第八章:第二次人森戦争・前編-22
またも筆が乗りに乗ったので二分割して連日更新致しますっ!!
前回予告したメスガキはまた明日でっ!!
「……成る程。そういう意味での〝降伏〟か」
『そうよ。ったく……。結局私がこうして訂正の連絡入れたんじゃ二度手間じゃないのよ』
シセラからテレリが降伏する云々の報告を受けてから約三十分後。改めて私の元へヘリアーテから《遠話》での連絡があり、先の報告内容の詳細な説明を聴かされていた。
「まあ兎に角、改めてご苦労だった。本当に良くやってくれたよ、君達は」
つい先程ディズレー&ユウナ、ティール&ロセッティからの報告も受け、この連絡をもって四つに分けて奇襲を迎え討った迎撃作戦は〝完遂〟された。
充分な対策を講じ訓練を重ね、万全に備えて挑んだ作戦であり、その遂行を信じて疑っていたわけではないが、いざ現実に報告を受けると安心感と満足感で万感交到る。
『いやでも本当、割とギリギリだったわよ? 私の「雷兎走モード」が上手くいってなきゃどうなってたか……』
……「雷兎走モード」と名付けたのか、アレを。
ふむ。まあ、いい。
あの技はヘリアーテとの訓練を重ねていく際に辿り着いた、彼女の基本戦闘スタイルのある種のゴールだ。
エクストラスキル《魔力完全中和》による自身が扱う如何なる性質の魔力も中和する権能と、同じくエクストラスキル《魔法特性体現》による、魔法の特性そのものを自身の肉体に付与する事が出来る権能。
この二つのエクストラスキルを合わせる事で実現しており、ヘリアーテの得意とする《雷電魔法》と組み合わせる事で文字通りの「光速」での行動を可能にした、物理法則を無視した離れ業である。
一度使われれば然しもの私でも彼女を捉える事は出来ないある種の必殺技であるが、当然相応の代償を負う。
《魔法特性体現》の権能で本来人体で行えば負うであろう様々な体内外へのダメージは限りなく抑えられてはいるが、それを補う形で魔力や精神力、体力の消耗が激増。今のヘリアーテでは保って三秒が限界となっている。
それに加え光速移動中はその性質上、基本的に〝呼吸が出来ない〟のも負担の一端を担っているのは間違いない。
「それでどうだった? 制御は上手くいったようだが、反動は少なくないはずだ。身体に不調は無いか?」
『そりゃあるわよっ! もう身体中あちこち痛いったらないわっ! 魔力だってすっからかんだし、頭だってクラクラするわよっ!』
……そう言っている声音を聞く限りじゃ余り感じ取れないが、まあ、下手に強がったり誤魔化されるよりはマシだな。
「声を張り上げられる体力が残っているなら心配ないな。ひとまずは渡してあるポーションを飲んで養生に努めてくれ」
『はいはい。言われなくてもそうさせて貰うわよ』
「そう臍を曲げるな。すぐには用意出来んが、頑張ってくれた君達には働き相応の報酬を私が手ずから贈らせて貰う。度が過ぎたものは流石に無理だが、ある程度ならば要望も叶えよう」
『へ、へぇ〜。そう……』
ふふ。実に分かりやすい子だ。手が掛からなくて助かる。
ま。だからと言って私も贈り物には手を抜かんがな。可愛い可愛い部下達を驚愕と感嘆に喘がせてやろう。今からその顔を見るのが楽しみだ。
「ああ。だからそれまでに何が欲しいかもじっくり考えると良い」
『……分かった』
「ふむ。……それでシセラだが」
話は聞いた。テレリからの《音響魔法》による大規模魔術を喰らう直前、突如として姿が変異し、今までに無いスキル、能力で短いながらもテレリを圧倒してのけた、と。
『それね。私も一応アイツに詳しい事聞こうとしたんだけど、思った以上に無理してたみたいでね。私と散々口喧嘩した後「身体が保てなくなってきた」って言って血みたいな色の光の球に変わってそれきり、うんともすんとも言わなくなったわ』
その場に居合わせたヘリアーテだが、彼女は彼女で「雷兎走モード」の調整に集中していたのもあって状況を把握し切れておらず、シセラ本人はヘリアーテの言う通り限界のようで確認出来ず。
しかし〝魂の契約〟の関係上、シセラの命に別状があるならば私にも少なからず影響が出る筈。だがそれが感じられない以上、今のところ問題は無いと考えて良いのか?
