第八章:第二次人森戦争・前編-41
またもや遅れてしまい申し訳ありません……。
体調崩してました……。
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時は、クラウンがキャピタレウスからカーネリアが攻められていると報告を受けた約二時間前まで遡る。
場所は貿易都市カーネリア北西部に広がるアールヴに繋がる森林地帯。キャッツ家の屋敷裏から繋がる森の、更にその奥になる。
予め伐採と抜根をし作り上げた拠点には大きな帷幄を中心に幾つかの伐採した木を利用した倉庫が存在し、クラウンの父ジェイドとその右腕カーラット、そして〝翡翠〟傘下ギルドのギルドマスター各員が中央の帷幄内で綿密な会議を開いていた。
「──再三申し上げております通りエルフ族は森林内でこそ、その本領を発揮する種族です。皆様方に於かれましては私共充分にその力量、技術に絶大な信頼を置いておりますが、くれぐれも油断召されぬよう御気を付け下さい。以上、解散」
カーラットがそう言って会議を締めると、ギルドマスター達は一切の他言を挟まず起立してから一礼し瞬時に解散。瞬く間に帷幄内にはジェイドとカーラットのみとなった。
「……はぁ。相変わらず感情表現に乏しい方々だ。今までの任務だろうと今回の戦争だろうと何一つ表情を変えない」
そう言いながらカーラットは空席となった椅子から自身の横の上座に座る我が主人、ジェイドを見遣る。
その表情は彼等の様に平坦な感情──ではなく、虫の居所が悪いと言わんばかりに眉間に皺を寄せていた。
「……旦那様」
「……なんだ」
「なんだ。ではありません。今日で二週間ですよ? いい加減機嫌を直してください」
「……ふん」
ジェイドはこの二週間、殆どの時間を眉間に皺を寄せている。
普段の柔らかな物腰や雰囲気、人当たりの良さそうな口調や声音からは一変し、態度や威容を露骨なものへと変えていた。
先程会議を同席していたギルドマスター達はそんなジェイドの機嫌を察知し、表情には出さなかったもののなるべく彼を刺激せぬよう立ち回っていた程である。
なんならここ十数年でかれは一番損ねていたりするのだ。
では何故彼がそこまで機嫌が悪いのか……。その理由は件の二週間前の出来事にある。
『何? お前……それを本気で言っているのかッ!?』
カーネリアにあるキャッツの屋敷──そのジェイドの執務室。そこでジェイドは執務机を叩きながら勢いよく立ち上がり、目の前に居る男に怒鳴り声を上げた。
『勿論。私はこの手の冗談を言いませんよ。父上』
当の怒鳴られている相手──ジェイドの息子であるクラウンはそんな彼の怒声に一切動じず、淡々と言葉を紡ぐ。
そんな様子に父であるジェイドは眉を微かに痙攣させると小さく唸り、徐に椅子に座り直した。
『そう怒らないで下さい父上。何も咄嗟の思い付きを口にしているわけではありません。充分に熟考し、前々からそう決断、準備を進めていた事なのです』
クラウンの口調に一切の淀みはない。迷いや逡巡する素振りが無い事からも分かる通り、口にしている事に何一つ嘘偽りはないだろうとジェイドは判断するが、それでも彼の表情は明るくはならない。
『しかし、それでは一族の呪縛からお前を──お前一人を残していく事になるではないか。私が兼ねてよりそれを憂いていた事……お前も知っていよう?』
彼の言う呪縛とはキャッツ家の〝裏稼業〟の事である。
珠玉七貴族〝翡翠〟の現在の主な責務であり、歴代キャッツ家当主が担う決まりとなっている闇の稼業。
その内容は多岐に渡り、世間には秘匿されている〝翡翠〟傘下のギルドを利用した情報操作や印象操作を主とし、場合によっては国へ不利益を働く輩への脅迫や暗殺等様々な面でティリーザラ王国を裏から支え続けていた。
