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第6話 執追Ⅱ
男は止まらない。
地形。
移動速度。
消耗。
焦燥。
恐怖。
逃走者の状態を推定する。
逃げる者は似た動きをする。
恐怖が強いほど、人は開けた方へ進む。
明るい方へ。
広い方へ。
この森の地形は頭に入っている。
尾根。
沢。
倒木。
逃げ場は限られる。
だが。
視界が歪んでいる。
足跡は複数方向に出ている。
血の位置がずれている。
男は止まらない。
錯覚は痕跡を消せない。
分岐。
歪みが濃い。
揺らぎの中心。
左。
男はそこへ踏み込む。
速度を上げる。
⸻
距離が消える。
鈴木が振り向く。
再び目が合う。
心臓が止まりそうになる。
なんで。
なんで。
なんで。
逃げた。
迷わせた。
なのに。
目の前にいる。
無理。
無理。
無理。
⸻
斬撃。
ずれる。
浅い。
裂ける。
悲鳴。
「痛い!」
痛い。
痛い。
痛い。
鈴木が這う。
まだ。
逃げる。
死にたくない。
助けて。
助けて。
⸻
再び斬る。
位置が揺らぐ。
木々が重なる。
距離が狂う。
それでも血は増える。
急所を狙う攻撃は認識改変の影響を受けやすい。
男は面で薙ぐ。
肉が裂ける。
悲鳴が濁る。
何度も。
何度も。
恐怖と激痛が世界を流動させる。
森が壊れていく。
男は詰める。
斬る。
抉る。
断つ。
やがて。
悲鳴が止み。
森は静かになる。
そして。
森は元の姿を取り戻した。