ふむ。これは……。
『ねぇちょっと、大丈夫?』
「ん、ああすまない。少し考えに耽ってしまっただけだ。気にするな」
『ふーん。なら良いけど、早く迎え寄越してよね? いつまでもこんな倉庫じゃ気が滅入るわ』
「解っている。暫くすればテレポーテーションの羊皮紙を持った衛生兵がそちらに転移して来る手筈になっているから、迎えに来次第指示に従ってくれ」
『りょーかいっ』
「ああそれと、疲れているだろうが念の為テレリへの入念なボディチェックも頼むぞ。何か隠し持っていないかな」
こういう所をおざなりにすると後々手痛いしっぺ返しを食うからな。一縷も気は抜けん。
「加えて君達に持たせたポケットディメンションの魔方陣が描かれた羊皮紙があるだろう? アレを使ってポイントニウム製の品の回収も忘れずにな」
これも重要。そこまで短絡的ではないだろうが、最悪の場合異変に気が付いたユーリが第二第三の奇襲部隊を投入してくるとも限らんからな。しっかり回収せねばならん。
『はいはい。あの爆発でも殆ど無傷なヤツ回収すれば良いのよね?』
「そうだ。ポイントニウムは他の金属に比べてエラく頑強だからな。あの程度の爆発であれば粉々になった他の品の中で唯一原型を留めている筈だ」
『はーい。じゃあ、とりあえずシセラが気が付いたらもう一回連絡するから、よろしく』
「ああ。ではまた後程」
そうやり取りし、私達は《遠話》による通話を解除する。
「……はぁ。まったく、私も暇では無いんだがな」
一つだけ愚痴を溢し、すかさず私は自身の内側へと意識を向け、魂の奥底へ集中させた。
『ふふふ。流石はクラウン。察したか』
老若男女、あらゆる声音が綯い混ぜになった声に目を向けると、そこには四方上下が暗闇の中に不自然に鎮座する巨大な右手の姿があり、それが心底楽しそうにケタケタと笑いながら私を矯めつ眇めつ眺めていた。
『その発言。なら予想は正解だったか』
『ああそうだね。詳細は直接情景と情報を与えるとしようか』
そう言うと強欲は人差し指を突き出し、指先を一瞬だけ明滅させる。
その瞬間、私の頭の中へシセラが覚醒に至った一部始終が流れ込み、私自身の記憶の一部としてしっかりと定着していく。
『成る程、これは……』
『一応口でも言っておこう。強欲がシセラに〝進化〟を促した。実に見事な覚醒だったよ。ふふふ』
目や鼻や口が散らばっていて表情などまるで読める筈もない右手の様相ではあるが、そう語る強欲の口調や仕草が実に嬉しそうであり、つられて私も笑みを溢す。
『ふふ。理由はどうあれシセラが覚醒したのは実に喜ばしい。強欲が居なければ覚醒どころか彼女を失う事になっていた……。そこは衷心から感謝している』
『ん? 含みのある言い方だな?』
『そうだな。一言くらい私にあっても良かったんじゃないか、とは考えている』
強欲の事とはいえ、私のスキルを知らない間に熟練度と魔力を代償にして使い魔に分け与えるのは流石に心配になる。
お陰で《水魔法》と《霧魔法》の熟練度がかなり目減りしてしまっていて少々気落ちしてしまう。
『それはどうしようもない事だクラウンよ。何せ緊急事態だったからなぁ。シセラの危機に気が付いたのですらギリギリだった。確認の間すら余りに惜しかったんだよ』
ふむ。まあ、それはそうなんだが……。
『それなら事後報告くらいそちらから寄越しなさい。私から訊ねに来なければ黙っていたんじゃないのか?』