……が、それは当然公表などされる筈もなく、表立った評価もされない。人によっては精神を擦り減らすには余りある業務だろう。
そして例に漏れずジェイドは今までそれにより精神を擦り減らして来ており、決して逃れ得ぬ当主という立場も相まり、それを敢えて〝呪縛〟と例えているのだ。
『考え過ぎですよ呪縛などと。これは所謂適材適所……。そこに私が収まるのが、一番効率的で都合が良いというだけの話です』
『いや、だが──』
『聞き分けて下さい父上。いいですか? 改めて申し上げますよ』
クラウンはジェイドに詰め寄り、その両眼を真っ直ぐ見据えながら淀みなく宣言する。ジェイドに苦々しい顔をさせる、その宣言を。
『戦争に勝利し、我が一族が珠玉七貴族の〝翡翠〟として世間に明るみに出た暁には、父上が解散させる予定の裏稼業とそれに纏わる〝翡翠〟傘下ギルドを私にお譲り下さい。裏の仕事と彼等は私が全て面倒見ます』
『……』
ジェイドは再び聞かされたクラウンからの信じられない言葉にただ沈黙する。
ジェイドが当初クラウンから聞かされていた辺境伯と珠玉七貴族〝翡翠〟としての立場の世間への公表。
かつてキャッツ家の先祖に当たるビル・チェーシャル・キャッツにより被った汚名と罰……。それを今回の戦争で戦果を上げる事で雪ぎ、改めてその威光を王国に知らしめる迄が、ジェイドの知っていたクラウンの狙いである。
しかしその先……。冒険者ギルドと魔物討伐ギルドの利権の復権と、今まで国の裏側で行って来た裏稼業の引き継ぎについてはこの日が初耳である。
『……以前お前は言ったな? キャッツ家の仕事を継ぐ気は無い、と……。アレは偽りか?』
『いえ。私が言っていたのはあくまでも〝本来の責務である冒険者ギルドと魔物討伐ギルドの責任者〟としての仕事です。裏稼業とは一言も言っていません』
悪戯に笑うクラウンに僅かに苛立ちを覚えながらジェイドは目を伏せ、呆れたように息を漏らす。
『屁理屈を言いおって……。お前、最初からそのつもりで今まで私に断片的にしか話さなかったな?』
そう勘繰るジェイドの鋭い視線をクラウンは笑顔で受け止める。彼はそんな息子の笑顔だけで肯定だと察し、嘆息しながら椅子の背凭れに背中を預けた。
『……何故だ』
『はい?』
『何故わざわざ裏稼業を引き継ごうとする? あんなもの……。やらないに越した事などあろう筈がなかろうに』
『そんな事ありませんよ』
言いながらクラウンは突如ポケットディメンションを開くと、そこから幾枚かの紙束を取り出してから執務机に置いた。
『……これは?』
『ここ数年でのウチが裏稼業で国に与えて来た貢献……。その主だったものをピックアップしたものです』
『なっ!?』
瞠目したジェイドは慌てたように置かれた資料を拾い上げその内容に素早く目を通す。
一つ一つの項目に通す度、ジェイドの顔色が変わっていく。そしてそこに書かれている内容全てを嘘偽りない本物である事が読み進める度に鮮明に理解させられ、青くなっていく。
『お,前……。どうやって、これを……』
『以前、私がアールヴの南監視砦攻略の報告の際に王都の職場を訪ねたのを覚えていますか?』
『──っ!? その時に秘匿記録室を漁ったか』
キャッツ家の裏稼業は先述したように公表されていない。
故にそれに関するあらゆる記録は基本的に全て廃棄され、重要な──とりわけ国に対する貢献度が高い案件の記録のみを各都市に存在する秘匿記録室に厳重に保管していた。
当然そんなものをジェイドの息子といえど簡単に閲覧、持ち出し出来るわけなど無いのだが、何の気無しにクラウンはそれを見せたのである。
『一体どうやって……。あそこには何重もの──』
『そこはどうでも良いんですよ』
『何っ!?』
『私が言いたいのはですよ? たった一部抜粋し残されていた記録の、更にその一部だけでその量だ、という事です』
