第六章:泣き叫ぶ暴食、嗤う強欲-8
クラウンは何も、魔王がハンマーを拵えている最中をただ見ていただけではない。
自身の身体能力を一時的に上昇させる《強力化》等のスキルを全て発動。更に一日に一度キリのスキル《峻厳》を発動させ筋力と敏捷を劇的に上げていた。
そんな下準備をひっそり済ませていたクラウンに対し、魔王はその体格から繰り出せるより遥かに重い一撃でもってクラウンに振りかぶった。
その一撃は《打撃強化》などの効果に加え《強力化》やその上位互換にあたる《剛力化》を発動させて更に凶悪な一撃へと変貌しており、まともに食らえば到底耐え得るものではない。
クラウンはその一撃をスキルを駆使して間一髪のタイミングで防いでみせたものの、その衝撃や余波は確実にクラウンの体にダメージを与え、全身が軋むような痛みが襲う。
歯を食いしばりその痛みを押し殺したクラウンは、未だのし掛かるハンマーを燈狼と障蜘蛛でもって捌き、横になんとか受け流すとハンマーはそのまま沼に沈んだ。
ハンマーが地面にめり込み、魔王が体勢を崩したのを確認したシセラは《魔炎》で闇属性を付与した《炎魔法》を発動し、魔王を火柱で飲み込む。
《炎熱耐性》を有していない魔王の表皮は焼け爛れていき、闇属性によってその傷は徐々に深刻な傷へと変貌していく。
ハンマーの一撃で多少体勢を整えるのに時間が掛かってしまったクラウンは、そんな火傷を負う魔王に燈狼の袈裟懸けによる追撃を入れる。
それを受けた魔王はめり込んだハンマーを引き抜き、後方へ大きく跳躍。泥を吹き飛ばしながら滑るように着地すると、ハンマーで沼の水を巻き上げ自身に纏わり付く炎を鎮火させる。
肌は爛れ、一部は炭化した程の火傷、そして袈裟懸けによる肩から胸に掛けての大きな切り傷を負った魔王。
確かなダメージ、確かな手応えを感じたクラウンとシセラであったが、次に起きた魔王の変化に目を丸くし、思わず苦笑いを浮かべる。
「ふっ。成る程……。《超速再生》が使えないだけで、まだ相応に魔力は残っていたか……。忌々しい」
クラウン達が目の当たりにしたのは、魔王が先程受けた深刻な火傷と切り傷が徐々に回復していく様子だった。
しかし怪物状態の魔王戦の際に見せた《超速再生》程のデタラメな速さや修復力ではなく、まるで脱皮でもするかのように火傷による古い表皮が剥がれ落ち、斬撃による切り傷は癒着を始め下から新品の皮膚が顔を覗かせている。
「確か……《自然回復力強化》、だったか? にしても速すぎる思うんだがな」
呆れながら薄く笑うクラウンに対し、魔王はどこ吹く風と自身の体が回復するのを濁った目で淡々と眺めている。
だがクラウン達がただそれを見ているだけなどという事は無く、クラウンは苛烈なまでの敏捷で、シセラは持ち前の瞬発力でもって魔王に距離を詰め、クラウンは障蜘蛛の内包スキル《致命の一撃》と《治癒不全》を並列発動した一撃を、シセラは爪術による《毒爪撃》での爪撃を魔王に浴びせる。
しかし魔王は間合いを詰めたクラウン達に対しハンマーを盾にしてこれをガード。ガードされたクラウンはそこからハンマーの隙間を縫うように燈狼での《猛毒刺突》を放つが、魔王はその突きを自身の体表に骨の盾を作る事で防ぐ。
クラウンは燈狼の一撃を防がれると、燈狼に魔力を流し込み、刀身に《魔炎》で闇属性を付与した火炎を纏わせ、発生した黒炎を《精霊魔法》を使いまるで蛇のように操り魔王に巻き付かせる。
魔王に巻き付いた黒炎はそのまま回復し掛けていた火傷に更なる追撃を与えながら身動きを封じる。
それに呼応するようにシセラは魔王の背後に素早く移動すると、《六爪撃》、《毒爪撃》を連続で放ち、魔王の背中に大きな傷を付ける。
そこで魔王は黒炎の蛇に拘束される中、自身の体の関節を無理矢理外し、それによって生じた可動域を利用してハンマーを持ち上げ、正面のクラウン、背後のシセラ共々を薙ぎ払うように振るう。
シセラはそれを後方に跳躍して避け、クラウンはスキル《剛体》を使い吹き飛ばされるのを防ぎながら《受け流し》を使い衝撃を地面へと流す。
(完全には殺し切れないが……一応一撃ぐらいならば何とかなるな……。もう一撃来る前により多くのダメージを与え……っ!?)
