始まりの朝 04
「じゃあ、文献を調べてみる?」
突然の雛の提案だったけど、私の頭の中はまだ芝とか青とか言ってた。
「え…?」
「過去の文献を調べて、事実かどうかを知りたくない?」
反応が薄い私の為に、雛はもう少し分かりやすく話してくれた。
あ、文献。本来なら、私が真っ先に言い出しそうな事だった。
「うんっ!」
笑顔全開で私が首肯すると、雛はふわっと笑みを浮かべてくれる。
「じゃあ…。」
「うんっ。そうと決まれば…。」
「「ジルヴァート文献所っ。」だね。」
二人の息があった。
私達が調べものをするとき、必ずといって良いほど訪れる場所。
実はそこ、子供の頃に管理権限をもらっている。依頼の報酬でね。
あ、でも実際には人に任せてあるから、オーナーみたいなもの?維持費は私達にかかってるし。
「それじゃ、早速…。」
「待って、唯。」
飲み終えたコップもそのままに、私がすぐさま扉へ向かおうとした─けど、雛に止められる。
「片付け。それに、洗濯物。」
「え~っ。」
「文献所は逃げないから。」
私の不満も、雛には効果がなかった。
大抵の場合、言い負かされるのは私なんだけど。
「うぅ~、分かった~。私は洗濯するから、雛はこっちをお願いね。」
「分かったわ。唯もお願いね。」
二人で、手分けしての家事をする。
私は家事全般が苦手。
お皿なんて洗ったら、一回につき一枚は粉砕する自信があるもの。
掃除は出来るけど、同じく何かを壊してしまう。わ、悪気はないのよ?
だから一番私に向いているのが…って言うか、出来る事は洗濯くらい。
これは力仕事の分類だし、よほど壊す心配がないもの。
私は貯め水を使い、洗濯物用として作られている洗い場で汚れ物を洗う。
基本的に手で擦り洗いなんだけど、石鹸は町で買ってくるものを使っているから、洗い上がりは良い匂いがするんだよ?
「唯、終わった?」
「うん、これで終わりだよ~。」
雛の声に、私は最後の布をパンッと払って干してから振り向いた。
既に雛は出発準備も終えているらしく、その背には皮の鞄がある。
「さすがだねぇ、雛。んじゃ、行こうか。」
私は先に荷物を出しておいたので、その袋を肩に担ぐだけだ。
二人共に、両手が使えるように背中で背負うタイプの鞄なの。
「うん。とりあえず今日は、調査だけの予定ね。」
「そうだね。いざ、ジルヴァート文献所へっ。」
二人して笑顔を交わし、ここから歩いて文献所まで向かう事にする。
遠くないとは言え、行くのに一時間くらいかかるのよね。
朝御飯をしっかり食べておいて、良かった~。