第七章:暗中飛躍-27
「くそ……くそぉぉ……」
全身から力が抜けていき、ローテーブルからゆっくり後退しながら降りると、絶望したかのように四つん這いになる。
さてと。この女の諸々を暴き終わったわけだが、だからといってこれで円満解決かと言えば全くもって違う。
寧ろ私としては今からがスタートライン。
果物を揃え、調理道具を用意してその果実を切り刻んだ段階だ。今からじぃぃぃぃっくり、搾り取る。甘い甘い、果汁をな。
「さてさてローレルは──いいやローレル。お前が裏切り者である事をこれで暴いたワケだが、一つだけまだ判らない事がある」
「……わからない、こと?」
「ああ。私の推測ではお前はカリナンに誘われてエルフと結託したと考えている。だがこれに関してはあくまで推測でしかないんだ。故にお前から直接話して貰う必要がある」
今回の件。私が一番期待していたのはカリナンについての情報だ。
珠玉御前会議ではエルフに殺されていると、私は推測した。それならばモンドベルク家という立場にあり、洗脳なんてなんでもありな能力がこの国を滅茶苦茶にしていない理由になるからだ。
だがそれが果たして真実だろうか……。
推測ではあるが、あそこまで用意周到に準備をし、この国で最上位の立場にまでなった男がエルフにアッサリ殺される? あり得るのか?
奴は洗脳の類のスキル所持者……。ならば自身の死すら、敵味方に誤認させる事も可能なのではないか? そう、思い至った。
国が好き勝手にされていないのはこの際どうでもいいんだ。後で良い。
重要なのは仮に奴が〝生きていた場合〟どうなるか、だ。
もし奴にとって今の状況が望むものであったなら、それは非常にマズい。もしかしたら私が兼ねてより謀っていた計画に支障が出る可能性もある。
故に私は知らねばならないのだ、徹底的に、奴の……カリナンの事を。
「さあ話すんだローレル。お前はカリナンとどんな会話をし、どんな契約を結び、そして奴がどんな人間だったのか……」
カリナンと深い関係を築いていたモンドベルク家の人間が皆奴に善人と騙されていた以上、彼等の情報では非常に心許ない。
もっとカリナンの〝裏側〟と関わっていた人間からの情報が欲しいと考えていた。それがローレルだ。
今回のローレル捕縛作戦にはロセッティの復讐達成の他に色々と思惑を絡ませているが、主な目的はこのカリナンについての情報の入手が私の中ではメインなのだ。ロセッティには悪いがな。
「さあローレル。話すんだ」
「……誰が」
「……」
「誰が貴様なんぞに話──」
這い蹲りながら私を睨み付けたローレルを、私は髪を掴み上げて無理矢理立たせてからその手で彼女の首を掴み直し、凍り付いたままの扉へと押し付ける。
「ガハッ!?」
「この期に及んで目付きと口の利き方を理解していないらしい……。プライドに振り回されるのは勝手だが、ちゃんと現状と立場を理解しろ。お前の生殺与奪は今、私 が 握 っ て い る ん だ」
そう私が囁くと、ローレルは涙目になりながら素早く何度も頷く。どうやら貴族としてのなけなしのプライドを捨てる気になったらしい。
後は甘い言葉を掛けてやれば……。
締めていた首から手を離し、咳き込みながらその場に崩れ落ちたローレル。それに合わせて私も同じ目線に座り、改めて彼女に囁く。
「なあローレル。もし今カリナンについて素直に話すというのなら、お前の今回の件、私から口を利いてやってもいいぞ?」
「ごほっ、ごほっ……な、なに?」
「正直な話、お前の一族……ローレル家は使えるんだよ。各上位貴族に身内が居り、ある程度ならば様々な権力を行使可能……。非常に魅力的な状況だ」
「あ、ああ……」
「だからこのままお前が捕まり、ローレル家が潰れるのは勿体無いんだ。お前の一族はまだまだ利用出来る……ここで潰えさすのは余りに惜しい」
