第八章:第二次人森戦争・前編-51
(あ、あり……ありえない……)
ヴァンヤールは目の前の不測の事態に困惑し、狼狽する。
だがそれは自身の最高傑作の腕が受け止められたからでも、ましてやまだ反撃出来るだけの余力が二人の人族に残っていた事でも無い。
彼が一番に視線を注ぐのは、ティールが両手に持つ豪奢な装飾が施された鑿と金槌。今現在の、姿を変えた聖芸の指先に対してである。
(あれ、は……。ヴァルダ家の秘宝……。我が一族に伝わる唯一無二の遺物のハズだっ!! ……なのに、なのに、どうして……なんで……)
聖芸の指先は形を変えた通り、あらゆる〝創作〟に関する道具に可変し、力と魂ある作品を作り出す能力を秘めたレガシーアイテム。
内包こそしているものの、《色彩魔法》やそれを補助するスキルは聖芸の指先の能力の一端に過ぎず、その本質はもっと最奥──〝創作と表現の追求〟……それこそにある。
故に聖芸の指先は筆や鑿、金槌に留まらずあらやる道具に可変する。故にその名を〝指先〟としているのだ。
(一族に……僕に出来ないのに、どうして奴程度が、こんな……っ!!)
ヴァンヤールも一応、知ってはいた。聖芸の指先は〝筆〟の遺物ではなく、あらゆる創作物を作り上げる為の〝万能具〟であると、そう伝え聞いていた。
だがここ数百──いや、一千年以上も前から聖芸の指先はその形を筆以外に変えた事は一度も無く、当然ヴァンヤールも筆以外の形態に出来た事は無い。
ヴァルダ家は基本的に〝絵画〟を主流とした芸術一家であり、《色彩魔法》を駆使すれば鑿等を用いずともある程度は彫像を作れてしまう。
その為、聖芸の指先が形態変化しない事で困った事は無かったのだが、それでも一族は聖芸の指先の本領を発揮出来ていない事を心の隅でずっと嘆いていた。
なのに、だ。
「『お、お前……。どうやって……』」
「『どうやってって……』」
正直なところティール自身もよく理解出来ていない。
ただ聖芸の指先に宿る作神の方から促されて、それに全面的に同意しただけ。魔力を流したり練ったりとか、そんな事すらやっていない。
強いて言うならば──
「『創作の神様が俺を気に入ったから、かな?』」
「『……は?』」
理解が出来ないとばかりにヴァンヤールは思わずそう漏らす。
「『創作の……神、だと?』」
意味が一切理解出来ない。
それがティールの悪ふざけから来る煽りなのか、はたまた無理をした反動で混乱や幻覚でも見ているのかは定かでは無い。
唐突に神などと言われた所でそれを真に受ける程ヴァンヤールは純粋では無いし、エルフ族の主要な信仰対象は〝転生神〟であり、そもそも創作の神なる存在など聞いた事が無い。
(仮にそんな神が居たとして、何故我等ヴァルダ家に伝わっていないっ!? コイツが聖芸の指先を手にしてそんな声を聞いたとしたら、何故歴代当主──僕に一切聞こえないッ!? あり得んだろうがッ!!)
