第八章:第二次人森戦争・前編-24
感想の返信、遅れてしまって申し訳ありません。
皆様からの感想は全て必ず返信致しますので、どうか気長にお待ちください……っ!!
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「ぐ、ぐぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!」
「あ、あ、あ゛ぁぁぁぁッッ!!」
「だ、だれか助っ……」
広がるのは阿鼻叫喚。
金属防具を身に付け、念入りに研いだ剣や槍を持ち、手の平に血豆を幾度と作っては潰しを繰り返しながら戦闘訓練に身を粉にしてきた。
何時間、何日、何週間、何ヶ月と。
彼等は己が死なぬ為、家族が死なぬ為、友人が死なぬ為、愛する者が死なぬ為、必死になって力と技術を磨いて来た。
……しかし──
「死にたくないッ!! 死にたいないッッ!!」
「来るなぁ……来るなぁぁぁぁッッ!!」
「ああ、足が……オレの足がぁぁぁぁッッ!!」
だからといって、生き残れるわけではない。
「ふざけんな……ふざけんなよッ!! なんで……魔物がこんな所に居るんだよッッ!!」
それは僅か十五分前にまで遡る。
ティリーザラ王国陣営側、南防衛拠点。
国王からの開戦宣告から数時間が経過したこの時、拠点内砦には戦争時には似つかわしくない静けさが漂っていた。
そこは戦地となっている平野の関係上回り込まれ挟撃される懸念を払拭する為に築き上げられた拠点であり、同じ役割を担う北防衛拠点同様、他の凡庸拠点よりもしっかりとした砦が建設されている。
加えて防衛力を底上げする為、詰められた兵士や魔道士達は皆が一様に実力者を揃えられ、王国陣営の中でも五指に入る堅牢ぶりであると言えるだろう。
更に言えば、南北二カ所の防衛拠点へ辿り着くには幾つかの拠点を越えねばならないよう布陣が敷かれている。その恩恵により侵攻して来た敵方を消耗させる事が出来、仮に攻め込まれようとも万全の備えでもって迎え討てるのである。
南北に位置するこの防衛拠点はまさに難攻不落と言って差し支えない拠点になっていた。
そんなここ南防衛拠点には、北防衛拠点とは一つだけ違った点が挙げる事が出来る。
一つ目は……。
「様子はどうだ? 敵影は確認出来たか?」
「教官、少し落ち着かれてはどうです? そう五分おきに来られてはコチラも監視に集中出来ませんよっ!」
監視塔にて嘆きの声を上げる索敵兵。
そんな彼に対し、監視塔と控え室を五分おきに往復し、一秒たりとも緊張感を崩さず厳格な威容を放つ教官と呼ばれた女性は「喝ッ!!」と叱咤を飛ばす。
「愚か者がッ!! これは戦争だという事を忘れたかッ!! 一瞬の油断や間違いで何十人と命が散るこの戦地に於いて何を腑抜けた事を宣っているッ!!」
「し、しかしモンドベルク教官──」
「口答えするなッ!! いいか? もし次来て同じような事を口にするのであれば貴様には矢面に立って貰うッ!! そのつもりで居ろッッ!!」
そう言い放ち、珠玉七貴族が〝金剛〟モンドベルク家次期当主カーボネ・モンドベルクは彼の困惑ばかりが滲む表情を一瞥もせずに踵を返し、そのまま控え室へと帰還していく。
南北の防衛拠点は戦況の要。故にそこを指揮し、守護を任される者はその役割に相応しい人物が当てがわれている。
それこそが〝国防〟を司るモンドベルク家の人間であり、北にディーボルツとブリリアント、南には彼女カーボネが任命され、守護を任されているのだ。
「り、理不尽だ……」
妙な緊張感と圧迫感と恫喝紛いの叱咤を撒き散らし去っていくカーボネの背中を半眼で見据えながら、一般索敵兵はただ彼女に聞こえぬよう小さな小さな愚痴を一つだけ溢していそいそと仕事に戻る。
だがそんなカーボネも、実のところ現在気が気でなくなるような事情を抱え、無意識に理不尽を振り撒いてしまったいるに過ぎない。
「ああ落ち着かん……。頼むから何も起きるな」
そしてその事情こそが件の北防衛拠点とは違っている点。半ば強制的に──というより脅かされて押し付けられた厄介事なのである。
「何故……何故私が学生のお守りなどせねばならんのだっ!」
募る憤りを小さく吐き出しカーボネが控え室の扉を開けると、そこには各々の態度で待機をする合計十二名の少年少女達の姿があった。
「……どうでした?」
「心配するな、何もない。索敵兵の監視もスキルアイテムによる警戒網にもそれらしいものは無いから安心しなさい」
「……」
「……」
「……よ、良かったぁぁ……」
たっぷりと間を置き、学生の内の一人がそう口にすると、まるで口火を切るかのように控え室に居る全員の緊張感が一斉に弛緩。強張っていた身体にもゆとりが生まれる。
「だ、誰だよ〜。嫌な予感がするとか言った奴っ!?」
「あ、コラっ! またそうやって犯人探ししようとするぅっ!!」
「そうだよっ! クラ──ぼ、ボスだって言ってたじゃないっ! 『仲良くなれとは言わないが諍いだけは起こすな』ってっ!」
「そ、それはそうだけどよぉ〜」
「はぁ……。貴方達いい加減に──」
「……」
カーボネは目の前で徐々に騒がしくなっていく学生達の振る舞いや態度を見て少しだけ微笑み、そして内心で昏く思う。
(クラウンの奴め……。自分の子分を私一人に丸投げしおってからにぃ……っ!!)
