第八章:第二次人森戦争・前編-25
今日はちょっと調子が出ず、ちょっと短めになっています。悪しからずっ!!
「『キャハハハハハハハッッ!! なによコレ弱過ぎじゃな〜いッ!?』」
一人の少女が大蛇に跨り、無邪気な声音で邪念に塗れた笑いを高らかに上げる。
その様は宛ら魔物を操る幼き女王のようであり、彼女の完成された美貌も相まって素性を知らぬ者から見れば思わず頭を垂れてしまいたくなる威容を放っていた。
太陽光に照らされ反射する黄金色の頭髪はサイドテールに結ばれ、宝石のように美しい碧眼は大き過ぎず小さ過ぎない絶妙なバランスで輝く。
身に纏う鎧はドレスアーマーであり、黒と黄色のコントラストが映えるかなり派手な彩色をしている。
手に持つのは赤と黒を基調とした刺々しい意匠の鞭。伸縮自在であり、彼女が一度振るえば打ち付けられた大蛇達は活力を漲らせ、次々と人族達を打ち、潰し、そして食らった。
そんな彼女の名は「エルウェ・ビークイン・カラクウェンディ」。
齢六十にしてアールヴ森精皇国軍第四副軍団長に身を置く傍ら、自国に於ける「魔力」に関わる専門家が集う皇国直下組織の一つ「魔力開発局」に所属。
その中でも魔物に関するあらゆる分野を網羅し、日夜研究を続ける魔力開発局の一部門「魔生物部門」の部門長を務める幼き才英でもある。
「『ホラホラぁ〜っ。早く逃げないとアタシ自慢の子達に食べられちゃうよ? 大丈夫ぅ〜っ?』」
引き連れる七匹の大蛇はエルウェ自身が手掛けた〝人造魔物〟であり、古今東西から掻き集めた強力な魔物達の体組織が移植されている。
ベースとなったのは大蛇型魔物「レッサーバジリスク」。この「レッサーバジリスク」七匹に様々な魔物の体組織を移植し、精緻な調整を施す事で固有の属性を自在に操る事を可能にした「エレメントカラーバジリスク」へと改造している。
加えて基礎代謝や筋力も弄れるだけ弄られており、通常十二、三メートルにしか成長しないレッサーバジリスクの体格は優に超え、二十五メートル級の怪物へと成長を遂げていた。
「『ああちょっとっ三号っ!! 砦はなるべく壊さないようにしなきゃダメよっ!! 後で挟撃するのに使うんだからっ!!』」
エルウェがそう橙色の大蛇に叱り付けると、大蛇はすぐに砦から方向転換し、地を這いずりながら逃げ惑う人族の兵士を炸裂する鱗で吹き飛ばしていく。
「『はぁもうっ。世話が焼けるんだから……。うん?』」
手が焼ける愛しい我が子に嘆息しながらも、他に口を出す必要がある子は居ないか辺りを見回すエルウェ。
すると少し離れた位置に居る二匹が、他の蹂躙を繰り広げる大蛇達と比べ何やら苦戦している様に鈍い動きをしているのが目に入った。
「『……ふーん』」
エルウェは高まっていた機嫌を急降下させると、跨っている大蛇に命令し件の二匹の元へと接近。よく見えるように高い位置から覗き込んでみると、そこに居たのは剣を振るう一人の女人族。
流れるような動きによって大蛇の重い一撃を受け流し、舞う様にして宙で身体を翻すと、大蛇の鱗の隙間を縫うようにして切っ先を突き出し、小さいながらも一太刀を見舞う。
ひたすらにそれを忠実に、精密に繰り返す事で二十五メートル級の大蛇二匹を相手に互角以上の戦いを繰り広げていたのだ。
「『へぇー。生意気』」
更に機嫌を損ねたエルウェは虚空へ向かって鞭を振るう。
空気を叩く破裂音が炸裂すると、先程まで攻めあぐねていた二匹の大蛇はそこで動きを止め、ゆっくりと彼女の方へと退がっていく。
「『アンタ達。随分とのんびりしてるのね?』」
ドスの利いた声をエルウェが漏らすと二匹の大蛇は一瞬身体をビクつかせ、十分の一にも満たない彼女に対して露骨に怯え始めた。
「『言ったわよね? 狩る相手をちゃんと見極めて嬲り殺せって……。普通にやって反撃されるならちゃっちゃと本気で殺しにかかんなさいよっ!!』」