『あ、ああ。それが、なんだと言うんだ』
『つまりはです。貴方が仮に我が家の裏稼業を完全に廃止したとして、ではこの数々の功績を挙げて来た組織が抜けた際の〝穴〟は今後、どうなるのですか、という話です』
『……』
キャッツ家の人間がティリーザラ王国の裏側を支え続け三百年余り……。
国内の犯罪や違法行為は無くなりはしないものの、法では裁けない悪人や貴族への誅伐。国民への都合の良い情報操作や印象操作。そして潜在的な国内のあらゆる〝敵〟の排除……。
それらの表には出ないが国の発展という面での大きな貢献の数々は、決して無視出来るものではない。
この貢献が今後この国から失われた場合に空いてしまう目には見えない穴は、想像を絶する程に大きいものになるだろう。
『まあ、仮に廃止にしたとしても流石に国は代わりを立てるでしょう。それがアンブロイド伯の傘下ギルドになるのか、はたまた別の手段になるかは判りませんが……』
『……何故そこでアンブロイド伯が出てくるのだ』
『珠玉七貴族の中でなら最も適任でしょう? 内外の差はあれど業務形態を比べれば一番効率的に運用を転換出来ますしね』
『うむぅ……』
『何にせよです。そうなれば今の我が家の傘下ギルドは軒並みそちらへ流れるでしょうね。何百何千の精鋭達が一気に彼の元へ行く……。向こうも拒みはしないでしょう』
『ああ。そうだな。それならばアヤツ等も職を失わずに済む。良いではないか』
『……』
クラウンの目の色が、普段父へと向けるものよりも何段階も下降する。
失望とも捉えかねられない色の視線を向けられたジェイドはそれを受け、思わず唾を飲み込んだ。
『な、なんだ……』
『父上……。それで良いんですか? 本当に』
『……どういう意味だ』
そんな事を口にする父に、クラウンは呆れたような表情を見せると小さく溜め息を吐く。
『はぁ……。これも長い間権力闘争から身を引いていた一族の性質か? まったく嘆かわしい……』
額に手を当て軽く首を振るうクラウンに、ジェイドは怪訝そうに眉を顰める。
『クラウンなんだブツブツと……。言いたい事があるならハッキリ──』
『父上。そんな甘ったるい考えでは例え珠玉七貴族に再び名を連ねようと意味がありません。他貴族に舐められて終わりです』
『──ッ!!』
今後ティリーザラ王国が戦争に勝利した際、貴族達に待っているのは〝国政の立て直し〟である。
勝とうが負けようが戦争とは一部が得し大部分で損失を生むもの。そしてその大部分の損失を一番に被るのが国そのものである。
資材、人材、予算、時間……。取り返せるものは取り返し、取り返せぬものは代替品を用意する……。
そうやって擦り減った国を立て直し、可能な限りマイナスをプラスへ近付けていく役目を担っているのが王であり、貴族やそれに従う権力者と労働者になるのだ。
『キャッツ家は戦勝の誉として珠玉七貴族に返り咲く……。ですがそれだけでは意味が無い。返り咲き、珠玉七貴族として国の為に更なる功績を挙げねばウドの大木も良いところ。我が家──いえ父上の戦いは、ある意味でそこにこそあるのですよ』
『う、うむ』
『なのに何です? 何世代にも渡って紡いで来た裏稼業という財産を、貴方は一番の敵になるやもしれないアンブロイド伯に渡る事に何の抵抗も示さない……。これは余りに頂けない』
『う……』
『更に言えば今後、冒険者ギルドと魔物討伐ギルドを我が家に渡し身軽になったコランダーム公は本腰を入れて総合商業ギルドを盛り上げて行くでしょうし、反面我がキャッツ家は三百年というブランクを抱えながら冒険者ギルドと魔物討伐ギルドを運営せねばならない……。これも少々厄介ですよね』
『……』
『更に更にです。〝翡翠〟の傘下を離れた各ギルドは我が家の情報を持っています。記憶を消す手段が無いのであればアンブロイド伯にその情報が流れ、利用されてしまう恐れも──』
