残されたもの
いないものはいない。
もう返ってこないのだ。
しかしぼくはこの状況を裏切りだとは思わない。裏切りなんて信頼の押し付け、自身の力のなさ、魅力のなさを棚上げにしたエゴでしかないのだから。
ニンゲンなのか動物なのか、ぼくはそんなのどうだっていい。
救われるべきものは、主人公であるぼくが決める。
あの男がいるかいないかでその目的が変わるわけではないのだ。
「さあ行きましょう。目的地まではもうすぐ……ですよね」
「う、うん。でも。ヤマトをどうしよう……」
「どうするも何も、放っておくよりありませんよ」
意思の抜けたこの鎧姿は最早ただの木偶。
そっと触れたその体は、思ったよりもずっと冷たい。
今までこの人形に助けられたことには感謝している。
だが、もう戻らないとわかっているものを待つ意味も、そしてそれを持つ意味もないのだ。
「先頭は、ぼくがやります」
「でも! あんたはアイロスがいるじゃない! そんなの無理よ……」
「バカなことを……。たかだか鉄骨人の一人を抱えるくらい造作もないですよ。大して重さも感じませんし、とはいっても片手での戦闘となると多少機動力は落ちますが、まあそれも問題ありません」
「……本当に。あんたどうしちゃったのよ」
「…………」
ぼくがおかしいとセーレは言う。確かに、言ってみればぼくはおかしいのだろう。
だが、それはぼくではない。
そもそもぼくにいたもの、ぼくがぼくである前からぼくであるものが原因だ。
「さあ、行きましょう。ジーナさん、階段を作ってもらえますか?」
「え? ああ……うん。でも、ここらにはモンスターもいないし、それにもう少し行けば階段があったはずだよ」
「そうか……、この辺りにはもう覚えがあるんでしたよね」
「うん。とは言っても、随分前の記憶であることに変わりはないから確かかどうかは行ってみなきゃわからないけどさ」
まただ、またジーナに違和感を感じる。
たしかヤマトとここらを探索している時にはどこに何があるのかはわからないと言っていたはずのジーナが、今度はその辺りに階段があると言っている。
思い返してみれば、彼女の言うことに一貫性はあるものの、その一貫しているものが複数あるような気がするのだ。初めに見せられた歴史資料、エタニリウムからぼくが戻った後の話、それから今。そのどれもが真実の練りこまれた創作話のようで、それに対するジーナの発言もまた創作のようでもある。今となっては細かいことを思い出すことが難しいが、もしかしたら彼女の発言には他にも多くの矛盾があるのではないだろうか。かといって、彼女が嘘を付いているようには見えない。
それじゃあ、その矛盾を彼女自身が自覚していないのか。
自分は無数の人格が混ぜ合わされたキメラだと彼女は言っていた、だとすれば彼女が持つ矛盾はそのどれもが同時に機能しているからだとも考えられる。
だとすれば、ジーナという人格は何なのだろうか。
先を進むと、ジーナの記憶の通り下へと向かう階段が確かにあった。
見下ろすと、下の階層の床が輝いているのが見える。これだけ見通しが良ければ隊列を組んでまでモンスターに警戒しなくとも不意討ちなどあり得ないだろう。
上層での戦闘のことなどなかったかのような静けさ、そして何よりこの清潔さだ。
それはアクアリウムでも感じたことではあるが、これがつまりはダンジョンキーパーの維持なのか。なんとも出来の良い家政婦のような仕事ぶりだ。もしかして、両手に雑巾を持ったりして床を磨いたり、あのガラスを磨いたりしているのだろうか。ふとそんなダンジョンキーパーを想像してみると、不思議とぼくの心が落ち着いた。
緊張するということが、繊細でいるということとはちがうのだろう。
あくまで頭の片隅に警戒を置き、それでも行動は楽しんだっていいし、何かが起きた時にさえその反射を素早くできればそれで問題ないのだ。