そう、彼等十二名の学生達。何を隠そう以前戦争の前準備として開かれた戦闘訓練にてヘリアーテ達四人とロリーナの部下候補として選ばれた十二名なのである。
ヘリアーテが男女二人ずつな四名、グラッドが女生徒一名、ディズレーが女生徒三名、ロセッティが男生徒二名、ロリーナが女生徒二名の合計十二名。
やや比率が女生徒に傾いているが、そこはヘリアーテ達五人の求心力が齎した結果でしかなく、バランスなど取りようもない事である。
そして肝心の問題。何故彼等十二名の学生達がここ南防衛拠点一点に集められているかだが、それはカーボネの言の通りクラウンに半ば脅されたからに他ならない。
『将来国防を担う貴女が、たかが学生十二名程度守れない道理はありませんよね? カーボネ女史?』
(……ああいう言い方をされては〝国防〟の次期当主たる私が断れるわけがない……。ガーベラに負けず劣らず、全く末恐ろしい……)
自身の教え子であり天才剣術師ガーベラと、その弟であるクラウンが見せる両者の良く似た飛び切りの笑顔を想像し、カーボネは小さな目眩に思わず眉間を指で軽く抑える。
「あの……大丈夫、ですか?」
そんな彼女を心配してか、一人の気弱そうな女生徒──ヴィヴィアンがカーボネに弱々しく上目遣いで話し掛け、額に汗を滲ませる。
「……ああすまない。戦争など私でさえ初めてだからな。気を張り過ぎてイカン」
子供に心配されてしまうとは、と内心で反省しながら軽く自身の両頬を二回ほど叩く。
「私達こそすみ、ません……。貴女方、の邪魔になっているのは、わか、分かっているんですが……。み、みんな自分自身の気持ち、とかを落ち着かせるので、精一杯、で……」
ヴィヴィアンは自身の長髪を忙しなく手で梳きながら俯く。
今もガヤガヤと控え室を騒がしくしている生徒達であるが、これは緊張感が無いというよりも寧ろ真逆であり、極限の緊張を何とか誤魔化そうと無意識に発散しているのだ。
しかしそんな事情などカーボネ達大人が分かってくれる筈もなく、一部の兵士からは白い目で見られていた。
彼女はそれを気にし、何とか理解して貰おうと拠点責任者であるカーボネに説明する機会をずっと覗っており、今口下手ながらもそれを漸く釈明出来たのだ。
そんなヴィヴィアンの心境をカーボネは全て理解出来た訳では無いが、拙い口調と様子に昔の引っ込み思案だった愛娘ブリリアントの姿を重ね、女生徒の頭を優しく撫でる。
「こちらこそすまない。私を始め、ここに居る大人全員が〝戦争〟という現実に向き合ったり拒んだりしながら必死で自分を保とうとしている……。きっと君達とそこは然程違わないと、私は感じているよ」
「か、カーボネ、さん……」
「どうせ君達も彼──クラウンに〝何か〟命じられていたりするんだろう? それで必要以上に緊張してしまっている……。違うか?」
「そ、れは……」
口籠るヴィヴィアンにカーボネは色々と察すると彼女の頭から手を退かし、控え室全体に目線を行き渡らせてから手を二拍叩き、生徒全員を自身へと注目させる。
「君達っ! 緊張するのは充分理解出来るが、余り騒ぎ過ぎると理解の乏しい私の部下達が君達を幾らか誤解してしまうっ! 申し訳ないがもう少しトーン下げてくれるか?」
