第八章:第二次人森戦争・前編-34
先日感想にて前話のディズレーの磁力の刃についてご意見を頂き、そこを改稿いたしました。
ついでに今回の展開と今後の伏線に関連した情報に直しましたので、今話をお読みいただく前にお手数ではありますが前話を読み直してから読んで頂けると幸いです。
ご迷惑をお掛けします!!
今回構成の関係上、ちょっといつもより長めです。
加えて情報量も割と詰め込んだので、もしかしたら混乱するかもしれません。
不明な点、違和感があればご報告下さい!!
後書きには前々回同様にアイテムやスキルの詳細を載せますので、気になる方は是非目を通して下さい!
《形而上》は己という存在を精神体へと置換し、あらゆる物質界からの干渉を受け付けなくさせるスキル。
物理的な接触は勿論、魔力を媒介とした現象の再現である魔法、魔術も一部例外を除いてその影響を一切受け付けない。使われればまず初見での看破は至極厳しいものになるだろう。
しかし。そんな難攻不落な権能には当然ながら相応のリスクが付き物であり、《形而上》の場合、対応を一手間違えれば悲惨な未来を迎える事になる。
(いや……僕は、今、倉庫に……戦争に、来ている、んだ……)
実の所、消費魔力は膨大ではあるものの一度発動に成功し存在を精神体へと転換が完了してしまえばそれ以上の魔力消費は無い。
だが問題なのはその後。元々物質的な存在であり、精神体としての経験、知識、精神力が備わって居ないまま長時間精神的な存在に身を置き続けてた場合、致命的な弊害が発生してしまう。
それが──
(クソ……自分の、存在が……不安定、に……)
《形而上》により自身の存在が変化するという事は、今まで経て来た当たり前の〝自分〟というものが一瞬にして描き変わるという事。
周囲への感覚、認識が今までの常識から一変し、存在意義、存在理由が曖昧になる……。
その状態が長く続けば続くほど〝以前の〟自分を忘失していき、遂には自らが何者なのか、何故今存在しているのかを見失ってしまう。
そうなれば当然元の状態──形而下の存在に戻るという方法や意識さえ失い、余程運が良くなければ二度と物質的存在へとは還れなくなる。
(早く……元に……)
加えてこの時、オルウェはディズレーの一撃によって己が精神体の身体を真っ二つに切り裂かれていた。
生命維持という観点からみれば問題無く修復可能ではある。しかし「普通ならば死んでいる」「傷付かない筈の身体に傷が付いた」という物質的思考に囚われたままのオルウェにとって、その〝動揺〟は精神体としての身体の不安定化を促進させるには充分であったのだ。
(本……ほん、を……)
オルウェは周囲に広がる得も言われぬ景色と音と感触に意識を激しく掻き乱されながら、何とか浮いている未だ未使用の四つ目の新約魔導書に手を伸ばしに意識を向け、そこへと魔力を流し始める。
そう。《形而上》とはあくまでも「精神体になれる」スキルであって〝精神体から物質体に戻れる〟権能は無いのだ。
勿論、スキルの抽出元である旧約魔導書にはそれを可能とするスキルは内包されている。
しかし未だ一冊に一つのスキルまでしか封印出来ない関係上、それら相互関係にある二つのスキルを分割せざるを得ず、それぞれ別の新約魔導書として携帯するしかなかった。
それこそが己が存在を精神体から物質体へ転換するエクストラスキル《形而下》であり、それを内包するのが今オルウェが手にしようとしている四冊目の新約魔導書「第二哲学」なのである。
「『わ、れ──』」
オルウェは必死に紡ぐ。
最早言葉という概念が曖昧になって来ている意識の中、何とか自己を肯定しながら一つ一つ文言を羅列していった。
「『鼻舌、に……感じたる……形而下に、進みたり……』」
その瞬間。オルウェの精神体としての身体は徐々に色付き始め、質量を、質感を、鼓動を取り戻していく。
肉体にのし掛かる重量感も、内に確かに感じる骨や内臓の存在感も、肌に触れる空気の圧迫感と安心感も……。
