空間魔法って不遇ですか?
「転移!!」
寸前まで光っていた光が霧散してしまった。
やっぱりダメか…。
この世界にやって来て、1ヶ月休まず特訓しているが魔法の発動に成功する気配は無かった。
僕は、田中 空(18)高校3年生だ。
特に秀でた特技が有る訳でもなく、頭がいいわけでもいないただの大学受験を控えた高校生だったが、何の因果か一学期の最終日である終業式の日に僕を含むクラスメイト25名が異世界に召喚され、高校最後の夏休みを普通に迎えるはずが、異世界生活の始まりとなってしまった。
召喚したのは、この世界最大とか言ってるアイゼル王国で異世界テンプレよろしく魔王の軍勢が攻めてきたから古より伝わる勇者召喚の儀式を行ったそうだ。
そんな、異世界事情でこっちの世界に拉致られてきた僕らは世界を超える際の負荷に耐えられるよう魂が変質して異能と呼ばれる力を手に入れていた。
その結果、クラスメイト達は各々の性格に合わせたような異能を手に入れており新しく手に入れたオモチャを使いこなせるように夢中になっている。
僕も手に入れた、≪空間魔法≫を使いこなせるように特訓してはいるがこの魔法って如何やらハズレらしいのだ。
≪空間魔法≫で使える主な魔法は、アイテムボックスやゲートなど旅の必需品的な便利な物なのだが、以前やって来た勇者の中にも≪空間魔法≫の使い手が居たらしく、その時に大体のことを魔道具で代用できるようにしてしまった。その結果≪空間魔法≫の価値は大いに低下してしまったそうだ。
アイテムボックスはアイテム袋と言う、某ネコ型ロボのポケットの様なものが普及しているので必要ないし、ゲートに至っては行ったことのある場所にしか行けないと言う欠点もあり、各町に設置してある転移門を使った方が確実と言うありさまだった。
そんな事も有り、クラスメイトからは使えない奴と言う烙印を押され、召喚した国王側からも残念な奴を見るような目で見られた。
そんなわけでさっさと王宮からおさらばした僕は、アイテム袋を制作する工房に就職を決めて≪空間魔法≫のレベル上げと生活費を稼ぐ事に勤しみつつ、地球に帰るための異世界転移魔法を実験する毎日を過ごして今日にいたった。
「あ~、やっぱり王宮を出たのは、間違いだったかな」
住み込みで働いている従業員に与えられている小さな部屋でそんな独り言を言いながら項垂れる。
王宮に居れば、もしかしたら勇者召喚の儀式に使う書物なんかも見ることが出来たかもしれない、そうすれば異世界転移魔法の開発ももう少し捗っていた可能性が有った。
それでも、こんな場所に居たくないと思ってしまって逃げ出した今となっては、帰ることは出来ないのだ。
悶々とする意識を振り払い、明日の為にベットに入ることにした。
「おう!ソラ。今日も早いな」
「おはようございます、親方」
そんな僕であるが、工房内ではこの一ヶ月でそれなりの結果を出してはいる。
如何やら、≪空間魔法≫持ちの僕がエンチャントしたアイテム袋の性能は、以前のものと比べ物にならないらしく工房の業績はこの一ヶ月で3倍近く跳ね上がったそうだ。
アイテム袋にエンチャントを施すには、そのための魔法陣?を刻んだタグを袋の内側に魔力を込めながら縫い付けるだけなのだが。
その、魔法陣が何故か日本語なのだ。
円の中に書かれた、収納空間と時間停止の文字を見た時はかなりびっくりした。
如何やら以前召喚された、≪空間魔法≫使いの勇者も日本人なのだろう。
彼が、最終的にどうなったのかと言うことは調べてみたが分からなかった。
唯一分かっているのは、カナタという名前と空間魔法の祖というこの世界に多大な影響を与えた偉人と言われていることぐらいだ。
今日のノルマである、50袋にタグを縫い付け魔力が底を突いたので一足先にあがらせてもらう。
工房を出て、市場を歩くといい匂いが漂ってくる。
焼き鳥の様に串に刺さった、肉を売っているお店の主人から声を掛けられた。
「ソラ~、よっていけよ~今日は客があんまり来ないからこのままじゃ、かあちゃんに叱られちまう」
「しょうがないですね、じゃあコレとコレを2本ずつ包んでください」
そう言って、レバーと軟骨を買う。
魔力は、血液と似たようなモノらしく少なくなると貧血のような症状を起こすのだが、レバーを食べると何故か回復しやすいのだ。
あと軟骨は、僕の好物なだけだ。
「お待ち!」
そう言って渡された包みと代金を交換してアイテムボックスにしまう。