カーボネの丁寧な嘆願を聞き一斉に静まり返る生徒達。彼等は我に返りここ数分間の事を思い返してまずい事をした、怒られる、と顔を青褪めさせるが、カーボネの柔らかい表情を見て少しだけ困惑する。
「あの……。怒らないんですか?」
真面目そうな男生徒──ハントが恐る恐るカーボネに皆が思っている事を聞き返すが、彼女はそんな彼等の心配をどこ吹く風と受け流す。
「あんまり大人を買い被るな。子供だろうが大人だろうが、緊張するものはする。君達と同じようにな」
「も、モンドベルク教官……」
「どちらかと言えば戦争の話題の度にワクワクしている君達の上司の方がオカシイんだからな?」
「そ、それは……」
「まったく……。君達には同情の念を禁じ得ない。きっとこの先、彼の部下で居る事は生半可なものではないだろう。本当、ジェイドは一体どんな教育をしていたんだか……」
今度は軽い頭痛を覚え頭を抱えるカーボネ。すると今度は少し垢抜けた男生徒──ギデオンが目立つように高々と挙手をする。
「あの〜教官? 何か勘違いしてたりしません?」
「む? 勘違い?」
カーボネがギデオンに視線を向けると、それと同時に何かを訴えた掛けるような目線を生徒達全員から浴び、一瞬狼狽する。
「な、何をだ?」
「オレ達、別にクラ──ボスに無理矢理部下にされたワケじゃないですよ? ミンナ納得した上であの人の下に就く事を選んだんです」
ギデオンの発言に呼応するように頷く生徒達。そんな彼等に一種の狂信的な念を感じ、カーボネは僅かながら怖気を感じた。
「何故だ? 彼は君達と同年代であり同級生だろう? しかも家は都市の領主とはいえ貴族位を持たない……。君達の中には家が貴族位の者も居るのだろう? そんな彼の〝下〟にどうして……」
「どうしてって……」
カーボネ以外の全員が互いの顔を見返す。そして口々にその理由を口にして言った。
「同世代つったって実力差がエグいからなぁ。嫉妬するとか以前にひたすらにスゲェ〜としか思わないですかね〜」
「口調もかなり大人っぽいですし、考え方とか頭の回転も並外れてる……。同い年なのを疑うレベルですよ」
「爵位云々とかはまあ勿論考えますけど、爵位が無いだけで貿易都市の領主ですし、何より人脈で言ったら僕達の親よりもヘタしたらありますから。僕達が口挟める事じゃないですし」
「あの方の実力、才能、功績、努力……。その全てがあの方の将来を約束していますわっ! 例え今貴族で無くとも、そう遠くない未来では必ずや相応しい立場と権力を持つ方だと、私は確信していますのよっ!!」
「あ、後あの人……。基本的に何考えてるか分からないし、訓練は厳しいし怖いですけど……。私達を決して蔑ろにも見下しもせず、努力や成果には必ず報いてくれるんです。それが、純粋に嬉しいんですよ……」
「ご褒美も嬉しいけどさっ! なんたってご飯時にあの人の出す手料理も絶品なんですよっ! ウチらが訓練の後でヘトヘトなのを見越した美食の数々……。たまんないわよねーっ!!」
「それからそれから──」
まるで堰を切った水路のように怒涛の如く流れるクラウンへの畏敬の賞賛。
先程までの緊張感を誤魔化す為の騒ぎとはまた違った騒がしさが充満し始めた控え室にて、ただ一人カーボネのみがその空気に置いていかれる。
(これは……なんだ? なんなんだこの空間は……っ!?)
