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EXPLORER's~影を逝く者達~  作者: 神衣舞
10/18

影の守護者-8

本家側2章22話のわりと近くで起きている話。

酒呑童子vs頼光の戦い、あっちの主人公だとヤ●チャ視点になるからどうしようかな


※前回のあらすじ

・ティア子とアリスの一般業務

-fate ヒミカ-




 あたしは救世の聖女だった。

 命を賭して魔を討つ英雄を導く存在。そんな役目を帯びて生まれた。


 だから、神を殺した。


 え? 何かおかしかった?

 だって『命を賭して』って勝手に人の人生決めつけて、しかも浪費させるような酷い事するヤツだよ? 

 こちらと花も恥じらう乙女。何一つ楽しい事も無いままに修行修行、その果てに命を捨てろだよ? やってらんないっての。

 だから魔王とか邪神とかそんな些細な事より、私に死ぬ運命を突き付けてきた神を嵌めて殺したのよ。正当防衛を主張するわね。

 そしたらどうよ。魔王も邪神も神の仕立てた役者で、しかもその神は本当の神の部下だって話。騙して殺して成り代わっただけじゃ飽き足らず、復活できないようにバラバラにした神の体を神器に仕立てて英雄やら聖女やら魔王やらに分配していた。あのバ神が死ぬときに「不敬だ」「不遜だ」「分をわきまえろ」とかぎゃあぎゃあ言ってたけど、ほんと、「どの口が」だったわね。

 そんなわけであたしのお役目は無事解消され、人類の天敵だったはずの邪神や魔王もいなくなってしまった。それでめでたしめでたしとなれば良かったのに、世界はつくづく腐っていた。

 神様にも上下関係があり、世界を管理する程度の神は下の下。地域を管理する程度の神や、現象から生じた神よりは上だけどヒエラルキーの下層に位置付けられる。

 その部下が消えた事で今更上の神が乗り出してきたのだ。


 で、あたしを恐れた。神殺しを為してしまった私を。


 向こうから見れば人と蟻、いいえそんなレベルじゃない隔絶した存在だ。しかも油断も無く警戒する相手をどうしろと言うのか。こっちはただ幸せに暮らしたいだけだというのに聞きもしない。

 ああ、終わったなと、流石に諦めたときに私たちの前に扉が開いた。

 疑う余裕も無い。罠でも直後に定まった死よりマシ。愛する人が傍に居たのなら迷う理由も無い。その手を引っ張って扉の中に転がり込んだ。


「ホント、馬鹿げているわ」


 そんなこんなでこの世界に至ったあたしはそれなりに楽しく日々を過ごしている。

 愛するリヒトには早くあの世界の事を吹っ切ってもらいたいところだけど、苦悩する表情も素敵なのでもう少し様子を見ようと思う。あたしに依存してくれれば万々歳なんだけど、性根が真っすぐで折れることのない彼がそうなることは無いだろう。まー、世界いくつも管理するレベルの神への対抗手段なんて早々手に入るはずも無いのであと半年くらいで割り切ってくれればなとは思う。手に入ったら殺しに行くのは構わないけどね。

 ともあれ、あたしはこの世界を気に入っている。だから、ガラじゃないけどこういう仕事を受け入れた。

 救世の聖女、ね。ああ、背中がゾワっとしたわ。


「ティア子は補足した?」

「はい。もう戦闘に入りました」

「おっけ。もっさんは本隊警備だからハーデスは?」

「先ほど一度来ましたが、またどこかへ」


 心配そうに彼方を見つめたままのアリスの横顔を見つつ頬杖をつく。


「遊撃はいつもの事だし放っておきましょ。あと、アリス。ティア子は勝てない戦いはしないわよ?」

「……はい」


 この子は完全にティア子に依存している。元々寄る辺が無いのだ。いや、違うか。多分寄る辺を一度失っている。だから喪失を恐れている。リヒトと同じだ。違うのは彼女が立ち上がる方法も心の強さも持たない点。今、ティア子を失えばアリスは二度と立ち上がれないだろう。


「それより、周囲の警戒を密に。横入された方が危険よ?」

「……はい」


 さて、パレードまであと一時間。それが終わればリヒトと後夜祭をめぐる約束をしている。

 さぁ、とっとと神種に至るためと戯言をぬかす奴らを始末してしまおうね!





-fate Free-



 炎が舞う。

 素早き動きが残像を生み、影の本分を忘れたかのように本隊と異なる印を組み始める。

 大地が隆起し、蛇のようになって襲い掛かる。

 蛇から鋼の砲弾が生まれ、打ち放たれる。

 砲弾が突き刺さった地面から水が槍のように打ち放たれる。

 水の矢が直撃した部分から植物が湧き、手足を絡め捕らんと蠢き始める。


「五行相生というやつかの。こうして見ると面白い」

「この四海坊主を前にして油断が過ぎると言うものぞ!」


 少女を絡め捕らんとする数多の攻撃を踊るように空を舞い、悉く躱して見せる。そうしながらも少女の翡翠色の瞳は四海坊主と名乗る地仙の動きを捕え続けている。違う。いつの間にか少女の目にまるで猫目のような細長い瞳孔が備わり、目まぐるしく動いている。


