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カシューナッツはお好きでしょうか?  作者: ストレッサー将軍
第3章 『アイドルプロデュース! ~私が、君を、アイドルにする!~』
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28.カエデ


「ちょっと! あんたさっき私の意見も取り入れるって言ったよね? 言ったよね!?」


 私は自分の考えがちっとも反映されないことに苛立ちを隠せなかった。


「確かに言ったけど、無理だって! 学生制服を着て、元気の出るような明るい曲を歌って、華麗なダンスを披露したところで、もう君の枠は今のアイドル界には存在しないんだよ」


「はぁ? なにそれ、あんた『正攻法じゃ私は敵わない』って言いたいの? 遠まわしに私には才能がないって言いたいの?」


 ふけさんは私の絶対的な味方だと思っていた。私のわがままを聞いてくれる人だと思っていた。私の才能を信じてくれる、唯一の人だと思っていた。それなのに、自分の考えを押し付けるだけ押し付けて、自分の思い通りに行かなくなると平気で約束を破る、そんな嫌なやつなのだと思った。腹が立った。


「そうじゃない!」


 突然、いつも温厚なふけさんが、怒った表情でテーブルを叩いた。私はかなり驚いた。


「な、なによ……」


「そうじゃないよ……君はすごく才能がある。君はもっと世間に認知されるべき人間だよ。少なくとも私は、心の底からそう思っています。


 でもね、世間はそんなに甘くないんだよ。君の望みが他の人の望みと同じとは限らない。君以外の人にも望みがあって、その望みを叶えようと必死になっていることを知って欲しい。多くの人がそれぞれの望みを叶えようと、おしくらまんじゅうをしている、それが社会なんだよ。


 自分の望みを叶えるには他の人の望みを踏み潰さなければいけない。時には譲歩して、自分を変えなければいけない。時には人を操らなければいけない。時には嘘をつかなければいけない……。そういった努力をして、初めて自分の望みが叶うんだよ。


 だから、もうそろそろ君も自分を高めるだけの努力はやめて、自分の望みを叶えるために周りに働きかける努力をして欲しい。自分を変えてでも、望みを実現させる努力をして欲しい」


 ふけさんは、何故か泣いていた。ふけさんの言葉は難しくてよくわからなかったけど、涙は本物だと思った。この人は本気で私のことを考えてくれているのだと思えた。この人を信じてみたいと思った。


「わかった。ふけさんの言うとおりにやってみるよ」




 『人を信じる』という行為はすごい。


 一度その人を信じてしまえば、その人の考えや言動を信じることができる。自分の信じた人が信じたものを信じることができる。信じた人が出した答えを、自分の答えとすることができる。

 それはつまり、自分が二人いるようなもの。信じる人が多ければ多いほど、私の世界は広がるんだ。そして、私のことを信じてくれる人が多ければ多いほど、私の望みは私を信じてくれる人の望みとなり、広がっていく。自分の望みを叶えるには、多くの人に信じてもらえる人間になればいい。私は、そういうアイドルになろう。


 涙を流しながら喫茶『パンヌス』のマスターに怒られているふけさんを見ながら、私はそんなことを考えていた。


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