「ああぁぁぁぁっ……」
ハンマーの衝撃をなんとか凌いだクラウンの目に飛び込んで来たのは……笑顔だった。
今まで能面の様に何の感情も宿さなかった魔王の顔が、今は心底不気味な程の狂気に満ちた笑顔をクラウンに向けている。
全身を嫌な予感が駆け巡ったクラウンは、視界内にある別の場所の座標をすぐさま算出し、数値を置換して《空間魔法》を発動……する直前。
突如として笑っていた魔王の口角が、まるで大口を開けた大蛇の如く変形しながら広がり、クラウンを頭から飲み込まんと襲い掛かる。
魔王のナイフの様な牙が高速で眼前に迫る中、クラウンはなんとかテレポーテーションにより、魔王の後方へ転移を成功させる。
魔王はそのままクラウンの居た場所にかぶり付く。取り残された魔王を取り巻く黒炎の蛇は、そのまま魔王の口腔へ飲み込まれた。
頬を膨らませ、口の中の物を咀嚼する魔王に対しクラウンは後方で苦笑いを浮かべる。
「……まったく、食欲旺盛な事で──痛ッ!」
クラウンは冷や汗を額に滲ませ苦悶の表情で右肩を抑える。
そこからは血が滴り、肉が抉れて骨が露出しており、傷痕には歯形の様な痕がくっきり残っていた。
「腕まるごとに比べれば成長したか? ……ふふっ、許さんぞ肉塊が」
クラウンが魔王に目をやれば、魔王の口端からはクラウンの血と思しき汚れが付着しており、咀嚼していた物を飲み込むとクラウンを見て笑って見せた。
「クラウン様っ!!」
「心配するなっ! ふっふっふっ……おかわりはやらんぞ」
クラウンはポケットディメンションから応急処置用の布とポーションを取り出し、素早く肩の傷を手当てする。
「さてじゃあ次は遠距離戦と行こうか」
クラウンは《空間魔法》でより離れた位置に転移すると、手を翳して魔王の上空に《地魔法》による無数の鋭利な岩を出現させた。
「さあ、今度はお前が降られる番だ。ロックレインっ!」
翳した手を振り下ろすと、上空で静止していた岩がまるで豪雨のように魔王に向かって降り注ぐ。
魔王はそれをハンマーを傘にして防ごうとするが、数が数だけに全てを防ぐ事が出来ず、腕や脚などに数カ所刺さり、また切り傷も複数カ所量産していく。
これに魔王は埒があかないと判断したのか、一度ハンマーを大きく振りかぶり一瞬の隙を作ると高く跳躍。そこから狙いを定まらせないよう不規則に跳び周り、魔法を放つクラウンまで迫りハンマーを構える。
するとそれを待っていたかの様にクラウンの《召喚》によって側まで呼び出されたシセラによる爪に炎を纏わせた爪撃、《豪炎爪》が魔王を捉えた。
シセラの一撃は魔王の胸にから腹に掛けてザックリ入りはしたものの、それでも構わないとばかりに魔王は振り上げたハンマーをクラウン目掛けて振り下ろす。
ハンマーがクラウンに当たる直前、クラウンは自身とハンマーの間に《地魔法》による盾を可能な限り作り出し、更に先程と同様《剛体》と《受け流し》を駆使して衝撃をなんとか殺す。
そうして出来た魔王の腹部の隙に、左手に構える障蜘蛛の《致命の一撃》と《治癒不全》を乗せた《猛毒刺突》を突き立てた。
今月1日、この小説を書き始めて丁度一年が経ちました。
長いようなあっという間だったような…。そんな一年でしたが、書いているのが辛くなった記憶が無いのは、きっとこの物語を私自身が楽しんでいるのだと気付かされます。
それに飽き性の私が、これだけの物語を一年という時間書き続けられたのは、普段私の作品を読んで下さり、楽しんで下さる皆様が居てこそ為し得た現実なのだと感じています。本当に、本当にありがとうございます。
そしてこれからも、私のこの作品は続きます。
まだまだクラウン達にやらせたい事が山程あります。
私自身、それが書けるのが楽しみで仕方ありません。
どうかこの作品を気に入って頂けている皆様も、私が描くこの物語をこれからも楽しんで頂けたら幸いです。
ありがとうございました。




