第八章:第二次人森戦争・前編-40
またもや遅くなり申し訳ありません!!
理由は活動報告にありますので、気になるからは覗いてみて下さい。
簡潔に言うならば……。全ボツ書き直しでした。
「この戦争が勃発したある種の元凶……。それがまさか、現国王陛下の弟……」
私の話にロリーナは少しだけ俯きながらそう小さく口にする。
まあこの戦争の大元はどちらかと言えば私の先祖の愚行の方が引き金ではあるのだが、意図的に再燃させたのは間違い無くカリナンだろう。
一体何を理由にこんな事態を引き起こしたのかは知らんが、約四十年前に起きたとされるクーデターに何かあるのかもしれん。
……まあ、何はともあれ──
「偉そうに語ってしまった手前すまないが、今言った事はあくまでも私の妄想に近い推察だ。都合の良いように物事を並べてそれっぽくしているに過ぎん。余り過信しないでくれ」
「……? 珍しいですね。クラウンさんがそこまで曖昧な情報を共有するなんて。いつもなら殆ど確信してから共有して下さるのに……」
ふむ。私とて本当ならこんな確度の低い情報をロリーナに与えたくはない。余計な混乱を招きかねんし、予期せぬ事態に知らず知らずの内に手を出してしまう可能性だってある。だが……。
「重要なのはカリナンの正体や戦争の原因などではない。「殆ど洗脳に近い能力を扱う強者に敵意を持たれている」という事実が問題なんだ」
そう。今ある情報の中で少なくとも確定していると見て間違い無いのはカリナンを名乗る存在に明確な〝敵意〟がある事。
理由はどうあれ奴の動きはどの角度から見ても王国に危害を加える事に繋がり、その敵意は王国そのものに対して向けられている。
何をどう考えても奴は私達の敵なのだ。
「そんな敵が洗脳に加えあらゆる精神的な手法が取れる《精神魔法》を使い、それどころかその道の第一人者で《精神魔法》に関しては最も最先端に居る人間なわけだ」
「はい。かなり厄介なのは理解出来ますが……。それとどう関係が?」
「……この戦争に勝利した暁には、我等がキャッツ家は再興し、また珠玉七貴族として世間に広まる事になるだろう」
「はい」
急な話の方向転換に小首を傾げながらも、それに応じてロリーナは小さく返事をしてくれる。
「私の計画が順当に行くならば、それによって私にも何らかの形で褒章と名誉が与えられ、国中に報せが広まる……。そしてそれを足場に、私は王国で独自の地盤を形成していくつもりだ」
「はい。聞き及んでいます」
「つまりだ。今後私はティリーザラ王国という国にとってそれなりのポジションに着く事になる……。であるならば、奴の狙いが私に定まらないとも限らんのだ」
「成る程……。ですがクラウンさんなら《精神魔法》の対策など──」
「私ではない」
「え?」
「私を狙うほど、奴は短絡的ではないよ。恐らくな」
「は、はい……」
これは、考え得る最悪の想定……。そして何よりもあってはならない、遭わせるわけにはいかない事態だ。
だが、今すぐそれを解消出来るかと言われればそうではない。
奴がこの戦争を引き起こした大元ならば、その成り行き……行く末を見守り、誘導出来るポジションに奴が居る可能性が高い。
ならば奴とて早々に二の矢を継ぐような真似はしないだろう。例え《精神魔法》の熟練者でも、戦争という大舞台が単なる踏み台でしかないとは考え難い。
もしそこまでの手際があるならば、現状、私程度にここまで状況をひっくり返されている筈は無い。
無い、はずだ……。
「クラウンさん?」
「あ、ああ……すまない。考えに耽ってしまった」
イカンな……。思考の坩堝に嵌るのは良くない。今は戦争に集中せねばならんのに、儘ならんな。
「まあ、何にせよ詳しい話は後にしよう。緊急性が無い限り今日はもう戦闘行動はしないが、他にやる事が山積みだからな」
「……」
ロリーナが私の横顔を黙ったままジッと眺める。
いつもと変わらぬ静謐な表情と、ただ真っ直ぐ見詰めてくる彼女の何かを射抜かんとするような眼差しは、まるで私の中の奥底にある感情を捉えんとしているようだった。
「ロリーナ」
「はい」
「人前でそう見詰められては、私とて少々面映いのだがな」
「──っ!!」
直接浴びせられている私は別に構わないのだが、この拠点砦内には当然の事、私達以外にも人は居る。
戦闘で疲れ果てた肩を組む兵士達。
今後の敵方の展開を互いに思案し合う貴族将校達。
重傷人を担架に乗せ運ぶ衛生兵と看護師達……。
