幻視者と黄金の瞳
タイトルはファンタジーっぽいような気がするかもですが、アクションも魔法もありません。ちょっと失望させてしまうかもしれません。
夜道を歩き我が家へと向かう。残暑もだいぶなくなり冬の到来も近づきつつあるため、夜風はとても冷たい。現在通っている高校が家から歩いて通える距離であるのが唯一の幸いだ。歩きながら空を見上げる。今朝は曇り空だったが夜になると雲たちが密集することはなくなっており、静かに漂っていた。ちょっと立ち止まって、その流れを見る。
またアレに出会うことができるかもしれないから……
僕は青空を漂っている雲も、夜空を漂う雲も嫌いではない。そして月が光り輝いている夜に漂っていたら、もう何も言うことはなかった。太陽に照らされる雲より月明かりの方が神秘的に見えるのだ。
高校生にもなって、雲を見ていることが好きだと言ったら笑われるだろうか。しかし、僕が雲を見ることが好きなのは事実である。中学に入学したての頃、クラスメイトに話したら変な噂を流されて一時期周りから敬遠されたから、高校に入ってからはその話をしたことは今のところない。中学を共にした友人もこの高校には数多くいるが、すでに忘れてしまったようだ。僕だって友達の数は減らしたくないので、やぶ蛇は避けている。
正確に言うと僕はあの水蒸気の塊である雲自体が好きではないのだ。これも笑われるかもしれないな。
僕が好きなのは雲によって形作られていくファンタジーな生き物たちだ。そうよくゲームや映画などでみられる僕らの世界には存在しない幻獣が好きなのである。
雲を見ていると僕には、あるものは巨大すぎる魚に見え、あるものは雄々しい鳥に見えた。雲という僕ら地上の生き物には大きすぎるものが、獣の姿に見えることで圧倒的な存在に見える。もし、あれらが実体を持って襲ってきたら地上に存在するあらゆる力を駆使しても対抗することなどできはしない。何という圧倒的な存在か! 大きな力に恐れと憧れを、僕は雲に感じていた。
歩いて帰るいつもの帰り道。部活が終わった後に見る空は、夕焼けの時も夜空の時もある。だけど大会の近い最近は、夜空ばかり。
そして僕はある日の夜空にアレを見たのだ。
いつだったかは覚えていない。その日も雲がゆるやかに流れ続け、どちらかといえば空には青色が多い日だった。夜の空は星空と月の光がきらきら光り、雲が流れていた。
月が、上弦の月だったのが最高の条件だった、っていうのはアレを見た瞬間に気付いたんだけど、僕は自分で自分が、運がいいと自信を持って言える。
携帯のカメラではフレームにはまらないし、ただでさえ人間の肉眼でしかその姿はうまく映らない。誰かに電話して一緒に空を見ようと言いたかったけど……。やっぱりおかしなやつだと思われるだろうし、あの生物を見ているのは僕だけだと思ったら、特別な気分になった。
あの日の夜も、いつものように空を見上げ雲と星を見る。今日の雲はどんな幻獣かなと思っていたその時だった。月の光が、雲によってできた穴から地上へ降り注いだのだ。そしてはっきりと空に映った。
がっしりとした体躯からはえる長い尾は、先を尖がらせ波打っていた。トカゲのようにも見える頭は、それよりも遥かに迫力のある骨格をしており、勇ましい角をはやしている。そしてその角は背中から尾の先まで荒々しき山脈のように生えそろっていた。雄々しき翼を広げ、星空を飛行する凄然とした姿。
そして何より特徴的なのが、
鋭く切れがあり、燦々とした光を放つ
『黄金の瞳』
空に君臨するのは幻獣の王。
ドラゴン
黄金の瞳をしたドラゴンを、空に見たとき、あれほどはっきりとした姿を映したことは今までなかった。本当にそこにいるのではないかと思ったほどだ。あとひと手間魔法が起きたら実体になっていたかも。ひと手間の魔法を起こすことなんて僕には無理だけど。
でもあの時の興奮が忘れられなくて、
僕は、また空を見上げる。
あの凄然とし畏敬をも覚える存在に
再び会いたいから。
いかがでしたか。ちなみに私はこのような雲を一度だけ見たことがあり、大変興奮しました(笑)。ちょっと変人ですよね。