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第五章 フィナーレの下で


第五章 フィナーレの下で


「それでは第一問っ!このミラで最も有名な特産品は‥」

 町長が出題しようと話している最中、ベルの音が鳴り響いた。ベルを押したのは―

「よしっ!頼んだぜ、エモン!」

 フォン、エモン組のフォンであった。彼は自信に満ちた様子でエモンを振り返ったが、エモンはやれやれといった様子で嘆息していた。

「ルールを聞いていなかったみたいだね、フォン‥ベルを鳴らした人しか、答えてはいけないんだよ」

「あっ‥ヤベ‥‥」

 エモンの言葉を聞いてルールを思い出した途端、彼の顔からはみるみる内に自信と笑みが引いていき、その代わりとして不安とひきつった表情が埋め尽くしていった。

「さぁー、それではフォンさんに答えて頂きましょう!正解は~~何でしょう?」

「‥‥小麦粉‥?」

「‥‥‥‥‥‥‥」

 満面の笑みの町長にマイクを向けられ、フォンは仕方なく虚ろに笑いながら適当に答えた。すると、町長は黙り込み俯いたまま少しが間が空くと、

「惜しい!ザンネーーーン!不正解でーすっ!」

「嘘っ!?」

 町長の大きな間違い宣言の後、思わず声を上げてしまった主はセリア。この歴史に精通しているだけあって、多少なりとも地理にも詳しい彼女も彼と同じ答えを思い浮かべていたようだ。だが、町長の話はまだ続いていた。

「確かに最も有名な特産品は小麦粉ですが、それから作られる“ミラベーカリー”の一番人気の商品は何でしょう?」

 いわゆる、引っかけ問題だったらしい。意気消沈するフォン・エモンチームに対し、クロンチームは活気付いた。

(おい!この調子なら、おれ達優勝は確実だぞ!)

(この街の事なら、ここにいる誰よりも知っているしね!)

 クロンとセリアは互いに問題の傾向に幸先のいい空気に喜び合っている最中、端からベルが鳴り響いた。鳴らしたのは誰だ?、とクロンが立ち上がって確認すると、ベルに手をかけていたのはバナード。

「食べると香ばしいスパイスの漂う‥ミラ・クルミカレーパン!」

「‥‥‥‥‥‥‥‥」

 演出なのだろうか。またもや、町長は無言のまま俯き、微妙な間を空け‥

「大・正・解――――――――――――――!!!」

 自身の声量の最大級を持って、正解を告げる。同時に観客も歓声を上げる。ブルグ将軍を除いた二つのチーム。フォン・エモンチームとクロンチームは悔しさを表情に出していた。

「他に知っている奴がいるなんて‥」

「あーー!アイツには絶対負けないわよ、クロン!」

 地元でありながら、問題に答えられなかった事も相まって、対抗心からバナードを半ば睨むように見やると、彼は得意気な顔で、

「あれだけ街中を歩かされたんだ、当然“七つ道具”の周囲の店とかはチェックしておくだろ?」

 いかにも当然と言った雰囲気に、クロンとセリアは増々対抗心を燃やした。

「よし!絶対負けねぇ!」

「飛空艇は私たちのモノよ!」

 そんな二人を後ろからずっと見ていたリオーナは二人を宥める。

「熱くなるのは構わないけど、さっきのような早とちりで答えるのはしないようにね」

 リオーナが言うが早いか、町長が少し落ち着いた所を見計らって、再び話し始める。

「えー、先ほどフォンチームは問題途中で回答した結果、間違えてしまいましたが、次からは問題途中で回答してその回答が間違いだった場合、次の問題ではそのチームはおてつきとして一回休みと致します。自信のある方はおススメ致しますが‥」

 町長の説明が終わると、各チームに緊張が走っていた。問題途中であれば、他チームよりも素早く回答出来るが万が一間違っていたら、次の問題も答えられないといった状況を呼び寄せてしまうリスクとリターンが重なったルール。その意図が正しく、各チームに伝わった証拠と言える。

「どうやらご理解頂けたご様子ですね‥続いて、第二問!ミラが村として出来た星暦1402年‥」

 先ほどの念押しもあってか、今度は皆がベルが離れた位置に手を置いている。押した人のみしか答えられない、というルールも相まって、フォン自身ベルを押そうとしていない。

「この年のエストリア国の国王の名は何‥」

 ベルが鳴った瞬間、町長の言葉も途切れる。まだ問題途中だが、今度は誰だと皆が辺りを見回すと、

「デュラム・ターク・エストリアⅦ世!」

 なんと、またもやフォン・エモンチーム。しかし今度ベルを押したのは、エモン。彼はマイクが向けられる前に答えを吐き出した。

「せ、せ、正解――――!」

 エモンの予想外の行動に驚いた為か、今度ばかりは町長も余計な演出を見せる事もなく、高らかに宣言する。観客の歓声が鳴り響く中、フォンが誇らしげにエモンの知識を周囲に誇示する。

「どうだ!これが相棒の実力だ!」

「止めてくれ、フォン。恥ずかしいから‥」

(くぅ~~‥最初の問題さえ、答えられていたなら‥)