それなのに、張り詰めてイラつくということは実力のなさ、またそういった不安を意識しすぎてそうなるのかもしれない。
「スラスト、ちょっといいか」
ぼくが突然声を掛けたからか、スラストは一瞬動きを止め怯えたような目をしている。
スラストがそんな目でぼくを見た後、隣を歩くセーレに視線を送ると、セーレは「大丈夫」と小さく呟いてスラストの背中を押した。
「な、何……?」
「すまなかったね。あの時は緊張しすぎていたんだ。もう、突然怒鳴ったりしないように気をつけるから」
「う、うん……。お父さんも、怖かったの?」
「怖い……?」
そんなこと、今の今まで考えていなかった。
なぜだ。
「そ、そうだな。お父さんも怖かったんだと思う……」
なぜぼくはこの状況を怖いと思っていなかったんだ。
皆がいるからか、自分が死なないとわかったからか。
ヤマトがいなくなるという状況、それがいつかはくることとわかってはいたが、いなくなった後のことを考えてなどいなかった。それに上層での戦闘もそうだ、油断はしていたが、ぼくはその状況に一切恐怖など抱いていなかった、それを思い出したと言うのもおかしな話だが、確かにぼくはこのところ恐怖というものを感じづらくなっている。
ぼくは、また何か忘れているのだろうか。
能力を使った後、ぼくはその代償として大切な記憶を失う、というのはホルダから聞いたから確かだ。だが、それが記憶のどの部分のことなのか、そしてそれが一つとしてどういう括りでの一つなのかはわからないままだ。
今までに能力を使用したのは、ボスマウスフェイスでの一件、ウィンドエレンファスでのこと、それからエタニリウムの根から脱出する時の三回、だったはず。しかし、ぼくが代償として支払ったものといえば、
ぼくの本当の名前以外何も判明していない。ぼくが名前を思い出せなくなったのは、ボスマウスフェイスでの一件以降だ。セーレに名前を聞かれるまでは、何かを覚えていたはずなのにその時には何も出てこなかった、つまり、ぼくが名前を失ったのはボスマウスフェイスでの一件によるものだと考えて良いだろう。
それならば、残りの二回分、ぼくは何を失ったのだろうか。
今の今までそれを考えもしなかったこと自体おかしいのかもしれないが、忘れているという自覚がない以上それも仕方のないことか。
だが、それはぼくが失ったものに過ぎない。
「お、お父さん……!」
彼女の一言に困惑しているぼくのそばでスラストが前方を指差して、また怯えている。
「どうした……? あ、あれは……!」
魚影、改め人影だ。それは床に仕込まれた照明に照らされて、磨りガラスの間仕切りの向こうを歩いていく。
ぼくはそれを確認するとすぐ、階段をセーレもジーナも巻き込んで再び登った。
「ちょっと、どうしたの?」
「海人です……。まだ、たぶん正常な……」
「正常な? それって腐ってないってこと?」
「だから、たぶんです。彼らにまだ意識が残っていたとしても、きっとぼくたちに気付けば騒ぎになるでしょう。少し、様子を見たほうがいいと思うんです」
「でも、ジーナなら大丈夫じゃないの?」
「そうか……! ジーナさん」
「……そうだね。たぶんボクなら不自然にはならないと思うけど……ってボクだって超古代の人扱いだから誰も覚えていないんじゃないかな。とは言っても、結局施設を利用するには誰かに見つかるだろうし、それに説明も必要だね……。よしっ、いっちょボクが行ってくるよ。もし、彼らがモンスター化していたとしてもボクならなんとでもできるしね」
「頼みます」
ぼくたちは、アクアリウム階よりも少し下ったところにある脇道、そこに並ぶ部屋が何に使われているのかはわからないが、その通路の陰に身を隠しながら階段を降りていくジーナを見送った。
