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第二章 祭りと囃子と買い物と


第二章 祭りと囃子と買い物と


「そういやさ、繁栄神“ジチ・フージン”の七つ道具って知らねーんだけど‥」

 街中に隠してあるという、司会者の言葉から街中の至る所を見て回るクロンとセリア。どうやら、参加者からイベントが伝わったらしく、どこもかしこも参加者らしき辺りを見回す人影が見える。

「はぁ‥そのくらいちゃんと勉強しなさいよねー‥ジチ・フージンの七つ道具ってのは、遥か古の時代に荒廃しきった母なる大地“マイア”を再清した道具の事で‥」

(やべ‥また火をつけちまったかな‥)

 セリアは大の歴史好きで、一度語り出すと日が暮れるまで続く事もある。幼馴染のクロンは嫌という程―熱を出す程聞かされてきた為、もはや手慣れたものだ。

「‥それで、その時に使ったと言われるのが、“無量の水差し”、“飛召扇”、“種涙の袋”‥‥」

「水差しって、アレか?」

「えっ?アレってど―」

 説明している最中に話しを遮られて、クロンが指差した方へセリアが目を向けると、

“大特価!!種涙の袋、50¢(セル)”

 と掲げられた看板が目に入り、更にはその店に並ぶ長―長蛇の列。客層を見ると、先程のイベント会場で見かけた参加者がこぞって並んでいる。

「ははぁー‥主催者もよく考えてんなぁ。これなら街にも利益出るし、上手くいけば小型飛空艇の出費も取り返せるもんな」

「じゃあ‥これに並ぶって事‥?この‥‥長~~~~~い行列に‥」

 通り沿いの店に作られた行列は途中から横道に入り、その奥の方を見渡しても最後尾が見えない程の長さになっている。これに並ぼうとすれば、ゆうに一時間以上は覚悟しなければならないだろう。

「もうこれじゃ‥とてもじゃないけど、イベントに勝つのは無理ね‥‥‥」

「いや、そうでもないだろ」

 余りにもながい行列を前にして愕然と肩を落とすセリアの傍らで、クロンは顎に手を当てて得意気に笑った。

「何でよ?この行列の中のどっかに横入りする方法でも考えついたわけ?」

「まぁ、見てろって」

 それだけ言うとクロンはどこへとなく歩き出していき、セリアは慌てて付いて行く。



―三十分後



「成程ねぇ‥そういう事。」

「あぁ、参加者の中には一人だけでやっているヤツもいると思ったからよ」

 そうやって話し合っている二人には“種涙の袋”と“無量の水差し”が手元にあった。

 二人はあの後、街を歩き回り、“無量の水差し”を二つ手に入れ、再び行列の出来ている店へと戻って来ていた。そこで購入直前の客へ近づいて、“無量の水差し”と“種涙の袋”を交換して、行列に並ばずに“種涙の袋”を手に入れたのであった。

「あとは何だっけ?」

「そうねー‥“飛召扇”と“陽光玉”。“清浄の軍配”に“峰墾の斧”‥最後に“不滅石”ね」

 顔だけ振り向いてセリアに軽く聞くと、セリアは指を折りながら淡々と言う。

「まだ五つも残っているのよね‥」

「まぁ、これも祭りなんだ。愉しみながら、やっていこうぜ~」

 溜め息を吐くセリアにクロンは陽気に言い残し、ぶらぶらと散策のような足取りで歩いていく。

「んー、“飛召扇”と“清浄の軍配”、“峰墾の斧”は簡単に見つかるだろ。形とか特徴が大きいしな」

「となると、問題は“陽光玉”と“不滅石”‥“陽光玉”は太陽の光が漏れ出る宝石と訊いているし、小さくても見つけやすいけど‥“不滅石”は久遠の命をもたらす石ってだけだから、最悪そこら中の石を拾い集める事になるかもね」

「それだけは勘弁だわ‥‥‥んな!?」

 セリアとクロンが残りの七つ道具の探し方で話し合っていると、ふとクロンの眼の端に光が射し込んできた。あまりにも突然で、あまりにも眩い光に思わず目を瞑ってしまった。

「どうしたの?‥クロン?」

 セリアの呼びかけに応えず、クロンは光が射し込んできた方へ見やると、外套を羽織った人物が走って行くのが見えた。目を凝らして見ると‥‥‥首から提げた小袋が光っている。

「セリア!“陽光玉”だ!今、あっちへ走っていたヤツが持っている!」

「え!?ちょっ‥待って、クロン!」

 言うだけ言い残してしまうと、クロンはセリアを残して走り出した。理解出来ないままセリアも慌てて走り出す。祭り囃子で盛り上がる街の中、風のように人混みの間をすり抜けるように走っていくと、外套の人物を視界に捉えた。

 しかし、すぐに外套の人物は横道へと入ってしまう‥‥‥が

「よし!袋小路へ走って行った!このまま追い詰めるぞ」

「‥ええ!分かった」

 幼い頃からこの街で生まれ育った者に土地勘無しで鬼ごっこに勝てる程、この街の構造は単純でない。しかし、それを言い換えてしまえば、外套の人物は外の人間であるという事。この街の祭りに外部者を雇ったというのは考えにくい事である。

 セリアはその何とも拭い難い違和感を感じてはいたが、口で出せずにいた。

 外套を羽織った人物はクロンの言った通り、行き止まりで立ち往生していた。

「‥‥‥!」

 外套の人物はクロン達に気づいた様子で、顔はよく見えないものの明らかな敵意を剥き出しにして睨んできている。しかし、クロンは両手を広げ危害を加えないといった体勢で近づいて行った。

「なぁ、アンタはイベントの仕掛け人なのか?だったら、その玉を渡してくれよ。そうでないなら、手を組んで一緒に飛空艇を手に入れようぜ!」

「‥‥‥!?」

 どうやら予想外の呼びかけだったらしく、外套の人物は戸惑っている―様に見える。しばらくの間、見こちらを定めるようにじっと見ていたかと思うと、外套のフードを―脱いだ。

「貴方達は誰なの?」

「‥え!?‥‥‥女性?」

「‥‥ん‥?」

 顔を露わにしたのは、仄かに赤みが入った茶色の長髪を躍らせた少女であった。




次回、投稿は12日木曜、朝9時に予定致しております。

ご愛読している皆様に大変感謝しております。

引き続き、カルマ・サクリファイスをお楽しみ下さい

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