次々と周りが正解する中、焦燥感に包まれていくクロンとセリア。そんな中、リオーナだけはただ涼しげな面持ちでいた。

「もう少し落ち着いてみたら、二人とも。まだ二問。始まったばかりでしょう」

「それはそうだけど、出だしが肝心とも言うし‥」

 セリアが消え入りそうな声で弱気な発言をすると、隣りのテーブル―ブルグ将軍から笑い声が響いた。

「はっはっはっ!もう弱気になってしまうとわ!そんな様子では、優勝なぞ出来んて!はっはっは!」

「‥まだ負けてーよ。見てろよ、ジジイ‥最後にはおれ達が笑っててやるからよ!」

 ブルグ将軍の笑い声に負けないぐらい、大きな声でクロンが啖呵を切ると将軍は笑いを止め、奥に隠れていた眼光の鋭さを光らせ始め、

「やはり、若者は苛め抜くに限る‥はっはっは」

 そんな様子で小型飛空艇“セレスフェザー”を賭けたクイズ大会は、さらに熱を増していった―




 そして―

「さぁー!いよいよ残るは、あと一問!ここまでの成績を発表すると‥バナード選手、6点!フォン・エモンチーム、5点!クロン、セリア、リオーナチーム、5点!ブルグ将軍、6点!この様に、各チーム激しく争い合う結果となりました!」

 町長の言葉に観客が沸く。祭りの終わりが近づきつつある事も相まって、遂には街中の人間が広場に集まったようだ。観客の歓声でステージ上のテーブルが微弱に震える程である。

「くっそーー‥もう最後の問題か‥おれ達が優勝するには、あと2点分‥これじゃあ‥」

 あの後、三人いる事が功を奏したのか、何とか他チームに追いつくことが出来た。しかし、僅かな点数の差が埋められないまま、最終問題を目の当たりにし、クロンも諦めを顔に出していた。

「クロン、待って。まだ説明は終わってないようよ」

 リオーナが諦めかけているクロンに声をかけると、観客のが落ち着くのを見計らうように町長は間を置いた後、話し始めた。

「さて!最後の問題ですが、優勝者は1チーム限りの為‥同点というケースを失くすべく、2点分とさせて頂きます!つまり、現状ではどのチームも優勝の可能性が残っているという事です!」

 ここでさらに観客が歓声を、あるいは野次を、会場全体が異様な程熱気に包まれた。またステージ上の2チームもこの宣言に表情を明るくした。

「やったな、エモン!まだチャンスはあったみたいだぜ!」

「そうみたいだね‥でも、多分‥」

「さらに!もし、この場にいるチームが最後の問題に答えられなかった場合、優勝賞品である飛空艇はミラに住む住人のいずれかに贈呈することとします!」

 この町長の言葉を会場の観客全員が聞いた瞬間、イベント中で桁違いの最大音量での歓声が沸いた。

「間違いなく、難問をぶつけてくるわね‥」

 フォン・エモンチームが話している内容と同じ事をクロン達も話し合っていた。

「最後の問題な訳だから、きっとどんな人だろうが悩ませる問題のはず‥」

 セリアとリオーナが最後の問題について談議していると、クロンが二人を落ち着かせるように両手で待った、という合図をすると、

「ここまで来たんだ。それこそ“やってみなきゃ、分からない”で勝負しようぜ」

 クロンの言葉に二人は顔を見合わせると、ふふっとお互いに笑い合い、クロンと同じ様に自信に満ちた表情で大歓声を上げている観客へ顔上げる。

「それでは‥‥最終問題!!!」

「‥‥‥‥‥‥‥」

 町長の言葉にステージ上だけでなく、会場全体が同調して息を呑んでいるかのように、静けさが等しく広がる。その静けさを町長の声が―割った。

「旧約マルドク聖書の最終章、最終節で謳われている物とはっ!!!!?」

 会場に広がった静けさを割るに充分な声量であった筈だが、依然と静寂は続いていた。その会場にいた全ての人物が頭を悩ましていたのだろう。皆が皆、虚空を見やる者、腕組みをして考え込む者、額に手を当ててぶつぶつとマルドク‥マルドクと呟いたりと、十人十色に深い思考に入っていた。

 それはステージ上の主役達も同様であった。誰もが回答用のベルに手を伸ばさない。さっきまでの熱気が幻であったかのように、ざわめきがしずかな物へと変わっていった―――‥‥‥しかし、突如!

 ベルが鳴った

観客、町長、参加者、その場にいた全ての人間の視線が音源へと集中した。ベルを押していたのは―

 リオーナ―――であった。

「私の解答は‥‥生命“いのち”‥よ‥‥」

 皆が悩ました問題に対しての解答に、皆が期待して町長を見やる。町長は今までに見せたことのない引き締まった表情でリオーナ見ていたが、やがて震えるマイクを口に近づけ、

「あ‥あ‥‥あ‥」

 言葉にする重みからなのか、言葉にならない声を出しながら、最後に言葉を振り絞った。

「ゆ‥、ゆ‥‥優勝―――――――――――――――!!!!!!!!!!!!最後の問題を制したのは、クロンチ――――――――ム!!!優勝‥‥おめでとうございまぁぁあああぁぁぁす!!!!」

 町長の言葉にほん僅か遅れた後、耳をつんざく程の大歓声が巻き起こる。ステージ横に待機していた楽団が慌てて、祝いのセレナードを演奏し、前持って準備されていた祝砲も打ち上げられた。

「やった‥?おれ達、優勝だぁーーー!」

「リオーナのおかげよ、ありがとう!」

「私一人のおかげじゃ‥」

 観客の歓声で二人の言葉は聞こえなかったが、二人の言わんとすることはリオーナにも伝わってきた。なぜなら、フィナーレの下で二人、いや三人の顔には笑顔が浮かんでいたのだから。





すいません、更新予定が一日遅れてしまいました。なるべく遅れないようにしていますが、予想外に伸びてしまって‥次は金曜をめどに更新します!

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