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強欲のスキルコレクター  作者: 現猫
第三部:強欲青年は嗤って戦地を闊歩する
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幕間:嫉妬の受難・幸

 

「おかいんなさいっ!!」


 鎖帷子を着込み、心底疲れたように草臥(くたび)れた兵士風の男が自宅に帰ると、褐色の少女が元気一杯に出迎えた。


 男はそんな少女の顔を見るや否や突如少女を抱き上げ、彼女の頬に自身の頬を擦り付ける。


「おお、おおっ!! ただいま帰ったぞぉっ!! 可愛い奴めっ!!」


「おじさん、お髭痛いよぉ〜」


 少女はそう訴え掛けるが、その顔は満面の笑みを崩さず、言葉とは裏腹にそうされる事を全く拒否している素振りはない。


「おお悪い悪い、ごめんな」


「いいよっ! おじさん元気無かったけど、大丈夫?」


 男はその言葉に少し驚く。確かに入って来た時は疲れ切ってはいたが、少女を心配させまいと彼なりに即座に切り替えたつもりでいた。


 しかし子供というのは案外細かい所まで見ているもので、そんな彼の機微を見逃してはいなかった。


 そんな自分を心配してくれた少女に対し、男は作り笑いではなく本心から来る笑顔を少女に向ける。


「うーん、ちょっとだけ疲れてたけど、お前の顔見たら元気湧いて来たっ!! 心配掛けちまってごめんな」


「いいよっ。それより早くご飯食べよっ!! アタシお腹ペコペコっ!!」


「おお、そうだなっ!! んじゃ速攻着替えて来るから待ってろっ!!」


 男は少女を下ろすと意気揚々と自室に向かい、少女の「よーし、お夕飯準備しよっ」という可愛い独り言を背中で聞いてからゆっくり部屋の扉を閉める。


「……はあ……」


 男の口から自然と溜め息が漏れる。


 兵士である以上、肉体的な疲労は勿論あるが、それよりも今は精神的な疲労で彼は一杯一杯だった。


 あの少女が居なければ、今頃とっくの昔に心が折れて田舎に帰っていただろう。


「なんでここに来てまた悪化するかなぁ……。エルフもエルフだが、お偉い方々は一体何考えてんだか……」


 彼の頭を悩ませる物。それは数年前から徐々に沈静化して来ていた筈の人族とエルフ間の戦争がここ最近になってまた悪化し始めた事に起因する。


 一介の兵士でしかない彼には何がどうなってそんな状況になったか分かろう筈もないが、それでも近々戦争が激化する気配だけは感じられた。


「アイツ、どうすっかなぁ……。さすがに、マズいよなぁ……」


 今から数年前。丁度先程の人族とエルフの戦争が大人しくなり始めた頃、彼は当時赤ん坊だった今頃夕飯を拵えているであろう先程の少女を拾った。


 バスケットに入れられた彼女を拾い上げたまでは良かったが、その特徴的な耳を見て仰天。まごう事なきエルフの特徴である尖った耳をしていたのだ。


 彼も流石にそんな彼女をどうするか迷ったものの、必死に生きようと手を伸ばす彼女を見捨てる事など出来ず、彼は今居る自宅に彼女を匿った。


 以来彼は手探り状態で赤ん坊であった彼女を必死で育てた。


 敵を知る、という名目でエルフの事を調べまくり。何を食べさせれば良いか、何を与えてはいけないのか。


 種族的な性質、また積極的に与えなければならない物など徹底的に調べ上げた。


 長年の敵国の情報なだけあってエルフの情報は他の種族に比べて多く、なんとか大きな問題もなく彼女をここまで育てる事が出来た。


 彼自身、彼女をここまで育てられた事に内心でちょっと誇らしく思う一方、次にやって来た「女の子を育てる」というハードルにぶち当たり頭を悩ませていた。


 そんな最中、件の戦況悪化が降り掛かって来たのである。


「はあ……。今度こそ実家連れてくか? いやお袋や親父になんて説明すんだよ……。嫁さんも居ないのに子連れとか……。しかもダークエルフの……」


 彼女を拾った当初、同じ様に実家に戻って相談しようかと考えた事もあったが、ダークエルフの赤ん坊を連れて国内を歩き回る事の危険性を考え取り止めた。


 なんにせよ今この状況で彼女を外へ連れ出すなど出来るわけもない。


「あ゛あぁぁっ、もうっ!! 止めだ止めっ!! 考えてもラチがあかんっ!! どちらにせよあの子を外に出せないんだ……。戦争が一段落するまで、なんとかここでやり過ごすしかない……」