「……」
「だがまあ、お前の犯した罪はかなり重い……。それを覆すにはそれなりの労力が必要だ。だからカリナンの情報だけでは少々釣り合わないと感じる。だから、私からもう少し要求したい」
「これ以上か……」
「当たり前だろう? まあ何にせよこの場で余り話し込むとコランダーム公に勘付かれる。場所を変えて話そうか」
そう言って私はローレルの肩に手を置き、スキル《奸商》《虚偽の舌鋒》《欲望の御手》を発動。これでいくら警戒心を発揮しようと首を縦に振るだろう。また振らせる、が正しいのだがな。
それとただ死なせてはローレルのスキルが勿体無いからな。サクッと回収してしまおう。やるからには徹底的に、だ。
「すみませんコランダーム公。存外にコイツ頑固でして……。場所を変えて説得したいのですが、宜しいですか?」
「……ああ。構わない」
「ありがとうございます。ロセッティ、扉を開けてくれ」
「はいっ」
私はローレルを立たせてからロセッティの魔法で凍り付いた扉を彼女に頼んで融かしてもらう。
「あ、ボスっ!」
するとロセッティが少し慌てたように私に声を掛け、小動物の様に急いで駆け寄って来る。
「ん? どうした?」
「あの……お話が終わってからで構わないので、お時間頂けませんか?」
「ああ。何にせよローレルを捕まえに治安維持ギルドが来るのを待たねばならないからな。その時にでも構わないか?」
「は、はいっ! お願いしますっ!」
ロセッティはそう言って頭を下げると、またソファの元の位置へ戻って行く。ふふふ、中々に面白い事になりそうだな。
と、それは兎も角……。
「ホラ、行くぞ」
念の為彼女の両腕を後ろ手に持って行き抵抗出来なくしてから別室へと向かう。さて、搾り尽くそうか。
「やめろっ! 離せっ!! 離せぇぇっ!!」
ローレルが治安維持ギルドのギルド員達の手によって捕縛され、専用の馬車へと連行されて行く。
勿論、諸々の証拠は彼等に渡し、経緯等も報告済みだ。このまま何事も無ければ間違いなく彼女は収監ギルドへ移送され、国賊として相応しい処罰が下されるだろう。
が、それもこのまま何事も無ければの話。
ローレルは私が後程に裏から手を回して処罰を逃れられると信じている。それもあって怪しまれないよう、ああやって頑張って抵抗している演技をしているわけだ。
と言っても既に彼女からカリナンの話を聞く事が出来たし、彼女のスキルも全て私の手中に収まった。
ローレル家の持つ各上位貴族家に潜り込んだ血族の利用に関しても、彼女に代わる代替人は用意済み。
つまり彼女の価値は最早無い……と、違うな。ロセッティの真の復讐と、死体にまだ用があるのだった。
まあ何にせよ、私がローレルにした約束なんぞ当然嘘。叶えるつもりなど毛頭無い。
ああやって演技をしているが、全くもって無意味な演技だ。必死な姿には涙が出てくるな。ふふふ。
「お疲れ様クラウン」
と、そんなローレルの最期の背中を見ていると、コランダーム公が私に労いの言葉を掛けてくれる。
「いえいえ、この程度は朝飯前ですよ。奴の警戒心や事情が色々と入り組んでいたから複雑に見えただけで、結局は奴がエルフと結託して裏で動いていたのは他の裏切り者と変わりません」
「それが私達では出来なかったから、こうやって面倒な事になっていたのだがな。……本当に、私達も気を引き締めなければならん」
そう語るコランダーム公の目には、普段の会話からは全く別の真剣味が宿っている。
どうやら漸くこびり付いていた平和ボケという名の錆が落ちたらしい。これからはコランダーム公の本気を見られるかもしれないな。
「あ、あの、ボス」
「ん?」
その声に振り返ると、私の背後でロセッティが少し焦れたようにソワソワし、連れて行かれるローレルを目線で追いながら立っていた。
