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EXPLORER's~影を逝く者達~  作者: 神衣舞
5/18

影の守護者-4

個人的にはこっちの方が好みだったはずなのですが、

なんかほのぼのな郵便屋さん側に精神がシフトしている次第。

でも書くよ!


※前回のあらすじ

・かわいいヒミカちゃんと『5/4』


-fate 望月-




 またか


 これは俺の心の弱さ。

 何度刀を振るい、何度視線を潜り、何度血にまみれても、決して前に進めぬ俺そのもの。


 この場所に立ち、夢と分かっていても決められた所作から逃れる事は叶わない。

 ただ、あの日の光景を繰り返し、繰り返し見せつけられる。

 俺は弱かった。

 ただ、弱かった。

 刀を持って悪鬼と化し、刃と共に修羅道を往く。

 そんな当たり前のことすらできぬ、弱者だった。


 皆が俺の横を過ぎていく。

 俺を責めることなく。

 俺を憎むことなく。

 笑みを浮かべて、死地へと向かう。


 たった一人、俺だけを置いて。

 その果てになにも為すことなく屍を晒すと言うのに。


 ただ、────と、呪いの言葉を俺に告げ、去っていく。

 

 今日も同じ。

 かつてと同じ。


 そして今なお、俺はあの人たちの思いに反し続けている。



-fate Free-




 一閃


 弧を描く白銀はその速度を示す残滓を残し、赤の華は咲いて崩れる。


 それはクロスロードの片隅での出来事。

 ひと際人通りの少ない道を選んで歩いていた男が角を曲がった瞬間、その命脈は絶たれていた。


 どさりと、力を失った物が崩れ落ちる音を背に、血と脂の追随を許さなかった刃を納める。

 その動きに一切の曇り無く、乱れ無く、天地開闢にて定められたかのような自然さで行う様は見る者に呼吸を忘れさせるほどだった。

 斬られた男は己の身に何が起きたか、果たして理解できただろうか。


 伏した体の下から赤黒い血が広がっていく。それを感情を殺した瞳でしばし見つめた男はその指先の痙攣も無くなったところで懐に入れていたピンポン玉サイズの穴の開いた球に息を吹き込む。

 すると人の耳には聞こえぬ音。その音域を聞き取り集まる者が居た。


『確認します』


 わらっと8体、青いボールが集合する。この街のあらゆるところを巡回しては掃除をしている管理組合のロボット、センタ君だ。

 それらは死体をひっくり返し、いくつかの確認をすると代表して一体が男を────望月を見上げた。


『確認しました。賞金首レッデョリア・クワード。

 報酬についてはポータル、または管理組合窓口にて受領願います』


 残るセンタ君たちが死体を担ぎ上げどこかへと運び去る。最後の一体がボディ兼顔面の球体を器用に動かして一礼を表すとその後を追っていった。


 地面にわずかに残る血の染み。それを一瞥して男は大通りの方へと歩を進める。


「相変わらず良い腕してやがるな」


 揶揄するような、そんな言葉が不意に投げかけられるが望月の足は止まらない。チと舌打ち一つ、進行方向の壁に背を預けていた白い制服を纏う男が追随する。


「なぁ、望月さん。一度総長に遭ってくれねえか?

 あんたなら気に入ると思うし、そもそもあんたは俺たち寄りだろ?」


 禿頭のやせぎす男は望月の左後ろをキープしながらその横顔を伺う。

 抜いた刀が一番遅く届く場所。間合いも刃の半歩先。無論どうにかする足運びはあるのだが、望月の腕があっても一息に男を斬り捨てるのは難しい。


「興味が無い」

「そんなはずはない。だろ?」


 それは確信を持った言葉。望月の来歴を知っている上での否定。


「現にあんたは賞金稼ぎを選んだ。外で戦うわけでもなく、人斬りを選んだ。

 罪無き者を斬る悪鬼ではない。信念とルールの元で人を殺す事を選んだ」


 望月の足は止まらない。早くなるわけでもなく、遅くなるわけでもない。男の声など無いように進む。


「それが悔恨であれ、贖罪であれ、果たすに相応しい場所ってのがあると思うんだがな?」


 まるで無視をしているようにしか見えないが、喋り続ける男は気にしない。聞いていないわけが無いのだ。男を完全に無視してしまえば、その背に刃を突き立てられてもおかしくない。無論白服の男にその気はないが、望月はその可能性を常に抱いている。

 常在戦場。それが今、悪用されているとは皮肉なものである。


「二足の草鞋でも構わないぜ?」


 刃が煌き、澄んだ音が響き渡る。

 禿頭の男はいつの間にか手にしたパリーイングダガーでその軌跡をほんの僅かに逸らし、死の線より逃れている。防御に特化した武器とはいえ、望月の斬撃を受けるという愚は冒さない。この男、ニヤニヤと軽薄そうな笑みを浮かべているがその実力は相当な物だ。


「そっちに反応するのか」

「……律法の翼がそれを知っていても仕方ないかもしれないが、ここで口にする話ではない」

「斬ってから言う言葉じゃねえだろ。順番考えろや」


 望月が一歩踏み出さなければ届かぬ位置で男はやれやれと肩を竦める。


「そういう誘いであるなら、俺は不適だ」

「それはついでで、反応を見たかっただけだがな。

 純粋にお前は俺たちの同類だ。その上理性があり、実力がある。

 隊長として迎える事を約束するぜ?」


 律法の翼。この無法都市クロスロードで法の制定を訴える組織であり、自衛隊を組織し、治安維持活動に従事する者達だ。

 しかし無法とは善も悪も定めぬという事。治安維持と称する活動も違う視点から見れば暴力による統制と思想の押しつけに過ぎない。現状律法の翼という組織は功罪相まって微妙な立ち位置にある。中には賞金を懸けられている者さえいるのだ。


「断る」

「あぁ、そうかい。

 まぁ、気が変わったら言ってくれや」


 先ほどまでのしつこさはどこへやら、あっさりと引き下がると男は無警戒に背を晒し、のんびりとした足取りでどこかへと去ってしまう。

 今の望月の実力であれば、一足で肉薄し、その首を飛ばす事も可能だろう。

 しかし望月はその背を訝しげに見送るに留める。

 気が乗らなかった、足が動かなかった。何よりも、その心境に到る己の心の弱さを再認識し、気迫を乗せる事ができなかった。


 嗚呼、届かぬ。

 まだ、届かぬ。


 迷える人斬りは内心蠢く澱みを胸に、町のいずこかへと消え去るのだった。

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