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カシューナッツはお好きでしょうか?  作者: ストレッサー将軍
第1章 『潜入、アイドルオーディション! ~私が社長です~』
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3.ふけさん


「さっきの十二番の子。君はアイドル失格だね」


 少し、キツめのトーンで、私は言葉を発した。十二番の少女は少し動揺した顔をしていたが、目は反抗的だった。

 十二番の少女を槍玉に挙げたのは、ただ単に話の内容が思いつかなかったから。ただそれだけ。ごめんね、十二番の子。


「どうしてですか? 一生懸命努力して、一流のアイドルになりたい。この気持ちのどこがいけないのですか?」


 十二番の少女は臆することなく社長 (ニセモノだけど)にたてついた。これは、若さがなせる技だなぁ……。若いころは私にも変な自信があって、周りの人の言葉なんか、素直に聞く気になれなかったもんなぁ。うんうん……ってかマズイ! 予想以上に食いついてきた。どうにかこの子を落ち着かせないと……


「いいですか、アイドルというのは人に『憩い』を届ける仕事です。努力をするということは、無理をするということです。無理をしている人が、誰かに『憩い』を届けられますか? 努力するのに夢中で、心に余裕のない人が、いったい何を伝えられというのでしょうか?」


 テキトウです。私、今ものすごくテキトウなこと言っています。十二番のお嬢さん、これで引き下がってくれません?


「……でも、毎日レッスンしないと歌もダンスも覚えられません。うまくなりません。へたくそなままじゃ評価してもらえません! だから努力は必要だと思います。絶対に」


 十二番の少女は「絶対に」と力強く語尾を結んだ。おいおい、最近の子はどんだけすごいんだよ。仮にも社長だよ? 社長に対してこれだけ強気でモノを言えるなんて……。若さってコワイ。


「大切なのは、君が言う努力を何でもない日常に変えることだよ。一流のスポーツ選手ほど、努力をしていないと言う。それは、努力を隠したいからそう言っているわけじゃなくて、本当にそう思っているからなんだ。


 つまり、何を言いたいかというとだね、他の人から見たらスゴイ努力しているように見えても、その人にとっては日常のことであり、努力をしているという自覚がないということなんだ。だから、余裕をもてる。無理をしていないから、一流のパフォーマンスを披露できる。


 アイドルもそう。僕らが歯を磨くように、毎日四時間の激しいレッスンを平然とこなす。レッスンの後に『疲れたー』とか『自分は努力した』なんて思わない。だって毎日の食事と同じ、ただの日常の一部でしかないんだから。そういう心持ちで淡々と激しいレッスンをこなす。そして、心に余裕を持って、自身を表現する。それができて初めて、『一流のアイドル』になれるんだよ。


 今の君は無理して努力して、心に余裕がないんじゃないかな? それじゃ、ダメだよ。普通の人じゃ耐えられないような激しいレッスンを、涼しい顔で平然とこなす。それができて初めて、心に余裕が生まれ、人に『憩い』を届けることができるんだよ」


 テキトウです。あぁ、テキトウです。自分でもなに言っているかわかりましぇーん。


「…………すいませんでした」


 どうやら十二番の少女はあきらめてくれたようだった。ありがとう、君はきっと将来すばらしいアイドルになるよ。そのときは、影ながら応援するからね。それじゃ!


「でわ、みなさんさようなら。オーディションを続けてください」


 私は自分がニセ社長であることがばれる前にそそくさと退散した。


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