表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/17

第八話

 


 日が傾いてきた。

 あかねは屋敷を飛び出し町中を走りに走り、いつのまにか涼介と出会った河川敷をとぼとぼ歩いていた。その顔は、涙の残滓に濡れている。

「お父さんのバカ。何もあんなこと言わなくても。刑事さんもだよ、なんで断るのかな……」

 悲しげな顔をしてぶつぶつ文句を言いながら、ふと思い出したかのように考えた。

「なんでわたし家を出たんだろう?」

 頭の中で、今日の出来事を思い出してみた。

 刑事さんに出会って、家に帰ったら警察がわたしの警護をするとかなんとかで、お父さんが断ってしまった。

 そして、刑事さんが帰ろうとして、今に至る。

「……?」

 ここであかねはぴたっと足を止めた。

 あかねは屋敷を出て行こうとしたときの言葉を思い出す。


『わたしがこんなに想ってるのにどうしてあなたに届かないの!?』

『わたしはあなたの側にいたいの!』


 言葉を反芻する。

「…………………………」

 言葉を反芻する。

「…………………………」

 言葉をはんす―――。

「きゃああぁぁあ――!!」

 あかねは叫んだ。

 通行人が訝しくあかねを避ける。

「うっ……」

 次は恥ずかしさで真っ赤になり、顔をふせる。

「……ち、ちょっと待って………」

 ――落ち着け、あかね。あのときは、そう、必死だったから……。

「『必死だった』からってなに!?」

 仰天した。あかねの頭の中にはある言葉が浮かんだ。顔は耳まで真っ赤。

 彼には感謝をしている。だけど、今の気持ちは感謝を通り越している。

こんなことはあるだろうか?

 今日。彼と出会ったときのことは鮮明に覚えている。

 整った顔立ち。風で流れる髪。凛々しい眉。鋭く光る目。

 すました顔で刀を抜き放ち、瞬く間に、悪者を一蹴してくれた。

 彼の背中は大きく、何者からも守ってくれる……そんな感じがした。

 だから、すごく、とても、本当にかっこよかった。

 そこまで考えて、あかねは首を横にぶんぶん振った。

「はぁ……」

 大きなため息を吐いてうなだれる。一人で頭を抱えて、「うわぁ……」とかうめく。どうしようもなくもどかしい。胸がイタイ。

 彼にここまで肩入れするのは明白。しかし、ほかにも理由はあるのだ。

 彼みたいな剣客は初めて見た。今まで五十嵐家に出入りしようとする剣客は、五十嵐の財力にたかる剣客ばかりだった。でも彼は違った。善良で素直な警察官だと、あかねは勝手に思う。

 しばらくして、あかねは歩き出した。

「悩んだらお腹すいた。釈然としないけど、家に帰ろ……」

 そのとき、後ろから足音が聞こえた。

(もしかして……!)

 あかねはおもわず振り返った。

「刑事さ……ん……?」

 胸に鈍い感触が当たった。何をされたかわからなかった。

「かはっ……」

 彼女は小さく呻き、気を失った。


 あかねの前には二人の男がにやにや笑いながら立っていた。

「昼間は変な奴に邪魔されたが、俺たちは運がいいぜ」

「さっそく、中居なかいさんとこに運びましょうぜ!」

 もう一人が意気揚々とあかねの肩を担いだ。

「よし。お前はこいつを運べ! 俺は五十嵐邸に文を投げてくらぁ!」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