そうエルウェが怒号を叫びながら鞭を振るうと、彼女が跨る大蛇がその身を捻らせ、目にも止まらぬ速さで尻尾を振り被り、二匹の大蛇へと思い切り打ち付ける。
二匹の大蛇はそれを受けか細い悲鳴を漏らすが、身体を緊張させたまま倒れる事無くその一撃を耐えてみせた。
「『四号、五号……。アタシだってこんなお仕置き、したくないんだよ? ここに来たのだってアンタ達にお腹いっぱい人族を食べてもらいたいから……。アンタ達の為を思ってやってるの。だから、ね? もうちょっと頑張ってね?』」
今度は少しあざとい声音と表情で四号五号と呼ばれた大蛇に訴え掛け、二匹が首を縦に振るとエルウェは急降下していた機嫌を直し、先程の笑顔を見せる。
「『分かれば良いのよ分かればっ!! ホラっ!! さっさとそこにいる小皺の目立つ女人族殺しちゃいなさいっ!!』」
彼女が鞭を大蛇二匹の猛攻を反撃していた女人族へと突き出し命令を下すと、四号からは紫電が、五号からは砂煙を立ち昇らせ、女人族へ牙を剥いた。
「これは……マズイな……」
カーボネは額に汗を滲ませる。
敵方が南防衛拠点に襲来してから僅か数分。エルフ軍はこちらの警告や勧告等を一切聞き入れる事はなく、殆どノータイムで兵士達を襲った。
エルフの兵士達は精強で、実力者揃いの此方の兵士でさえ苦戦を強いられ、加えて軍団の長である少女然としたエルフ率いる七匹の大蛇の魔物が彼等を蹂躙。
南防衛拠点はあっという間に蛇達の餌場と化した。
しかしそんな中で一人、何十人とその胃袋に人族を飲み込んだ大蛇二匹を相手に一歩も引けを取らない人物が存在する。
それこそ、この南防衛拠点の指揮を任された次期モンドベルク家当主、カーボネ・モンドベルクその人であった。
王国の有史以来の剣術の天才にして銀竜を駆る英雄、ガーベラ・チェーシャル・キャッツに剣術を叩き込んだ張本人であり、彼女自身もモンドベルク家最強の名を恣にしている類稀なる実力者。
その舞うような剣捌きと身のこなし、棚引く金剛髪を準え「極光の陣風」と呼ばれていた程である。
そんな屈指の実力者であるカーボネが今、必死の思いで相対していた二匹の大蛇が〝本気〟を見せた事で密かに身を震わせていた。
(ただでさえ今までの二匹と戦うのがやっとだったんだぞっ!? それが今からが本番……。冗談にしてはタチが悪いっ!!)
直面した現実に、カーボネは思わず引き攣った笑みを浮かべる。
既に彼女には限界が来ていた。
敵軍の襲来から数分という短い時間に、彼女は拠点の責任者らしく拠点内を奔走。各箇所へ命令を飛ばし、手を伸ばせる距離の味方に危機が迫れば手にする剣を振るった。
大蛇達に襲われる兵士を助け、混乱する隊を立ち直らせ、まだ救いのある怪我人を比較的まだマシな安置へと誘導もしていた。
そんな極限の緊張状態の中でカーボネは肉体的にも精神的にも急速に疲弊していき、遂には二匹の大蛇に囲われる事態に陥る。
疲労困憊の中、それでも二匹の痛ぶるような攻撃を体に染み付いた動きで何とか捌き、それによって生まれた隙を狙えるだけ狙って多少の反撃を食らわせる事には成功した。
しかし所詮はちっぽけな傷を数度負わせた程度。致命傷どころか体力を奪うだけの出血すら見込めない悪足掻きに過ぎず、たかが数分延命して除けたに他ならない。
「……ふ、ふふふ」
「『……あぁ?』」
二匹の大蛇に睨まれ絶体絶命のカーボネは、だがそこで不気味に笑う。
「『何? 怖くてイカれちゃった?』」
訝しみ、エルウェがカーボネを睨み付けると、彼女はそんなエルウェを睨み返しながら心底不服そうに溜め息を吐く。
「本来ならば私達の力だけで撃破ないし撃退出来るのが理想だったんだがな……。奇襲のせいで防衛拠点本来の力を発揮出来ぬとここまで壊滅的に陥るか……。私の力の何とちっぽけな事だろうか」