アイテム袋でもいいのだが、折角使えるのだから自分の物を持ち歩く際はこっちを使うようにしている。
そもそも、アイテム袋にはそれなりの欠点があるのだ。
袋の口以上の大きさのものを入れることは出来ないし容量に限界もある。
時間停止も完全ではなく普段の100分の1程度の時間の経過が発生してしまう。
さらに、入っているものがリスト表示されないので某ネコ型ロボよろしく焦ると出したいものが中々出せなかったりする。
そして、最大の弱点は盗まれる危険性があると言う事だ。
袋に何でもかんでも入れていて盗まれた日には目も当てられないので、自分の者はアイテムボックスで管理するようにしている。
めぼしいモノを買って部屋に帰り、早速レバーに齧り付く。
最初は苦手であったが、最近はのこの癖のある肉質がクセになりつつあった。
さっと食事を終えると、布団に入り魔力回復のため睡眠に入る。
数時間後、今日も実験の為に深夜に目が覚める。
この一ヶ月で、空間魔法についてはある程度理解できたが異世界転移となると必要な魔力量など様々な問題が有る。
なにより、問題なのは転移する場所や時間などを処理するための頭が1つではとても足りないことだ。
しかし、この問題は魔法陣を用いることで何とかなるかもしれない。
以前見た転移門に刻まれた魔法陣にも日本語で転移や座標固定などが書かれていていたので、魔法陣の研究も始めようと思う。
先ずは手ごろなところから始めて見ようと思う。
そう思って取りだしたのは、大きな布とタグ用の小さい布だ。
大きい方には、円の中に持主登録と書きその横に手の形をしたモノを書いておいた。
タグには、円の中に本人認証と書き込んだ。
アイテム袋の口の裏側に魔力を込めながらタグを縫い付ける。
完成したモノを持主登録の魔法陣の中に置き、手形の方に手を合わせて魔力を流す。
本人認証用のタグが一瞬光って色が変わる。
多分完成しただろうが、この検証には第三者が要るのをすっかり忘れていたのでこの後は、明日親方に試してもらう必要が有る。
そのあとは、2枚の布の上に転移の魔法陣を書きそれぞれを離れた場所において上に置いた石を布から布へ移動させることが出来ないかを試しているところで寝落ちしていたようだ。
魔力は、使いきると気絶してしまうと言うことをすっかり忘れていた。
ガン、ガン、ガン!
大きめのノックの音で目が覚める。
「おい、ソラ居ねぇのか?」
ハッとして窓から空を見ると、もうお昼過ぎのようであった。
慌てて鍵を開けて親方を中に招く。
「すいません、寝坊しました」
「珍しいじゃねえか、で…何をしてたんだ?」
部屋の中を見回しながら、親方にそう聞かれた。
どうやら、片付けていない部屋の状況に何かを見付けたようだ。
まぁ今日は、改良したアイテム袋を見て貰うつもりだったので都合がいいと言えばいいのだが。
「これの実験をしてたら、魔力が無くなって気絶したみたいです」
そう言って、改良したアイテム袋の中に机の上の石を入れてを親方に渡した。
「取り出してみてください」
「ん?…これは。」
アイテム袋に手お突っ込もうとした親方がそう言って固まる。
「どうですか?」
「なんだこれは、石が取り出せねえじゃねえか」
そう言って、袋を返されたので僕は中に入れていた石を取り出しながら説明する。
「ほう、なるほど持主にしか取り出せないようにする登録型アイテム袋か」
「はい、これってもうありました?」
「そうだな、うちでは取り扱ってないが無いわけではない」
「そうですか…。」
そう言って少し落ち込んでしまった僕を見て、親方が笑いながら
「だが、こんなに簡単に登録できるものを見たことがねえ。
これなら、今までのアイテム袋にも付けられるし値段もそこまで上げなくてもいいから売れそうだ」
「それならよかった」
「しかし、お前にこんな才能が有るなんてな。
だが、遅刻したことに目は瞑らんからそのつもりでな」
「はい、急いで準備します。」
それから半年が経ち、本人認証機能付きアイテム袋は飛ぶように売れたし、今まで持っていたアイテム袋に本人認証機能を付加するビジネスも始まり工房の業績は目を見張るほどになっていた。
僕も忙しい毎日を送っていて全く異世界転移魔法に取り掛かる暇が無くなってしまった。
そんな中で遂に恐れていたことが起きた、遂に魔王軍がこの国に攻めてきたのだ。
この半年で、クラスメイト達は魔王軍と戦えるほどの力を手に入れることは出来たのだろうか?