沸々と怒りが込み上げる。
ティールが聖芸の指先を手にしてから、一般兵にも劣る弱者でしかなかった彼はヴァンヤールをも追い詰める能力を有するようになった。
それはヴァンヤールが手にしていた時よりも遥かに大きな伸び代であり、自分がどれだけ研鑽しても手に出来なかったもの。
ヴァルダ家現当主である自分にこそ相応しい筈の力に、ティールは明確に目醒めている……。それがヴァンヤールには赦せなかった。到底許容など出来なかった。
「『ふ、ざけ……』」
「『ん?』」
「『ふざけんなよキサマァァァァッッッ!!』」
怒号を上げ、ヴァンヤールは武器を持たないティールに右手の刃で斬り掛かる。
怒りの限り、渾身の力を込めて叩き込む刃には確かな殺意が宿り、今の満身創痍なティールでは避ける事は困難──
「『……ちょっと前から思ってたけど──』」
そんな振り下ろされる刃に向かいティールは鑿と金槌を構え、それを目で追えないような速度で振るう。
そして金属を削るような甲高い音がほぼ同時に複数回鳴り響いたかと思えば、ヴァンヤールの刃は最早刃ではなくなっていた。
「『芸術家のクセに、武器がやたら地味じゃねぇの? 先輩』」
「『ッ!?』」
ヴァンヤールは驚愕し、刃だったものを振り戻して自身の右手から先を凝視する。
そこにあったのは消炭色の彫像。アールヴの象徴たる霊樹トールキンを象ったそれは、消炭色という暗い色にも関わらず幹には生命力溢れる樹皮が表れ、葉一枚一枚は仄かに輝いてさえ見える。
そんな〝作品〟が一つ、ヴァンヤールの右手に出来上がっていた。
「『うーん。流石に動く媒体を突貫で削ると粗が出ちまうなぁ……。俺もまだまだだな、うん』」
「『──ッ!? これが、突貫……?』」
ヴァルダ家当主たる者、芸術作品を見極める審美眼は確かなものでなければならない。
勿論ヴァンヤールにもその審美眼は持っており、自他に関わらず芸術作品を見極める確かな
目を持っている。
そんな彼の目から見て、自分の右手に作り上げられたティールによる〝粗のある〟作品は、到底あの一瞬──突貫で作り上げたとは思えないような完成度に見えた。
(これが……コイツにとっての平均以下? この出来で?)
そこでハッとし、ヴァンヤールは顔を上げ冒涜の巨人とその腕を受け止めている氷の腕を見遣った。
(あの氷の腕……。よく見ればただの腕じゃない。手の形は人型ではなく爬虫類に見えるし細かな鱗も見て取れる……。あの緻密な造形……だからこそあの腕だけで僕の作品を止めた……)
「『お。やっとその気になったか?』」
「『──ッ!?』」
見上げていた視線を再びティールに向けたヴァンヤールは、苦々しい顔をしながら本来余裕など皆無である筈の彼を睥睨する。
「『……なに、をだ?』」
「『何って……うーん。芸術競技?』」
「『あぁ?』」
「『いやホラっ! 俺達って今はこうして軍人と兵士って感じだけど、本質は芸術家同士だろ?』」
「『……』」
「『ならよ。俺達の決着って、ただ武器取り合って殺し合うってのは違うんじゃねぇかなってさ』」
「『…………』」
「『俺達芸術家が争うってなら、やっぱ作品同士の芸術競技が相応しいと俺は思う。それでの決着なら殺し合いより色々納得出来るだろうしな』」
「『……芸術競技などで、戦争の一端を左右しようってのかい?』」
「『競技つってもアレだぞ? 俺とお前の作品同士で殴り合いしてどっちが先にぶっ倒すかって感じだぞ? 規模感で言ったら悪くないだろ?』」
「『野蛮だな……』」
「『……ダメか?』」
「『ふん……』」
ヴァンヤールは芸術作品となってしまった右手を力無く下げてから呆れたように頭を乱暴に掻き、そのまま背中を向けてしまう。
「『ヴァンヤール?』」
「『気安く呼ぶんじゃないっ!! ……お前のまだ未完成だろう?』」
「『あ、ああ……そうだけど……』」
「『ならさっさと済ませろっ! 僕の作品にまさかあんな未完成の作品で挑むつもりじゃないだろうなっ!?』」
「『──っ!! おう、待ってろっ!!』」
何故だかティールは笑顔を見せるとヴァンヤールと同じように背中を無防備にも晒し、そのまま走り去って行く。
その背を流し目で何もせぬまま見送ってから、小さく溜め息を吐いた。
(僕は、何をやっているんだ……)
ヴァンヤールはティールを恨んでいる。
凡人のクセに自分の最高傑作を侮辱し、凡人のクセに何ものにも替え難い右手を切断し、凡人のクセに分布相応にも聖芸の指先を手に好き勝手し……。
恨み言など止め処なく溢れて来る。
苦しむ姿を今でも熱望している。
この手で息の根を止めたいと変わらず望んでいる。
なのに、なのにだ──
「『なのになんで、僕はアイツの作品を〝見たい〟と、そう思ってしまうんだ……?』」
奴の使う聖芸の指先は輝いて見えた。創作を楽しんでいるようだった。
奴の使う《色彩魔法》は美しかった。自由を謳歌しているようだった。
奴の使う彫刻技術は溌剌としていた。まるで生ているようだった。
(どれもこれも、僕の今までで得られなかったものばかりだ。何もかも、僕に足りないものばかりだ……)
一族の責務で楽しむ余裕など微塵も無く、親の画風を受け継いだ為に自由になど描けず、来る日も来る日も死を描くばかり……。
彼に比べて自分は、一体何をやっているんだ?
