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強欲のスキルコレクター  作者: 現猫
第三部:強欲青年は嗤って戦地を闊歩する
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第六章:殺すという事-4

 

「ん゛っんんっ……!! 収束した、でよいのだなディーボルツ」


 国王陛下は咳払いをした後、皆の注目が集まったタイミングでモンドベルク公にそう投げ掛けた。


「はい陛下……。議題であったクラウンの魔王疑いは偽証──私の失態を報告する為の嘘の議題。無礼をお許し下さい」


「うむ。私に謝るのも良いが、少年にも後程謝罪するのだな。在らぬ疑いを掛けられさぞ居心地の悪い思いをしたであろう」


「はっ。後程彼には然るべき処置を致します」


 ……少し引っ掛かるな。


 モンドベルク公が貴族としてのメンツやその内容を鑑みて別の議題でカモフラージュしたのは理解出来る。


 だがそのカモフラージュの議題を「クラウンが魔王」というものにする必要性が本当にあったのか?


 確かに魔王という存在は国にとっては重大な問題だ。最高責任者達での話し合いを設けるには打って付けの議題だろう。


 だがその魔王の対象をわざわざ私に指定したのは何だ?


 私が会議に参加出来るように?


 彼程の人物ならばその(げん)一つで私一人くらないなら何とかなるんじゃないのか?


 一般人ならまだしも、私は一応〝翡翠〟の後継者候補ではあるのだ。不可能ではない筈。


 ……モンドベルク公は私が魔王であると疑っていた。


 まさか彼は他の珠玉七貴族や国王陛下に印象付けたかったのか? 私が魔王の可能性があると、僅かにでも頭の片隅に置いておく為に……。


 だから私の魔王疑いの議題についての問答を直ぐには止めずに静観していたのか?


 だとすれば……。


 私はモンドベルク公の事をそれとなく見てみる。すると私の視線に気が付いたモンドベルク公は少しだけ驚いた顔をした後、小さく含み笑いを私に向ける。


 ……ふふ。とんだ爺さんだな。釘を刺したわけだ。仮に私が魔王であった場合に私に好きにさせない為に。


 下手な事をすれば私に疑いが向くように……。


 私は少し、どこかで彼を侮っていたのかもしれないな。


「皆ももう異議や意見は無いな? ……ならば次の議題に移るとしよう」


 国王陛下が何の意見も無いのを再確認するとそう進行役の父上に目配せする。


「はっ。……次の議題は「クラウンの戦争時における前線の参戦」についてです」


 私の前線の話……。


 私にとって重要な話ではあるのだが、正直な所、これはわざわざ珠玉御前会議で話す議題なのかと疑問に思う。


 そりゃあ前線は重要な要ではあるが、〝翡翠〟後継者候補ではあるが身分は学生であり一般人とそう変わらない私の有無など珠玉七貴族と国王が顔を揃えて話し合うか?それを何故わざわざ……。


 いや、何にせよここで私が前線に出る手筈にならなければ功績を挙げる私の望みが叶わなくなる。なんとか誘導せねばな。


「はいはーい、質問質問」


 少しテンションが低くなっていたエメラルダス侯がやる気無さ気に挙手をして皆に呼び掛ける。


「……なんじゃ?」


 代表してモンドベルク公が口を開くと、椅子に沈めていた体を起こしながら私に視線を送って来る。


「そもそも彼をこの場に呼んだのはなんで? さっきも言ってたけど説明してくれんでしょ?」


「そうだったの。……理由は単純。この議題をスムーズに進める為じゃ。本人が居た方が捗るじゃろ?」


「そりゃそうだけど……。そもそもこれさぁ。わざわざこの場で話さなきゃならない事なの?」


 私も抱いた同じ疑問をエメラルダス侯が気怠げに言うと、エメリーネル公もそれに頷く。


「同意見だ。そんなもの我々が協議する必要は──」


「ちょいと浅はかじゃあないかね? サイファー」


 エメリーネル公の言葉を遮り、アゲトランド侯が若干呆れたように笑うと、エメリーネル公とエメラルダス侯は不快そうに眉を(ひそ)める。


「どういう意味ですかな? オパル女史」


「エルフとの戦争は遊びじゃあない。必ず勝たねばこの国にとって最悪の未来が待っているだろうさ。その戦争の前線を()()()人間だよ? 重要な案件に決まっているさね」


