第八章:第二次人森戦争・前編-21
二分割した二つ目です。
ですが構成の関係上、ちょっと短めになってしまっているので悪しからずっ!!
漸く聞く事の出来たテレリの降参発言に、ヘリアーテはホッと胸を撫で下ろしながら彼女の首根っこを引っ掴んで地面に着地。
テレリを乱暴にその辺へ投げ飛ばすとグッタリとして荒い呼吸を吐く彼女へと歩み寄る。
「『降参、で良いのよね?』」
ヘリアーテの改めての確認にテレリは必死に首を縦に振って肯定。そしてそれを明確に確認すると……。
「『じゃ。抵抗出来ないように両手両足潰すわね』」
「『え』」
彼女が理解するよりも早く、ヘリアーテはテレリの右手首へ向けて〝全力〟で足を踏み抜き、肉と神経と骨が潰れる嫌な音が鳴り響く。
「『あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁッッ!?』」
「『はいじゃあ次左手首ね。間置くと辛くなるだろうからちゃっちゃと済ますわよ』」
「『が、あ゛ぁぁ……。せ、せめて、刃物で、神経だけ、を……』」
「『メンドくさい』」
「『あ゛あ゛ぁぁぁッッ!!』」
そして両手両足を全て潰し終え、全身に纏う金色の雷光を解除し、ついでに聖糸リンダールを操っていたガントレットを手から外してから深い深い安堵の溜め息を吐く。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ……。終わったぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
ドッと押し寄せて来る肉体的精神的疲労に全身の力が抜け、ヘリアーテはその場に思わずしゃがみ込む。
「伊達に軍団長やってないわねーホント。負けるかと思ったぁぁ……」
「『……な』」
「あ?」
この期に及んでまだ口が利けるのかと声を発したテレリへ視線を向けるヘリアーテ。
「『なん、なのよ……その、力は……』」
「『力って……コレ?』」
そう言って右手を適当に掲げるとその手に雷光を纏って見せ、テレリはそれを見て小さく頷く。
「コレねぇ……」
『君はいっその事、今出来る手段をひたすらに伸ばした方が良いかもしれんな』
『今出来るって……《雷電魔法》を纏うやつよね?』
『ああ。先天的か後天的かは解らんが、君はスキル《怪力》とエクストラスキル《怪力無双》、エクストラスキル《魔力完全中和》、エクストラスキル《魔法特性体現》の四つの馬鹿げた性能のスキルを持っている。コレを活かさずして何とする、という話だ』
『……なんか馬鹿げたって言い方気になるけど、私としても有り難いわね。今から他の事やらされるよりは断然』
『だろう? ならまずは文字通りの意味で〝光速〟で移動出来るようになろうか』
『は、はぁ!?』
『《魔法特性体現》を最大限に活かせば可能だろう? ホラ、準備しなさい』
『いやちょっとっ!? アレ今でさえ結構シンドイんだけどっ!? アレより早くとか死ねるんだけどっ!?』
『今の君を越えなければ本当の意味で死ぬ事になるぞ? 愚痴なら後で飯休憩の時に聴いてやるから早くしなさい』
『ぐ、ぐぅぅ、もうっ!!』
(はぁ……。結局訓練じゃ最後まで上手く行かなかったけど、仲間が必死な姿って、案外力になるものね……)
雷光輝く自分の手を繁々と見ながら内心でそう思い馳せるヘリアーテ。
「名付けるならそうね。「雷兎走モード」ってとこかしら?」
「ふふ……」
ヘリアーテが渾身のネーミングに少しだけ満足感を覚えると背後から微かな笑い声がし、彼女はその方向へと振り向く。
そこには若干覚束ない足取りでゆっくり歩み寄って来る猫のシセラの姿があり、彼女は可笑そうに口元で前脚を隠しながら笑っていた。
「な、何よっ!?」
「ああいえ……。随分と、ふふ。個性的なネーミングだな、と……ふふ」
「笑ってんじゃないわよっ!! 悪かったわねぇ!? ボスみたいな会心のネーミングじゃなくてぇ!!」
「いえいえっ! 本当に悪くないと思いますよっ? 本当に……ふふ」
「ちょっとぉッ!? 笑い過ぎじゃないッ!?」
「そんなそんな……ふふふふふふ」
「ああもうっ! アンタいい加減に──」
「『ね、ねぇちょっと……』」
「「んん?」」
口論が始まりそうな中、そこに割って入る形で口を挟んだのは五体の内四肢が不満足となっているテレリ。
彼女は激痛に喘ぎながらも必死に言葉を紡ぎ、彼女達に一つの〝無茶な〟提案を投げる。
「『あ、アンタ達にはその……ボス? って人が居るのよね?』」
「『……まあ。そうね』」
「『な、なら一つ提案よっ! ワタクシをそのボスって人に紹介してみる気はないっ!?』」
「「はぁ?」」
テレリは必死だった。
(とにかく……とにかく生き残るのよっ!)
