第八章:第二次人森戦争・前編-42
またまたまたまた、遅くなり申し訳ありません。
詳しい事は活動報告に書いていますので、気になるかはそちらを覗いて頂けると幸いです。
また8月中の簡単な予定についても書いていますので、そっちが気になる方も覗いて頂ければ、と思います。
「──くっ」
ティリーザラ王国を支える七人の大貴族、通称「珠玉七貴族」は、各々に幾つかの傘下ギルドを抱えている。
七貴族の司る責務に相応した役職を個々担っており、責務の幅が広ければ広い程比例して傘下ギルドの数も増していき、また傘下ギルドの更に傘下に当たるギルドも増えていく。
傘下ギルドの数だけで言えば、現在時点で三大ギルドである冒険者ギルド、魔物討伐ギルド、総合商業ギルドを管理し、王国にある約六割のギルドを傘下に納める〝紅玉〟コランダーム家が最も多く。
逆に少数精鋭が最も効率的に働く〝渉外〟を司る七貴族〝琥珀〟はたった一つのギルドによって様々な功績を挙げてきた。
そして世間からは秘匿され、人知れず王国を裏から支え守護し続けて来た〝公安〟を司る〝翡翠〟の傘下ギルドは……五つ存在する。
進路をカーネリアに向けて進軍する五十からなるエルフ軍の小隊。
彼等の戦闘に於ける練度は高く、最初こそ進行を妨げる為に敢えて彼等の前に姿を現し交戦していた〝翡翠〟傘下の五つのギルドの構成員達であったが、森林内という敵方に有利な地形である事も相まってかなりの苦戦を強いられていた。
しかし、先程届いた自分達が支える主人の的確な命令により、五つのギルドはギルドマスターの指示の元にその〝本領〟を発揮する。
それこそが自分達の最も効率的で妥当な戦闘だと、証明せんばかりに……。
「……うんうん」
〝翡翠〟傘下ギルドの一つ。潜入調査を主として成果を上げてきたギルド「避役の夕闇」はギルドマスターの指示の元、迫り来るエルフ兵を観察していた。
密集し、濃い緑の匂いでむせ返りそうな木々の隙間を、まるで一本道を走り抜けるかのように一切の抵抗感を感じさせないエルフ兵達の動きを、その尋常ならざる観察眼でもってほぼ完璧に容姿を正確に把握。
特殊な粘土で作られた仮面を整形しエルフ兵の顔を再現。予め用意していた数種類あるエルフ兵の装備の中から彼等と同じ軽装備を身に纏った。
「んじゃ、行ってこい」
そうして敵と瓜二つの姿となった「避役の夕闇」ギルド員はギルドマスターの命令で侵攻するエルフ兵の一班に接近し偽情報を伝達。
信頼を置く仲間からの情報だと思い込んだエルフ兵達はそのままあらぬ方向へと進路を変えて行き、結果エルフ兵達はカーネリアへの進路をずらし仮拠点へと歩を進ませられた。
「『──っ!? なんだここはっ……』」
仮拠点へと誘導された十人からなる一班は困惑から顔を顰める。
「『先程の別班からの連絡が正しければこんな所に開けた場所など……。人族の仮拠点か?』」
警戒心を強める班長は無言のままハンドサインで班員達に要警戒の指令を送る。
すると班員の一人が滑るような軽やかな足取りで班長へと接近し、耳打ちするよう彼の耳へ口元を近付けた。
「『なんだ貴様。重要な事でないなら後に──ッ!?』」
班長の腹部に、唐突な衝撃と激痛が走る。
冷たい鋭利な金属が皮膚と脂肪と臓部を無遠慮に切り裂き、傷口から溢れ出る滝のような流血に体温が下がり始めたのを感じた班長は耳打ちしてきた班員を睨み付けた。
