第6章 空への旅立ち
ジチ・フージンの宝探しイベントの宝を集め、祭りのフィナーレとも言えるファイナル・イベント―“不滅石”をかけた、最後の舞台であるクイズ大会に無事出場を果たしたクロン達。しかし、そこに残ったメンバー全員曲者揃い。苦戦をしながらも何とか優勝し、見事セレスフェザーを手に入れた―
第6章 空への旅立ち
優勝が決まった後も合奏や花火は止むことを知らず、祭りの人々と共に星空の瞬く空に歓声を上げている。一色の街灯に照らされている舞台も、空に花が咲く度に様々な色合いを魅せた。
その舞台で飛空挺の贈呈式が今、行われようとしていた。
「優勝おめでとう、クロン君‥‥おや、君はどこかで見かけた覚えがあるが‥」
「へへ‥まぁ一応、この町で育ったもんで」
司会役をしていた町長は優勝賞品である小型飛空挺“セレスフェザー”の鍵とささやかな花束をクロンに渡した。クロンの言葉にほう、と少し驚いた。
「そうか、そうか。町の者であっても、優勝者に変わりない。“セレスフェザー”を使ってくれて構わないよ‥‥ただし、町の人々からの税も使われてもいるから、扱いは大切に頼むよ」
「ありがとうございます、町長さん」
笑顔を浮かべて彼はそう言い残し、隣のセリアの返事を聞くと下がっていった。彼が下がると、待っていたかのように他の参加者がクロン達の周りに集まった。
「クロンさん、優勝おめでとうございます。あと少しで負けたのはやはり、悔しいものですね」
「ああ、まったくだ。あれだけ啖呵切っといて負けちまって、ダセェったらねぇよ、オレ達」
最初に声をかけてきたのはフォンとエモンだった。フォンが悔しそうに頭をがりがりと掻いている傍ら、エモンは笑顔を浮かべていた。
「まー、でもおれ達も結構ギリギリだったしな」
「そうそう、エモンなんか地元でもないのに、やたらここら辺の地域に関する問題に強かったよねー」
クロンは振り返って謙遜していると、セリアがうんうんと相槌を打った。
「そりゃそうだろ。何て言っ―ぐっ!」
フォンが何かを言おうとした時、後ろからエモンが彼の首を腕で締めた。
「人の事を勝手に話す癖、直した方がいいですよ」
首から腕が解かれると、フォンは咳込みながら悪い、悪いと謝る様に片手を上げた。
「とにかく、優勝おめでとさん。空の旅には気をつけろよ~」
最後に祝いの言葉を投げかけながら彼らは、ステージから降りていってしまった。彼らが見送っていると、静かにブルグ将軍が近づいてきた。
「何はともあれ、おめでとう。ほっほっほ」
「あ、ありがとうございます。ブルグ将軍」
国の偉人と聞いて、クロンが緊張で固まりきっていると将軍は笑顔で肩を叩いた。
「そんなに堅くならんでええ、ええ。今日の儂は一般人として来とるだけと言うただろうに」
「あ、はい。じゃあ、お言葉に甘えて」
クロンが将軍に言われ少し姿勢を崩すと、背後から恐らくセリアであろう人物が肘で小突いてきた。
(そういう時はいくら言われたからって、ある程度礼儀正しくしなさいよっ)
セリアが小声で言ってきたが、クロンは無視した。それに気付かないまま将軍は話を続けた。
「お前さん、空を駆けるのはいいが程々にの。でないと翼を焼かれ、地に落ちてしまうからの」
「まぁ、そんなに無茶はしませんよ」
「そうじゃな、まぁ大丈夫だろうが気をつけるようにな」
将軍は何か含みのある言葉を言い残すと、そのまま去って行った。
「今の言葉、どういう意味だったのかな‥」
後ろで聞いていたセリアも意味が分からなかったらしく、首を傾げている。リオーナはただ一人難しい顔して考え込んでいるようだった。
「一先ずおめでとう、お前さンら」
声の方を振り向くと、バナードが立っていた。顔には皮肉気な笑顔を浮かべている。
「勝てるつもりだったンだがなぁ‥お前さンらを少し見くびっていたみたいだな、この結果じゃあな」
「当然でしょ、やる時はやるんだから。あたし達」
特に自分が―と言わんばかりに胸を張るセリアを見て、バナードはやれやれといった様子で肩を竦め首を振った。その様子を見て、クロンが苦笑しリオーナも表情を僅かに柔らかくする。
「まぁ‥また会う機会があったらよ、今度はハンデ無しで勝負しようぜ」
「ああ、こっちも望むとこだ」