それらをゆっくり取り戻し、オルウェは元の物質的存在へと置換された。
「『こ、これで……もう大じ──うっ!?』」
安心したのも束の間。
オルウェは抗いようのない猛烈な吐き気を催すとその場で胃の中の物を全て吐瀉し、苦々しく酸っぱい味と匂いが鼻口を支配。
口腔内を通過する不快な吐瀉物の感触と徐々に治まっていく吐き気を味わいながら荒い息で肩を揺らした。
「『はぁ……はぁ……。か、身体が、存在の転換に着いて来てない、のか……。「精神酔い」……とでも名付けようか……ククク』」
そう浅く笑うオルウェであったが、そこでふと、吐瀉物を撒き散らす隙だらけの自分に何も起こらない事に疑問を抱き、警戒しながら敵対していた筈の二人へと視線を向ける。
するとそこには短く不規則で荒い息遣いをし、顔色を真っ青を通り越して真っ白に染め上げるディズレーと、それを必死に看病するユウナの姿があった。
「はっ、はっはっ、はっ……」
「ほらゆっくり……! ゆっくりで良いから息整えてっ!!」
「『……?』」
明らかに普通ではない二人の様子に思わず眉を顰めるオルウェ。
逆にそのまま二人を襲おうかとも頭を過ったが、魔力を練り上げようとすると今度は激しい頭痛が脳を駆け抜け、集中力が掻き乱される。
(くっ……。まあ向こうも動けないんじゃ都合が良い……。それにしてもあの猿……。精神体の僕を傷付けた事に関係してるのか?)
オルウェの推測は正しく、ディズレーが苦しんでいる理由は精神体であるオルウェに致命傷に匹敵したあの一撃。
刃として形成されていた不可視の〝何か〟。
それはディズレーがメインとして使う《磁気魔法》とは違う新たな彼の可能性、その片鱗であった。
「はっ、はっ、はっはっ、はっ」
過呼吸に苦しみながら、ディズレーは手答えと後悔の二律背反に心を掻き乱していた。
物理的攻撃が一切通用せず、それどころか五感での感知やスキルでの感知にも全く引っ掛からないオルウェに悩まされた彼は、ユウナの一言で天啓が舞い降りた。
オルウェの気持ちに寄り添う……。字面だけを見れば多少気色悪くも映るが、ようは〝オルウェがどうしたかったのか〟を考えるという事。
あの一瞬。ディズレーからの致命傷になり得る斧の斬撃を回避したかったオルウェは、しかし身体能力を鑑みてもまず肉体的な移動は出来ていなかっただろう、と彼はまず推測した。
ならばスキルの権能による回避の可能性が高く、それと合わせて回避直前に口にしていた文言に何か意味があるのだろうと行き着く。
しかしエルフ語の文章など殆ど解らないディズレーは、ユウナにその文言について思い出せるだけの単語と発音を伝えたのだが……。
『う、うーん。〝僕の目と耳が精神に進む〟? 全っっ然意味解んないよっ!?』
『……いや、ありがとな。大丈夫だ』
『え?』
ディズレーは自分が他の三人──グラッドやヘリアーテ、ロセッティより劣っていると常日頃から悩んでいた。
グラッドの様な薬学や軽い身のこなしは出来ず、ヘリアーテの様な怪力や身体能力は無く、ロセッティの様な魔力操作能力やセンスも無い……。
クラウンに様々期待されてはいるが、何故こんな自分にそこまで期待してくれているのか分からないし、それに応えられない不甲斐なさで胸が一杯だった。
故に探した。自分の他の三人には無い優位性を、自分にしか成し得ない自分らしさを……。
戦争当日までの数ヶ月間……ディズレーは《磁気魔法》での光線攻略の他にあらゆる魔法を試し、それに殆どの時間を費やした。
資質や才能があろうが無かろうがに関係無く、《炎魔法》も《水魔法》も《空間魔法》も《光魔法》も《闇魔法》も……。自分が未だ体得していない魔法を片端から試しまくった。
本来ならばこんな非効率的で場当たり的な訓練を、効率家であるクラウンは許さないだろう。
しかしそれをも彼は一言も口を挟む事無く見守り、寧ろそれぞれの魔法のコツや性質等を懇切丁寧に教え込んだ。
その結果は……悲しくも実り少なく、実戦に用いるには余りに心許ない経験に収まる程度になってしまった。