『そんなワケはないさっ! ただ強欲はあくまでも〝スキル〟だからね。君と根本を同じにするから、と気安く強欲から訪ねるのは君の邪魔になりかねない。それに……』
『それに?』
『クラウンならば気付いたろう? 今のように、ね』
『……』
はぁ。自分との口論など滑稽極まるな、まったく……。
まあ私に一言あるにしろ無いにしろ、それが可能であるならば選んだ選択肢など一つだけだ。そこに変わりがない以上、これ以上は無駄な自問自答に等しいな。
『そもそもクラウンよ。こうしてわざわざ対話をしに来たのはまた別の目的だろう? そちらは聞かないのかい?』
……ふん。そりゃ自分なのだから見透かすか。なら──
『そうだな。わざわざ口に出す必要があるかは疑問だが、ちゃんと聴かせよう』
『ああ』
『シセラに起きた〝進化〟。アレはなんだ?』
「あ。終わりましたか?」
強欲との対話の後、準備を整えていたロリーナやファーストワンの元へと戻り、用意された荷物へとポケットディメンションを開く。
「待たせてすまないな。重要な報告だったからちゃんと腰を据えて受け取らねばならなかった」
「いえ。先方もまだ到着されていませんし、私は一応やり取りを聞いていたので、その重要性は把握しています」
「そうか、ありがとう。お前達も準備は出来たか?」
そう言ってロリーナの頭を撫でた後、顔だけをファーストワンとその部隊達の方に振り返らせ確認を取る。
「す、頗る君の行動と態度に憤りを感じるが……うん。大丈夫だよ」
「ほぉう。それは重畳。すっかり忘れていたが、お前が隊長だという事を思い出したよ」
「ちょ、それ言い過ぎじゃないっ!? 歳とか家柄とか役職とか僕の方が上なのも忘れてんじゃないかいっ!?」
「忘れてなんかいないさ。認識してないだけだ」
「君ねぇ!?」
「ふふふ。しかしこれならば──」
私がファーストワンを揶揄って暇を潰そうとしていた最中、《天声の導き》による警戒網に百余りの反応を検知。すぐさまそちらへ《千里眼》を発動させる。
「え、ちょ、今度は何っ!? 敵っ!?」
狼狽えたファーストワンの声に部隊員達が戦々恐々と騒めき立ち、各々が武器や盾を構え緊急時の連携を取ろうとする。
「ね、ねぇクラウンっ!?」
「……はあ。情け無い声を出すなみっともない。それに動揺し過ぎだ、部下達に要らん緊張感が伝播しているぞ」
「え。要らん緊張って……」
そう。天声の警戒網に反応するのは決して敵だけではない。〝味方〟も同様だ。
「この兵糧拠点を任せる予定の部隊が到着した。出迎えに行くぞ」
「ここ任せる部隊って……っ!! み、皆んな整列っ!! 出来る限りの身支度整えて勇ましい表情してっ!!」
色々と滅茶苦茶な命令を下しながらファーストワンが部隊員達に声を上げ、それを聞いた皆も何かを察して慌てて雑な着こなしを整え始めた。
「……見栄張り過ぎだろう、お前」
「いやだって〝あの方〟でしょっ!? 態度もそうだけど、見た目だって失礼があっちゃならないってっ!!」
「分からん事は無いが、そんな取って付けたような繕いなどすぐ見抜かれるぞ。それにあの人はそんな見て呉れで人を評価する人じゃあない」
「う、うぅん……」
「ほら。さっさと行くぞ。いくら優しかろうと待たせるのは失礼だからな」
「わ、わかったよもうっ!!」
「わざわざ出迎えすまないな。忙しかったんじゃないか?」
「そうでもありません。貴女方が円滑に防衛を果たせるだけの準備は予め整えていましたので、何も気に病む事はありませんよ。コランダーム公」