最早自分の勝ち筋は完全に失われ、残された道は限り無く少ないと察した。
しかしだからと言ってそれに身を任せこれから待っているであろう凄惨な未来への激流に大人しく流される程、彼女は潔くなど無い。
自尊心の塊であるテレリの頭の中には既に激流から何とか逸れ、少しでも命を繋ぎ止められる支流へ流れ着く為にあらゆるモノをかなぐり捨てて足掻く。
それが例え尊敬するユーリを裏切る結果になったとしてもである。
(ワタクシはまだまだ若いのよっ!? まだまだこれからなのよっ!? たった一時芽生えた尊敬なんかに命まで賭けてらんないわよっ!!)
実に意地汚く、醜いとさえ言える悪足掻きだが、テレリはそれを一切躊躇せず口にする。
自分なりの生存戦略を……。
「『アンタ、今なんて……』」
「『ワタクシをボスに紹介して欲しいのよっ! ワタクシは……ホラっ! リンダールを使い熟せるし即戦力になるわっ!』」
「『……ふーん』」
「『それにワタクシはアールヴ──いえエルフ族の中でもかなり上位の権力者なのよっ! ワタクシを懐に納めれば国の半身を手中に出来ると言っても過言じゃないのよっ!?』」
「『ほう。成る程』」
「『そ、それに……』」
「『ん?』」
「『い、今はこんなボロボロだけど、治せばワタクシの容姿は中々に端麗だと客観的に評価出来るわっ!!』」
「『……だから?』」
「『わ、ワタクシを貴方方のボスの妻──いえ妾でも良いわっ!! きっと相応しいと思うのよねっ!!』」
「『はぁ? アンタ、バカじゃないのっ?』」
ヘリアーテは改めてテレリへと歩み寄ると彼女の眼前で屈み、鋭い目線でテレリの目を覗き込んだ。
「『今アンタがなんか要求出来る立場なワケっ!? 違うでしょっ!? 生殺与奪を握ってるのわワ・タ・シ・タ・チっ!! 何を言おうが関係無いのよっ!!』」
「『そ、そんな事は無いわっ!!』」
「『はぁ?』」
「『言ったでしょう? ワタクシは国の半身を担う権力者だってっ!! ワタクシが一言掛ければ女皇帝陛下に悟られる事無く国の半分が犠牲無く〝降伏〟して動きを止める……つまり戦争なんてあっという間に片付くわっ!!』」
「……」
ヘリアーテはその言葉を聞きシセラへと振り返る。
彼女の言っている事は一応正しい、と二人共に知っている。クラウンからテレリについて知る限りを教えられたているからだ。
故にテレリの〝国の半数が降伏〟するという言が少々魅力的に感じ、判断を鈍らせ即決出来なくしていた。
勿論彼女達は既にクラウンの裏工作によって戦争での勝利が確約されていると確信しており、テレリの提案を聞き流しても何ら問題は無いという頭もある。
だが可能であるなら戦争など早く終わるに越した事は無い。その思いはどうしても拭えなかったのだ。
「……一応、クラウン様に確認しておき……うぅ」
「ちょっと大丈夫なの? 私が連絡しよっか?」
「ああいえ、ご心配無く……。《魍魎》の反動のせいか多少頭がボーッとしますが、問題ありません」
「いやでも……」
「貴女はそれを見ていて下さい。万が一それが奥の手を残していた場合、抑え込めるのは貴女だけです。なのでお願いします」
「うーん、分かったわよ。でもちゃんと伝えるのよ? 変な誤解される言い方しないでね?」
「ふふふ。大丈夫ですよ。いくら頭が回らないからとそんな事にはならな──」
数分後──
「されてんじゃないのよ誤解っ!? あんな言い方したら誰だって「妻か愛人にしたら降伏してやる」みたいに受け取るわよっ!!」
「し、仕方ないではないですかっ!! あの方の声を聞いたら急に安心感で力が抜けてしまって頭がより回らなくなってしまったんですからっ!!」
「だから私がやるって言ったのよっ!? そもそも連絡取りながらコイツ見張るくらい出来るって話よっ!!」
「貴女以前に『《遠話》は気持ち悪いから出来れば使いたくない』と言っていたでしょうっ!? だから私が気を遣って連絡を請け負ったのではないですかっ!!」
「はあ? じゃあ私のせいって言いたいワケぇっ!?」
「そうは言っていないでしょうっ!!」
「同じ事よっ!!」
「『……』」
またもや口論を始めた二人の姿に、テレリは全力で脱力感を覚える。
人族語は解せないが、何やら交渉が決裂したのだけは何となく察し、且つこんな馬鹿みたいな口喧嘩を繰り広げるような者達に敗北したという事実を実感して力が抜けてしまったのだ。
(でもまあアレね。取り敢えずは今すぐ殺されないのなら、まだやりようはありそうね)
ここに来てもまだ生き残る為の算段に余念が無い彼女は、二人の口論を眺めながら大雑把に次の生存戦略を組み立てていく。