「『きさ、ま……』」
そこにあるのは紛れもない班員の顔。何年と共に訓練に励み、切磋琢磨しながら練度を高め合った信頼を置く部下の見慣れた顔である。
「『どういう、こ、と……』」
班長が意識を失い倒れるのと同時、他の七人の班員達も次々その場から崩れ落ちていき、残ったのは耳打ちをした一人のみとなった。
「……急拵えの変装すら見破れないなんてな。案外張り合いがねぇな」
班長を刺したナイフの血を拭い懐へと仕舞い、鬱陶しそうにしながら己が顔を手で思い切り引っ張る。
すると顔の皮膚は何の抵抗もなくバリバリと剥がれていき、その下にある彼のまた別の顔が明るみになった。
「っと、報告報告……。こちら「避役の夕闇」ギルドマスター、カチンネス・レオンハルト。敵エルフ兵十名を始末完了。引き続きよろしく」
『……了解』
《遠話》による同僚への報告を終え、ギルドマスターは自身が刺殺したエルフ班長を見下し、一つ溜め息を吐く。
「はぁ。今日が旦那からの最後の仕事かもしんないのに、地味だねぇ」
そう一言だけ呟くと、エルフの変装をした部下達に死体の処理を命じ、煙草を一口だけ吹かすと呆然と空を見上げた。
「『ハァっ!? そっちはさっきも通った筈だろっ!?』」
一方その頃。先程壊滅した班とはまた別の班を組んでいる十名のエルフ兵達は、不安気な面持ちを顔に出しながら辺りを矯めつ眇めつ見回していた。
「『いえ班長……。あんな木は先程までありませんでしたよ? 逆にこの方角にあるあの木は私、三回は同じものを見ました』」
班員の一人が班長に見えるよう数メートル先の木を指差す。
それはこの鬱蒼と茂る森の中でもありきたりな普通の樹木であり、他の木々の差など素人目では到底理解が及ばない。
が、エルフというのは植物と共に文明を築き上げてきた古き種族。森の木々全てとはいかないまでも、エルフ特有の植物に対する観察眼で森を眺めれば、特定の木を記憶し目印にする事も難しくはない。
その、筈であった。
「『そんなハズあるかっ!! 班長である俺が同じ木を見逃すハズない事くらいお前達だって理解しているハズだっ!!』」
「『ええ。ですからこうやって班員全員で確認しているのんです。なのに……』」
班長と会話していた班員が後ろを振り向く。
そこには同班の仲間達が先程の班長と班員のように木の目印を間違える間違えないの口論を繰り広げており、更に言えばそのどれもが班長達とも違う意見を口にしている。
「『なんだ……。誰が合っていて誰が間違えているんだ?』」
班長は焦った。
森の加護を一身に受けるエルフ族が森で集団迷子になり任務遂行が不可能になるなど全く笑えない。
軍で笑い者になるどころか市井の民達にまで軽蔑される……。女皇帝陛下の耳になど入ろうものなら、それらしい理由を並べられた上で何らかの罰則が与えられるのは必定。
そもそもこんな痴態を自分達を率いて来た部隊長に見られでもすればその場で打首……よくて半殺しの目に遭う。
それだけは避けねばならない、と班長は顔を青褪める。
(こんな口論をしている場合ではないッ!! 人族共の要所であり、元々は我が国アールヴが所有していた忌まわしい街カーネリア……。必ずや陥さねばならんッ!! やり遂げねばッ!!)
