過去の文献 01
私と雛がジルヴァート文献所に着いたのは、二つの太陽の小さい方が、丁度真上に来た頃。
「いらっしゃい、唯ちゃん。雛乃 ちゃん。」
文献所を任せている管理者のお爺ちゃんが迎えに出てくれた。
あ、血の繋がりとかはないよ。
って言うか、元々ここはこのお爺ちゃんが管理していたんだけどね。
「こんにちは~。また来たよ、お爺ちゃん。」
「ご、ご無沙汰…しています。」
笑顔の私とは違い、ひきつった表情の雛。
彼女は極度の人見知りで、もう何度も顔を合わせているお爺ちゃんでさえ、この様子なの。
まぁ、挨拶を交わせるようになったから、少しは慣れてきているのかもだけど。
「調べものさせてもらうね~。」
「はいはい、ごゆっくり。」
笑顔のまま、私は唯の背を押して文献所に入っていく。
お爺ちゃんはこれから、周囲の草取りとかをするみたい。いつも何かしら動いていて、あまり休んでいるところを見た事がないの。
前に聞いたら、そうして身体を動かしている方が好きなんだって。
「…緊張、した…。」
文献所に入って本のにおいに包まれた頃、漸く雛が長く息を吐き出した。
私以外の人に会うと、大抵こうなるのよね。
「うん、ちゃんと挨拶出来たね。偉いね、雛。」
少し高い位置にある雛の頭を、私はにっこりと微笑みながら撫でてあげる。
この時だけ、私は雛のお姉さんになるの。
「ありがとう、唯。」
「えへへっ。」
雛にお礼を言われると、私は凄く嬉しい。
「古い文献を中心に探そうか。」
「そうだね。奥の方の文献は状態が酷いから、気を付けて見ないと。あるかな~?」
少し経って雛がいつもの雛に戻り、私達は二人で古い文献を探し始めた。
新しい文献は手前の方で、奥に行くほど古いものになる。けれど古いものは虫に喰われていたり、書物の質からかボロボロになったりしているものが多くなった。
「今では高価で使われていない、洋紙ってものなんだよね?羊皮紙と違って、長く保存するには向かないなんて残念。」
慎重に本の表紙を広げながら、私は中の文章に目を通す。
文献は色々な言葉で書いてあるけど、幾つもの縦横の線と丸みのある別の文字を組み合わせて書いてある書物が、私は一番好き。
「洋紙の代わりにパピルスを使っている国もあるみたいだけど、あれも保存には向かないらしいから。この文献は、どちらかと言うとパピルスに近いわね。」
「うん。厚みは薄いんだけど、そのせいか強度もなくてボロボロになりやすいもん。いつか、これが全部読めなくなっちゃいそうで嫌だなぁ。何で羊皮紙を使っていなかったのか、凄く不思議。」
奥へと進みながら、私達は書物の状態を気にしていた。