過去の文献 03
「好きな事だけに特化しているって、凄いわよね。」
感嘆の溜め息を漏らす雛。
上げて落とすのも、良く雛がする事だ。
「うぅ…、それだけじゃないもん…。」
思わず唇を尖らせる私。
けど、それ以上の言葉が出てこないのは事実なのよね。
私は文献が好き。
読む事で知らなかった知識を増やす事が出来るこれは、身体を動かす事もよりも好きなの。
そしてそれ以上に、星が好き。
ただの岩の塊で、太陽の光を受ける事で反射して、光っているように見えるだけなのだと分かった後でも、星が好きな事は変わらなかった。
「うん、偉いね、唯。」
言いながら頭を撫でてくれる手は優しくて、私は雛の事が大好きって、身体中で感じる。
「それで、気になるところはここよね。」
すぐに文献の事に話が戻った。
雛は切り替えが早いの。
「あ、うん。世界がバラバラに砕け散った、ガラスの破片のように…って。」
「…旧世界のパズルのようなものかしら。」
顎に指を当て、小首を傾げる雛。
彼女が言う旧世界っていうのが、私が文献から得た知識の源である世界の事なの。
今の生活からは想像もつかない、別の生き方があった。それは実際にあった事って、古い文献全てが訴えている。
知ったところで今が変わる訳じゃないけど、私の頭の中に飛び込んでくる知識や経験が嘘にさせてくれない。
「そうかもしれないね。パズルなら、集めれば一つになるのになぁ?」
何気なく発した言葉。
「それよっ。」
いつになく雛に鋭く返されて、逆に唖然としてしまった。
何?どうしたの?
雛は物静かで優しくて。あまり激しく感情を乱さないのは、同い年なのに凄いと思ってしまうくらいで。
「あら、ごめんなさい。驚かせてしまったようね。」
私が固まっているからか、雛はいつもの静かな笑みを浮かべた。
はい、驚きましたよ。
「え、えっと…、どうしたの?」
漸く石化の解けた私は、顔を無理矢理笑みの形に作ろうとして、ひきつってしまった。
失敗。
「あのね、唯。もし、もしもよ?」
「う、うん。もしも、なんだね?」
念を押すように何度も仮定だと告げる雛だったけど、彼女がここまで言うからには、ただの妄想ではない何かがある…ような気がする。
「もしも世界が、元に戻せるとしたら…どうする?」
内緒話をするかのように、雛が私の耳に囁いた。
って言うか、世界が戻せる?
あ、ううん…これは仮定の話、だよね。
私は少し混乱しつつも、雛の言葉を必死に考える。
これは、もしもの話だ。