ふふふ。どうやら居ても立っても居られないようだな。中々に愛い奴だ。
「そう焦るな。心の準備だけしていなさい」
「む? なんだ? なんの話を──」
コランダーム公が何かを言い終わる前に、私が指を一度鳴らす。
瞬間、今にも馬車へ押し込まれそうなローレルの拘束具が小さく爆ぜ、彼女の両手が自由になる。
そして急な小爆発に驚愕し思わず身構えてしまった治安維持ギルド員の隙を突き、ローレルがギルド員達を押し退けて駆け出した。
「なっ!?」
「さあ、ロセッティ。行って来なさい」
「は、はいっ!」
嬉しそうに笑顔を浮かべたロセッティは、逃げ出したローレル伯の後を追うように駆け出す。ふふふ。まるで欲しい物が発売したのを待ち焦がれていた子供のようだな。
「……おいクラウン」
私がそんなロセッティの走り去る姿に微笑んでいると、横にいるコランダーム公から不穏な気配を孕んだ声音で名を呼ばれる。まあ、そうなるだろうな。
「何でしょうか?」
「君の事だ。私が何を言いたいのかぐらい分かるだろうが敢えて聞こう。何故奴の枷を壊した?」
ふむ。流石にバレるか。まあ問題ない。
「貴女だって、もう分かっているでしょう? 私が何の為にあの女の枷を壊し、ロセッティに後を追わせたのかくらい」
「……余り復讐を助長させる行為は、感心しないな」
感心しない、ねぇ……。
「コランダーム公もアレですか? 「復讐は何も生まない。残るのは虚しさだけだ」ってありきたりな思想の持ち主だったりするんですか?」
「そこまで具体的ではないが、間違いではない、とは思っているよ」
「そうですか。なら私の意見とは少し相入れませんね」
まあこれは人によるというか、育った環境や境遇、経験によるのだろうが、私としては復讐は──
「私としては復讐は、果たせるならば果たすに越した事はないと考えています。勿論状況にもよるでしょうが、可愛い身内の復讐ならば、叶えてやりたいと思いますね」
「その結果が、虚しさだとしてもか?」
「虚しさ? ふふふ。貴女も案外純粋なのですね」
「何?」
「復讐を果たして残るのが虚しさだけなど、そんなものは絵物語か英雄譚だけの話ですよ。復讐ほど、人生に安らぎを与えてくれるものはありません」
この世に自分を害し、苦悩を与えた存在が消える……。それがどれだけ自身の人生に於いて安心感と開放感を与えてくれるか。経験の無いものには分からんだろうな。
「……なあクラウン」
神妙な面持ちになったコランダーム公が私の正面へ回り込むと、まるで心の底を覗かんとするように私の双眸を真っ直ぐと覗き込む。
「……何でしょう」
「改めてこんな事を君に聞くのは何なんだがぁ……。君は、一体何者なんだい?」
「……」
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「はぁ……はぁ……はぁぁぁ……」
全速力で走るシルヴィ・バーベナ・ローレル。
もう間もなく伯爵位が剥奪される彼女は、誰かが追って来ているかもしれないと入り組んだ道をひたすらに選んでがむしゃらに走った。
普段から運動不足を嘆いていたローレルは息も絶え絶えで、とある路地裏に入って暫くした後に彼女は壁に手を付きながらその足を止め、荒い息を吐きながら両膝を地面に着けた。
「はぁ……はぁ……。な、何故かは分からないけど、逃げら、れた……」
ローレル自身、何故いきなり枷が壊れたのかは理解していない。だがそれでも、逃げるチャンスだと直感が彼女に教え、ギルド員達を振り解いてつい逃げて来てしまったのである。
「はぁ、はぁ……。でも、これからどうすれば……。彼との、約束はどうなる?」
クラウンとした約束。それは収監ギルドに収監された後、彼がコネを使って裏から手を回し自分の罪を雪いでくれる、というもの。