「ジーナ……大丈夫かしらね」
「大丈夫ですよ、きっと。何せ彼女はもともとダンジョンの住人なわけですから」
「まあ、そうなんだけど……」
「何か不安なことでもあるんですか?」
「いや、そういうんじゃないんだけど……。ねえ、ラス。あんたちょっと見てきなさいよ」
「……そう、ですね」
確かに、こうやってぼくたちがここからジーナの帰りを待っていても、下で何が起きているのかわからなければ対処のしようもない。
ぼくはアイロスを二人の傍らに座らせ、セーレの言う通りに下の階に消えていったジーナの後を追う。
壁に張り付くようにしながら、できるだけ息を殺して階段を下り切ると、中央に見える広い通路を何の躊躇もなく進んでいくジーナの姿を視界に捉えた。
ぼくが人影を見たのは今ジーナがいる辺り、その中央の幅広い道を象るように並んで備え付けられた磨りガラスの間仕切り壁の向こうだ。
階段から離れてジーナの後を追うべきだろうか。階段を見上げると、体の半分だけ出しているセーレが手を払い、進めといわんばかりの挙動を見せている。
「……わかりました」
ぼくがここから離れれば、何かあった時戦闘力の低い二人を置き去りにしてしまうことになるわけだが、ここの階にもモンスターの気配はないし、大丈夫だろう。
ぼくは、意を決してそのオレンジ色の苔が敷き詰められたガラスの床に踏み出した。
実際に出てみると、なんとも清潔で開放感のあるその空間がまるでどこかの成功した大手企業の現代的なロビーのようにも感じる。一昔前は大理石こそ金持ちが作る建物の象徴みたいなところがあった気がするが、現代ではどちらかと言えば開放感こそ金持ちの建物という感じだろうか。
高貴というよりも、お洒落といった雰囲気だ。
気が付けば、先を行くジーナの姿が見えなくなっている。
どこか間仕切りの中へ入っていったのかもしれない。ぼくは目を凝らし、擦りガラス越しに見えるはずのシルエットを探す。
「……あそこか」
先程ぼくが人影を見た間仕切りの中央の道を挟んで反対側、その間仕切りの影に小さな人影を見つけた。
しかし、その人影は一つ。
「よく……見えないな……」
柱が一本もないこの空間で身を隠すのは至難の業だ。できる限りの視界を持ってして目に付かないよう気を配りながらぼくはその一つの間仕切りの中へと走りこんだ。
ここからならよく見える。
どうやらジーナが向かった先には先程ぼくが見たであろう人影、そしてそれに近付いて行く小さな人影。
何か話しかけたのだろう、小さな人影の正面に立つ大きな人影は振り向き、今ぼくの視線には向き合う人影が映っている。
「頼みますよ……ジーナさん」
固唾を呑んでそれを見守る、つもりだった。
だがしかし、向き合った瞬間に起きた出来事は、ぼくのそんな余裕を一瞬にして砕いた。
「ジーナさん!」
大きな人影が向き合った瞬間、それは小さな人影に覆いかぶさるようにし、そして、何かボール状のものが打ち上がるのを見たのだ。
背の高い間仕切り壁を飛び越えて白く輝く、頭部が実体を現す。
「くそっ! どうなってる! ジーナさん……!」
飛び上がった頭部の持ち主、その人影に向かってぼくは走った。
「ラスっ!」
ぼくがその間仕切りの向こう側、通路になっているそこに飛び込んだ瞬間に後方からの叫び声を聞いた。
だが、ぼくにはそれに反応している暇なんてない。
今、目の前にいるもの、そしてその光景に目も意識も奪われてしまったからだ。
「な……なんだお前は!」
今目の前に佇む者。
それは海人なんかじゃない。
蠢く触手を全身から生やした、人型の。
「マウスフェイス! なんで! お前は一体!」