羨ましい、羨ましい。妬ましい、妬ましい……。
だが、だからこそ──
「『……見せてくれ』」
ヴァンヤールは振り返り、最高傑作と言い張った冒涜の巨人を拝み見る。
「『僕とお前、どっちの作品が芸術家たらしめるものなのか』」
願う事なら……願う事なら──
「お、終わりました?」
ヴァンヤールの元を離れロセッティの側に駆け寄るティールに、彼女は小首を傾げながらそう問う。
「ああ悪いなっ! それとありがとうな。こんな中途半端なタイミングで俺のワガママ聴いてくれて」
ティールはずっと悩んでいた。
この戦いの決着は一体どんな所を目指すべきなのか、と……。
それは実に傲慢で、ワガママで、いつ気を失ってもおかしくない身体で、クラウンの身内では最弱と言わざるを得ない自分が何を言っているんだ、という話ではある。
グラッドだってヘリアーテだってディズレーだって、軍団長相手に決着までわざわざ拘った仲間は居ない。と、いうよりそんな余裕など微塵もなかった。
仮にそんな余裕を持とうとするならば、クラウンやガーベラ並みの力量があって初めて成立するだろう。決して、ティールの実力で目指して良い事ではない。
だが、それでも彼は不遜にも悩んだ。
本当に、自分達の決着は違いを傷付け合う事なのか? と……。
「俺達芸術家だからさ……。やっぱ殴り合いとか性に合わんのよ。戦争だろうと、それは変わんない」
「だ、だから、話し、合いに?」
「話し合いってほど上品な感じじゃないけどなっ! ただ俺の彫刻見せて、奴の芸術家魂って奴に火を点けただけだ」
「そ、それで、ヴァンヤール、倒せるの?」
「うーん、多分大丈夫っ!! アイツの作品ぶっ壊すからな……。心、折れるだろ……」
そう言いながらティールは悲しげな感情を滲ませながら苦笑いを浮かべる。
彼は別に悪趣味な人間ではない。
例えどんな作風であろうと、それを最高傑作と呼んでいる作品を壊すのは大変に気が引けるし、どちらかと言うと気分は悪い。
ただ同じ芸術家同士であろうと敵同士なのには変わりなく、クラウンの信頼を裏切る事などしたくはない。
故に彼は心を鬼にし、ヴァンヤールの芸術家としてのプライドを刺激して作品同士の壊し合いに持ち込んだ。彼の作品を壊し、その心をプライドを折る。
それが芸術家同士の戦争に於ける決着……。ティールが今選べる、最低で最良の決着だった。
「悪いなっ! 俺のワガママに付き合わせて」
「そ、そんなっ! わ、わたし、氷だって維持するので精一杯でもう魔力全然ありませんし……。ティール君の役に立てて──」
「無いわけないだろっ!?」
ティールは俯こうとしたロセッティの両肩を掴み、それに驚いて顔を上げた彼女の顔を真っ直ぐに見据えながら優しく説く。
「てぃ、ティール君っ!?」
「ロセッティ。これは俺とお前の合同作品だ」
「ご、合、同?」
「ああそうだっ! お前の作り出した氷で俺が彫刻する……。合同でなけりゃなんだってんだ?」
そう言いながらティールはゆっくり彼女の肩から手を退けると転がる氷塊に振り向き、鑿と金槌の聖芸の指先を構え、振るう。
「私と、ティール君の……」
「おうっ! お前の氷があるから、俺はこうして彫刻出来る……」
一振りで外皮を彫り込み、二振りで無数の鱗を彫り込み、三振りで筋肉の躍動感を彫り込む。
あっという間に氷塊は息吹すら感じられる程のリアリティを孕んだ氷像の一部となった。
「ははっ! こりゃ大作になるぞっ!! 楽しいなロセッティっ!!」
ティールは満面の笑みをロセッティに向け、更なる彫刻の為に別の氷塊に向き直り再び聖芸の指先を振るう。
その姿は実に楽しそうで、自分描きを解除しているとはいえ既に立っているのも辛い状態とは思えない程に軽快に、ひたすら鑿と金槌を振るい続ける。