自分の迂闊な疑問で広がってしまった何とも居心地の悪い空気にカーボネは顔を引き攣らせるが、それと同時にとある事実にも気が付く。
(クラウンは、こんなにも他人に慕われる人間だったのか……。身内とそうで無い者とで明確に態度を変える事で求心力を高めている、という事か? それとも……)
それとも単なる超絶な人たらしか……。そうクラウンに対する認識を少し改めようとした、そんな時──
「きょ、教官ッ!!」
突如控え室に一人の兵士が扉を乱暴に開け放ち、血相を変えてカーボネの事を呼び叫ぶ。
「何事だっ!?」
その只ならぬ兵士の様子につい数刻まで考えていた全てを隅に追いやり、緩み掛けていた心構えを一気に鋭利で頑強なものへと切り替える。
「さ、先程まで影一つ無かった拠点前に、と、突如として敵影と思われる複数……いえ、一個団体が出現致しましたっ!!」
「何だとっ!?」
それを聞き遮二無二監視塔へと足を踏み出そうとしたカーボネであったが、先程までヒートアップしていた控え室の空気が氷点下にまで下がったのを肌で感じ、時間を惜しみながらも首だけを生徒達へと振り返る。
「か、カーボネ教官……」
「心配するなっ。君達はひとまずこの場で待機していなさい。何かアレば即刻連絡する」
「は、はい……」
不安そうな生徒達が頷くのを確認し、カーボネは改めて控え室を飛び出し、監視塔へと全速力で駆け込む。
すると先程叱咤を飛ばした索敵兵が顔面を真っ青にしながら滝のような汗を流し、ガタガタと震える手で望遠鏡を覗いていた。
「一個団体が突如出現したと報告を受けたっ!! 偽りはないなっ!?」
「きょ、教官っ!? は、はいっ!! 間違い御座いませんっ!!」
振り返りカーボネの姿を発見した索敵兵はすぐさま望遠鏡の前を退き、彼女にその場を譲って望遠鏡を覗き見るように促す。
レンズを覗き、遠方へと視界を広げたカーボネは、そこで目を疑うような現実を目の当たりにする。
たった数分前まで木の影一つすら無かった平野に、数百もの兵を従えた団体が草地を踏み荒らし、真っ直ぐここ南防衛拠点へと侵攻して来る姿がハッキリと彼女の目に映ったのだ。
「な……。一体どういうカラクリだっ!? これではまるで奴等も私達のようにクラウンの転移の羊皮紙に似た……っ!! いや、まさか奪われたのか……っ!?」
そう。クラウンが用意した各地に簡易的に転移出来るテレポーテーションの魔法陣が描かれた羊皮紙には決して逃れられない弱点が存在する。
それが未使用の羊皮紙を敵方に奪われ、利用されてしまうという点だ。
勿論クラウンもそれは承知しており、羊皮紙の外見は巧妙に偽装されそれとは極めて気付きにくい仕様になっている。
加えて流し込む魔力も人族特有の波長でなければ意味を成さないように設計され、地図との照らし合わせに使う数式も簡素ではあるが人族語で暗号化されているのだ。
その事実や情報を事前に知り得ない限り、極めて存在を暴く事は困難な細工が可能な限り施されている転移の羊皮紙。
だが逆に言えば、事前情報無くこれら細工全てを看破さえする事が出来れば、最悪の場合エルフでも利用は可能となってしまっている。
と言っても発案開発したクラウン自身、これを破られる可能性は殆ど無いと切り捨てる程に愚かではない。
万が一にも全てが看破され、剰え利用されてしまった場合の〝対策〟も仕込まれており、それだけで最悪の状況に陥りはしないのが唯一の救い。
問題なのはその〝対策〟が発動するまで耐え忍ぶ必要がある事。つまりは今から襲い来る突如出現したエルフの団体を準備不足の状態で迎え討たねばならないのだ。
「伝令ッ!! 総員直ちに持ち場に就き、臨戦態勢を整え敵団体を迎え討てと伝えろッ!!」
「はッ!!」
「目算で構わんッ!! 敵方とは後どれほどで接敵するッ!?」
「は、はいッ!! 索敵班の情報を精査した所、どうやら敵方は《空間魔法》による短距離転移を繰り返している模様ッ!! 最短で後五分程で到着するかとッ!!」
「《空間魔法》……。くっ。これは転移の羊皮紙が利用された可能性が濃厚か……。索敵班は引き続き監視を続けろッ!! 範囲は念の為全方位に展開し、あらゆる隙を無くすんだッ!!」
「しょ、承知致しましたッ!!」
「それから転移の羊皮紙を使いクラウンの居る剣術団第二隊に連絡ッ!! 救援を要請するんだッ!! 急げッ!!」
叫ぶような命令を次々に飛ばし、刻一刻と迫るエルフの団体との接敵までに準備を進めるカーボネ。
彼女やその部下中に最早戦争に対する緊張などは無く、あるのはただ遠く背後で怯える国民達を守らんとする強い意志。
そして何より〝死んでたまるか〟という、至極ありふれていて、けれどもただただ純粋な生存本能。その絶叫のままに駆け回り、頭を巡らせた。
だがしかし、現実はそんな感情論で打破出来るほど甘くはない。
この丁度五分後。南防衛拠点を守護する兵士の約半数が、強大で圧倒的な〝力〟の前に、呆気なく飲み込まれていったのだった……。
恐らくですが、この更新後間もなく当作の総PV数が10,000,000に到達するかと思います。
色々と言いたい事はありますが、それは正式に達成したら改めて致します!!