言葉など通じるわけがない。それはわかっているが、どうしてもこの衝撃を声に出さずにはいられなかったのだ。まるでぼくが見たマウスフェイスがその一部であるかのように、見覚えのある口だけしかないその頭から下にはアンデッドマーマンではない、触手の束になった体がある。
そして、その足元に転がっているのは小さな海人の死体。首から赤黒い血液を垂れ流してそこに血溜まりを作っている。
「こんな……。なんてことを……!」
「ラスっ! 上!」
再びジーナが叫んだ。ぼくがそれに応じて上を見上げると、天井から大きな蠢く塊、ボスマウスフェイスが落下してくるところだ。
咄嗟の判断でぼくは後方に飛び退いた。
「ラス、君が見たのはあの子?」
「いえ、違います。ぼくはどうやら勘違いしていたみたいです……。たぶんぼくが見た人影は向こうにいるあいつです。くそっ! あの野郎……!」
込み上げてくるこの怒りは何だ。ぼくはなぜこんなにも怒っている。
恐怖に対する反発、違う。これは、海人を殺されたことに対する純粋な怒りだ。
どうして。
今まで幾つもその死体を乗り越えてきたのに、どうして今更になってこんなに腹が立つのだ。
「きっさまぁぁ!」
「ちょ……っ! ラ……!」
次々に湧き上がってくる怒りをぼくは止められない。
ぼくの感覚も意識も、ただ目の前にいる触手の塊を殺すことに集中しているのだ。
「あああああ!」
殺す。殺す。奴を、こなごなに。その姿をもう二度と、存在させはしない。
仲間を殺したエニムに罰を。
「エニムデキリンテっ! ダ、サンクタウォーレモ!」
振り上げた拳は敵を砕く。広げた手の平は仲間を守る盾となり、そのか弱き命を守るために。
これは聖戦だ。
俺はもう、何も失いたくはない。
「ラスっ! ラスってば! 起きろっ!」
「ぐあっ!」
不意の一撃にぼくは壁に突っ込んだ。
起き上がると、ジーナが焦りに満ちた驚愕の表情でぼくを見つめている。
「ラス! 早く二人のところに戻らなきゃ!」
「え? ど、どうしたっていうんですか?」
「何すっとぼけんてんのさっ! とにかく話は後だよ! 次々やってきてる!」
そう言って座り込むぼくの頭の上を通り越してその先を示すジーナの指先を辿ると、ざっと十体はあろうかという人影が磨りガラスの向こう側に見える。
それらはひとまとまりではなく、あくまで個別にこちらへ向かってきているようだ。
それに天井には幾つかのボスマウスフェイスの姿も確認できる。
「早く!」
状況に納得いかないまま、ぼくは即座に立ち上がり、先を走るジーナの後を追う。
そうしながら気付くのは、ぼくの体にモンスターの破片ないし液化したものが纏わりついているということだ。
何があったのか、ぼくはそれを覚えているが、なぜだかその意識を思い出せない。
込み上げる怒りのままに拳をボスマウスフェイスに叩きつけた。そして、それは一撃で液化、しかしぼくはその飛沫が収まるのを待たずにその中へ突進し、目の前に佇んでいたマウスフェイス成体の頭をむしり取った。すると、掴んだ頭のマウスフェイスは腕に絡みつきぼくを乗っ取ろうとしたのだが、ぼくはそれをつけたまま力任せに残った同体を殴りつけたのだ。
でも、衝撃でその頭こそ液化したものの、その体は吹き飛んで向こうの壁に激突したが、液化はしなかった。
そしてその後を確認する間もなく、ジーナにぶっ飛ばされたのだ。
「ジーナさん。なんで殴ったんですか!」
「なんでって……! わけわからなかったからだよ!」
「な……! なんですかそれ」
「わからないよ! ボクにも少しくらい考えるのに時間が掛かることだってあるんだよ!」
考えるって何をだ。
ぼくを殴ったことについて聞いたはずが、ジーナは考える時間の話をしている。これは全く辻褄の合わない言動だ。やはり納得がいかないまま、ぼくらはセーレたちのところへと向かった。
奴らはまだここまではきていない。ぼくとジーナはまだ人気のないままの階段を駆け上がる。