「一つが二つ、二つが四つ、四つが八つ───」


 それに気づく余裕も無く、猶予も無く男は動き続ける。

現れた符が二つに割れ、元の形を共に取り戻すと同時にまた二つに割れる。

 幾度となく繰り返し、男の前に蠢く白の壁を作り出す。


「都合百と二十四の鳥よ、征け!」


 声に従い羽ばたく紙の小鳥。それは様々な軌道を描いてたった一人の少女に殺到する。しかし、彼女もただ見ているだけではない。


「力の灯 千々に迷いて 空を満たせ」


 彼女の力、魔術を組むための言葉が淀みなく世界に綴られる。現れたのは人の頭ほどの光の玉。


「─────舞え 光蜂」


 男の鳥と同様に、それよりも細かく弾けた光の玉。指先ほどの光にばらけたそれは少女を食い荒らさんと飛来する紙のそれへ逆に襲い掛かる。


「なんと!?」


 数多の光が紙の鳥を貫き落とす。あっという間にその全てを逆に蹂躙された男は、それでもなお残り自分を狙う光の礫を驚愕の表情で見渡した。


「これが最後じゃよ。大人しく祭りを楽しむつもりがないなら帰れ」

「猪口才な! 妖術一つで偉そうに!」


 空から見下ろす冷たい瞳を烈火の視線が睨み返す。しかし隠しようのない動揺が伺えた。己の得意とする物量による圧殺。その悉くが通じない。その果てに追い詰められている。

 恐怖を振り払うかのように男はパンと一つ手を叩く。それがどこに響いたか二つ三つと山彦のように響き還り始めた。


「増える術が得意のようじゃな」

「まずは叩き落してくれるわ!」


 突如、音一つが一転に集中。それは大きな衝撃となる。が、少女のドレスを躍らせた。そこまでだ。彼女にまでは至らない。


「何故だ!」

「実力の割に口が多い。口を増やすのも術の一つかえ?」


 言いながら少女は死神の鎌のような杖を男へと向けた。


「開放─── 氷槍・六連」


 あらかじめ詠唱をして留めておいた魔術を開放する。

 それは即座に六つの氷の槍となり、次の瞬間バリスタで放たれたかのような速度で男へと殺到する。


「なんの!」


 一本目を体術で躱し、二つ目を男の影が立体化し、掌で打ち払う。三つ目をそのまま影の背が受け────


「咲け」

「なっ!?」


 四つ目の迎撃に移ろうとした瞬間、地面を貫いた一つ目、二つ目の槍が弾け、破片の散弾を男に浴びせかける。左側面を数多の氷に抉られた男は痛みと衝撃に思考を吹き飛ばされた。意識と体勢を持っていかれた男。続く二本が容赦なく腹と左肩を貫き地面に繋ぎ留める。


「ば、馬鹿な!」


 驚愕の暇すら与えぬと、思わず口走った言葉に食いつかんと迫る最後の一槍。六本目が己の頭蓋へと吸い込まれる光景を言葉の通り目の当たりにして、男は諦めた。


 がつりと、氷の槍が地面を穿つ。

 訪れた静寂。

 小さく息を吐き、少女は風に飛びそうになった男の衣服を踏んづけながら降り立った。


「なんじゃ、四海と称する故、蛸の化生かと思っておったが」

「これでも竜王の眷属よ」


 いきなり消え去ったかのように見えた男の体。残された道士服からもぞりと出てきたのは蛇、否、竜の子だった。


「……タツノオトシゴじゃろ?」

「ええい、見た目で言うな!」


 人化を解いた四海坊主がふよりと浮きながら怒鳴りつける。

 その姿はティアロットの言う通りタツノオトシゴだ。おなかが膨らんでいるのが特徴的過ぎる。


「負けだ負けだ。ようやく地仙に至るきっかけを得られると異郷に訪れたというのに、なんということだ!」


 大仰に嘆いて見せるがタツノオトシゴの姿、しかも掌サイズではコメントに困る。


「妖と言えど、この世界では共に暮らす隣人じゃ。安易にくれてやるわけにはいかんよ」

「解せぬ。陰陽の理を乱す妖など百害あって一利なし。人の理のうちに居るのであればこちらに与すれど、妖に肩入れする理由などなかろうが!」

「わしから見ると、おぬしも十二分に妖なのじゃが……」

「竜王の系譜を指して何たる言い草!」


 実際妖怪種の特区には竜にまつわる妖も存在している。ちなみに竜そのものは竜種として人間に変身できる者は町に暮らし、できない者は東砦のすぐ隣に作られた竜種の居住区で暮らしている。


「ならば人の陽気たる祭りを乱すな。痴れ者」

「ぬぬ……相乗相克といい、陰陽の理と言い、半端に詳しいな!

 さてはどこかの洞主だな! 俺の才能を恐れて邪魔に入ったか!」

「欲を断ち至るが仙道と聞いたが、おぬしは全く適さんようじゃな。

 もう良い、大人しく捕まれ」


 ぐるんと杖が回り、タツノオトシゴの小さな頭を的確に捉え、勢いと重量のままに地面に叩きつける。普通の魚介類ならスプラッタな光景だろうが、こんなのでも竜の眷属。頭蓋にひびが入ったかは不明だが生きてはいるようだ。もちろん意識は飛んでいる。

 視線を通路の向こうへ。角でこちらをのぞき込んでいる青いボールに頷きを見せると二体のセンタ君が駆けつけ、それを回収して去っていく。

 それを見送ったところで、ティアロットは杖を肩に担ぎ


「焔の一矢 疾く生じて 食らいつけ

 ─── 穿て───」

「待て!待て! 見境ねえのかよ!!」


 背後から近付いてきた大男が杖の先の生じた火を見て慌てた声を出す。

 男の足が止まったことを確認するためにわずかに見返り、冷たい翠の瞳で男を捉えた。


「背後から足音を殺して近づくような輩に容赦が必要かえ?」

「こいつは失敬した。ドスドス歩くと小言を言われるんでな」


 人間種でありながら、その手のひらは少女の頭を握り砕けそうな大男が首の後ろをさすりながら弁明する。

 ゆっくりと余裕をもって振り返りながらも杖の先は男の方へと向けたまま。

 さて、と口の中で呟き少女は男を見上げるのだった。

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