班長は班員全員を視界内に収めると声を張り上げる。
「『全員静聴っ!!』」
その一言で班員達は口論を止め班長に向き直り、彼等の一層不安そうに眉を垂れる顔を見た班長は続けて叱咤を飛ばした。
「『いいか貴様等ッ!! こんな事をしていても埒が明かんだろうが馬鹿がッ!! 全員の意見を一つずつ擦り合わせ、矛盾と正解を導き出すのだッ!!』」
班長の言葉に冷静さを取り戻した班員達はお互いに顔を見合わせてから頷き合い、彼の言う通り自分達の意見を擦り合わせていく。
すると最初は矛盾ばかりと思われていたそれぞれの記憶に少しずつ整合性が生まれ始め、まるで迷宮のようだった森の中に一本の導線を見出す事が出来た。
「『よしッ!! やれば出来るじゃないか貴様等ッ!!』」
ご機嫌な班長と安堵の表情を見せる班員達。
彼等は早速、その導き出した導線を頼りに進軍を再開し、迷いなく目的地に向かって進んで行く。
(待っていろ人族共ッ!! 我々が愚かな貴様等を蹂躙し、我が国の礎にして──)
しかし、彼等が全速力で森の中を駆けていた最中、唐突に彼等の視界が開ける。
「『な……』」
そこはカーネリアへの進軍ルートには全く予定に無い場所。
幾つかの設備が簡易的に用意された開けた空間……。何処からどう見ても今回の戦争に際して作られた仮拠点と呼べる場所に出てしまう。
「『る、ルートは……。我々が導き出した道が間違っていた、というのか?』」
「『その通り』」
瞠目し、困惑を隠せないエルフ班長一向の前に、唐突に一人の男が現れる。
「『人、族……?』」
どこからどう見ても人族の容姿であるそれは何の前触れもなく彼等の前に出現し、一体どうやって自分達の目の前に現れたのか、エルフ班長達は理解出来ず更に困惑を深める。
「『おや。存外に察しが悪いですね。先程私達を苦戦させた輩がコレとは……。嘆かわしい』」
「『……何?』」
班長は男に煽られると腰に佩く剣を抜き、男に向かって殺気を向ける。
それを合図に他の班員達もそれぞれ男に向け殺気を放ちながら武器を取り臨戦態勢に入るが、男はその様子を見て口元に手を添えながらクスクスと笑いを零す。
「『何がおかしい? 森から出たからとこの人数を相手に貴様一人で敵うと思っているのか?』」
そう語気を強めるエルフ班長だったが、尚も男は意地の悪い笑みを零し続ける。
「『おい、いい加減に──』」
「『ウフフ……。背後をご覧なさいな』」
勿論、罠だと警戒するエルフ班長。
だが目の前の男はどう見ても丸腰であり、スキル《所持品鑑定》による鑑定結果でも武器等の所持は無く、《魔操看破》によって対象が魔力を練り上げている様子も監視している。
今ならば多少背後を確認した所でどうしたって対処は可能だろう。
そう踏んだエルフ班長は一縷の油断も無く男を警戒したまま、可能な限り最小限の動きで背後を確認した。
すると──
「『……は?』」
彼の目に映ったのは自分の部下である九名の班員達。
しかし皆が皆、突然現れた目の前の男に注意を向けていなくてはならないこの状況に於いて、何故だかあらぬ方向を睨んでいる。
それぞれ視線を向けている方角、距離、上下があらゆる方向に向いており、されども彼等の浮かべる表情には自分と同じように真剣そのもの。
抜き放っている武器の切っ先は、各々が凝視し警戒している〝居もしない〟敵に向けられ、そこへ向かってスキルすら発動していた。
「『み、皆……。一体……一体何処を向いているッ!?』」
叫ぶ班長。
だがその声は彼等に一切届いていないのか反応は無く、相も変わらず何も無い空間をひたすらに警戒していた。
「『──貴様か』」
「『む?』」
「『貴様が……何かしたのか?』」
「『左様。当然だろう? 他に誰が居る?』」
「『ぐ……。ならば貴様をッ!!』」
手段方法は解らない。
が、自分の仕業だと自白した以上は少なくとも、目の前の人族を打ち倒せば現状からは脱す事が出来るだろう。
そう判断したエルフ班長は出し惜しみなく自らが発動可能な身体能力を向上させるスキルを全て発動し、怨敵人族へ駆け出そうとした。
「『愚かな。そもそもですね──』」
足に力を入れ、地面を蹴る。
ただそれだけをすれば良い。そのハズだった。
「『そもそも何故、貴方は自分だけが正常なままだと、勘違いしているんですか?』」
「『──ッ!?』」
班長の視界に地面が迫る。
意味が分からず脳内でその光景に大量の疑問符が浮かび、それによって対処が出来ず無防備な顔面を強か地面に打ち付けた。
「『ぐっ、をぉぉ……』」
何の防御も出来ないまま体重の乗った状態で打ち付けた結果、班長の鼻は見事に折れてひしゃげ、頭の奥に冷たく鋭い激痛が駆け抜ける。
「『おやおや。隙だらけで可哀想に』」
優雅に歩み、エルフ班長に近寄る男。
その様子を見たエルフ班長は逃げ出そうと痛みを堪えながら立ち上がろうと踏ん張るが……。
(ち、 力、どうやって、入れれば?)