そんな様子を内心で心配しながらもロセッティは完成した氷像の一部を操作し一箇所に集めて行く。彼の背中を眺め、その笑顔を見ながら……。
「『……』」
ヴァンヤールはティールの作品作りの間、自身の右手に《色彩魔法》で様々な色を用いて着色を施していた。
その右手には既に彫像と化した刃は既に無く、先程切断された手を拾い上げ《色彩魔法》を利用してくっ付けているのだ。
勿論こんな方法で斬られた腕は治らないし動かない。傷口が悪化しないようにする為とちょっとした気休め程度であり、本格的な治療は後程に施すつもりでいた。
(少し前の僕なら、こんな方法は取らなかっただろうな……)
魔法を自分に使う危険性は魔法を扱う者ならば当然周知している基礎知識だ。
それを躊躇無く自らに施し、身体を文字通り描き換えたティールの常識離れしたある種の気質に、ヴァンヤールも僅かながらに感化された。
この応急処置は、そんな影響を受けた彼のちょっとした変化であった。
「『……ん?』」
ヴァンヤールは遠巻きに聞こえていた氷を削る音が止んだのに気が付き、振り返った。
するとそこにはロセッティを連れ立ったティールが何やら満足そうな顔で立っており、その様子に多少のイラつきを覚えながら問い掛ける。
「『もういいのかい? 僕の目からはお前の作品が見えないんだが?』」
二人の後ろを覗き込んで見るが、そこには彫刻はされているものの未だ形を成していない氷の塊が複数一箇所に転がっているのみでおよそ作品と呼べるものは見受けられなかった。
しかしそんな反応が予想通りとばかりにティールはドヤ顔を披露し、苛立ちを覚えるニヤけ口で得意気に語る。
「『はははっ!! 甘いなぁヴァンヤール。演出だよ演出っ!!』」
「『……あ?』」
「『お前だってあの巨人作った時に派手派手にやったろ? まあ、流石にあそこまでは無理だけど、ちょっとくらい演出しても良いだろう?』」
「『……お前。最初の時の緊張感どこにやったんだい』」
「『俺としては逆にお前の最初の時のふざけた感じはどこ行ったんだって話なんだけどな?』」
「『はぁ……。わかったわかった好きにしてくれ』」
「『おうっ! ただぁ……』」
「『あ? 今度はなんだ?』」
ヴァンヤールは苛立ちながら訝しむと、ティールは一旦ロセッティに目配せしてから向き直り、悪戯っぽく笑って見せる。
「『少しズルするけど、気にしないでくれっ!!』」
「『……は?』」
素っ頓狂な声に応える事無く、ティールは徐にロセッティの手を握ると顔を真っ赤にする彼女を尻目にその手を高く掲げる。
「ひゃ、ひゃぁぁぁっ!?」
「さあロセッティっ!! 俺達の作品っ!! あのデカブツにぶつけてやろうぜっ!!」
「ひゃ、ひゃいっ!!」
そう叫びロセッティはポーションで回復した分の魔力を全投入し、散らばる氷像の一部を一気に集結。
大小様々な氷像の一部はティールが予め《色彩魔法》で宙に描いていた無色透明の設計図を元に目的の形に形成して行き、徐々にその姿が露わになって行く。
冷ややかな瓶覗色の全身を覆う数え切れない程の鱗と背中に突出する無数の氷柱。
未完成だった巨人の腕を掴む腕は鱗だけでなく指の先から長く鋭い鉤状の爪が伸び、胴長の下半身からは体長にも及ぶ長い尻尾が身体を支える。
長い首の先には先細った面長の頭があり、鱗が変質し硬化した甲殻による角に酷似した棘が無数に隆起し、側面には細く長い瞳孔を湛えた瞳が覗く。
氷像である筈のそれは形を成していく毎に生命の脈動を宿していき、耳を澄ませば鼓動すら聞こえて来そうな現実味を帯びていく。
次第に氷像にはあるまじき筋繊維の僅かな動きや必要無い筈の呼吸すらし始め、鋭い口吻からは冷えた水蒸気が白い息として漏れ出し、小さな唸り声が溢れる。
