゆっくりしていようと思っている」
「成る程。良い考えです」
「ただまあ、流石に毎日を自堕落に過ごすわけにはいかんから、ギルドの設立やら自己研鑽なんかのやらねばならない事はこなさねばならんがな。だが以前のように切り詰めるのは止める事にする」
まあそれでも、人によっては忙殺と評するのかもしれんがな。
前世の私からすればその程度は日常だ。ましてやスキルで己を高次元に保てる今世ならば、最早これくらいならば忙しいの内に入らん。
それに──
「それに、今後は君との何気ない時間も作っていきたいしな。というかそれが一番の理由だ」
「そう、ですか? 私としては、寧ろ私達が一緒じゃなかった時の方が少ないと思うのですが……」
ふむ。確かにそう言われればそうかもしれんな。
とはいえそれが憩いの時間だったかと問われたならば、否定せざるを得ないだろう。故にだ。
「言ってしまえば〝仕事〟での時間ばかりを過ごしていたろう? つまるところデートと銘打って出掛けたり観光したりは殆どして来なかったわけだ」
「観光……」
「昨日の湖畔の花畑のような景色を見に、とかな?」
「……確かに、そうですね」
ロリーナの目が少し輝いたように見える。余程に昨夜のあの場所がお気に召したのだろう。期待感が高まっているな。よしよし。
「有名な場所から秘境のような場所……。沢山あるぞ? それを一通り見て回るのも一興じゃないか?」
「良い、ですねぇ……」
「景色だけではないぞ? その地域固有の郷土料理や工芸品。服飾や様々な物語や詩を綴った本なんかもあるだろうな。胸が躍るだろう?」
「はいっ!」
私としても楽しみだ。
ロリーナに挙げた例も無論あるが、その地特有の昆虫や小動物、植物……。それらを捕獲してテラリウムで飼育したり、または標本や剥製なんかにしたり……。ああ、魔物なんかも居るかもな。
そして何より世間では出回らないスキルアイテムや、またスキルのスクロールがあるやもしれん。
未知という名の夢が広がる。
「まあ、下街の一件の前に旅行は難しいだろうが、本当の意味で全て落ち着いたら、な?」
「うふふ。そうですね。今は手頃に出歩ける場所で、我慢しましょう」
「試しに何日かに分けて王国の主要な街を巡ってみようか。そこから周辺の観光地に行って──」
そんな感じで今日は街中を歩きながら買い物をし、今後の予定を大雑把にだが話し合った。
久々に感じる、何にも追われていないまったりとした時間……。まるで緊張し凝り固まったものが揉みほぐされたような、そんな心地良い感覚を覚えながら……。
そしてその夜。
予定通り我がキャッツ家の屋敷にて爵位復興を祝う饗宴が催された。
招待されているのは全て身内……。家族は勿論、メラスフェルラさんや裏稼業を支え続けてきた〝翡翠〟傘下ギルド組織のマスターの面々。
そして私の部下達全員である。
屋敷のダイニングの中央に大きめの円卓が置かれ、祝勝会でもやったような立食形式で好きなだけ食事と酒を楽しめる場を用意した。
祝勝会のような政治的意向や思惑は一切排除。まあ、ギルドマスターの面々とは流石に挨拶を交わし、後日ちゃんとした面談と今後の裏稼業についてを話し合おうと約束を結んだが、それだけだな。
後は本当に無礼講で、マナーなんかも気にせず全員で飲み食いを実行した。
父上なんかは珍しく酩酊する程に酒を呷り、やれ「我が一族の悲願がッ!!」や「我が子達は天才だッ!!」「嗚呼ヤーデ様ッ!! ジェイダイド様ッ!! 我々は遂にッ!!」なんて大声で叫びながら泣いていた。
最後にはフラフラと千鳥足になり危なっかしくなってしまったので、母上と新しいメイド長ネフラに支えられながら退出して行ったが、大丈夫だろうか?
出来れば饗宴が終わってから話し合えたらなんて考えて居たんだが……これは無理だな。
ああそれと──
「ねぇねぇねぇねぇねぇねぇッッ!! アンタホンッットにッ!? ホントに……成し遂げたのッ!?」
「ど、どどどどど、どんなでしたかッ!?」
……ロリーナが、ヘリアーテ達女性陣に質問責めされている。
昨夜、祝勝会で私達が忽然と姿を消した事は、勿論、一緒に参加していたヘリアーテ達も承知していた。
そして何の為に、何をしに消えたかなど、年頃の彼女達ならば容易に察せよう。最近はその話題で持ちきりであったしな。
そんな質問責めされているロリーナはというと……。
「ん〜? なんかぁ……すごく、良かったよぉ〜……」
……酔っ払っていた。
どうやら昨夜に初めて口にした甘い果実のカクテルを大層お気に召したようで、あの時は少しずつ口にしていたものを今は中々のペースで嚥下している。
そのせいかいつもより……かなりフワフワした思考になっているな。正常な判断が出来ているかも少し怪しい。
ホラ今も──
「なんか……おへその、辺りまで、きてぇ〜……。お腹の、奥からぁ〜……気持ちいいのがぁ〜──」
──と、普段言わないであろう面映い事を口にして皆を驚かせている。
だが拝聴している皆も追従するように呑んでいるせいか、恥ずかしげではあるものの幸せ一杯な機嫌を共有したい暴走ロリーナを止める者はなく、赤裸々な初夜の話を盛大に繰り広げていた。
「……ねーボス? 止めなくていいのー? アレ……」
「あ、あぁ……。なんか聞いちゃいけねぇ話が聞きたくもねぇのに入ってくるぞ……」
「いやぁ俺も聞きたくねぇよお前がなぁっ!? 是非とも止めに行って欲しいところだなぁ友達としてはっ!?」
グラッド、ディズレー、ティールにそう横から忠告される。
まあ確かに。愛するロリーナの恥辱を晒す姿をちょっと見ていたい気持ちも無くはないが、これ以上コイツらにその姿を見せるのも我慢ならんな。
「では止めてこよう。……ああそれと」
「え?」
「ロリーナの暴露話は忘れなさい。良いな?」
「「「は、はい……」」」
三人を後にし、女性陣が集るロリーナの元へ歩み寄る。
何故かキャーキャーと黄色い声が上がる中、目がトロリと若干虚ろで頬を紅潮させた……端的に言えば大変に色っぽいロリーナの手を取った。
「楽しそうだなロリーナ。随分と気分が良さそうだ」
「あぁ〜……クラウンさん……私のぉ、クラウンさん〜……」
彼女は至極嬉しそうにはにかむと、私の手を引き寄せながら人前にも関わらず私に抱き付き、胸板に顔を埋めてくる。
可愛過ぎて食べてしまいたい。
「うぅぅ……クラウンさんの匂い好きぃ〜……大好きぃ〜……」
「わ、わぁ……」
「こ、これが……一夜を迎えたばかりの男女の甘々な雰囲気……」
「む、虫歯になりそう……うわぁ……」
「さ、さすが、クラウンだ、うむ……」
ちょっと待て今姉さんが混ざって──
「クラウンさぁ〜ん……キス……してください……」
「キャーッ!!」「キャーッ!!」「キャーッ!!」「キャーッ!!」「キャーッ!!」「キャーッ!!」
……何を、どうやって収拾をつけようか……。