始まりの朝 02
「おいひ~っ!」
朝御飯。
雛の作ってくれた今日の朝御飯はなんと、フレンチトーストだった。
パンを白黒乳と尾長鳥の卵、砂糖楓の樹液を煮詰めて作ったメープルシロップ、同じ材料から作ったメープルバターを使って仕上げられた一品。
私は白黒乳は苦手だけど、雛が作ってくれるご飯となれば別なの。
頬っぺたが落ちそうな程の美味な品を口にしたまま、本当に落ちないように両頬を押さえてしまう私。
「もう、大袈裟なんだから。それで、今日はどんな夢を見たの?」
幸せそうな私を見て、雛が幸せそうな笑みを浮かべている。
でも食べ終わった頃を見計らったかのような問い掛けの内容に、私は一気に最後の一口から現実へ引き戻された。
うぅ…っ、もう少しお口の中の旨味に浸りたかったのに。
「唯?」
「あ、ごめんね。うん、今朝の夢の話だよね。」
そして私は軽く頭を振って割り切り、夢で見た事を雛に話す。
こういう事はよくあって、私は誰かの過去を夢で実体験したかのように見る事が出来るの。
少し迷惑な事もあるけど、知らない筈の事を体験出来るのは素敵だったりする。
そんな感じで、よく雛に夢の話を聞いてもらった。
「…って感じだったんだけど。どう思う?」
一通り話終えた私は、いつの間にか目の前に出されていた杜仲茶で口を潤す。
これは杜仲という落葉高木の樹皮や葉から作られるお茶。勿論、雛が作った。
ダイエット健康茶でもあるんだよ?
「うん。それ、唯と子供の頃に出会った人が教えてくれた昔の話だね。でも唯が体験したなら、今回それを教えてくれた人は別にいるんだろうけど。」
暫く考えていたようだけど、ちゃんと結論を出してくれた。
雛は物静かで優しくて、同い年とは思えない程、気が利く。そして私よりも頭が良いの。
「あれ?じゃあ、過去にあった事なんだ…。って言うか…聞いた事あるなんて、すっかり忘れてたよ。」
「うん、そうみたいね。けどやっぱり、心眼の力かしら。」
お茶を飲んでほっこりしていたけど。
実際にあった出来事だって分かって、真っ先にその場にいなくて良かったって思っちゃった。私って良い子じゃないな。
ちなみに心眼っていうのは、私の能力の一つ。幽霊が見えたり、心の声が聞こえたりするの。たまに迷惑なんだけどね。