第三章 小さなきっかけ
第三章 小さなきっかけ
外套のフードを脱いで顔を露わにしたのは、闇に溶けるぐらい艶やかな黒髪を躍らせた女性―漂う雰囲気はどこか普通の人々とは異なり、その目つきは鋭い光を宿していた。
「貴方達は誰なのか、聞いているのだけれど?」
「―えっと‥おれはクロン・レナード。こっちにいるのがセリア・シーベル。ミラに住む、ただの街の住民だ。と‥‥こんなもんでいいのか?」
驚きの表情で何も答えれずにいる二人に、彼女はもう一度質問すると、クロンは気を取り戻し、自分とセリアの自己紹介した。すると、彼女は何か―注意深く―見るように、二人をつま先から顔まで見回した。
「どうやら‥本当みたいね‥‥私は、リオーナ。さっき言ってた、飛空艇を手に入れる話って、どういうことかしら?」
「あ、えー‥今、ミラでは祭りがあって、祭りのイベントの中に飛空艇をプレゼントする企画に、私たちは参加しているの。で、そのイベントに必要なのが、ジチ・フージンの七つ道具なんだけど―」
彼女の容姿を見て、一番驚いていたセリアがようやく口を開き、彼女―リオーナに説明する。イベントの概要を説明しようとすると、リオーナは目を僅かに丸くさせ聞き返してきた。
「七つ道具が?」
彼女の質問にクロンは得意気に手に持っていた“無量の水差し”を見せるように軽く持ち上げて見せ、
「あぁ、もちろんレプリカのだけどな。知ってて、その“陽光玉”を持っているんじゃないのか?」
当然と言えば当然の質問をリオーナに投げかけると、彼女は袋から例の光の玉を取り出し、
「いえ‥これは街に入った時に拾っただけ。じゃあ、貴方達はこれを持っている私を追いかけてきただけなのね」
「ええ。だけど、なんで逃げたの?私たちから逃げるような理由なんてないと思うけど‥‥?」
リオーナはそう言うと玉を腰の袋にしまった。しかし、セリアは納得出来ない様子で自分達から逃げた時の事を彼女に問い詰めた。すると、彼女はクス、と笑い、
「逃げ回ったりして、ごめんなさいね。だけど、彼を街はずれの野卑な男と勘違いしてしまって‥」
「なっ!?」
「‥ぷ。あははは!」
意外な返答に、セリアもつられて笑い出した。女性陣に笑われて、クロンは憤慨した様子で抗議した。
「おい!おれみたいな、優しげな男性を捕まえて、ひどい言い草じゃないか!?」
「ふふふ‥でも、あんまりにも必死な表情で怖くて怖くて‥」
「あはは!あは、ごほっごほっ‥ふ、ふくくく‥」
どうやらセリアにとってはツボだったらしく、むせ返るほどの大笑いの後、声に出すのを堪えようとしたが、それでも忍び笑いのような形で口と腹を抑えて笑い続けた。
「まぁ‥それは置いといて‥‥で、協力してくれんのか?このイベント」
未だに笑いが止まっていないセリアを尻目に、クロンは本題に乗り出した。リオーナも本題に入ると顔を引き締め、腕組みをし、暫しの沈黙の後―
「‥ええ、いいわ。条件付きだけどね」
首を軽く縦に振った。
「条件?」
引っかかる単語に、クロンが当惑した表情で聞き返すと、リオーナは軽い微笑を浮かべて、
「私は急いでる身なの。だから、もしイベントで飛空艇が手に入ったら、まずは私が指定した場所へ飛んで行って欲しいの。イベントの重要品の一つを提供するんだから、それぐらい構わないでしょ?」
「ああ、いいぜ。セリアもいいよな?」
「ええ、よろしくね。リオーナ」
クロンの即答に、セリアも非を挟む事なく頷き、笑顔でリオーナに握手を求めた。
その後、三人はバラバラに散り、“ジチ・フージン”の七つ道具を三つ揃えた。持ち主の体を空へと運び、あらゆる場所へ運ぶとされる“飛召扇”。穢れた空気を清め、清浄な空気へと変えてしまう“清浄の軍配”。どんなに硬く荒れ果てた土地でも、柔らかく微生物が住みやすい土に耕す“峰墾の斧”。
しかし、その頃には街も夕暮れになり、イベントを続けている人も見当たらなくなっていた。
「まだ、揃えた人はいないみたいだけど‥やっぱり、最後に残ったな‥‥‥不滅石」
「ねぇ、リオーナ。不滅石で目立つ特徴で思い当たるものってある?」
「いえ‥持つ者を不滅の永遠なる存在たらしめるとしか聞いていないわ‥特徴なんて‥‥」
三人が求める最後の七つ道具で頭を悩ませていると、不意に呼びかけられた。
「最後の一つンなら、元のイベント会場だぜ」
「っ!?」
クロン達が声の方へと振り向くと、風来坊―もしくは旅人といった服装の男性が立っていた。革のブーツは所々に泥がこびり付き、何枚か重ね着している服もいくつかのほつれが見当たる。クロン達が怪しんで近づいて来ないとみたのか、向こうからゆっくり歩いて来た。
「お前ならが信じないのは当たり前だがよ、たまにはバカになってみねぇか?」
「何で、教えてくれるんだ?普通なら、そんな親切に教えないだろう?」
警戒心を緩めないクロン達に対し、長髪の男性は軽く笑うと、袋から次々と取り出し始めた。
「それは七つ道具―!」
「あぁ、最後の一つだけが見つけてないがな」
男はそう言うと、すぐに袋へと直した。
「お前らに協力するのは、そっちの方が面白れぇからだ」
「面白い?」
訳が分からないと言った顔のクロンに、男はやれやれといった様子で続ける。
「ゲームは一人でもやってもつまらねぇだろ?ライバルってヤツがいないと、燃えるモンも燃えねーし、何よりつまンねー」
クロンが静かに話を聞いていると、男は得意気なまま続ける。
「だから、見所あるお前さンらを、このゲームのライバルにしようとしたってわけさ」
「‥理由は納得出来る。でも、何で分かるんだ?最後の一つが元のイベント会場にあるって」
「行きゃあ分かるさ。イベント会場で待ってるぜ、ライバルさン達よぉ」
男は言うだけ言って、人混みの中へと消えていってしまった。男の言葉を鵜呑みにし切れなかったクロン達は男を追えるはずもなく、茫然としてしまっていた。
「あいつの言葉‥本当だと思う?」
「嘘か真実かは置いといても、時間ももうそんなにないし‥行ってみる価値はあるんじゃない?助けてくれる理由の方は、本音っぽかったし」
二人の言う事はもっともであり、クロンの頭をよぎっている事そのものだった。もうじき、祭りも終わる。そうなれば、イベントも自然と終わってしまうだろう。石が見つからない以上は、どうしようもない。
それに、あの男の言っていた理由だけは、不思議と分かる気がした。
「そうだな。行くだけ行ってみるか」
クロン達は元の始まりである、祭りの中心地である中央広場へと向かった―
また更新が遅れてしまいました‥やっぱり、三日はキツイので五日程に致します。この作品を読んでくださっているみなさん、これからもよろしくお願いします。