不敵な笑いと共に差し出された手をクロンは迷わず握り返し、笑い返した。握手を終えると彼は満足気な笑いを振り返り様に浮かべ、檀上から降りて行ってしまった。
「それでは、クロン君。そろそろ、この祭りのフィナーレを飾ってくれないだろうか?町の皆も、待ちきれない様子でね」
「え?いきなり?」
その様子を見守っていた町長が再び前に出てくると、区切りをつけるかのような咳払いをして告げた。町長の言葉にクロンが舞台から観客の方へ見やると、観客全員がそれを待ち望む様子だった。
―そして、檀上にも一名‥
「クロン、早くー早くー!」
はしゃぐセリアはクロンを急かす声を上げながら、飛空艇へ乗り込みにゆく。その様子をクロンと共に見ながら、町長はにっこりと笑いクロンの肩を軽く叩く。
「それじゃ、頼むよ。クロン君」
「あ、でもおれは飛空艇を運転したことが‥」
「運転なら、私が出来るわ。後ろに乗り込んで」
町長の言葉にクロンが言葉を濁していると、いつの間にか後ろにいたリオーナは言うだけ言ってしまうと、飛空艇の方へと早歩きとも言える速さで飛空艇に乗り込んでしまった。
「そっそれじゃ!失礼します、町長」
仲間に出遅れて、クロンは慌てながら町長に挨拶し、急いで“セレスフェザー”へと乗り込む。
「うむ、セレスティアでは気を付けるようにな」
町長は軽く手を振りながら、乗り込むクロン達を見送った。
小型の飛行機が僅かに丸みを帯びて、より鳥の形状に近くなったような銀色の機体。薄いながらも頑丈そうなガラス製の窓状のドアを開けると、セリアとリオーナが乗り込んでいるコクピットが見えた。
そしてコクピットの中は意外にも広く作られており、少し無理すれば4人は乗り込めそうな程のスペースだった。
「クロン。後ろの座席に座ったら、すぐ横に付いているベルトを腰に固定して待ってて」
座席にこしかけようとしたクロンに、操縦席に座っているリオーナから声がかかる。
「あ、ああ。リオーナは何してんだ?」
「私は今、この飛空艇の軽い点検と目標地の設定しているところ」
リオーナの言葉通りに周りを探し、ベルトで腰を固定しながらリオーナを見ると、彼女は忙しなく操縦席付近にある様々な計測器を覗き込み、操縦用と思われるレバーとコントロールパネルを操作している。
(まだ出会って一日も経ってないけど、リオーナってところどころで何者?って感じの雰囲気あるよね‥)
隣のセリアが彼女に聞こえない程に抑えた声で話しかけてくるのを、クロンは頷き返すことしか出来なかった。
(確かに‥)
街中を歩いていた時でも、自分自身の事についてはほとんど話さなかった。クロンとセリアに話した事と言えば、ある場所に向かって旅している事とその道中のさわりぐらいなものである。
「ところで、どこに行くんだ?確か、最初はリオーナの行きたい場所へ行くんだろ?」
セリアに言われた事もあり、操縦席で機器の設定をしている彼女にそれとなく聞いてみる。止まることなく動いていた手が止まるのと同時に、飛空艇の動力部が駆動音を上げ始める。すると、彼女は黒髪を躍らせて振り向くと、どこか微笑んでいるような表情を浮かべた。
「これから向かう場所は‥天空に浮かぶ大陸、浮遊大地“セレスティア”よ。さぁ、二人とも舌噛まないように気をつけて」
「っと‥!?」
リオーナが言い終わると途端に体に強く重力が圧し掛かってきた。機体が浮上し始めたのである。セレスフェザーに取り付けられた窓からはギャラリーの人達が手を振っている。
夜空には花火が打ち上げられ、銀色の機体を鮮やかな彩りで染め上げた。
「さぁ、一気に加速するわよ‥ん!」
リオーナがレバーを前に倒すとそれと正反対の方向にクロン達の体は引っ張られ、重力の向きが下から後ろへ変わっていく。そして、空から舞い落ちし羽根“セレスフェザー”は赤、緑、黄、青と彩色の炎のスポットライトで染まった街から、夜闇の星空へと再び飛び立って行った‥
申し訳ございませんでした‥
この物語に何度も足を運んで下さっていた方、本当にごめんなさい。
夏休みの間、勉強を忘れ、小説を忘れ、ただただ遊んでました!
おかげで久しぶりに気力も充実しました!
これからまた連載を続けますので、もし宜しければ引き続きご覧下さいませ。
ここから、物語もようやく動き出します!
次の更新の目安は‥火曜、もしくは水曜で行きます!