「しかしですなオパル女史。前線といっても当然一人で戦うわけではありませぬ。彼がどれ程優秀であろうと、全体を見れば差異でしかありません」


 私は基本的に楽観視はしないし自惚れる事も意識して避けている。


 活躍しない、と(へりくだ)りはしないが私一人の存在が戦争を左右すると考える程能天気ではない。


 故にエメリーネル公の言う通り私という戦力が珠玉御前会議に上がるような──そこまで重要視されるような事とは考えていなかったのだが……。


「確かにねぇ。だがその全体から俯瞰して見ても坊やが加わるのと加わらないのとでは大きな差が生まれると、あたしは考えている」


「何を根拠にそのような事を……」


「先日の事さね。あたしの元に一つの報告が入ったのさ。()()からね」


 帝国……。まさか。


「帝国? ですか?」


「ああ。なんでも課外学習で帝国を訪れていた引率一人と学生四人からなる集団がいたらしくてねぇ。その内の学生の一人が巨大なヒルシュフェルスホルンを魔物討伐ギルドに持って来たらしいんだよ」


「……」


 何かを察したエメリーネル公とその話を聞いていた他全員が私に視線を向ける。


 成る程、私が魔物討伐ギルドで魔物の解体依頼を出した事を報告されていたか。


 まあ確かに身分を明かしていたし、あのサイズのヒルシュフェルスホルンは珍しいという話だったからな。本国に何かしらの情報が報告されてもおかしくはない。


 全く考えなかった訳ではないのだが、だからといって折角苦労して狩った魔物を放置するなど考えられない。


 それに報告されたとて罪を犯したわけではないのだ。堂々としていれば問題など起こるはずもないと考えていた。


 それがまさかこんな場で矢面に立つとはな。


「……小僧、貴様か?」


「ええ、間違いありません」


「単独での討伐か?」


「まさか……。同行していた友人達と共同で仕留めたのです」


「……ふむ。そのヒルシュフェルスホルンという魔物がどのような魔物かは分からぬが、帝国からオパル女史に報告が行くぐらいだ。中々の獲物だったのだろう。だが魔物一体を仕留めたからと言って──」


「一つ良い?」


 エメリーネル公の言葉を遮る形で挙手したのはコランダーム公。彼女は経済を担当する貴族であり、傘下ギルドに冒険者ギルド、魔物討伐ギルド、商業ギルドを抱えている。


 つまりは彼女も……。


「私の元にも各地の魔物討伐ギルドから報告を受けてるよ。同じ時期にね。学院の生徒がエライ巨大な魔物の解体依頼をしに来た、ってね」


「一体だけでは無いのか?」


「私の知る限りじゃ三体……。セルブとパージン、それとカーネリアの三箇所で依頼してるね」


「全部で四体……。確かなのか?」


「本人が居るんだ、聞いてみなよ」


 そう促され私に視線を移したエメリーネル公は目で「本当か?」と訊ねて来る。


 嘘を吐いても意味はない。正直に答えよう。


「数日を費やし狩りを行いました。(あらかじ)め釈明させて頂きますが、帝国には遺恨が残るような事はしていませんし全て自己責任の元に行動したまでです。何も恥ずべき事はしていません」


 私のこの発言にエメリーネル公はアゲトランド侯を見やり外交上の問題は無いのかと目で訴える。


「ああ、坊やの言う通りさね。少し獲物が特殊だったからあたしの所に事務的な報告が入っただけで外交上の問題は無いよ」


「成る程……」


「単独では無いとはいえ短期間に四体もの巨大な魔物を討伐した腕前……。それに加えさっき出た国への貢献の数々……。前線に送るか否かの議題に相応しい奴じゃあないのかね?」


 アゲトランド侯が口角を上げながらそう言うと、エメリーネル公は腕を組み唸りながら何かを思案し始める。


「まあ、ここまで持ち上げといてなんだけど、あたしは反対しておくよ。前線なんぞ腕に覚えしかない死に損ないのジジババに任せときゃいいんだ。若いモンはその背中を見て育てば良い」