『それは無いッ!!』
ジェイドは声を荒げながら今までで最も鋭くクラウンを睥睨する。
それはこの十五年余り過ごして来た二人の時間の中で初めて注がれた威圧感。親が子を叱責するのとはまた違う種類のものを内包していた。
『父上……』
『アンブロイド伯……アバは、私の唯一無二の親友だ。今でこそ個々の役割に身を費やし疎遠になっているが、今でも私は彼を信じている。我が部下達を預けるに足る男だ。決して利用するような真似はせんッ!!』
ジェイドが息子に向けていたのは友人に対する侮辱にも似た言葉に対する嫌悪と怒り。
自身が心より信じる人間を疑われ良い気分がしないのは当然であり、何十年と重ねて来た信頼を傷付けるような発言を、例え実の息子だろうとジェイドは許す事は出来なかった。
そしてそんな事情など露程も知らずにいたクラウンは己が軽率な発言を少しだけ反省し、謝罪の言葉を口にしながら話を少しだけ逸らす。
『不躾な発言、申し訳ありません。……つまり貴方はアンブロイド伯を信じ、私には預けるつもりは無い、と?』
『……ああそうだ』
この言葉は、今日一番重かった。
恐らくジェイドは最早どれだけ言おうと意見を変えるつもりは無いのだろうが、それに屈する程クラウンは謙虚ではない。
切れる手札を全て切る覚悟でクラウンは言葉を列挙していく。
『私が将来ギルドを立ち上げようとしているのはご存知ですよね? それまでに多少時間は掛かってしまいますが、出来てしまう暇は長めの休暇として受け取って貰い、それまでになるべく早く私はそのギルドで父上の部下達に仕事を任せるつもりです。彼等の衣食住は守れますよ?』
『……本当に立ち上がるかも判らんギルドにか?』
『既に私のギルド立ち上げにはエメラルダス侯とコランダーム公が後ろ盾となる契約が交わされています。資金面や運営人員も確保済みですし、今回の戦争の戦勝報酬にはそれについても嘆願するつもりです。準備は万全ですよ』
『ふん。成人しているとはいえお前はまだまだ十代だ。例え優秀な能力を持っていようとそんな大それたギルド運営が上手くいく保証など無い』
『私の経歴、知らないとは言わせませんよ』
『……』
『自分で言うのも何ですが、最高位魔導師の最期の弟子であり、エルフ共の裏工作を看破し、国政を担う人間と太いパイプを持ち、戦争では然るべき活躍を成し遂げる人間です。そこに年齢などという戯れ言など意味を成しません。私には確かな実績とそれを成せる力がある』
『……だが、しかし』
『それに何より──』
そこでクラウンはわざとらしさすら感じさせるような物憂げに眉を下げながら笑う。色々と諦めたかのような、そんな笑みを。
『私の手は、既に血で汚れています』
『──っ!』
『そして私自身、そんな事に拘るタイプの人間ではありません。疑問を抱かず害意ある敵には非情に徹せますし、それに精神的苦痛を感じる人間性もありません』
『クラウン……』
『私はですね父上。〝そういう種類〟の人間なんですよ。ある意味で我が一族の裏の完成形……。歴代から見ても、私以上に裏稼業を熟せる存在は居ないでしょうね』
『……』
『将来の当主は、ミルトニアに譲って下さい。表の敵からは姉さんが、裏の敵からは私がこの国を護ります。ですから父上──』
『ならんッッ!!』
『っ!?』
ジェイドは再び執務机を破壊せんばかりに殴りながら立ち上がり怒号を上げ、複雑な感情が入り混じる瞳でクラウンを睨む。
『ならんと言ったらならんッッ!! 今すぐ考えを変えないというならば出て行けッッ!! 私に全てを一任する気になるまで我が家の敷居を跨ぐ事は許さんッッ!!』
『父上ッッ!!』
『黙れッッ!! この親不孝者がッッ!!』