力を入れる事自体は出来る。
ただその力を何処に、どうやって、どの方向に向かって入れれば自分が立ち上がる事が出来るのかが感覚的に分からなくなっていた。
「『立てないでしょう? 知っていますか? 耳の奥の鼓膜の更に奥、そこには三半規管というものがありましてね。簡単に説明すると人間の平衡感覚を司る器官になっています』」
「『く、くそ……』」
ゆっくりゆっくり歩み寄り、男は《氷雪魔法》で作り出した氷の剣を生成する。
「『私、武器を扱う才能は皆無でしてね。こうやって《幻影魔法》で相手の見ている景色をイジったり、感覚を一時的に狂わせたりして動けないようにしてからでなくては敵を屠る事も難しいのですよ』」
エルフ班長の傍まで来た男は彼から鎧を剥ぐと氷の剣を真下にし掲げ、その切っ先を彼の背中──丁度肋骨の隙間から心臓を狙える位置に照準を合わせる。
「『ひ……きょう……』」
「『そうですよ。私は国一番の卑怯者です。ですがそれで金を稼ぎ、家族を養い、国を守れるならば寧ろ名誉の称号です』」
氷の切っ先は徐に振り下ろされ、エルフ班長の背中を突き通り何の抵抗も無くその心臓を穿つ。
「『が、あぁぁ……』」
「『さようなら名も知らぬエルフよ。この「蟾蜍の蜃気楼」ギルドマスター、モタグア・トードの名、あの世で存分に中傷してくれたまえ』」
「『ぐ……ぅぅ……』」
悲鳴は小さく、蛙のような声を上げて生き絶えたエルフ班長を一瞥すると、モタグアは未だ自分達の上司の死を知らないエルフ班員達を見遣り、氷の剣を構える。
「『私はただ、最後まで徹するのみ……。例え主人が旦那様から坊っちゃまに変わろうと、私は変わらぬ』」
そう呟き、モタグアは氷の剣をエルフ達の首に滑らせる。
トドメを刺す時だけ、彼の剣はどこまでも真っ直ぐ、流麗になった。
「……」
「はい……はい。了解しました」
カーラットが《遠話》による報告を受け取り終わると、隣にて仁王立ちするジェイドに向き直り安心したように一息吐く。
「カーネリアに侵攻していた五十からなる敵方は、討ち漏らし無く全て駆逐出来たようです。流石は〝翡翠〟傘下のギルドマスター達ですね。私の出番は無いようです」
元々討ち漏らしの掃討を命じられていたカーラットはそう言って小さく笑って見せるが、主人であるジェイドの表情は固い。
「当然だ。真っ向勝負では我が傘下ギルドは奴等に劣るだろうが、土俵を整えた上で裏を掛ければどんな者達より抜きん出る。伊達に三百余年も影に身をやつしとらんよ、私達は」
そう語るジェイドの担ぐ大鎌が、暗い色を光らせる。
まるで夜空を切り取ったかの様な幅広い刀身は、膨れようとする闇を無理矢理抑え込むかのように胎動し、刃先から影の雫が地面に滴る。
カーラットがジェイドのこの大鎌──暗影鎌・闇琅玕を担ぎ出すのを見るのはこれで二度目。
キャッツ家に代々受け継がれて来たこの大鎌を当主が持ち出す時は、必ず重大な案件を当主自らが片付ける場合のみであり、滅多な事では表に出さない。
最初目にしたのはカーラットがキャッツ家の使用人としてやって来て間もなく……彼のお付きとして仕事を手伝い出した頃だ。
その時分、王都セルブの下街では近年稀に見るほどにアカツキトバリを用いた麻薬である吽全の取引が活発になっており、中街の市井どころか上街に住う一部貴族にまで広まる事態に発展していた。
これを重く見た国王はすぐさまジェイドに勅命を出し事態の早急な収拾を命じ、命じられた彼は自らその腰を上げたのだ。
そうして僅か数日という短い期間で今回の吽全の流行の発信源である親玉を特定。予め実力者である事を知っていたジェイドはこの大鎌、闇琅玕でもってその親玉をものの数秒で屠って見せた。