「『ちょっと。何ぶつぶつ言ってんのよ。遺言ならもっと分かりやすくしてくんないかしら?』」
人族語を解さないエルウェがそう文句を言うが、カーボネもまたエルフ語など習熟しているわけではないので彼女の問いには答えず、そのまま更に言葉を重ねた。
「不甲斐ない……。本当に不甲斐ない……。何が〝国防〟を司るモンドベルク家の次期当主か嘆かわしいっ!! 私など所詮……」
「『ああもう、鬱陶しいわねぇっ!! 四号っ!! 五号っ!!』」
エルウェの情け容赦無い号令が掛かり、四号が口を開き雷球を蓄え、五号が自身の頭上に鋭利な岩石を精製。それらをカーボネへ照準を合わせる。
「『その女殺しちゃいなさいっ!!』」
そして命令が下され、四号の雷球と五号の岩石がカーボネへ一斉に放たれ──
「所詮〝あんな小僧〟に縋るしかない、哀れな女だ……」
その瞬間、カーボネの上空を二本の〝陣風〟が駆け抜ける。
陣風はそのまま四号の雷球と五号の岩石へと命中。着弾と同時に凄まじい旋風が起こると、雷球か岩石はその場で跡形も無く消し飛んでしまう。
「「キシャァァァァァァッッ!?」」
突然自身の攻撃が弾け飛び、衝撃により怯んだ声を上げる四号と五号。
そんな目の前で突如起こった事に目を白黒させたエルウェは跨る大蛇から身を乗り出し、感情のままに叫ぶ。
「『は、はぁっ!? いきなり何っ!? なにが起きたのよっ!!』」
狼狽を隠さないエルウェであったが、そこでリアクションを一切取る事の無かった彼女が跨る大蛇が何かを察したように反応し、カーボネが背にする砦の屋根を眺めながらか細くエルウェへ報せるように鳴く。
「『えっ!? 向こうって……』」
それを聞き取ったエルウェは驚愕に顔を染めると、大蛇同様に砦の屋根へと視線を向け、凝視した。
するとそこには……。
「申し訳ありませんカーボネ女史っ!! 遅れ馳せながら今し方到着致しましたっ!!」
砦の屋根の上。
そこには深緑色の外套と漆黒の内鎧を身に纏い、若葉色の弓に風を絡ませた矢を番える一人の青年が立っており、眼下に居るカーボネへと挨拶を見舞った。
__
____
______
ふぅ……。一応彼女の危機には間に合ったか……。
二匹の大蛇に睨まれながらも五体満足で立っているカーボネ女史の姿を確認し、私はホッと胸を撫で下ろす。
本当ならばもっと早くこの場に駆け付けたかった。
私一人だけであったならば、伝令からの救援要請を聞き入れた瞬間にでもテレポーテーションで転移して来たのだが、そういうわけにはいかない。
これはあくまでも戦争なのだ。私一人が砦に来た所で救える命は高が知れているし、私には私なりの優先順位が存在する。自国の人間とはいえ顔も名前も知らん兵士を優先などしない。
故に私が私の優先順位を問題無く遂行する為にも、そしてより多くの命をなるべく助ける為にも、二番隊全員を私が転移させる必要があったのだ。
然しもの私も数十キロ離れた拠点間を数百人一遍に転移させるには捻り出す魔力量も座標の演算時間も相当を要した。
今もこうして格好付けては居るが、直前まで魔物の血を使った魔力持続回復ポーションを数本呷り、結構ギリギリな状態で立っている。
「クラウン……」
と、そんな衷心から疲れ切ったように絞り出した声をカーボネ女史が漏らしたのを耳にし、私はすぐさま彼女の隣へ転移する。
「一先ず私が先行で助けに来ました。二番隊全員ももう間もなく拠点に到着致します」
「そうか……。すまない、よく来てくれた」
そう言う彼女の声音は先程私の名を呼んだ時と然程変わらないトーンであり、いつもの凛々しい姿からは想像も付かないほど弱々しい。
「ふ、ふふ。私も歳だな……。大蛇の魔物二体が相手とはいえ数分動き回っただけでこのザマだ……」