それからジェイドは一切口を開かず取り付く島がなくなってしまい、然しものクラウンも執務室を退散。
その時から約二週間、クラウンは一度も屋敷を訪れてはいない。
「……お気持ちは分かりますよ旦那様。裏稼業を継がせたく無いと本気で考えていた貴方様からすれば、坊ちゃんの言は一番聞きたくなかったものでしょう」
「……」
「ですが坊ちゃんは坊ちゃんでしっかりと己を見詰め、キャッツ家にとって最も良い選択だと思ったものを選んだのでしょう。でなければここまでの絵は描けません」
「…………」
ジェイドは腕を組んだまま無言でカーラットの言葉に耳を傾ける。
彼も内心では理解している。クラウンが言っていた──やりたい事があらゆる選択肢の中で一番丸く収まるであろう事。
そして何よりクラウン自身がジェイドや家の事以前に自分自身の為にそれを選択している事……。自分に相応しい立ち位置、自分が立ちたいポジションを選んでいる事が前提である事を。
全てクラウンが望み、キャッツ家の安泰が約束された最善手だ。
問題なのはそう、ジェイドの息子に対する、望まれていない甘さと覚悟だと、彼は内心で理解していた。
だが……それでも……。
「……可愛い息子が望んで死地に赴く様を、喜んで送り出す親が居るだろうか……」
「旦那様……」
「アイツがどれだけ凄い奴なのかは痛い程理解している。同じ年齢の私の時分など比ぶべくもない……。優秀で有能で、自慢の息子だよ」
「はい」
「だがそれでも、アイツは私の息子なんだ。どれだけ大人びていようと、可愛い可愛い私の息子……」
「はい」
「まだ齢十五だぞ? たったの十五年だっ! 子離れには……些か早かろうっ!?」
「はい……はい……」
「私はアイツに……まだまだ離れて欲しくは──」
『伝令ッッ!!』
突如二人の耳に男の声が響く。
それは《遠話》による伝令部隊の者の声であり、そしてその人物から発せられた言葉で即座に脳内を切り替えた二人は彼へと向き直り、ジェイドは鷹揚に「続けろ」と命じた。
『はっ!! この仮拠点より周囲三百メートルを敵少数部隊により包囲っ!! カーネリアへの進軍を阻止する為、現在各ギルド部隊にて応戦中っ!!』
「そうか。敵数は?」
『各部隊からの報告を合算しますと推定五十からなる小隊でありますっ!! しかしいずれも練度が高く、地形の優位性も相まり苦戦している模様ですっ!!』
「ふむ……」
ジェイドは顎に指を添え思案する。カーラットはそれを邪魔する事なく静観し、信頼する我が主人の命令を待っていた。
「……全隊長に通達」
そうジェイドが口にした瞬間《遠話》が先程解散した各ギルドマスターへと繋がり、彼の言葉が届く。
「地形有利を考慮し仮拠点に敵を誘き寄せよ。各隊時間差でこの仮拠点に気付かれぬよう誘い出し、こちらの優位を確保するのだ」
『……敵小隊の隊長を確認。奴に関しては如何程に?』
ギルドマスターの一人がそうジェイドに投げ掛けると、彼は薄く笑いながら椅子から立ち上がり傍に置いていた大鎌を手に取る。
「……私が処理する」
『──ッ!! 了解』
どこか緊張感の中に安堵感を滲ませたような短い返事を受け取り《遠話》が切れる。
ジェイドは短く息を吐くと大鎌を肩に担ぎ、カーラットを伴って帷幄を出る為歩き出す。
「カーラット。お前は仮拠点に誘き出された敵兵を逃さぬよう気を配れ。良いな」
「御意のままに」
キャッツ家当主、ジェイド・チェーシャル・キャッツは静かに大鎌に魔力を込める。
それにより一メートルはあろう刃渡りの刃からはドス黒い〝闇〟が滲み、あらゆる光を捻じ曲げ、周囲を僅かに塗りつぶした。
「さて……。少しはクラウンの父上として恥ずかしくない戦果を上げねばな」
ジェイドの目の色が一変する。
それは三百余年の歳月紡がれてきた〝裏稼業〟の歴史を引き継ぐ頭目の、冷たい冷たい色だった。