もし太刀打ち出来ないのなら早々に地球に帰るためにも魔法を完成させなければならない。
それから一月が経ち、第一防衛ラインである砦で魔王軍とクラスメイト達の戦いの幕が切って落とされた。
結果としては、撃退に成功したのだが無傷と言う訳にはいかなかったようだ。
僕は、逃げた。
稼いだお金で出来る限り、後方支援に回り物資の搬入などを手伝いはしたが戦闘に参加することは無かった。
ただ怖かった、命を奪うことも目の前で知っている人が死ぬかもしれない事がとにかく怖くて逃げるために魔法を発動した。
そして、一年が経ち国は滅びクラスメイト達は全員いなくなってしまった。
死体が見つかることは無かったが、あの激戦の中生き延びていることはないだろう。
そして逃げたい一心で使った魔法は、僕をこの世界と少しずれた場所へ固定してしまったのか誰も認識することが出来なくなりモノにも触れることが出来ない幽霊のような状態にしてしまった。
幸いにも飢えなどを感じることはないが、この一年魔法を解除することも出来ず彷徨っていた。
僕は、どうすればよかったのだろう。
だれか僕を見つけてください。
だれか助けてください。
だれか…。
あれからどれほどの月日が流れたのかは分からない。
僕の心は壊れてしまっていた。
それでも、空間魔法の鍛錬は怠ってはいなかった、そして遂に地球へと帰還する魔法を作り上げることに成功した。
僕は、ゲートに飛び込み地球への帰還を果たした。
そこは、召喚直後のはずだった。
僕以外だれも居ないかと思っていたが、違っていた。
全員が何事もなかったかのようにそこに居た。
そして、その中にもう一人の僕も居た。
「ははは…。」
思わず乾いた笑いが込み上げてきた。
如何やらこの世界に、僕の居場所はないようだ。
自暴自棄になったその時、見たことのある魔法陣が教室の床に現れた。
召喚直後に設定したつもりが、召喚直前にずれてしまっていたようだ。
召喚魔法に巻き込まれ、二度目の転移を果たしたが召喚された場所は僕だけ違った。
何もない森の中に一人ぽつんと立ち尽くしていると、森の奥からオオカミの様な魔物が飛び出してきた。
慌てて、転移陣をオオカミの前方に展開して上空に出口を作る。
飛び出した勢いのまま転移陣に飛び込んだオオカミは、空から落ちて命を落とした。
そこで気が付いた。
あのオオカミは間違いなく僕を狙っていた。
確かめるために近くの木に触れてみると触れた。
そのことが、とてつもなく嬉く思わず涙が流れてしまった。
召喚魔法の影響で、ズレていた座標が元に戻ったのだと思う。
感触を確かめて満足した後は、王都に転移するためにゲートを開いた。
ゲートを潜り、到着した場所は見慣れた場所ではなかった。
間違いなく場所はあっているはずなのにそこには、城が立っていなかった。
それから一時間ほど町を彷徨いながら、道行く人の会話を盗み聞きして分かったことは、ここは僕たちが召喚された時代からすると200年くらい前になるらしい。
まだ、アイゼル王国は建国されていなくて、ここは交易都市と呼ばれる大陸での流通の中心部の様な場所らしい。
何はともあれ、幽霊状態が解除されたせいかお腹がすいた。
しかしお金が無い。
正確には持っているのだが、アイゼル王国の通貨の為ここで使うことが出来ない。
それでも、どうにかしてお金を手に入れる必要が有ったので、ある店を探して町の中を歩く、交易都市と呼ばれるくらいだから通貨などを換金する場所が有ると思ったからだ。
たとえ使えないお金でもそれを形どっているのは、金になるので重さで交換してもらえないか交渉する予定だ。
それから数十分、目的の店を見つけることが出来た。
結論から言うと、予想より多めにこの時代のお金を手に入れる事には成功したが、どこでこの硬貨を手に入れたのかと言う質問に答えることに苦労した。
本当のことを言っても信じてもらえるわけないので適当に誤魔化して店を出た。
そして念願の食事だ。