だがそれでもクラウンは笑い……。
『それが君の長所だよ』
とディズレーに優しく説いた。
そんな言葉を投げ掛けられ、付き合ってくれたボスに申し訳無さと疑問を当時抱いたのだが、それら特訓の成果がこの時結実し、その〝意味〟を理解する。
ディズレーの他の三人には無い優位性……。
それは他者の感情、思考に寄り添える〝博愛〟と多様性──つまりは〝複数種の魔法の適性〟である。
(ぐ……。や、やりゃ、できる、もんだ、な……)
オルウェから聞き取り、ユウナに教えて貰った単語からディズレーはオルウェが何かしら〝精神〟に関連したスキルを使った可能性があると考えた。
その詳しい内容までは考察出来ていなかったものの大雑把に当たりを付け、精神に関与、干渉可能な術でなければ今のオルウェをどうこう出来ないとも推測し、ディズレーは一つの〝無茶〟を敢行したのだ。
(しゅう、とく、してないまほう、のはんどう……。こんなに、きついのか……)
クラウンから手当たり次第に魔法を教わっていた中、様々な上位魔法についても彼に教わっていた。
そんな中でクラウンが「最も謎と狂気に包まれた魔法」と形容した魔法が存在し、彼はそれについて色濃く記憶に残っていたのだ。
曰く、魔法先進国ティリーザラに於いて単純なのにも関わらず開拓が〝禁止〟されている複合魔法。
曰く、過去その資料の全ては焚書され、今現在に於いてそれを知るのは一握りの魔道士のみ。
曰く、それの習得及び習得訓練が確認された場合、故意の如何に関わらず処罰の対象となる。
クラウンですらキャピタレウスから半ば無理矢理聞き出した魔法であり、彼自身人見を憚ってひっそり習得しようとしていた禁忌魔法……。
その名を──
「もう……。《精神魔法》だっけ? 正解だったから良かったけど、クラウンさんじゃないんだから習得してない魔法なんて使うもんじゃないよ……」
《精神魔法》。
《水魔法》と《闇魔法》の複合魔法であり、単純な組み合わせであるものの先述の通り法によって開拓が禁止された魔法。
その権能は「精神への干渉」。
魔力を対象の魔力と同期出来るよう変換し、その魔力を通じて対象の精神へと干渉。
記憶や経験を覗き、術者の能力次第では思考の誘導や固定概念の変換すら可能とする恐るべき魔法であり、オルウェに彼の一撃を見舞った魔法である。
「おれ、あたま、わりぃ、から……な、んでも……やってみねぇ、とな……」
「だからって……」
「しぬ、よりいいだろ? それに、ぜんぶ、むいみじゃ、なかった……。それを、たしかめ、たかったんだ……」
ディズレーは《磁気魔法》による光線を曲げるという訓練を重ねていた結果、曲げられる程の魔力操作能力は得られなかったものの、以前よりも格段に成長していた。
そこに彼の本質である他者に寄り添う姿勢や意識と、《精神魔法》の他者の魔力に同期し精神に干渉する権能が重なり、一つの魔術の刃が結実したのだ。
それは一度物質的肉体に触れれば肉体ではなく精神を傷付ける不可視の刃。
精神体には言うに及ばず。その精神干渉の刃は肉体を裂く鋼鉄の凶器の如く精神体を傷付け、容易に致命傷を与える事が可能な刃……。
後に付けられた魔術の名を「心蝕む侵略の刃」という。
その魔術をディズレーは斧に纏わせる事で精神体すら傷付ける侵略の刃とし、本来ならば見えない筈の精神体のオルウェを《精神魔法》を両目に施す事で彼を捉えて振るった。
それがあの時精神体オルウェの身に降り注いだ災厄である。
……しかし。
「『……クク』」
半ば見切り発車で適性スキルや魔法スキルすら習得出来ていないまま敢行した《精神魔法》は当然ディズレーにその反動を与え、彼は今凄まじい精神の混濁に見舞わられていた。
そしてそれをユウナがポーション等で看病し、隣で心配そうに寄り添っている。
そんな余りに悠長な二人を、オルウェが黙ったままな筈などない。
自身もまた本調子では無かった為に趨勢を眺めていたが、既に精神体から物質体に転換した際の酔いは治まり、問題無く身体も動かせる。