「セーレ! スラスト!」
ジーナがそう叫んだ瞬間、陰になっている横道の通路から銃声と、そして銃を構えたセーレが飛び出してきた。
「セーレさん!」
敵がその道の先にいる。そう感じるのと同時にぼくは地面を強く蹴り、ジーナを追い抜いてセーレの隣に立つ。壁にもたれたままのアイロスとその道の奥から揺れ動きながら迫ってくるマウスフェイス成体。
だが、スラストの姿が見えない。
「セーレさん! スラストは!」
「上よ!」
「う、上?」
「違う! 道、天井!」
上だと言われて見るのは上だろう。しかしそうして上を見上げたぼくをセーレは怒鳴った。
そして見つめた、前方に伸びる落ち着いた青い照明に照らされた幻想的な雰囲気の廊下の天井、ちょうどぼくに尻を向ける形で蜘蛛のように気味の悪い格好でそこに張り付いている何かを確認した。
「あれですか!?」
「そう! あれ!」
セーレが叫んだそのタイミングで、天井に張り付いていたスラストは逆さのまま天井をとてつもないスピードで這い進み、徐々に迫るマウスフェイス成体に飛びついた。
そのまま首に抱きつく形で敵に張り付いたスラストは、両手で首を捻りちぎる。
そして、不意の出来事に両腕を広げて暴れだした胴体から飛び退くと、犬宛らに四足で飛びかかり、そして倒れこんだその胴体をバラバラにしてしまった。
「……ほ、本当にあれがスラストですか?」
「ほ、本当よ! スラスト!」
セーレが呼びかけると、体中にマウスフェイスの体液を滴らせたままスラストと思しき者がこちらを振り向いた。
「あ、あれって! なんでスラストが!?」
体中に浴びた体液を払うように体を振り回し、立ち上がったスラスト。
その身に着けているものは、ヤマトのあの不気味な鎧だ。
「なんでっていうか、奥の部屋から気持ち悪いのが出てきてヤバイと思ったらいたのよ。それで、とにかく今は説明している暇じゃないって、スラストにくっついちゃった……」
「くっついちゃったって……」
唖然とするぼくたちのもとに鎧を纏ったスラストが近付いてくる。
だが、どうにも歩き方が普通じゃない。
猫背で、体を左右に揺らしながら内股気味に歩いてくるその姿は、ヤマトが着ていた時とはまるで違うのだ。それに、それはスラストらしくもなく、まるでスラストが鎧に乗っ取られているかのようにも見える。
「おとーさーん! これやだーぁ! とってぇ!」
「スラスト……だよな」
「早くー! これとってー!」
泣きそうなというよりか悲痛な叫びを上げながら、体に張り付いた鎧を触ることもできずジタバタするスラスト。虫にくっつかれた人特有の動きだ。しかし、ぼくには気味の悪い姿からその行動が呪われたダンスのようにしか見えない。
「ス、スラスト、こっちにおいで。取ってあげるよ」
そうして近づいてきたスラストに手を伸ばした途端、鎧は溶けるようにスラストの体から滑り落ち、床に溜まると、再びあの小悪魔の姿に戻った。
「何が取ってあげるヨ! アタイは虫か何カ? 失礼ネ!」
「お、お前……。ヤマトさんはどうしたんだよ?」
「ヤマト……。アタイの愛しいヤマト。あのヒト、最後まであんたたちの心配してたワ……。本当はアタイも着いていきたかった、でも、自分は一人で大丈夫だからっテ。それよりも自分がいなくなってあんたたちが困るだろうってサ……。ホント、バカなんだかラ……」
そう言って涙を拭うような仕草を見せる小悪魔、しかし涙は出ていない。
きっと本当に悲しんでいるのだろうが、どうにもその姿からそれが嘘らしく見えてしまう。
「さあ、いつまでもここで話をしてはいられないよ! とりあえずどっかに身を隠さなきゃ!」
依然慌てた様子のジーナが下方を指差す。
そこにはすでにマウスフェイス成体が数体迫ってきていた。