そんな緊張感を帯びながら忙しなく擦れ違っていく人々を尻目に、中々の近い距離で熱い眼差しを向け、向けられている男女なぞ居れば……必然浮く。
そして彼等の声にはせぬも伝わってくる空気から浮かび上がる言葉など──
『戦時中に何イチャついてんだこのガキ共』
ああまったく。ロリーナ以外の視線が痛い痛い……。
「す、すみません……」
「ふふふ。まあ折角引き締まっている空気を壊してしまうのは些か私も不本意だ。〝そこら辺〟はまた夜にでも、な」
「は、はい……」
「では、私達も引き締まった態度で彼等に会おうじゃないか。君の報告では私に言いたい事があるんだったな?」
「はい、面目ありません……。クラウンさんは多忙だと伝えたのですが、どうしても、と……」
「構わんさ。彼等も私の部下には違いないからな。多少時間を割いてでも、伝えたい事には耳を傾けなくては──」
「駄目だ」
「な、なんでなんスかっ!?」
私の目の前には今、ヘリアーテの部下の一人であるギデオンが居る。
彼だけではない。他のヘリアーテ達四人の部下となる十二名の学院生徒達もまた同室に居り、皆が皆私を意志の篭った視線を飛ばして来ていた。
私達が今居るのは拠点砦の一室。
元々彼等が居た南防衛拠点は先にエルウェに襲われた際にそこそこの損害を被っており、また彼女の大蛇が放った毒性を有する細菌の除染作業も必要だという事から、彼等を全員この後衛拠点へと今し方転移させたのだ。
だが彼等がまだ南防衛拠点でロリーナと情報共有をしていた際、私に伝えたい事がある、とロリーナに訴えていたそうだ。
ロリーナは私が多忙だから、と一蹴していたそうなんだが……。これは念の為にて聞きにきて正解だったらしい。
「俺等だって戦えるっスよっ! 姐さん方に鍛えて貰った分、他の戦ってる学生達よりもっ!!」
「戦っている、と言っても学生達は基本的に魔法による後方支援の補助や補佐だ。積極的に戦闘行動を取っているわけではない」
「だとしても俺達ならもっと役に立てますってっ!! 俺達も戦わせて下さいお願いしますっ!!」
そう言って綺麗なお辞儀をするギデオンとそれに追従するように頭を下げる十一名の生徒達。
その意気や良し。だが──
「お前達……。何か勘違いしていないか?」
「え……?」
勘違いという言葉に対し気の抜けた声を漏らしながら頭を上げるギデオン。やはり、そうだったか。
「私は確かにお前達の一番上の上司にあたる人間だが、私個人の〝軍としての立場〟はそこまで高くはない」
「て……言うと?」
「厳密に言えば私の軍としての立場は「剣術団二番隊隊長補佐相当」という極めて曖昧で微妙なものになっている。この立場が、学院の一生徒でしかない私が無理矢理立たせて貰っている最高位であり、それ以上でも以下でもない」
「は、はぁ……」
「私に与えられている権限は主に三つ。一つは二番隊隊長であるファーストワンと意見交換し、その方針を決められる」
「は、はい……」
「二つ目は二番隊隊長の命令権の一時的貸与。ファーストワンに何かあった場合のみ、私自らが二番隊に命令を下せる」
「え、ええ……」
「そして三つ目が予め指定していた個人的兵士の保有とそれ等に対する支配権。つまり私個人が持つ部下達には個人的な命令を下せる。以上が私が与えられている軍に於ける行動だ」
まあ、この三つの条件も今日挙げた私の功績を盾にもう少し解除無いし緩和させるつもりではいるが……。そういう話ではない。
「っ!! み、三つ目っ!! な、なら俺達に戦えって命令を──」
「お前達は入っていない」
「──っ!?」
「……予め指定している部下の中に、お前達は入れていない」
私が事前の申告で指定していた部下はロリーナとヘリアーテ達四人、そしてユウナとティールの七名のみ。彼等十二名はそこに含まれていない。
「な、んで……。俺達はアンタの……」
「ああ部下だ。まだまだ指導し足りない、危なっかしいな」
「……」
「誤解の無いようにハッキリ言うぞ? 私の……〝この私の〟部下として働くにはお前達はまだまだ力不足だ。私がこの戦争で望む働き、活躍、功績……。それらは今のお前達では到底達成など出来ん」
「な……」
生徒達は複雑な心境が滲んだ表情で私を睨む。
その一つ一つを察するのはそう難しい事ではないが、今は努めて無視をする。
「良いか? 私が望むのは今も必死で戦っている他の学院生徒達と同じ働きではない。私と私の身内が心身共に成長し、限りなく高い利益を生む事が出来る働き……。そして今後の自分達の立場を築くにあたり必要となる地盤を固めるような働きだ。それを、今のお前達に出来るか?」