その様は圧巻の一言であり、最終的に親玉は子供のように泣きじゃくりながら闇の塊となって床に転がったのを、カーラットは良く覚えている。
(だがあの時、旦那様は言っていたな……)
『こんなもの、闇琅玕の力の一端に過ぎない』
カーラットはその場で僅かばかり身震いする。
あの時見た光景がただの一端でしかないのなら、本領を発揮したらばどんな悪夢が繰り広げられるのだろうと、そして……。
(その闇琅玕を、いつか坊ちゃんが受け継ぐ……。あの、坊ちゃんが……)
今より少し成長し、手に闇琅玕を握るクラウンの姿を想像したカーラットは更に一際大きく身震いする。
その姿は宛ら死神……。まるで初めからクラウンの元に渡る為にキャッツ家に代々受け継がれて来たのでは無いかと疑ってしまう程に、余りにしっくりくる様をしていた。
「……旦那様」
「なんだ」
「旦那様は、いずれその闇琅玕を坊ちゃ──」
そこまで言い掛けた時である。
ジェイド達が立つ正面の森の中から草木を掻き分け近付いて来る者の気配を、彼等は感じ取った。
「……旦那様」
「ああ。本命だ」
ゆっくりと、ゆっくりと。
散歩でもしているのではないかと思ってしまう程に緩やかに森を抜けて来た一つの影。
それはローブを羽織りフードを目深かに被り、酒でも飲んでいるんじゃないかと思うほどに足取りは安定しない。
両手には矢が継がれた豪奢な装飾の弩が二機握られており、背中に二つ、腰の左右と後ろに三つの計五つの矢筒がぶら下がっている。
「『……よう』」
気怠る気なエルフ語の声音で男は挨拶をし、ジェイドに向かって呑気に片手を振る。
「……旦那様、コイツ──ッ!?」
戦意も敵意も感じられず、ただただ怠そうにする男に思わずカーラットの気まで緩みそうになるも、隣に立つ主人の放った圧倒的な《威圧》と《覇気》に、緩み掛けた気が一気に引き締まった。
「『あーあー、やる気だねぇアンタ。俺の部下達を迷いなく皆殺しにするだけあるわ』」
「『……そういう貴様は部下が全滅したにも関わらず緊張感を感じんな』」
「『あ、エルフ語分かんだ。勉強熱心だねー、アンタ』」
エルフの男はそこで「まあ」と挟むと目深に被っていたフードを下げ、その顔を露わにする。
ボサボサでクセの付いた手入れをしていない燻んだ金のセミロングに、一般的なエルフよりも更に白い病的な肌色。
面長の顔にはコケた頬と目の下に大きなクマ。そして美しい筈のエルフ特有の新緑色の虹彩は何処か淀み、生気を余りに感じられない。
今にも倒れそうな病人……。見た目の第一印象としてはそう表現せざるを得ない程、彼は弱々しく二人の目に映る。
「『俺だって一応、部下達殺されて負い目とか、責任感は感じてんだよ、これでもね。ただ顔とか感情に出すのが億劫なだけでよ』」
「『……そうか。ならば』」
「『ああ。面倒だけどよ。いっちょ弔い合戦、やってやらなきゃな。俺、一応隊長だし』」
ジェイドは闇琅玕を構え、エルフの男は二対の弩を構える。
両者の目に、劇的な熱は無い。
だが静かな……。凪の海の様に穏やかで静謐な、冷たい冷たい殺意だけがその場を支配する。
「『私は──』」
「『お?』」
「『ティリーザラ王国珠玉七貴族〝翡翠〟が当主、ジェイド・チェーシャル・キャッツ。将来の我々の為、その礎となれ』」
「『……アールヴ森精皇国軍第一遊撃部隊隊長、デネソール・キートモス。アンタの首を、部下達の墓標にしてやるよ』」
そして二人は激突する。
静かな静かな、殺意の押し付け合いを……。
本当はギルドマスター五人分やろうかと思っていましたが、尺の都合でカットさせて頂きました。
残る三人はまたいずれ出ますので、頭の片隅にでも置いてくれていたら幸いです!!




