影の守護者-1
プロローグは凄いすらすら書けたのに、いきなり躓くなど。
とりあえず軌道に乗せるように頑張りたい。
※前回のあらすじ
スパイ二人が見つかって飲みに連れていかれた。
……まとめると意味不明だな。
-fate アリス-
私の名はアリス。
本当の名前は知りません。あるかどうかもわかりません。
私の本来あるべき世界はここでは無く、しかし帰る手段はありません。
この世界、多重交錯世界ターミナルはあらゆる世界と繋がる『扉』を有しています。
扉の塔、そして扉の園に数多ある扉一つ一つが異世界へと繋がっているのです。
私の世界へ繋がる扉もその中にありました。
しかし、今はもうありません。
……帰るつもりも、ないのですけど。
-fate Free-
多重交錯世界ターミナル。その唯一の都市とされるクロスロード。
その一角にひっそりとあるカフェテリア。
町を南北に縦断するメインストリートから少し離れたその店に来客があることは滅多にない。
一般の客は。
「やっほー。おっまたせー!」
黒髪の少女がまるで水着か踊り子かという姿で店に躍り込んできたのは日も随分と高くなってきたころだった。
背丈は中学生程度。体の凹凸も相応で、オーバーアクションな動きも合わさり艶美なというより健康的な感じが強い。長い髪は側頭部でくくられており、二本の尻尾として少女を追随していた。
「本当にお待たせじゃな」
「あはは、メンゴメンゴ。
っていうか、あたしのせーじゃないし?
あのバカが二日酔いだとか抜かしたからだし?」
身軽にカウンター席へ座った少女は椅子をぐるんと回転させ、声の方向へと体を向ける。
テーブル席には少女が二人。その片方、言葉を発したのは踊り子の少女よりもなお年若かい。ボリュームのあり過ぎる銀の髪に薄紅色を基調とした甘ロリと呼ばれるゴシック風ドレスという取り揃えはまさに西洋人形だが、目にはガラス玉でなく、深謀遠慮を凝縮したような静謐さを秘めた翡翠色の双眸が納まっている。
「ハデスさん、来ないのですか?」
「うん。とりあえず埒も空かないし内容だけ確認してきたよ」
テーブル席に居るもう一人は高校生程度の年齢で、艶やかなブロンドが特徴的。二人と負けず劣らずの容姿を誇っているものの、若干の気弱さが表情ににじみ出ている。
「さっさと話せ」
そして最後の一人、一番奥の席で気配も立てずに佇む男が居た。
髪を肩口まで伸ばした年齢は二十の後半程度の男性だ。地味な色の和服を纏っており、腰に下げた刀と合わせて『侍』、あるいは『浪人』という言葉がぴたりと合う。
「もっさんもティア子も、あのバカから話聞いてきた健気なヒミカちゃんに対して優しくしても良いと思うんだけど」
「……」
「……」
もっさん────望月の背からゆらりと立ち上る圧と、ティア子───ティアロットの冷めた視線にヒミカと名乗った少女は視線を迷子にさせた後、最後の一人に救いを求めた。
「アリスちゃん助けて! この人たちに笑顔を取り戻してあげて!」
「ちょっと荷が重いです……
早くお話しした方が良いと思いますけど」
アリスと呼ばれたブロンドの少女が誤魔化し笑いを浮かべて促すと、ヒミカは困惑と懇願の表情をさっと引っ込めて右手を上げた。
「ま、いっか。ほい、注目。
昨日の連中、とりあえず一通り目的はゲロったよ。
案の定、管理組合の信用低下狙い。まったく、この手のが次から次だねぇ」
「随分と早いのぅ」
「元々忠誠心は高くなかったし、管理組合のガードの高さにギブアップ寸前だったみたい」
管理組合。それはこのクロスロードを維持、管理する組織だ。多くの者が行政府のように見なしている中心的な組織である。
「で、元締めは地方都市のイチ役人。運用できる人数はせいぜい百名程度。ただし科学系世界だから、テロ行為を始めるとそれなりに厄介って感じ」
「対応は決まったのか?」
男の低い声に「もっさん、テンション上げてよー」とヒミカが愚痴をこぼすが、沈黙の圧で続きを促してくるので「ちぇ」と舌打ちを言葉で出しつつ続ける。
「更に上が顔を出してこないうちに処理をしようってことで、すでに裏方君たちが調査を開始。多分今日の夜には分析は完了すると思うよ」
「なら今日は動きが無いな」
話に見切りを付け立ち上がるのをヒミカは半眼で睨み付けるが、男は意にも介さず外への扉へ歩を進める。
「決まったら連絡しろ」
「ほいほーい。
ねぎらいの言葉くらいあってよくない?」
「無駄口が減れば考えてやる」
「ヒミカちゃんとお話できる機会を嬉しく思いなよー?」
取り付く島も無く男は店の外へと行ってしまう。
やれやれと肩を竦めるヒミカを見やりながら銀髪の少女もまた席を立った。
「わしらも今日は午後がシフトじゃから、特に何もなければ向かうが?」
「おっけ。夜は家?」
「そのつもりです」
「何かあったらそっちに連絡するね。
あ、もっさんの行動予定聞き忘れた!」
「いつも通りだそうじゃ」
「あ、そなんだ。てか、もっさん、厳しくない?」
何と答えていいやらとアリスは苦笑いで回答をごまかす。
このやり取り、今日に始まった事でなく、ヒミカも分かってやっていると全員知っている。それでも応対してくれるのはアリスか、二日酔いでダウンしている男くらいなものだが。
「今回は殲滅戦だから二人が主力だからね?
あんまりはしゃぎ過ぎないでよ?」
「はい。それでは後程」
「がんばってねー」
ひらひらと手を振り、二人が扉の向こうに消えたのを見送って、ヒミカはカウンターにやや不貞腐れた表情で頬杖を突く。
「ティア子は全然大丈夫だけど、もっさん、もう少し崩れないものかなぁ。
いざという時にやらかしそうで怖いよ。ホント」
めんどーと小さく呟いた少女は20秒程度の沈黙を挟むと、気分を入れ替えて店の外へと繰り出すのだった。