まずは屋台で売っている肉料理を物色する。
調味料が高いらしく串に刺した肉には味が無かった。
アイテムボックスから塩の入った小瓶を取り出して降り掛ける。
肉は固くて筋張っていたが、数年ぶりに食べると言う行為に涙が溢れた。
その後は、安めの宿を取り残ったお金で買って来た布を袋状にしていく。
取りあえず、お金を稼がないと明日以降の生活が出来ない。
完成した袋にタグを縫い付ける。
こうして、アイテム袋を20袋ほど完成させて眠りについた。
次の日、目が覚めると早速昨日作ったアイテム袋を持って売り込みに行くことにした。
「すいません、ちょっとお時間宜しいですか?」
売り込みに行った先は、日用品を手広く扱っているフラクト商会というこの辺りでは中堅ぐらいの規模の店だ。
工房の親方の話では、たしか一番最初にアイテム袋を扱いだした商会で工房の取引相手でもあったはずだ。
店に入りカウンターに居た執事のような恰好をした初老の店員に声をかけた。
「いらっしゃいませ、どのようなものをお探しですか?」
「いえ、買いに来たのではなく売り込みに来たのですが。」
店員にそう告げると訝しむような目で此方を数秒見た後、奥へと通された。
一際大きなドアの向こうに居たのは、立派なひげを蓄えた40代くらいの小太りの男だった。
「始めまして、タナカと言います。」
「フラクトだ。さて硬い挨拶は抜きにして本題に入ろうか。
あいつが奥まで通した者は久しぶりだ。」
早速アイテム袋を取り出して商品の説明をすると最初は探るような目つきだったが、最後には目を輝かせながら聞いてくれた。
そしてとんとん拍子に話は進み、新たに工房を立ち上げる事とアイテム袋の売り上げの20%を受け取ると言うことで話は落ち着いた。
作って来ていた20袋は、即金で買い取ってもらい工房立ち上げ後は魔法陣の作り方を教えるために出向くことになった。
其れから数十年が経ち、結婚して子供も出来た。
アイテム袋は、流通に革命をもたらし輸送時の重量による上限を破壊し時間経過による劣化をなくしたことで調味料なども安く取引されるようになった。
フラクト商会とは、その後も色々と空間魔法を使ったアイテムを作成することになった。
子供が成人して家を出て、しばらくして妻を看取った。
いつからか、自分が空間魔法の祖なんて言われていることを知った時は、はっとした。
如何やら僕を苦しめたのは、僕自身だったらしい。
生活の為に始めたこととはいえまさかこんな事になるとは思ってもみなかった。
僕は、過去の自分を救い出すことに決めた。
この人生も悪くはなかったが、違った未来も有ったと思いたいのだ。
僕は転移魔法を使い未来へと旅立った。
到着したのは、砦での戦闘の直前だった。
僕以外のクラスメイト全員が、同じ部屋に集まりこれから始まる戦争に恐怖していたり自分の力が試せることに歓喜していたりする中に、僕は現れた。
僕は、彼ら以外にこの話が聞かれないように幽霊状態のようになる魔法を全員にかけた。
「ひさしぶりだね」
「だれだ!」
「わかる訳無いよね、田中空だよ」
「田中君なの?」
信じられないようなものを見るような目で僕を見るみんなに、この後起ることを説明したが納得してはもらえなかったようだ。
それでも、面影の残る顔と各個人の恥ずかしいであろうエピソードを話すことで、なんとか僕が本人であると言うことは信じて貰えた。
「一応、みんなを救いに来たんだけど、もし地球に帰りたいって人が居たら手を上げてください。送り返すことが出来るからさ。」
「本当に帰れるの?」
「うん、大丈夫。召喚直後の学校の屋上に転移先を開くから自分に会う心配もないよ。」
「それなら、どうして教室じゃないの?」
「もし設定した時間が、少しでもずれて召喚前に教室に転移すると僕みたいにもう一度巻き込まれるかもしれないしね。そのための保険だよ」
「でも、この世界はどうなるの?」
「この世界が心配?僕らを無理やり召喚して良いように扱うつもりのこの世界が。」