最早氷としての質感や色以外殆ど生物と変わりない氷の巨大な彫像── 巨大な大蜥蜴の氷像がそこに形成された。
「『こ、こ、コレは……』」
「『コイツはな? 俺がクラウンに連れられて人生で初めて対峙した魔物──トーチキングリザード……その〝氷雪属性版〟だっ!!』」
「『な、に?』」
「『題して「アイシクルキングリザード」っ!! 現時点での俺──俺達の最高傑作だっ!!』」
そう高らかに宣言した直後、アイシクルキングリザードは呼応するかのように全身を躍動させ、氷特有の軋みを上げながら直立する為に支えていた長い尾を軸に巨人の腕を捻り上げ、体重を乗せながら被さるようにして巨人を床に押し倒す。
「『なっ!? そんな、簡単にっ!?』」
「『言っとくが俺達のアイシクルキングリザードは頭が中々良いしある程度の技術も持ってるぞ?』」
「『──っ!! ちょ、彫像如きにそんな芸当……あり得るかっ!?』」
「『そう難しい話じゃないぞ? 氷像の頭の中に《色彩魔法》で〝魔法陣〟を描いておいただけだ。小さくて細かくて色々な色で描いた魔法陣……。ザッと一〇八個をなっ!!』」
「『なん、だって……』」
「『……なぁ先輩──』」
アイシクルキングリザードは押し倒した冒涜の巨人の上に跨るとその四肢の鋭い鉤爪でガッチリ身体全体を固定し、尾の先に薄く鋭い氷の刃を形成すると、巨人の四肢を次々と切断していく。
「『改めて聞くけどさ。本当にアレはお前の作風なのか?』」
「『くっ……』」
手足を失った冒涜の巨人は斬られた四肢を断面の死体を蠢かせながら再度接合しようと踠き暴れるが、アイシクルキングリザードの本物宛らの生命力には勝てず床に氷結される形で縫い付けられ、動きを完全に封じられる。
「『ついでに聞くけどさ。本当にアレがお前の最高傑作なのか? あの程度の作品がか?』」
「『……っ』」
全く身動きが取れなくなった冒涜の巨人に対し、アイシクルキングリザードは大きな口を開き、真っ白に氷結した水蒸気と細かな氷の礫を体内に吸引し、周囲の温度を急速に過冷させながら喉元を膨らませていく。
「『違うよな? お前の実力はあんなもんじゃない。まだまだ未熟な俺に、負けるような実力じゃないよな?』」
「『あ、あぁぁ……』」
限界まで水蒸気と氷の礫を溜め込んだアイシクルキングリザードは冒涜の巨人の顔面に至近距離まで口を近付けると、不気味なその顔に容赦無く真っ白な氷結ブレスを吹き付ける。
「『なぁ、ヴァンヤール……』」
「『やめろ……。僕に……僕に気付かせるなッッ!!』」
氷結ブレスを抵抗出来ずに浴びた冒涜の巨人はそのまま凍り付いてき、表層だけでなく巨人の内部にまで冷却が浸透。
余す事なく凍り付いてしまった冒涜の巨人はその動きを完全に止め、アイシクルキングリザードはそんな巨人から離れ少しだけ距離を取ると尾の先の刃を巨大な鈍器へと氷の形を変形させていき、天高く掲げてから勢いを付けるように振り回し始める。
「『ヴァンヤール。お前──』」
「『やめてくれェェェェッッ!!』」
「『お前本当は、描きたいもんがあるんじゃないのか?』」
そしてアイシクルキングリザードは充分に勢いのついた尾の鈍器を全身を躍動させながら冒涜の巨人へ振り下ろし、劈く様な軋みと炸裂音を伴いながら冒涜の巨人の身体が盛大に砕け散る。
その音は倉庫を震わすほどの轟音として響いたが、二人の空間に、そんな無粋は響かなかった。
今回の展開は、第二次人森戦争の脳内プロットを作る初期から計画していた展開になります。
ティールを活躍させるならどうするか、どんな戦闘描写が彼に相応しく、また彼らしい決着にするかを考えた末に辿り着いた展開……。
気に入って頂ければ幸いです!!