俄には信じ難い話だが、ローレルはクラウンの説得力と強い言葉に不思議と信頼感を覚え、信じる事にしたのだ。それがスキルの仕業とも知らずに……。
だがこうして逃げ出せてしまった今、その約束もどうなったかは分からない。
「彼の事だ……。もしかしたらそこら辺も上手くやってくれるかもしれんが……。問題は当座の居場所だ……」
エルフと繋がり、同族を殺し、経済を混乱させ、国を裏切った女……。そんな人間が辛くも逃げ果せたところで行く宛などあろう筈がない。
一縷の可能性があるとすれば……。
「エルフを頼る……? いや、無理だ……。国内に居たエルフは全部収監ギルド……。だからって私一人で国を出てアールヴに行くなんて……。ん?」
いくら考えても暗雲が立ち込める未来に項垂れたローレルであったが、ふと目の前に迫る気配に気が付き顔を上げる。
するとそこには──
「お疲れのようですね」
「──っ!? あ、あなたは……ドロマウスの……」
「はい。初老を迎えると記憶力が低下すると聞きますが、流石についさっきの事は覚えていましたか」
笑顔で出迎えたロセッティはその表情のまま皮肉を口にすると徐にローレルへと歩み寄る。
するとローレルはその笑顔に何かを察知し、背中に冷たいものを感じると尻餅を付いてそのまま後退りする。
「な、なんでここに……っ!? まさか……わ、私に、復讐をしにかっ!?」
そう怯えて問い掛けるローレルに、ロセッティはクスクスと笑う。
「うふふ。そうに決まっているじゃないですか。貴女のような面の皮が厚いだけの女狐に、わたしがそれ以外に何を求めて会いに来るんですか?」
普段の性格から逆転したかのように毒舌を吐き続けるロセッティは、ある一定距離までローレルへ近付くと立ち止まり、辺りを矯めつ眇めつ見回す。
「うーん。ここなら丁度良い、かなぁ……」
「な、なんなんだ……」
ロセッティの謎の行動に思わず眉を顰めたローレル。そんな彼女にロセッティは、長い前髪の隙間から瞳を覗かせるように首を傾け、その眼光を妖しく輝かせる。
「大した事じゃないです。ただ随分と具合の良い場所に自ら入ってくれたな、と思っていただけですから」
「ど、どういう意味だ……?」
「……実は貴女が治安維持ギルドに捕縛される少し前、わたしクラウンさん──ボスととある事を交わしたんです」
「な、なんの話を……」
「《魂誓約》というスキルがありましてね? それを使って誓約を交わすと、お互いに素晴らしい恩恵が得られるんです」
そう嬉しそうに語るロセッティは、けれども恐れ慄くローレルから目を決して離そうとはせず、彼女をその場で縫い付ける。
「それで私、ボスと誓約を交わしました。恩恵も負担も大きな誓約ですけど、わたしの中の蟠りを解き、わたしが一生涯抱える覚悟をしていた復讐をあの人は解決に導いてくれた……。あの人こそ、わたしが人生で戴くべき人だと確信したんです」
重々しく語るロセッティから、その重量感を伴うような魔力が滲み、漂い始める。
しかしいつもならばその魔力には冷気が纏わり付いているのだが、今彼女から滲む魔力にはそんな低温は感じられない。
寧ろ生暖かく、何処か這い寄るような不気味さを孕んでいた。
「それでわたし、《魂誓約》を交わした事でボスから沢山のスキルを頂いたんです。そのお陰でまだまだ制御が出来なかった魔法も扱えるようになって……。本当、あの人はわたしなんかの想像を簡単に越えていきます」
クラウンはロセッティと《魂誓約》を交わした際、グラッドと交わした時同様に彼女にも《強欲》を使って幾つか自分が習得済みのスキルを習得させた。
それらはまさに、ロセッティに相応しいスキル群。これにより間違いなく彼女は更に強く、そして凶悪な存在となった。