「でも…。」
「俺は残るぜ!折角手に入れた力を全力で使ってみたいしな。
俺は勇者になるんだ!」
「君はそう言うと思ったよ。他にも残る人にはこれを渡すから肌身離さず持っていてほしい。」
「これは?」
「お守りだ。君の命を守ってくれるはずさ」
「それじゃ、残る人以外は向こうに送るけど準備はいい?」
僕は、魔法を解除して転移ゲートを開き出口を確認した後戻る選択をしたみんなを送った。
「空、お前はどうするんだ?」
「僕は、この時代の自分を地球に送り返した後は、魔王軍と戦うつもりだけど?
みんなを返しちゃったから尻拭いをしないといけないしね。」
「どうしてだ?お前はこの世界が嫌いじゃないのか?」
「嫌いだったよ、でも200年前に飛ばされたときに子供が出来たからね。
子孫の居る世界に滅んでほしくはないんだ。」
「そうか、じゃ一緒に世界を救おうぜ。」
「おう、お互い頑張ろう。」
正体は明かさず、過去の自分を強制的に送り返して戦場へと向かう。
この後自分がどうなるかは分からないが、地球でも頑張ってくれるだろう。
そして魔王軍との戦闘が開始された。
数倍の数のモンスターを相手に善戦するもこのままいけば、前回と同じ結末になってしまうだろう。
いくら強い力を持っていても所詮は、18歳のガキに世界の命運をかけてしまうようなこの世界にもともと未来は無かったのかもしれない。
何度目かの戦闘で、此方に残ったみんなもモンスターに殺されてしまった。
といっても、あの時渡したお守りが死ぬ瞬間にダミーを作って本体を無傷でほかのみんなと同じく屋上に転移させるように作ってあるので死んではいないのだが。
皆が居なくなったのを確認すると、敵軍の足元に大きな転移陣を発動させて大気圏ギリギリの辺りに強制的に転移させた。
目の前から消える無数のモンスター達に兵士は呆然と立ち尽くしている。
転移させられた魔物たちは、落下の際の摩擦熱で燃え尽きたのを確認した。
取りあえずの危機が去ったことに、国はお祭り状態だが問題が解決したわけではない。
僕は一際魔力の高い場所を探り当ててそこへと転移を開始する。
転移魔法は、基本的には行った事のある場所にしか行けないと思われていたが、目視した先であったり魔力等座標となる物が有れば飛ぶことが出来るようになっていた。
転移した場所は、まさしく魔王の間と言ったようなおどろおどろしい感じの内装に玉座と言った感じで、そこに幼女が座っていた。
「何者だ」
幼女とは思えないドスの利いた声でそれがしゃべった。
「はじめまして、田中と申します。魔王さまでお間違いありませんか?」
「人間が我にようじゃ?」
「此度の進行をやめていただくわけにはいきませんか?」
「それは出来ぬ、そもそも攻めてきたのはそちらではないか。」
やっぱりか、初めて会った時の王様の顔がどうもしっくりこないと思ったら案の定こういう事か。
「なるほど、でもこのままだと双方共倒れになりますので、他の道はないでしょうか?」
「他の道などあるものか、この世界が1つな限り争い事は尽きぬのじゃ」
「その通りですね、では2つに分けることで争いを納めてもらうと言うのはどうですか?」
「どうするつもりじゃ」
「月です。申し訳ないですが貴方達が移住すると言う形で二つに分けましょう。
貴方達のほうが、環境適応能力が高いので彼方にも住めると思うんです」
「我らにこの地を去れと言うのか」
「申し訳ないですがそうなります」
「だが、どうやって移動するのじゃ?空にある物に移動できると思っておるのか?」
「はい、私がここに来た魔法と同じものを用いれば何とかたどり着くことが出来るかと思います。」
「ふむ、あの空間の揺らぎは空間魔法の一種か」
「そうですね、一応時間と空間をある程度移動することが可能です。」
「ある程度とは?」
「時間で言うと、200年くらいは余裕でしたね」
「に、200年とな?」
はじめて魔王の顔が崩れ、声も若干うわずった感じになった。
ゴホンっ!
