9
「……なんだ、ここは」
声が震える。
足元を見ると、赤黒い石畳の地面。
ケルベロスと戦った場所。
「カイン」
その声で、胸が締め付けられた。
振り向く。
そこにいたのは、ガルドだった。
傷だらけの姿。
血に濡れた剣を支えに、立っている。
「お前だけ、生き残ったな」
淡々とした声。
「どうしてだ?」
答えようとしたが、喉が動かない。
背後から、別の声が重なる。
「簡単な話よ」
アンナだった。
倒れたまま、こちらを見上げている。
その瞳には、失望しかなかった。
「力を隠してたんでしょ?」
さらに、低い声。
「俺たちは囮だったってわけだ」
ドルベ。
枯れ木のようになった姿。
魔剣を握ったまま、こちらを睨んでいる。
「違う……」
そう言いたかった。
だが、誰も聞いていない。
「要するにだ…」
ガルドのいつもの口癖。懐かしいはずなのに、今は聞きたくない。
「俺たちは、カイン、お前のせいで死んだ」
3人が、恨みの籠もった目で俺を見つめる。
「違う、違うんだ!やめてくれ!」
俺は耳を塞いで蹲る。
◆◆◆
いつまでそうしていたのだろう。
いつの間にか周りの景色が変わっている。
「ここは?」
周囲を見渡す。
書類や物が雑多に置かれた薄暗い研究室。
記憶にない景色。
いや、どこかで…
そうだ。魔剣を握った時に…
「分かっていたはずだ」
新しい声が、背後からした。
振り返らなくても、分かった。
「……父さん」
アベルは、そこにいた。
いつもの穏やかな顔。
だが、目だけが、ひどく冷たい。
「また、お前の代わりに誰かが死んだ」
胸に、何かが刺さる。
「いつもそうだ。お前を生かすために誰かが犠牲になる」
言葉が、刃のように落ちてくる。
息ができない。
――違う。
――知らなかった。
――俺は、そんなつもりじゃ……
◆◆◆
またしても場面が転換する。
幼少期に過ごしたサナト村。第三迷宮すぐ近くにある小さな村。
民間は炎に包まれ、血の匂いが充満している。
「何だこれ…こんなの…知らない」
顔見知りの村人たち、近所の雑貨屋の店主、宿屋のおかみさん、村を守る衛兵、村長が次々と現れ、同じ言葉を告げていく。
「お前のせいでみんな死んだ」と。
分からない。
何の事なのか、全く分からない。
だけど、
頭では分からないけど、
魂が。
俺の魂が、これは妄想でも何でもなく、確かにあった現実だと伝えている…
こんなにも罪に塗れている俺に生きる価値なんてあるのか…
あまりにも多くの人が俺のせいで…
涙が止まらない。
俺は右手に目を向ける。
手の中には、いつもの剣。
「いっその事、これで…贖罪になるのなら…」
切先を自らの喉に突き立てた。
…
その瞬間。
大きな音を立て、空間全体に亀裂が入った。
そして、そこから溢れ出す光。
暖かい。
これは…サラ?