「それはまた随分な手の平の返し方だね婆さん?」


「事実と願望を同列にしちゃあ駄目さね。あたしはただ坊やを前線に投入すれば状況が違うかもしれないって可能性を話したに過ぎないよ」


 言い分は(もっと)もだが、先程から発言力が強いアゲトランド侯が反対に回るのは具合が悪いな。


「ふーん……。まあ俺も反対かなぁ。こんなガキに前線の一つ任せるとか心配しかないしね」


「何だいゴーシェ。私とオパル婆さんが受けた報告が信じらんないのかい?」


「違うよルビー姐さん。ただ俺は自分の目でその実力ってのを確かめない限り信じ切れないって言ってるだけ」


「私もゴーシェと同じ意見だ。報告のみで実力が判然とせん若者を前線に送るわけにはいかん」


 アゲトランド侯、エメラルダス侯、エメリーネル公の三人は私の前線参戦に反対か……。


 残るはコランダーム公、アンブロイド伯、そして父上だが……。


「私は良いと思うけどね」


 そう発言したのはコランダーム公。彼女は私と目が合うと露骨なウインクをして謎のアピールをしてくる。


「理由は?」


「実は私、以前彼とセルブの冒険者ギルドで会話した事があってね。その時その子ちょっとした揉め事に巻き込まれてたんだよ」


 ほう。あの時の話を持ち出してくれるのか。


「揉め事?」


「大した事じゃないよ。ただマナーの悪い冒険者三人にその子の連れが絡まれてるのを助けて追い返したってやつ」


「ふん。その程度の些事、何の判断材料にもならんではないか」


「まあ普通はそうなんだろうけどさ。後で詳細をギルド職員に聞いたら色々と驚かされてねぇ」


「勿体振りおって……。昔からお前は話を迂回して焦らし──」


「いいから聞きなさいってっ。……その子、冒険者三人を脅かしたみたいなんだけど……」


「……うむ」


「その時さ、一瞬だけだけどギルド内に居た全員がその子に得体の知れない〝恐怖感〟を覚えたらしいんだよ」


「……恐怖感?」


 ……ああ、思い出した。


 あの時は確か無礼な冒険者三人に一瞬だけだが《恐慌のオーラ》を使い脅かしたんだったな。


 ただあの時はまだ《恐慌のオーラ》の制御を熟知していなかったからな。僅かばかり周りにもその影響を与えていたのかもしれん。


 色々とナメた態度を取られたせいで頭に血が昇り判断力が鈍っていたか……。私の悪いクセだな。


 しかし今回はそれが上手い具合に作用してくれた、と見ていいのか?


「原因は分からない。けどあの時ギルド内には新人ギルド員や初心者冒険者は勿論、修羅場を潜ってきたベテランギルド員や歴戦の冒険者が何人か居てね。そいつらすらもその子に戦慄を覚えたって噂してたらしいんだよ」


