影の守護者-3
※前回のあらすじ
異世界にお邪魔して、工作員派遣したヤツ潰してきた。
-fate ヒミカ-
はいはいどーも、ヒミカちゃんですよっと。
容姿端麗活発系美少女なあたしは今、クロスロードをぐるりと囲む防壁の上で日光浴中です。
お肌焼けるのはホント勘弁なんだけど、やーやー、異世界の化粧品って凄いよね。それと私くらいの年齢なら健康的な日焼けってのはそれはそれで魅力的よね。ほら、ちらりと見える日焼けしてないラインとかね?
……あのどうにもならない朴念仁に情欲を抱かせる媚薬とかの方が欲しいよねーと。
使ったのがばれたら怒られるからやんないけど。隠すものはちゃんと隠してこそだよね!
と、こんな無意味な独白いつまで続ければ良いのかと飽きはじめたんだけどー
「お待たせしました」
「いつでも来られるのに待たせる意味は?」
「私は一人ですよ」
笑えば良いのかなこれ。
ま、いっか。さっさとやる事やりましょ。
ね? 『5/4』(よんぶんのご)
-fate Free-
「引き込んだ諜報員を使って扉の監視をしているけど、近づいてくる存在は無し。向こうは犯人探しで大騒ぎ。どうやら扉の存在を知っているのは綺麗に片づけたっぽいね」
ヒミカは後ろに突如現れた存在を見ることなく言葉を紡ぐ。
振り返ったところでその姿を確認することは叶わない。それは散々試して諦めた事だ。
『5/4』
それが彼女の名前代わり。ヒミカをこの仕事に招き入れた正体不明の女性を示すワード。
「無駄にセキュリティガチガチな建物だったから、捜査は難航中。
科学万能な世界で魔法による侵入を推測しろってほうが無茶だよね。
なのに幽霊説が出てるのが笑える。悪行が祟って呪い殺されたってさ」
もちろんクロスロードの中にはその方法を採れる者も居るだろう。
しかし、自分の世界とクロスロードで使えたから、別の世界で使えるとは限らない。
「そういう意味では自分の使う分の魔力を染めて持ち込むティア子と、どの世界でも共通して存在する光を使うアリスって万能よね。
物理なもっさんもだけど」
「ええ。だから引き込んだのですけど」
「でも隠れ兜だっけ? アレ聞いてない」
軽い調子で続けながら、少女の目は伺うように細められる。
「最近使えるようになったと称していましたね」
「……無い事も無いのが嫌らしい」
優男の掴みどころのない顔を思い出して舌打ち一つ。
「てか、前々から思ってたんだけど、どうやって神種なんて引き込んだの?
アバターで来てる連中も、なんやかんや引きこもり主義でしょ?」
アバターというのは神種、つまり神様がこの世界に来るための一つの方法だ。
ありとあらゆる世界に繋がり、ありとあらゆる種族が訪れるこの世界で、唯一神種だけはその大きすぎる力故か、行き来を制限されている。ならばその力を許容値まで絞ればいい、ということで用意した仮の体に、意識を写してこの世界へ降り立つらしい。
らしい、というのはアバターを利用している神々も詳しい原理を知らないからだ。来訪者に言語の加護が与えられるように、神種にのみ使える『扉の機能』と推測されている。
「彼は元の世界でも『在り方を束縛されている神種』ですから。
自由に動き回れることが楽しいようです」
「冥府の神だっけ? あの世系の神種ってだいたい引きこもりよね」
「死が気軽に地上を歩き回るわけにも行きませんからね」
神種が来訪する事を制限されている最たる理由は『常時発動の権能』にあるとも言われる。
彼らの多くは『現象そのもの』であり、それ故に力の発動に魔力や火薬といった燃料を必要としない。火の存在しない世界では火薬を持ち込んでもそれを使うことはできないが、自身が火という概念でもある火の神が権能を制限されることは無いのだ。
それは同時に火の無い世界に火を生じさせると言う意味にもなりかねず、当然世界は急に追加された法則に混乱し、最悪の場合崩壊するだろう。
故に神々が何の処置も無しに世界を渡れないような防壁が各世界に設けられているのだそうだ。
「……あるえ? この間の工作員。死の国の住人にされてないよね?」
死の国の食べ物を口にした者は死の国から出られなくなる。
冥界と言うものはどこも出ようとする者に厳しく、何重ものトラップで逃亡を阻止する。その最たるが冥府の食べ物だ。
「アバターにそこまでの権能はありませんよ。
普通の酒場で愚痴を言い合っていました。」
「ふーん……って、参加してたの?」
「確認しただけです」
すました声に嘘は感じられない。もっとも5/4が感情を表に出すことは非常に稀なのだが。
「ま、分かった以上酷使するけど」
「神種を酷使すると宣言するのもなかなかですね」
「使える物は使って自分の身を安全に。ついでにみんなも安全に。
ってか、あたしら全員の感知能力も、あの世界のセキュリティも全部誤魔化しきる偽装とか、使わない方がバカだよ」
「その辺りは彼と交渉してください」
「そっちから命令してよ」
「そういう契約ではありませんので」
むぅ、と口をとがらせて見せるが、どうにもならないだろうなと内心でため息を吐く。
ヒミカも他の者達も、この5/4の配下というわけではない。仕事上の部下ではあるが、その関係はある条件の元いつでも破棄できるものだし、自分の身を捨ててまで働く義理は無い。
「なんだかんだ言いながら、彼は貴方方の保護者のつもりですよ?」
「それは分かってんだけどね。ま、なんとかコントロールするよ」
防壁の向こう側。何処までも広がる草木の一つも確認できない荒野を眺め見つつ肩を竦める。
「そうしていただけると助かります」
「他には?」
「ありません。また何かあったら連絡します」
「はーい」
消える気配。振り向けば案の定、そこに誰かが居たという痕跡すら見られない。
少女は大きく伸びをしてから立ち上がる。
「さーて、リヒトの所に行こうっと♪」
少女は自分のテンションを上げるため思い人の名前を口にすると、足取りを軽くしてその場を後にするのだった。