 そう結論付けた男は着ていた鎖帷子を脱ぎ捨て普段着に着替えるとリビングに向かう。


 そこには小さいながら慣れた手付きで食卓に食器を並べ、料理の世話までしている少女が一生懸命に配膳していた。


「あ、おじさんもうちょっと待っててっ!! あと少しで並べ終わるからっ!!」


「おう、ありがとうな」


 最初こそ男が料理や洗濯などの家事をやりながら少女の世話をしていたのだが、男がそういった家事全般がそもそも得意では無かった事と、物心付いた少女が彼の料理の味や雑な洗濯などに嫌気が差した結果、今の様に家事全般を彼女の仕事としている。


 当初はこんな小さい子に家事全般を任せるなんて……。とかなり気が引けていた男であったが、試しに任せてみれば、少女は見事な手捌きと計画性を発揮し、あっという間に男がやるより遥かに美味い飯と清潔な環境が整い、以来彼はそれら家事を少女に任せっきりにしている。


 少女は少女で役に立てる事が嬉しいのと、性格上そういった細かい作業が嫌いでは無かった事が上手いこと合致し、現在の形に落ち着いている。


「いつも悪いな。たまには料理手伝うか?」


「い、いいよ大丈夫っ!! おじさんはそこで座って私の料理ゆっくり食べてっ!!」

(おじさんの作る料理、味は薄いしなんだか変な臭いがするんだよね……。あれ食べるくらいならアタシが作る方が何倍も美味しいよ……)


 そう内心で愚痴をこぼす少女に気が付く事もなく、男は満足そうに椅子に座って少女の料理を待つ。


「そうか? ……ならいいんだが。それにしても、その歳で家事全般こなせるなんてなぁ……。育てたオレが言うのも何だが、良く出来た子だよお前は」


「そんな事ないよっ!! おじさんにはスゴくお世話になってるし、役に立てて嬉しいよっ!!」


「ハッハッハッ、そうかそうか。この調子ならいつ嫁にやっても恥ずかしくないなっ!! と、流石に気が早過ぎたか……。ハッハッハッ」


「……そう、だね」


 少女は男に背を向け料理に向き合う。


 その内から湧く不思議な感情で真っ赤になった顔を見られない様に、そして料理が焦げてしまう前に頭の中にある浮ついた気持ちを鎮める為に。


 この気持ちを悟られぬように……。






「…………」


 深夜、ソファーから体を起こしたユーリは頭を抱えながら長い溜め息を吐く。


 その格好は現女皇帝としてはとてもじゃないが相応しい服装などではなく、平民でももっとマシな服を着ていると言われても反論出来ないような布一枚のボロ着だ。


 この国で一番広く、そして豪奢に作られているであろう彼女の部屋も散らかり放題であり、使用人に運ばせた食事の残骸や今現在進行中の計画に関する膨大な資料で床の踏み場もない。