「王都の本部に集まるギルド員や冒険者達を……。それは──」


「ああ。それは(ひとえ)にその子があの時あの場に限りは誰より強かったって事の証明だ。ゴーシェと同じ理論で言うなら私はその子の実力を間近で体感したって事になるね」


「それが参戦する事に賛成する理由? ちょっと弱い気もするけどねー」


「まあ私は君等と違って一応報告にあった解体依頼されてた魔物三体を視察しに行ったからね。アレを討伐出来るって目の当たりにしたからってのが一番大きいね」


「結局そこかー。……というかさー──」


 そこでエメラルダス侯は一旦区切り周りをぐるりと見回す。


「えーっと。反対が俺とオパル婆さんとサイファー兄さんで。賛成がルビー姐さんと──」


「……私、それとキャピタレウス導師だ」


 父上は少し複雑な顔をしながらそう発言し、師匠もまた同じような表情で頷く。


「へー。彼に一番身近な二人が賛成なんだ。随分と過激じゃない?」


「私は息子を信じている。今まで口にした事は必ず成し遂げて来た自慢の息子だ。そんな息子が「生きて最高の武勲を挙げる」と宣言したんだ。私はそれを信じ抜くまでだ」


 父上……。


「ワシもコヤツを信じておる。目の前で散々実力を見せられたからのう。信じざるを得ないとも言うが……。少なくとも、コヤツは出来ぬ事は口にせん。それだけは真実じゃ」


 師匠もまあ、面映(おもはゆ)い事をつらつらと……。


「ふーん。後はディーボルツ爺さんとアバさんだけど──」


「吾輩は陛下の御心のままに」


「あーはいはい……。じゃあ爺さん。貴方は?」


 またこのパターンか……。珠玉七貴族間はあまり身分の隔たりを感じさせないが、やはり決定打はモンドベルク公に委ねられるのだな。


「……戦争は遊びではない。そうだったなオパル」


「何さね蒸し返したりして」


「ワシも同意見じゃ。いくら彼から意気込みを聞き、彼の実力を披露され、信頼されているとはいえ、それを真に発揮出来るかどうかはまた別の話になってくる」


「……何が言いたいんだい」


「真に必要なのは数多の敵を前にしても怯まぬ精神。そしてそれらを討ち破らんとする気概じゃ。実力などその後に発揮すれば良い」


 なんだ? ここに来て精神論を持ち出すのか? それでは話が振り出しに──


「じゃあ何だい? 今度は坊やの精神性云々の話をすんのかい?」


「……いや、それより確実な方法がある。アバ、例の物を皆に」


「承知しました」


 アンブロイド伯は立ち上がると懐にしまっていた幾枚かの資料を取り出し、私や師匠を含めたその場全員にその資料を手渡す。


 内容は……。アールヴ南部の監視砦?


「先日、モンドベルク公に依頼されエルフの国であるアールヴに潜入中の我が傘下のギルド員に調査をさせました。調査員によればアールヴ南部の森の中に一つ、監視用の砦がある模様です」


 ……何?


 監視砦も気になるが、アールヴに潜入中のギルド員?そんなものを我が国でもやっていたのか?


 ……いや、考えてみれば当然か。


 向こうが考えている事をこちらもやらない道理はない。可能であるならば実行すべきだろう。


 だがモンドベルク公や現状のティリーザラの状況を鑑みるにその成果は奮っていないと見ていいだろう。奮っていたならば現状はもっとマシな方向に傾いていた筈……。


 エルフ共が優秀故に身動きが取れないのか、はたまた別の要因か……。


 いや、よそう。今はそれよりモンドベルク公の考えを聞かねば。


「監視砦……って、俺達を見張ってるって事?」


「厳密にはアールヴの領土への侵入者の監視、といったところである。しかし御理解頂ける通り、この様な場所からの侵入など我々は行うメリットが無い。故に最近までは形だけの砦であった」


 カーネリアに面した場所ならば砦に意味も生まれるだろうが、補給地点になり得る町や村も無く、ただただ距離ばかりが遠い南部に存在する砦に活躍出来る機会は殆ど無いだろう。


 それこそ無いよりはマシという保険の意味しか無いだろう。だが資料には……。


「しかし資料には最近になってその監視砦に何名かの兵が詰めたと書いてあるな……」


「女皇帝は余程の心配性……。それか余程あたし達人族に負けたくないんだろうねぇ。万が一の為にとそんな場所に兵を置いたんだろうさ」


 まあ折角ある砦だからな。私が同じ立場でも兵を置くだろう。


「で? この砦が何なのさ?」


「監視砦に詰めているエルフの数は十五〜二十名程度。都市であるトールキンまでの距離は遠く、また古い砦である為連絡手段も乏しい。故に援軍の要請やその到着の憂慮をしなくて済む」


 ……まさか。


「試すにはもってこいであろう? 彼の実力と精神性を試す、試練の場としては」

最近YouTubeを見ながらほのぼの系の小説を読む事にハマっているせいか日常風景を描きたい衝動に駆られている。


クラウンの趣味全開の話やティールの芸術の話。

ロリーナの薬学の話やユウナのコーヒーへの拘りの話……。


一瞬本編とは別に新しく書き起こしてしまおうかと悩みましたが、過去の失敗を思い出して思い止まっています。何より書いてる時間が物理的にも精神的にも無い……。


なのでもしかしたら近々ちょっと日常風景を挟んだりするかもしれません。話の進行は遅れてしまいますが……。どうかその時は暖かい目で見守って下さい。

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