そうなればもう、黙って二人を眺めている意味などは無い。
「『僕を眼中から外して暢気な事だ。今から殺されるっていうのに』」
卑しく笑みを溢すオルウェに、ユウナは振り向かないままで呆れた様に嘆息する。
「『何が殺されるよ。自分の現状も理解しないで……』」
オルウェはユウナのそんな言葉に眉を再び顰めるが、即座にそれをただの強がりだと心中断じ、改めて自然学芸上巻を手に取り開く。
「『戯れ言だな。ただまぁ僕をここまで追い詰めたんだ。遺言ぐらい聞いてあげるよ』」
「『遺言? 要らないわよそんなの』」
「『強がりはよせ。下等なお前達に僕が聞いてや──』」
「『だって貴方はもう、〝負けてる〟もの』」
「『……何? ──っ!?』」
オルウェが魔力を練った瞬間、彼の中で〝何か〟が軋む。
それはまるで今にも倒れそうな巨木から鳴るある種の悲鳴。
ギシギシメリメリと響き、一歩間違えれば取り返しの付かなくなりそうな、絶望を予感させる音だった。
「『な、んだ……何、が……』」
「『忘れたの? 貴方はディズレー君の見えない刃に斬られたのよ?』」
「『な……』」
「『私には見えなかったしどうなったのかは知らないけど、元に戻ったって事は精神の体をやられたんでしょ? なら戻った所で無事な筈ないじゃない』」
「『っ!?』」
考えてみれば当然の話。
あの時オルウェは自身の真っ二つになった精神体の修復よりも己が存在が行方不明になる事への恐怖を優先し、深く考える暇も無くそのまま物質的肉体に戻ってしまった。
そんな状態の精神が都合良く勝手に治るわけもなく、肉体に戻った後、それは彼の〝根本的な所〟を傷付けてしまう。
「『一説だと、私達知的種族の魔力は心や魂……そして〝精神〟から湧き出してるって仮説がある。それが本当なのかは解らないけど、その様子だとその説も当たらずとも遠からずって感じかな?』」
「『ぐ……』」
「『今の貴方は、魔力を練れない。練ったらどうなるか解らないけど、多分ただじゃ済まないんじゃない?』」
「『ぐぐ……』」
「『魔導書頼りの貴方じゃ魔力を練れないんじゃまともに戦えないし、だからって身を挺してまで魔力を使うほど高潔な人柄でもない……。それとも案外武器とか使えたりする?』」
「『ぐ、ぐぅぅ……』」
「『でも私、これでも貴方くらいなら倒せるだけの訓練は受けたから、多分そっちも大丈夫かな』」
「『……な、め……』」
「『ん?』」
「『ナメるな三下がぁぁぁぁぁッッ!!』」
オルウェはなりふり構わず魔力を練り始め、自身の内から湧き上がる〝負〟の感情を爆発させる。
「『僕の魔力操作能力を侮るなよッ!? 例え精神に傷が付いていようが、それを庇いながらでもお前を呪い殺すくらいワケないんだよッ!!』」
彼はそのまま《三学》を発動。確かに感じる心胆の軋む音を聞き流しながら、呪言を紡いでいく。
「『狂え醜心ッ!! 己が根底に根付く嫉みに従い、隣人に凶器で仇なせッ!!』」
「『だから……』」
「『さぁ、お前の手でそのオス猿を殺せッ!! 「友害報──』」
「『無駄だって』」
瞬間。魔力を無理に練った反動か、オルウェの身体は少しだけグラつき、足元が覚束なくなる。
そんなグラついた体勢を直そうと彼が咄嗟に片足を僅かに後退させると、踏み込んだ足で小さな〝水溜り〟を踏む。
それは先程、まだオルウェが精神体であった時にユウナが撒いていた《水魔法》により出来た水溜り。
オルウェはあの無意味に撒き散らした水球を、自分へ意識を集中させディズレーの存在を感知させないようにする為の行為だった、と勝手に解釈していた。
しかしそれ本質の側面でしかない。
真なる理由は今彼が踏み抜いた水溜りを作る事にあったのだ。
「『なっ!?』」
水溜りを踏み抜いた足が、凄まじい勢いで〝滑る〟。
彼女が撒いたのは水は水でもただの水ではない。
魔力による操作でその〝粘性〟を可能な限り高め、体重を掛けて踏み込めば相手を容易に転ばせる事が可能な〝粘水〟であった。
