春 4月23日 旧校舎 天才馬鹿少年は
僕はなによりもサボるのが好きだ。
授業を保健室のベットで横たわってスマホを弄りながらよくあるRPGのレベリングをするのが好きだ。家の手伝いをやらずにお菓子を食べながらニュース番組を観てアナウンサーの口元を舐める回数を数えるのが好きだ。
友達との約束をドタキャンしてゲームセンターで取れもしないクレーンゲームにお金をつぎ込むのが好きだ。
そうやって僕は15年間山も谷もないような普通極まる人生を怠惰に過ごしてきた。
その事については僕はまったくと言っていいほどに後悔してないし、むしろ僕は誇っている。僕みたいにここまでダルダルと生きている人間はいても、
「日本の模試で一位を取っているのにも関わらず、日本の最底辺の学校自らの意思で進学するような奴はいない。」
勿論、学校に革命を起こしてやろうなんて大層な事は考えてもいなければ、落ちぶれて落ちぶれて可哀想な悲劇のヒロインになろうって魂胆でもない。
僕は思い付いたどうでもいいことをやっていたいのだ。そのためには自由奔放で規律など皆無な場所で自分の才能を振りかざして生活するのが一番じゃないか。
まぁ、そんなこんなで僕の4月23日は部活動入部期間である。この日の面倒くさい学校行事は僕にとっては何でもないようなことであり、今日も今日とて学校の探索をしようと思った。クラスメートが何故かよってくる体質なので、僕は障害物を押し退けて目的地へとがに股でゆったりと歩く。
細やかな温もり伝わる春の陽射しは前髪の隙間から双眸をチリチリと焼いてムカつく。舞い散る桜の花びらがブレザーに引っ付いて腹が立った。緑の匂いが冬からの開放を喜ばしく思うのを肌で感じてどうでもいいことだと感覚すらもキャンセルする。春の風流なんてものは面倒くさいだけだ。景色を見るにはそれ相応の価値観を固めてからじゃないとなんにも楽しくないのである。
なんやかんや色々と考えているのだ。毎日ダラダラするには様々なことに気を配らなきゃいけないので楽ではない。ダラダラすることは頭を使うのだ。
目的地についた。木造四階建ての旧校舎である。
前にもここにサボれそうな場所はないかと侵入しようとしたのだが、あの時は事務の先生に偶然見つかってしまい、帰宅を余儀無くされたのである。
だから今回は職員会議と部活動入部期間が重なり校庭と職員会議室以外には先生が誰もいないのだ。
こうして僕は旧校舎へと誰にも見られないままにたどり着いたのだった。あー、天才。
軋んだ下窓を乱暴に抉じ開けてニュッとでんぷんのりみたいに頭から開拓する。
そこは段ボールが山のように積まれていて、所々ポスターとか標語とかそういった特別な日にしか使わないような雑品があった。僕は旧校舎への情熱がメラメラと燃えた。暇潰しにはピッタリじゃんかよ!
取り敢えず電気を点けて全体を把握しようとのっそりと立った大きな棚をずらして隣のスペースへと顔を出した時だった。
「カコン、カコン、カコン」
何か軽い音がして、そこにはあかべこを揺らして一緒に首をグワングワンしている女の子がいた。
これが僕とメノウ先輩との不思議な出逢いだった。