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カシューナッツはお好きでしょうか?  作者: ストレッサー将軍
第10章 『商店街の祭り② ~恋愛単細胞馬鹿~』
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93.ハルカ



声が出なかった。



笑顔が作れなかった。



何も出来なくて、うつむくことしか出来なかった。



そんな自分の行動に、私が一番驚いた。




 好きな人の存在というのは、こんなにも自由を奪う。それを、初めて知った。“恋の奴隷”という言葉の意味が、少し理解できた気がした。今私は体のみならず、声までも、自由にコントロールすることができない。体は鉛の様に重く動かない。そのくせ、気持ちだけは溢れてきて、私の心は破裂寸前。声すら発することが出来ない私に、この心に溢れる気持ちを発散する手段はないというのに……。


 うぅ、……苦しい。心が破裂しそうで、痛い。でも、体が、喉が、動かない……。


 表現できない心の葛藤ほど、辛いものはない。世界で一番の辛さが、ここにある。それなのに、そのことに誰も気付いてくれない。はたから見てもただうつむいているだけなのだから、しょうがないのだけれど。表現をしない自分が悪いのだけれど。気付いて欲しいというSOSすら送れない自分のせいなのだけれど、


“誰か、気付いて!”


 私はそう、切に願わずにはいられなかった。


「ピロピロピロン♪ ピロピロピロン♪」


 急に携帯が鳴ったので、驚いた。それと同時に、ようやく“黙ってうつむく”以外の行為ができると思い、ホッとした。


「あ、す、すいません……」


 私は小さく呟くと、直ぐにメールを確認した。メールの差出人は、川島さんだった。


『ハルカさん、大丈夫。きっと、うまくいく』


 このメールを見た瞬間、体が急に軽くなった。エネルギーが体中から湧き上がった。そんな折、アナウンスが流れた。


『本日のメインイベント、『暗黒豆腐少女』のライブが10分後に始まります。みなさん、中央広場特設会場へ、ぜひいらしてください!』


 このアナウンスを聞いた瞬間、社長さんが私から離れようとした。私は自由になった体を使って、必死に社長さんの襟を掴んだ。引っ張った。さらに自由になった私の体は、溜まりに溜まった感情を発散せずにはいられなかった。ある感情は涙で、ある感情は頭を下げることで、ある感情は体を震わせることで表現した。それでも足りなくて、まだ心にたんまりと残っていた感情は、自由になった声に全て詰め込んで、表現した。


「私、社長さんにずっと会いたかったんです! 私がアイドルになれたのは社長さんのおかげなんです!! 社長さんの好きなものは何ですか!!! 今日の私の浴衣姿どうですか? 似合っていますか!? アイドルに大切なものは何ですか? 私今すごくドキドキしています! こんどライブに来てください!! もっと社長さんのこと知りたいです!! 今お付き合いしている人はいるのですか!? 私みたいなお子様は嫌いですか!?」


 私は自分の想いを表現するだけで、せいっぱいだった。伝わらなくてもいい。ただ、感じて欲しい。そんな気持ちで体をめいっぱい震わした。声を、想いを、誰の耳に届くともわからない闇夜に、一生懸命放った。


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