『了解。ユニークスキル《強欲》を発動。クラウン様から個体名ロセッティ・ゲイブリエル・ドロマウスに共有されている一部スキルの習得補助を開始。──成功しました。個体名ロセッティ・ゲイブリエル・ドロマウスは《杖術・熟》《魔力補正・II》《集中補正・II》《集中補正・III》《集中力強化》《触覚強化》《寿命拡大》《高速演算》《並列演算》《魔力緻密操作》《魔力感知》《扇動》《強奪》《魔道の導き》を習得しました』
「うふふ。そのお陰で、ホラ……」
「──っ!?」
ふと、ローレルは息がし辛い事に気が付く。
その余りの息苦しさに空気を吸い込まなければと深呼吸をしようとして、次の瞬間得体の知れない苦痛が全身を駆け巡った。
「がっ!? ごぁぁっっ!?」
両手で首を抑え地面でのたうち回るローレルを見て、ロセッティは昏い笑いを漏らした。
「あらあら、うふふ。まるで死に際の虫のようですね。あぁでも、今の貴女には女狐よりも死に際の虫の方が相応しいかもしれません」
苦しみのたうち回るローレルに対し、ロセッティは彼女を見下しながら話を続ける。
「私元々武器等の扱いは不得手なので、ボスからは魔法を重点的に鍛えられました。その甲斐あって得意な《氷雪魔法》の扱いは上達しましたし、新たに《闇魔法》も短期間で体得出来たんです」
「ぐ、ぐぅぅ……」
「それでボスの提案で《闇魔法》の次の段階に挑戦しないか、と言われたんです。どうやらわたしには《闇魔法》の才能があったみたいでしたし、魔力の使い方もわたしが得意な精密性を極めたものだったので、わたしはそれを承諾しました」
「な゛……な゛に゛を゛……」
「それでその次の段階というのに挑戦したんですが、これが中々に手強くて……。以前のわたしでは上手く制御出来なかったんです。もう少し修行を重ねる覚悟をしていたんですが……」
ロセッティは両手を広げ、その場で踊るようにクルクルと回る。それはまるで湖畔で舞う踊り子のようで、優雅で美しく、けれども毒々しく妖しくローレルの目には映った。
「先程の《魂誓約》で、私の未完成だった新たな魔法の制御が叶いました。もう、何の魔法かは体感してお判りですね?」
「ご……が……」
「名を《病毒魔法》……。ボスすらまだ習得していない、私だけの絶対広範囲支配魔法です。ま、ボスならあっという間にわたしなんか追い抜いちゃうと思いますけどねっ」
「ぐ……」
「あら? もう毒が頭にまで回ってしまったんですか? 思っていたより軟弱なんですね、虫って……」
そう言って呆れるロセッティに、ローレルは全身を侵し始める苦痛を堪えながら全身全霊を賭して持ち直し、彼女に向かって制止させるように手を伸ばした。
「……なんです?」
「わ、私は……君のボス、クラウンと約束している……。私を助けて、くれる、と……」
「ふーん……」
「だ、だから君が私を殺せば、それは──」
「やっぱりボスは凄いなぁ。こんな状況でも信じ込ませられるなんて……。敵わないなぁ」
「──っ!?」
その瞬間、まるで堰を切ったように自身の中に様々な疑問が浮上する。
何故あんな話を素直に信じたのか?
何故疑わなかったのか?
何故彼にそんな事が出来ると思い込んだのか?
何故、何故、何故、何故、何故……。
「あぁ……あ゛ぁぁぁぁ……」
自分の中で何かが音を立てて崩れるのを幻覚したローレルはその場で倒れ伏し、声も出せずに身体が痙攣を始める。
「冥土の土産です。最期に貴女を殺す魔術の名を覚えて、逝って下さい」
「……」
「《病毒魔法》……「苦悩の微睡み」。それが、貴女を醒めない眠りに誘う魔術です」
辺りに漂う毒霧が、ローレルを包み込んでから消えて行く。まるで彼女の魂を、侵し持ち去って行くように……。
こうして静かに、ロセッティの復讐は果たされたのだった。
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