「もしや、お主も此度の人間たちの使った此度の召喚で呼ばれた者の一人か?」
「そうなりますね、2度ほど巻き込まれて過去に飛ばされたときは焦りましたけど。」
「それならば、お主と争っても仕方ないな。
提案としては、悪くない。その案に乗ってやろう。」
「ありがとうございます。」
「それでは、1週間後にまた参られよ。」
「それでは失礼します。」
そう言ってゲートを潜り、今度はアイゼル王国の王の前に現れる。
慌てて衛兵を呼ぼうとしたが、魔法を使って周りから認識出来なくしてやった。
「落ち着きましたかな?」
「お前は何者じゃ?」
「あなた達が召喚した者たちの一人とでも言いましょうか、この時代では空間魔法の祖なんて言われてるみたいですが、ご存知ないですか?」
「そ、そなたは100年以上前に死んだと聞いていたが、生きていたのか?」
「いや、多分そのころ死ぬんじゃないですかね?
今の私は、過去よりやって来た使者とでも思ってください。」
「それで、何のために化けて出たのじゃ?」
「この戦、このまま進めると1年も経たずに負けますよ。」
「何を言う、わが軍は最強じゃ!魔物なんかに負けるものか!」
「そういう自惚れで、魔王国を攻めたのですか?」
「なぜそれを…。」
「先ほど魔王さんとも話し合ってきたんですが、これ以上人間に付き合うのも面倒だろうってことで魔王国には、月の住人になってもらう事で話を付けました。」
「そんな馬鹿な!」
「そういう訳で、これより彼らはこの星を去りますんで後は人間同士で領地でも争ってください。」
「何を!」
「あ!そうそう、もし今後こんな事に僕らの様なほかの世界の人間を巻き込んだら月の魔王たちと共にこの世界を滅ぼしますので気を付けてくださいね。」
「ま、待て!」
王を無視して魔法を解くとその場を後にする。
特にすることもなくなったので、ぶらぶらとあちこちを回り約束の日となった。
「待っておったぞ」
「それでは始めます。」
両手を上に上げて魔力を全開に巨大な転移陣を魔王国全体に広げて行く森や湖も含めて月の大地と入れ替えるのだ。
3時間かけて転移陣を広げきり転移を開始する。
一瞬で夜空の広がる月の大地に僕らは立っていた。
転移後即座に国を覆う巨大なドーム型の結界を完成させて取りあえずの空気を確保した。
この魔王国の大地から生まれた空気や、草たちがいつかこの星を緑の星にするだろう。
僕は結界を維持するための魔道具を国の中心に設置して使い方をレクチャーする。
それが終わりホッとしたところで、一気に力が抜けた。
如何やら魔力の使い過ぎのようだ。
遠のく意識の中で、魔王たちに名前を呼ばれながら僕の人生は終わった。
思ったより長生き出来て、まぁ悪くなかったと思う。
お読みいただきありがとうございました。
最後の方がちょっと駆け足になってしまいました。
投稿して9年ほど経ちましたが、2025年3月のアクセス数が、それまでの累計数の2倍以上ありました。
評価も250件以上頂けてリアクションも100を超えました。
どのような経緯で、このようなことが起きたのかわかりませんが、お読み頂いた方が楽しんでもらえていら幸いです。
調子に乗って生成AIに主題歌を作曲してもらいました。
よかったら聞いてみてください。
ランキングタグでリンク張ってみたけど怒られないかな