 寝床も本来ある天幕付きのキングサイズのベッドではなく、応接に使われるようなソファーで済ましている。


 勿論、この寝床にしているソファーもそれなりにする故に寝心地は悪くは無いのだが、それでも皇帝に相応しいかと問われれば首を横に振るだろう。


「久々に見たな……」


 そう呟いた後、夢の中で笑っていた少女とそれに気を良くする兵士の男の姿を思い返し、血が滲まんばかりに固く握った拳をソファーの背もたれに叩き付ける。


「もう帰って来ない……もう帰って来ないんだ。なのにアタシは……まだ夢想するのか……っ!?」


 ユーリはソファーから立ち上がると、大量の羊皮紙や紙媒体が積まれた本来の用途を失ったベッドを見遣り、横に置かれた棺のような木箱に歩み寄って勢いよく木箱を開ける。


 そして中身をじっくり見た後、「フフッ」と(くら)い笑いを漏らしてから中にある何かに抱き着く。


「ああ、でも、アタシにはおじさんが……。幸せになるんだ。アタシはおじさんと、幸せになるんだ。その為なら何人だって殺すよ。だからおじさん、一緒に幸せになろう……」


 そうやって安らかな表情で再び眠りに堕ちようとしたその時、彼女の部屋の扉が数回ノックされる音が響く。


 ユーリは少し不機嫌そうな顔をするが、ノックの回数が定期連絡に使われる類のものであった為、小さく嘆息だけ漏らしてから木箱を閉じる。


「入って良いぞ」


「はいっ、失礼致しますっ!!」


 扉が開かれると、そこには黒装束に身を包んだダークエルフが頭を下げて立っていた。


「面を上げろ」


「はっ!!」


「まったく面倒臭い……。で、定期連絡だな? 何処のだ?」


「はっ! 二番でありますっ!」


「二番……キャッツ家か」


 ユーリは自身で育て上げた数十名からなるダークエルフの監視者を抱えている。監視者は王国内に潜伏中のエルフ達に定期的に連絡を入れさせ、緊急性の度合いによって対処を行なって来た。


 緊急性が高い物は潜伏中のエルフから直々にその旨を聞き、緊急性は無くとも有益な情報であればこうしてユーリに監視者が報告しにやってくる手筈となっている


「で? 忌々しいキャッツ家がどうした?」


「はいっ。キャッツ家の〝目〟がクラウン・チェーシャル・キャッツと同行し、遠方へ向かったとの報告が届きました」


「クラウンの小僧? フフッ丁度いい。確か学院からの報告じゃあ今は帝国方面に課外活動に向かっているんだったな。足取りが掴めずにいてイライラしていたんだ。で、帝国で何を?」


「はっ! 帝国内にある森に向かった後、そこで数日間野営をしておりましたっ」


「森で野営……。あのジジイの弟子がこんなタイミングで無意味にピクニックするワケがないな。しかもそんな遠方に……。目的は分かるか?」


「いえ。同行していたのは〝目〟ですので、詳しい会話等は不明です。一応聞く手段も持ってはいますが、遠方ですと動けなくなってしまい……」


「なんだ。何をしていたのか見ていないのか?」


「はっ。報告では〝目〟は野営地の守護を任されており、クラウン・チェーシャル・キャッツ一行とは基本的に別行動であったとの事です」


「チッ、使えない……。いや、奴の事だ。下手をすれば〝目〟の存在に気が付いているのかもしれないな」


「そんなまさか……。一体どうやって……。それに何の目的で〝目〟を連れ歩いているのですか?」


「私達を煽ってる……とかな。「見せたきゃ見せてやる。徒労に終わるがな」ってな具合に」


「不遜な……。刺客を送り込みますか?」


「馬鹿なマネはよせ。ハーティーを片手間で捕まえる奴だぞ。下手なちょっかいは逆に奴にチャンスを与えかねない」


「では……」


「取り敢えずは二番の定期連絡の頻度を上げておけ。それと警戒度もな。良いか? 例え私が寝ていようと何をしていようと報告は必ずしろ」


「はっ!! 畏まりましたっ!!」


「よし。行け」


 監視者は一礼した後、まるでその場から掻き消えるように姿を(くら)まし、後には何も残っていない。


「はあ……。寝不足が加速する」


 ユーリは頭を抱えた後、先程まで寝ていたソファーに再び横になり、高い天井を見上げる。


「もうすぐ……もうすぐだよ。もうすぐで……アタシは……おじさん……と……」


 そのまま(まぶた)の重みに逆らう事なく、暗転していく意識に心地良さを感じながら再び眠りに就く。


 もう二度と戻らぬ日常だったあの夢をもう見ないようにと願いながら、ただ彼女はひたすらに、その心の内をドス黒い物に沈めていった。

因みにユーリがおじさんと過ごしている時代ではまだ「嫉妬の魔王」は健在です。

キャピタレウスが倒す前ですね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 急にデカい爆弾ぶっ込んでくるじゃん。
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