表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『雷帝転生録 ~地味な元会社員、異世界の覇者となる~』  作者: なら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/34

第33話「手合わせ」


手紙はその朝届いた。


差出人はセレスティアだった。王都に着いてすぐ書いたらしく、文字が少し乱れていた。


『魔法学院への介入申請が再び来ました。今度は正式な国王令を通す動きがあります。先日の会議と連動しています。至急、対応を。 セレスティア』


読んだ。もう一度読んだ。


(やはり会議は時間稼ぎだった)


クロイツ邸で足を止めている間に、別の手が動いていた。魔法学院を正式な国王令で押さえれば、セレスティアの動きを封じられる。そうなれば帝国の研究情報も、スキルの調査も止まる。


「もう一度王都に行く必要がある」


────────────────────────────────


「俺も連れていけ」


ルーカスが言った。


アシュレイは少し間を置いた。「危険だ。謹慎中の宰相の息子が王都に現れれば、すぐ父に知られる」


「わかっている」


「なら——」


「最悪を想定するなら、俺も着いていく」


ルーカスがアシュレイを見た。真っ直ぐな目だった。「こう見えて英雄級の【魔力操作の極意】だ。足手まといにはならない」


「口で言うのは誰でもできる」


「なら証明する」ルーカスが少し間を置いた。「それと——一つ言っておく」


「何だ」


「俺がお前の味方をしているのは、正しいことだからだけじゃない。神話級と呼ばれるお前とやり合いたいから、お前に潰れてもらっては困る。そういう側面もある」


アシュレイが黙ってルーカスを見た。


「だから手合わせするなら、加減はいらない。全力で来てくれ。そうでないと意味がない」


少し間があった。


「……いいだろう」とアシュレイが言った。「庭に出ろ」


────────────────────────────────


話を聞いていたエリーゼが「え、本当にやるの?」と言った。


「見ていろ」


「私も見る」とリーシャが言った。感情の乗らない声だった。


カルロスに声をかけた。「少しよろしいですか」と言うと、カルロスが黙ってついてくる。イザベルが「あら、何事?」と言いながら庭に出てきた。


庭の中央で向かい合った。


エリーゼが「どこまでやるの?」と聞いた。「怪我しない程度だ」とアシュレイが答える。ルーカスが「それでいい。手加減はなしで来てくれ」と言った。


リーシャが少し離れた場所に立った。カルロスが石段の上から見下ろしている。イザベルが「怪我しないでね」と小声で言った。


ルーカスと、初めて正面から向き合う。以前、王都で魔力を感じ合ったことがある。あの時と同じ目だった。ただ——今日は違う光があった。挑むような目だった。


「始めろ」とアシュレイが言った。


────────────────────────────────


ルーカスが動いた。


気配が消えた。


一瞬だった。庭に立っていたはずの存在感が、すうっと薄れる。エリーゼが「え」と言った。リーシャが息を呑んだ。


(どこだ)


アシュレイは目を閉じた。雷の共鳴で周囲の空気を感じ取る。空気の揺れ。魔力の流れ。


左後方——


振り返る前に、魔弾が来た。


無属性の魔力の塊。小さく、速い。アシュレイが右手に雷を細く集めて弾いた。乾いた音が庭に響いた。


「なるほど」


(見えなかった)


魔弾に色がない。光の屈折もない。透明だった。属性を持つ魔法なら必ず何かが見える——炎なら熱が揺れる、風なら空気が歪む。だがあれは何もなかった。あえて属性を抜いて純粋な魔力の塊にすることで、透明にしているのか。


(なんという緻密な魔力操作だ)


