春 4月23日 旧校舎~保健室 あかべこ揺らしの少女
女の子はあかべこと一緒に頭を縦に頼りなくぐにゃぐにゃと振る。
僕が見ていることに気付いていないのか、それとも気付いていて無視をし続けているのかもしれない。
何十秒か経ってあかべこの揺れ幅が段々と小さくなっていき静止する。それと同時に女の子も静止した。満足したのだろう、笑みを浮かべて体が小刻みに揺れる。はっきりいって、まったくその気持ちは理解できない。ある程度喜びを表現した後に僕と眼が合った。すると、
「なななんで旧校舎に侵入してるんだ!ここは生徒立ち入り禁止なんだぞ!」
「いやいや、それはこっちの台詞だろ。」
「………。」
女の子は論破されてだんまりとしてしまった。
「…てたのか?」
「えっ?」
声が小さくて全然聞き取れない。
女の子は察してか僕の耳元五センチ圏内まできて、
「だーかーらー!」
「いや!うるさいわ!」
「だから……、君は見たのか?」
「はぁ?」
何をだよ。
「私が無我夢中であかべこに成りきっていたのを見ていたのか!」
「…………。てか自分で言っちゃってません?」
「黙りこむということは……。貴様見たのであろう?答えないならここで死んでもらうしか無いようだな。」
「あの~、会話のキャッチボールが出来ていないのですが。」
「問答無用!」
女の子は拳を振り上げて俺の顔めがけて振り下ろした。それを冷静に避ける。女の子は勢い余って雑品の段ボールに頭からダイブした。ホコリが舞い上がって呼吸器系統に悪い。口を右手で押さえた。女の子を見ると目を回して失神していた。僕は仕方がないので保健室まで運ぶべく両手を持って引きずるように旧校舎を後にした。
それから30分弱で女の子は目覚めた。
保健室の先生が僕に説教をたれている最高潮の時だった。最近の男の女性に対する扱いを焦点にさせられながら延々と同じ内容を例えを変えながらループしているのだ。
カーテン越しの女の子の影がむくりと起きあがったのを見計らって、先生の呪詛を振りきる口実としてベッドの方へと向かった。
薄ピンクのカーテンをジャジャジャと開けると不機嫌にそっぽを向いた女の子がいた。完全にお冠である。鶏冠にきているようだ。
「あの~、さっきは避けてごめん。まさかあのまま行っちゃうとは思わなくてさ。」
「わーわー!その事も忘れて!」
慌てふためき、こんどは顔を横に振った。
「誰にも絶対に言わないでね!お願い。」
「別に、まぁなんも怪我とかしてなかったんなら良かったよ。んじゃ。」
「えー!ちょっと待ちなさいよ!」
この期に及んでまだ文句を言う気なのかよ、面倒くさいのに絡んじまったぜ。心なしかさっきより目線合わなくなって来ちゃってるし。
「さっきの場所に明日絶対に来て!来ないとあれだからね!」
すると、女の子はピューと駆けていってしまった。
よし、サボろう。