謙遜──というか柔弱気味になってはいるが、この広大な拠点を走り回り、救えるだけの命を救い、砦を守りながら大蛇二匹を相手に奮闘してのけたのだ。
一応私なりに彼女の事を調べはしたが、これを踏まえて歳云々と言っているなら、彼女の全盛期はどれほどの女傑ぶりだった事か……。
まあ、何にせよ……。
「砦内に敵方は?」
「いや、入っていない筈だ。兵士達が死力を尽くしてくれたのもあるが、目の前のエルフ女はどうやら私達を嬲り殺したいらしい……。わざわざ兵士を追い回しているよ」
「……成る程。では貴女は砦内で少しでも休養を。この場は私が制しましょう」
「いやしかし」
「問答無用」
私は一旦カーボネ女史から目線を外しながらテレポーテーションで無理矢理彼女を砦内へ転移。
そして静観を決め込んでいる三匹の大蛇と、中央の大蛇に跨がるように鎮座する幼い容姿のエルフの女へと視線を移し変える。
「『中々に愉しそうだな。エルウェ・ビークイン・カラクウェンディ。私も混ぜて貰おうか?』」
エルフ語でそう彼女に語り掛けると、少女然としたエルフは片眉を持ち上げながら私に睨みを利かす。
「『アンタ、アタシの名前……。それにコッチの言葉まで……』」
「『私は勉強家でね。それよりさっきから随分と大人しいじゃないか? 隙ならいくらでもあったと思うが?』」
先程から私とカーボネ女史はそれなりに悠長に会話を繰り広げていた。
そんな隙を晒していたにも関わらず、エルウェとそれに従わされている大蛇三匹はそれをただ眺めていただけである。
ふむ。ちょっと揶揄ってみようか。
「『これはアレかな? たかだか私一人に数十メートルはあろう蛇三匹とそれを操る〝お嬢さん〟がビビり散らかしている、なぁんて事はあるまいね?』」
飛び切りの笑顔を湛えエルウェに向けてそう言い放つと、彼女は露骨に表情を憤怒に染め上げ一周して笑けて来たのか口角を吊り上げる。
「『ふざけた事をペラペラと……。その生意気な口ごと原型無くなるまですり潰してやるよガキぃっ!!』」
そう言って鞭を振るい、左右の大蛇に何らかの命令を下すと二匹がそれぞれの属性を発現させながら私に向かって突進して来る。
「やれやれ。随分と沸点の低い事だな。これが副軍団長とは恐れ入る」
私は手にしていた弓を《蒐集家の万物博物館》へと仕舞い、代わりに道極を取り出して三節棍に変形。迫る二匹の大蛇の鼻っ柱を全力で叩く。
「『っ!? アンタそれ……っ!?』」
自慢の大蛇の攻撃を退けられた事に不機嫌そうな顔を見せるが、私の道極を見た次の瞬間には怒りよりも疑問が浮上し、思わず彼女は口から言葉を漏らす。
「『ほう。見た目が変わっているから気付かんかもしれんと思ったが、やはり察するか』」
「『アンタ……アンタそれアヴァ姉さんのっ!! 何でアンタがそれを持ってんのよっ!?』」
「『おや? そこは察しが悪いんだな。それとも否定したいだけか? 愛しい愛しい姉貴分の愛武器が私の手元にある、その理由と現実を』」
「『ッ!! き、さまぁぁぁッ!!』」
「『さて。もうそっちは散々狩りを愉しんだろう? ならば交代だ』」
高揚感で今にもニヤけてしまいそうな顔を引き締めながら、私は道極を棍に連結し直し、目の前の大蛇三匹とエルウェに向け構える。
「『ここからは私の愉しい愉しい収穫祭だ。収穫物である貴様等は大人しく、私のバケットに収まりなさい』」
ちょっとした質問。
今更ながら一話の文字数、今は6,000〜8,000なんですが、どうですかね?
私的にはボリューミーな方が良いと思うのですが、これを2,000〜3,000くらいに変更したらかなり更新頻度増します。
まあ、情報量が物理的に減るので話の進行度は変わらないんですがね。
どうでしょう?
忌憚ない意見をお聞かせください!!