兵糧拠点より一キロほど離れた箇所。そこで私達が出迎えた部隊とはコランダーム公率いる「輸送指令統括部隊」。
ティリーザラ側の兵糧や武器等の輸送を統括し、各拠点に届ける為の部隊であり、その全体を指揮しているのが、何を隠そう〝経済〟を司るコランダーム公である。
「兵糧の内訳はこの紙にまとめてあります。ご活用下さい」
「ああ助かる。……やはりエルフ族の兵糧となると野菜や穀物ばかりだな。一応肉や魚もあるが……」
「それらは彼等が騎乗する蜘蛛の餌ですね。一応我々も食べられない事はありませんが、保存方法や管理が比較的杜撰だったので下手に口にすれば体調を下す者が現れかねません」
「成る程……。しかし貴重な食糧には違いない。様々な面から検討し利用してみよう」
「はい。ああそれと先程話に出た騎乗用の蜘蛛ですが──」
「……聞いてもいいかい? リーリウムさん」
「はい」
「彼……クラウンは何故我が国を代表する経済の女王を前にしてああも臆面を一切見せずやり取りが出来るのかな? 彼ただの領主の嫡男なだけだよね!?」
「クラウンさんは横の繋がりも縦の繋がりも大切にされる方です。そして何より一つの小さな糸も決して見逃さず決して離さない執念を持ち合わせている……。その結果があの光景を実現させているんです」
「な、なるほど……」
「……」
「……」
「……はぁ」
「え、何? 露骨に僕見て溜め息吐いたけど」
「いえ。ここで私と会話して立っているだけの人だから、クラウンさんも貴方を雑に扱うんだな、と」
「辛辣っ!! 君達似てるねっ!?」
コランダーム公と簡単な引き継ぎを終え、私達は一旦全員で兵糧拠点へ集結。諸々の案内を終えた後、最後に少しだけ私とコランダーム公の二人で雑談を嗜んだ。
「戦況は概ね順調なようですね。大きな動きも今のところ無いとか?」
「ああ、不気味な事にな」
「訝しんでおいでなのですね。優勢である事に」
「そう言う君もそうだろう? 君とキャピタレウス老師が唱えた超大規模魔術を警戒しているにしては動きに怯えが見えないし、そろそろ兵糧線の途絶えにも気が付いている筈なのに士気の変化も乏しい……。疑わん方がどうかしている」
コランダーム公の言う通り。戦況が優勢な事に越した事は無いが、それにしたって穏やか過ぎる。
《万象魔法》に怯えている様子も無いのにこの鈍さ……。戦争を仕掛けて来た側の動きじゃないな。
これは一旦寸暇を見てアールヴの大臣達にコンタクトを取って状況を把握しなければならないか?
「だが何にせよやれる事は限られる。今は如何に少ない犠牲で戦争を終わらせるかだけを考える方が堅実だろう」
「おや? 随分と戦争が早く終わって欲しそうに聞こえますね? 何か〝楽しみ〟でも待っているんですか?」
私が敢えてイヤらしい言い方をしてみると、コランダーム公は想像通りの微妙な表情で私を睨み、眉を歪ませる。
「君がそれを言うのか? 私と〝あんな契約〟をしておいて……」
「契約とは大袈裟な。単なる取引ではないですか。それも正当で真っ当な、ね」
「君。私があの話を撤回しないと確信しているからってちょっと調子に乗り過ぎじゃないか?」
「乗ってはいませんよ。ただ……」
「ただ、なんだ」
「これから長い付き合いになるんです。多少の上下関係をはみ出したスキンシップはしても、罰は当たらないでしょう? コランダーム公──」