「そ、それは……」
「……出来んよな?」
「……」
「当たり前だ。何せ入学式で私の発する恐怖を凌ぎ、私自らが手塩に掛けて肉体、精神共に鍛え上げたヘリアーテ達が辛勝するのがやっとなのだからな。入学式の時点で私に腰を抜かしたお前達では、到底届かん」
「…………」
「言っておくが、こうしてお前達十二名を特別に戦場から遠ざけさせている事も、実を言えば越権行為に等しいのだぞ? 私が個人の人脈を使い、無理矢理なこじつけを使って騙し騙しカーボネ女史に預かって貰っている状況だ。下手に外部から突かれれば私の評価に響くだろうな」
「く……」
「それにも関わらず。お前達は自分達も戦いたい……活躍したいと宣うのか? 私に、成果でなく、汚名を着せる事になろうとも?」
「……」
詰め寄る私に、ギデオンはただ黙って俯く。
他の生徒達も私を睨むのを止め俯き、部屋一杯に重苦しい空気が漂い始めた。
だがこれでいい。私としては才気溢れんばかりの彼等を、見す見す死地へと送り込む愚行は犯したくない。
この人数だ。戦場に立たせればほぼ間違いなく十二名の内一人か二人かは散る……。それでは折角迎え、鍛えているヘリアーテ達に申し訳が立たん。
彼等をこんなつまらない場所で、散らすわけにはいかんのだ。
「理解したか? したのならこの砦で暫く大人しくしていなさい。夜になら食事を支度するから、またその時にでも声を──」
「……ざけんな」
「ん?」
「ふざけんなよこのヤロウッ!!」
ギデオンがカッと目を見開いて私を鋭く睥睨すると、壁に飾りとして掛けられていた剣を手に取り、その切っ先を私へと向ける。
「……何のつもりだ?」
「ウルセェッ!! さっきから聞いてりゃ上から目線でグチグチグチグ……。いくらアンタが強いからってなぁ……そんな態度されちゃガマンならねぇってんだよッ!!」
はぁ……。まったく……。
「上から目線も何も、私は文字通りお前達の〝上〟だ。部下に謙る趣味はない」
「だからそれがウルセェつってんだよッ!! 俺達よりちょっと先に入学して蝶のエンブレムに選ばれたからって何なんだ、ええッ!? 大して歳も変わんねぇ上に俺より下級庶民のクセしやがって偉そうに……。俺が今から分からせてやるよッ!!」
「分からせる? お前が? 私を?」
「ああそうだよ……。笑いたきゃ笑えクソがッ!!」
「……質の悪い冗談に社交辞令で笑えと? 軽忽が過ぎるな」
「あ゛ぁッ!?」
「私はなギデオン。今日は中々に機嫌が悪いんだ。お前の下らんプライドごっこに係っている暇も、気持ちの余裕も無いんだよ」
「だったらさっさと負かしてみろよ……。やれんのかあ゛ぁッ!?」
「……」
私はポケットディメンションを開き、そこへ手を入れる。
「クラウンさん……」
「安心しなさいロリーナ。ちょっと〝躾〟をするだけだ」
そう彼女に笑い掛けながら、私はポケットディメンションから〝フォーク〟を取り出す。
普通の、極々普通の食事に使うフォークを。
「……は?」
「これは割と長く使っているフォークでな。最近少々劣化して来ているんだ。こういう場には持ってこいだろう?」
「テメェ……。俺の相手なんかフォークで充分だってかッ!?」
「いいや」
「あ゛ぁッ!?」
「〝壊れ掛けのフォークで丁度良い〟と、いうだけだ」
「……な……」
「んん?」
「舐めんじゃねぇクソヤロウがァァッ!!」
ギデオンが私に剣を振り被る。
その刃の刃先は真っ直ぐ私の頭上を捉え、振り下ろされれば真っ二つとはいかないまでも、その金属の塊による斬撃は容赦無く対象の頭蓋を押し潰しながら斬り込むだろう。
……まあ、そんな未来など訪れはしないが。
私は目の前に迫る刃の刃先に合わせフォークを軽く翳し、フォークの爪と爪の間で刃を挟み止める。
「はっ!?」
「軽いな。剣も、お前の底が知れる激情も」
そしてそのまま刃に沿わす形でフォークをギデオンの手元へ滑らせていき、鍔まで辿り着いてから手首を捻り上げながら手前へと引き寄せる。
「なっ!?」
「素っ頓狂な声を出すじゃないか。愚か者」
捻り上げた影響で手首に痛みが走った事で思わず彼は剣を手放し、手前に引き寄せられた事で前方へのバランスを失ったギデオンの身体はアッサリと床に転がる。
「クソ……まだッ!!」
「付き合い切れん」
尚も立ち上がろうとするギデオンに対し、私は《恐慌のオーラ》を発動。