気配を感じなければ、弾くことすら難しい。


ルーカスが気配を戻す。正面に立っていた。「一発目は様子見だ」と言った。


────────────────────────────────


二発目が来た。


今度は三つ同時だった。大きさが違う。速度が違う。軌道も違う。


アシュレイが雷を走らせた。一つ目を弾く。二つ目を逸らす。三つ目——


掠めた。


右腕の袖が焦げた。


エリーゼが「アシュくん!」と言った。


「問題ない」


カルロスが腕を組んだまま、何も言わなかった。ただ目が細くなる。イザベルが「あら……」と言って口元を手で覆った。


ルーカスが「魔弾は軌道を変えられる。属性がないから読みにくい」と言った。説明ではなく、確認するような口調だった。「それがわかっても対応できないなら、意味がない」


「知っている。続けろ」


────────────────────────────────


アシュレイが動いた。


雷を一本だけ、細く絞って走らせた。


ルーカスが魔力を前に広げた。盾のように展開する。雷が当たった——弾き返せない。押し返すのが精一杯だった。逸らす形でなんとか躱した。


「……受けきれない」とルーカスが呟いた。


「当然だ。出力を上げているからだ」


ルーカスが少し笑った。「わかってる。それでも——」


また気配が消えた。


今度は完全だった。エリーゼが辺りを見回す。リーシャが目を細める。イザベルが「どこ……?」と小声で言った。


アシュレイは動かなかった。


目を閉じた。


息を吸う。雷が体の芯で静かに鳴っている。空気の動きを聞く。草の揺れ。土の感触。魔力の微かな流れ——


(真後ろ。少し高い)


振り返らなかった。真横に雷を一本走らせた。


魔弾と正面衝突した。


庭に衝撃波が広がった。草が揺れる。エリーゼが腕で顔を庇った。


煙が晴れると、ルーカスが立っていた。


────────────────────────────────


「やめろ」とアシュレイが言った。


ルーカスが魔力を収めた。二人の間に静寂が戻った。


「……合格だ」


ルーカスが少し息を吐いた。


「ただし」とアシュレイが続けた。「王都では俺の指示に従え。単独行動はするな。気配を消す技は——使い所を間違えるな」


「わかった」


エリーゼが「思ったよりすごかった」と言った。「ルーカスって本当に英雄級なんだ」


「英雄級だ」とルーカスが言った。


リーシャが何も言わずにルーカスを見ていた。その視線に気づいたルーカスが「何だ」と言う。リーシャが「……いえ」と言って目を逸らした。


カルロスが口を開いた。「……あの魔力の密度、それに操作の精度」と言う。少し間を置いた。「技術という点では、アシュレイを超えている」


ルーカスが目を丸くした。アシュレイも黙っていた。カルロスが腕を組み直す。それだけだった。


エリーゼが「カルロスさんに褒められてる……」と小声で呟いた。


ルーカスがアシュレイを見る。「……俺はこれまで誰にも負けなかった。スキルに溺れず、研鑽を積んできた。勝っても気を抜かず——そうやってやってきた」


少し間があった。


「だが——心のどこかで、お前みたいな理不尽な強さに憧れていたのかもしれない」


アシュレイが何も言わなかった。


「次は負けん」とルーカスが言った。


「負けてもらっては困る」とアシュレイが返した。「俺の隣で戦う気があるなら、もっと強くなれ」


ルーカスが少し笑った。「……それが聞きたかった」


────────────────────────────────


手合わせの最中、一瞬だけ——何かが変わった気がした。


アシュレイの雷を魔力で逸らした時。あの一瞬、魔力の流れが普段より鮮明に「見えた」気がした。線のように。形のように。


(気のせいか)


ルーカスは手を見た。何も変わっていない。魔力の感触も、いつもと同じだ。


ただ——確かに、何かが違った。アシュレイの雷に触れた時、魔力の輪郭がいつもより鮮明に感じられた。まるで、もう一段階上の感覚に、一瞬だけ触れたような。


首を振った。今は考えるべき時ではない。


────────────────────────────────


夕方、王都行きの準備を始めた。


エリーゼが「私も行く」と当然のように言った。


リーシャが「私はここに残ります」と言った。「カルロス様と連絡を取りながら、領内と王都の動きを見ます」


カルロスがリーシャを見た。「頼む」と言った。


リーシャが「承りました」と一礼した。「兄とも連絡を取ります。何か動きがあれば、すぐにお伝えします」と言った。カルロスが頷いた。


ルーカスがフードを被った。「また被るのか」とエリーゼが言う。「王都に着くまではな」とルーカスが答えた。


イザベルが玄関に出てきた。「気をつけてね」と言う。アシュレイを見た。「ちゃんと帰ってきてね」と言った。


「ただいまと言いに帰る」


イザベルが目を細めた。「……アシュくんらしい言い方ね」と言う。エリーゼが「でも絶対帰ってくるってことだよね」と言った。イザベルが「そうよ」と頷いた。


ライが先に歩き始めた。王都の方角を向いていた。

カクヨムで先行公開しています。


頑張って執筆していきますので面白い、続きが気になると思っていただけた方は応援して頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