(この様子だとそのボスってのには会えるかしらね? ならボスに直接交渉して妻か妾……最悪末席にでも着かせて貰いましょう)
彼女は知らない。シセラの誤解を招く言い方のせいで既にクラウンからの好感度は最底辺に到達し、最早交渉の余地など一縷の可能性も無い事を……。
(はぁ……。でも何があるか解らないから、今やれるだけはやりましょう。そうね……)
テレリは少しでも何か出来ないかと今の自分の残り魔力量を感覚的に把握し、そして落胆した。
(何よ、ワタクシ頑張り過ぎじゃない? 《痛覚耐性》分を差し引いたらスキル一回分って……)
だが彼女としてもこのままやられっぱなしは癪に触る……。そう感じたテレリは未だ口喧嘩を繰り広げる二人の内、ヘリアーテに視線を集中させ《解析鑑定》を発動させる。
(あの猫も気になるけど、何の手立ても無いこの小娘の情報は少しでも欲しい……。一体どんなスキルを──)
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人物名:ヘリアーテ・テニエル・ヘイヤ
種族:人族
年齢:十六歳
状態:疲労困憊、各所炎症
役職:ティリーザラ王立ピオニー魔法教育魔術学院一年生、クラウン・チェーシャル・キャッツ部下
所持スキル
魔法系:《炎魔法》《風魔法》《雷電魔法》
技術系:《剣術・初》《ナイフ術・初》《大剣術・初》《大剣術・熟》《大斧術・初》《大槌術・初》《体術・初》《調理術・初》《手芸術・初》《顎襲崩斬》《斬衝崩撃》《剛衝斬》《唐竹割り》《兜割り》《雷光崩斬》《雷衝斬》《強力化》《剛力化》《怪力化》《防壁化》《高速化》《俊敏化》《飛躍化》《集中化》《無心化》
補助系:《体力補正・I》《体力補正・II》《魔力補正・I》《魔力補正・II》《筋力補正・I》《筋力補正・II》《筋力補正・III》《筋力補正・IⅤ》《筋力補正・Ⅴ》《防御補正・I》《防御補正・II》《抵抗補正・I》《敏捷補正・I》《敏捷補正・II》《敏捷補正・III》《集中補正・I》《器用補正・I》《幸運補正・I》《幸運補正・II》《斬撃強化》《衝撃強化》《破壊強化》《筋力強化》《握力強化》《ピンチ力強化》《腕力強化》《脚力強化》《馬力強化》《胸筋強化》《腹筋強化》《背筋強化》《大臀筋強化》《大腿筋強化》《持久力強化》《瞬発力強化》《跳躍強化》《反射神経強化》《動体視力強化》《三半規管強化》《平衡感覚強化》《集中力強化》《思考加速》《高速演算》《演算処理効率化》《魔力精密操作》《魔力完全中和》《魔法特性体現》《気配感知》《危機感知》《遠話》《戦力看破》《隙看破》《怪力》《怪力無双》《直感》《超直感》《挑発》《威圧》《剛体》《不屈》《雷撃》《感電》《帯電》《電撃耐性・小》《電撃耐性・中》《電撃耐性・大》《麻痺耐性・小》《麻痺耐性・中》《痛覚耐性・小》《痛覚耐性・中》《疲労耐性・小》《気絶耐性・小》《炎魔法適性》《風魔法適性》《雷電魔法適性》
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その膨大なスキルを目の当たりにし、テレリはそっと《解析鑑定》を解除。深い溜め息を吐きながら静かに瞼を閉じ、色々と悟った。
もしかしたらこの戦争、自分達の必敗なのではないか? と……。
(この年齢であの実力……加えてこれだけスキル抱えてるような奴が最重要危険人物に載ってたクラウン・チェーシャル・キャッツの部下? 最悪こんなんがまだ居たりすんの? あはっ。笑えない現実だわ……。て、いうか──)
思わず笑いすら込み上げて来たテレリは、そもそも自分が何故こんな目に遭っているのかを思い返し、更に敗北感を味わう。
(第一に奇襲を迎え討たれた時点で察するべきだったわね。極秘だった筈の奇襲が読まれてたって事でしょ? つまり内部からの情報が筒抜け……んなもん勝てるワケないじゃないっ!! もしかしてこれもボス──クラウンって奴の仕業じゃないでしょうねっ!?)
彼女達の思うクラウンという存在……。
そして自分達が舐め腐っていたティリーザラという人族の国の底知れなさ。それに触れてしまった気がしたテレリは、だがそれを知り寧ろ己が命により執着心を燃やし、決意する。
(はあ……。何にせよアールヴが負けるなら何としてでもクラウンってのに取り入らなきゃならないわね、これは。ワタクシ、絶対に諦めないわよっ!!)
ヘリアーテとシセラ。二人の口論冷め止まぬ中、テレリは一人執念を燃やし続けていた。
次回はメスガキが出るよっ!!
お楽しみにっ!!