「『クソッ!?』」
その粘性は極めて高く、精神的満身創痍なオルウェ程度では体勢を取り戻す事は叶わない。
彼はそのまま地面に転がり、身体を床に強打する。
「『な、何なんだっ……』」
当然の疑問だろう。
例え転ばし、魔術を中断出来たとはいえそんなものは一時凌ぎにしかならない。
次から粘水を避けながら魔術を唱えられたら終わり……。殆ど意味をなさない惰弱な罠である。
だがしかし。問題なのはそんな罠を〝誰が〟仕掛けたのかである。
「『やっぱり、持ってたんだね』」
そんなユウナの声に、オルウェは彼女の方を見て驚愕と絶望に激しく狼狽する。
転んだ拍子に自分の身体から飛び出し、彼女の足元にまで滑っていった一冊の〝本〟。
それは彼の周りに浮遊する四冊の新約魔導書とはどれとも違う、重々しい装丁と装飾が施された古めかしい古書。
ユウナはそれを拾い上げ、矯めつ眇めつ眺める。
「『クラウンさんの言った通り。同僚や部下の誰も信用してない貴方が〝コレ〟を置いたまま遠出なんてしないよね』」
その本は確かな存在感を放ち、魔性の魅力を醸し出し、まるで本自体が「読め」と強要している様な異常な威容を放っていた。
「『コレでしょ? 貴方が四冊の新約魔導書を作る為に使った抽出元……。貴方が研究してた唯一の本物の〝旧約魔導書〟』」
そう。それは紛れもない本物の旧約魔導書。
ユウナの持つ「賢者の極み」同様の存在であり、オルウェが他の誰にも触れられたくないという理由で自身の体に密着させる形で隠し、持ち歩いていた。
全身を隙間無い外套で身を包んでいたのはそれを隠す為……。そしてその旧約魔導書を身体に固定する為に使っていた要が、今し方の転倒により〝運良く〟外れ、ユウナの元へ滑らせたのだ。
「『か、返せッ!! それはお前なんかが触れて良いものじゃないッ!!』」
「『嫌だよ。だって貴方、別に本好きじゃないでしょ?』」
「『は、はぁっ!?』」
ユウナはオルウェの言葉を無視し、拾い上げた旧約魔導書を開く。
すると途端、旧約魔導書は淡い光を放ち始め彼女をまるで持て成すように包み込んでいった。
「『ッ!! な、何故お前程度が……そんな……』」
「『私程度? 違うよ』」
「『な、に?』」
「『私〝だから〟だよ。本が大好きで、愛しくて、どんな友達より私を癒してくれる、人生のパートナー……。私にとってそれが本なの』」
そして光は彼女の持つもう一冊の旧約魔導書「賢者の極み」に波及。賢者の極みも同様に淡い光を放ち始め、お互いがお互いに呼応する。
「『この魔導書──「名高き術」……。ちょっと気難しいけど、面白い本ね。うふふ』」
「『ば、バカな事を……』」
「『あと、それも返してね』」
そう呟いた瞬間、オルウェの周り漂っていた四冊の新約魔導書が反応。
彼の制御を振り切り、四冊の新約魔導書はユウナの元へ引き寄せられそのまま開放。内包されていたそれぞれのスキルは抽出元である「名高き術」に戻っていき、新約魔導書であった四冊は何の変哲もないただの書物へと帰化する。
「『ぼ、僕の魔導書をっ……。お前、よくも……』」
「『酷い製本……。原本で二ページで纏まってる内容をあんなに希釈した解釈にしてカサ増しするなんて……。本当に貴方って、別に本が好きじゃないのね』」
そう語るユウナはしかし、ただの書物と化した四冊を大事そうに抱えると、それをオルウェの様に自身の周りへと浮遊させる。
「『まさか……お前も《浮遊》のスキルを?』」
「『ん? 違うよ。……コレは──』」
その言葉に反応するかのように、ユウナの背後に〝それ〟が浮かび上がる。
それは二冊の旧約魔導書を手中に収め、心の底から際限なく溢れる本への愛により顕現したユウナの新たなスキル。
本を愛し、読書を愛し、知識を愛し。
インクの匂いと、紙の擦れる音と、本の重みにこの上無い愛おしさを感じる彼女の〝愛と欲望〟の体現である。
「『これは私のユニークスキル《万物読書家》の内包エクストラスキル《読書家の万物図書館》……。そして私だけの愛の形だよ』」