私から発せられる得も言われぬ威圧感に当てられた彼はその場で直ぐに顔を青褪めさせ、立ち上がろうとして力んでいた身体から力が抜けていった。
「どうした? 私を分からせるんじゃないのか?」
「あ、あぁ……。いや……」
「言っておくがこの程度の芸当。そこそこ実力あるエルフの将校ならば熟す者も少なくはないし、この程度の芸当が通じぬ相手などもっと少数になる」
「う……」
「さて。ならばお前は、一体何回死ぬ事になるんだろうな?」
「……」
「ふん。フォークすら壊せんなら話にならんな」
少しだけ歪んでしまったフォークをポケットディメンションに仕舞い直し、今の趨勢を見守っていた他十一名の生徒達を見回す。
ギデオンを止めなかった所を見るに、大なり小なり皆の気持ちも彼と同じだったのだろう。
一応私に対してはある程度は尊敬の念を向けてくれていると報告を受けていたんだがな。内心では私に対して少なからず各々一物抱えていたのかもしれんな。
「これで少しは分かったろう? 自分達がどれだけ力不足か……。自分達がどれだけ弱いか」
「……」
「お前達はな。あの日の入学式で私が対峙したヘリアーテ達の立っていたスタートラインにすら立てていないんだよ。そんな者達を、私が戦場に立たせたいと思うか? 否だ」
「…………」
「だがそれでもまだ戦場に立ちたいと言うならば好きにしなさい。ただしその時には、お前達は最早私の部下ではない。ヘリアーテ達にも、そう私から伝える。分かったな?」
再び私は十一名の生徒達と床に座り込むギデオンへを一通り眺めてから返事を待たず踵を返して彼等に背を向ける。
「行くぞロリーナ」
「……はい」
ロリーナを伴い、部屋を出る。
そして少し歩き出した後。
部屋から拳を床に叩き付けたような、鈍い音がした。
「……随分厳しい躾じゃな」
廊下を曲がると、そこには壁に背中を預けながら腕を組む師匠の姿があった。
どうやら先程の一件を盗み見ていたらしく、若干呆れたようにそれだけを私に告げる。
「将来私の役に立ってもらう奴等です。私の部下になれたくらいで自惚れられては困りますから」
「オヌシも器用なんだか不器用なんだか……。その内部下が逃げ出すぞ?」
「結構。私が進む道は荊の道……。荊を見ただけで足が竦み逃げ出すようなら、そもそも相応しくない」
「厳しいのぅ」
「はい。だからこそ、私は付いてくる者を全力で甘やかすんですよ」
私のような人間に付いてくると決めた奴等だ。相応の報いを、私自ら与えてやらねば。
「それで? 元最高位魔導師であり私より多忙である筈の貴方がこんな所で何を? まさか盗み見して弟子にちょっかい掛ける為にそうしていたわけではないでしょう?」
「はぁ、まったく。今日は本当に虫の居所が悪いようじゃのう……。何割か増して言葉の節々に棘があるわい」
「師匠……」
「はいはい分かっとるよ……。ワシがわざわざ出向いたのは単なる報せじゃ。もしかしたら知らんかもしれんと思ってのう」
……師匠自らが、ただの伝言の伝達?
嫌な予感しかせんのだが。
「取り敢えずお聞かせ下さい。それで判断します」
「うむ。……単刀直入に言おう」
「はい」
「……オヌシの故郷、カーネリアがエルフの襲撃に遭った。つい一時間前じゃ」
「カーネリアがっ!?」
反応したのは私ではなくロリーナ。彼女の暮らしていた家と育ての親であるリリーも、カーネリアだからな。当然驚くが……。
……カーネリアが、か。
「何じゃオヌシ。随分と無反応じゃのう。やっぱり知っとったか?」
「いいえ。今初めて知りましたよ」
「では何故驚かん? 故郷には家族が居るんじゃろ?」
「ええ。ですがあそこは私の父上が全霊を掛けて防衛している筈ですから。陥落する事はまず無いでしょう」
ああ見えて父上は秘匿ではあるが珠玉七貴族に一員だ。見た目に反してかなり動けるし、何より傘下ギルドがギルドだからな。適当なエルフ兵なぞ歯牙にも掛けないだろう。
「そうは言うがのう……。こう、加勢に向かうとか、そんなんはせんのか?」
「加勢、ですか」
ロリーナの目が、おばあちゃんを助けたいと訴えて来る。
だが……。ううむ……。
「なんじゃなんじゃ歯切れ悪いのうらしくない。何かあったんか?」
「ええ、まあ……」
「何じゃ。言うてみぃ」
「……」
「クラウンッ!!」
「……実は、その……」
「うむ」
「…………喧嘩中、なんです。父上と」
「……はい?」
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