彼女の背後に浮かび上がったのは本棚。
黒檀調の高級感溢れる巨大で荘厳なその本棚は、しかし未だ一冊の本も納められておらず、虚しく空いたままであった。
「『か、空の本棚に、何の意味が……』」
「『分からない? これからこの本棚を本で一杯にする……。これほどワクワクする事無いよ?』」
ユウナは周りに浮遊したただの書物と化していた四冊を手ずから一冊ずつ本棚へと納めていく。
すると納められた四冊は、まるで感謝でもするかの様に旧約魔導書のような光を発し始め、その装丁を全く別の物に変えていった。
「『《万物読書家》のもう一つの内包スキル《魔術製本》……。私の記憶に残るあらゆる魔術を一冊の本に収めて、本来使えない魔術を使えるようになるスキルだよ』」
「『なっ!? はぁっ!?』」
「『今この四冊に書き記した魔術は、今日貴方が使った、使おうとした四つの魔術……。魔力が余り残って無いから本来の威力は出せないけど、今の貴方程度なら問題無いって解るよね?』」
「『や、やめろ……。僕は、まだ……』」
「『大丈夫。殺さないよ。……ただ』」
「『え』」
「『ディズレー君をこんなに追い詰めた報いくらいは、ちゃんと受けてね』」
「『ひぃっ……!? や、やめ』」
「『元自然学芸上巻……新たな名前を「光学の父」に願う。彼の者に、裁きの光を』」
唱えた瞬間、ユウナの頭上に光球が現出。
幾万もの光を屈折させながら、その照準をオルウェの四肢へと定める。
「『た、助けてく──』」
「『大人しくしてね。「焦滅の光耀』」
そうして放たれた四つの光線は、オルウェの四肢を躊躇無く焼き焦がした。
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アイテム名:第一哲学
種別:マジックアイテム
分類:新約魔導書
スキル:《形而上》
希少価値:★★★★★
概要:アールヴ森精皇国、魔導書研究部門部門長オルウェ・アンクイン・モリクウェンディの手によって生み出された新約魔導書。その内にエクストラスキル《形而上》を宿している。
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アイテム名:《第二哲学》
種別:マジックアイテム
分類:新約魔導書
スキル:《形而下》
希少価値:★★★★★
概要:アールヴ森精皇国、魔導書研究部門部門長オルウェ・アンクイン・モリクウェンディの手によって生み出された新約魔導書。その内にエクストラスキル《形而下》を宿している。
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アイテム名:光学の父
種別:マジックアイテム
分類:魔術製本書
希少価値:★★★★
概要:ユウナの《読書家の万物図書館》に内包されたエクストラスキル《魔術製本》により《屈折魔法》の魔術「焦滅の光耀」が封じられた魔術製本書。
元々は自然学芸上巻であり、スキルを失いただの書物となった所をユウナの手によって改稿された。
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スキル名:《形而上》
系統:補助系
種別:エクストラスキル
概要:形而上の存在になれるスキル。膨大な魔力を消費し、自身の存在を物質的存在から精神的存在へと転換させる事が出来る。
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スキル名:《形而下》
系統:補助系
種別:エクストラスキル
概要:形而上の存在になれるスキル。膨大な魔力を消費し、自身の存在を精神的存在から物質的存在へと転換させる事が出来る。
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《読書家の万物図書館》関連に関しては、またいずれ……。




