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街門の前に、一台の馬車が止まった。
白地に金の刺繍。
教会紋章――三重円環と天秤。
それを見ただけで、門兵の背筋が伸びる。
「聖教会です。通してください」
純白の法衣に身を包んでいる男が、聖教会の任命書を門兵に提示する。
だが、それよりも門兵の目は、男の胸元の印章に釘付けだった。
「…異端審問官」
門兵は微かに震えながら呟く。
「まだ、通していただけないのでしょうか?」
白い男が静かに問う。
「申し訳ございませんでした。直ちに開門します!」
門兵は反射的に敬礼し、門を開いた。
◇◇◇
ギルド本部、応接室。
ギルド長リチャードの前に、書状が置かれていた。
封蝋には、教会の正式印。
「……異常ログ、か」
短く息を吐く。
内容は簡潔だった。
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異端についての神託が下った。
全ての機関は審問官の調査に協力せよ。
該当地域:第七迷宮
日時:斎王月5日
対応:現地審問
担当:上級審問官 アルベルト
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いつもの文面。
珍しくもない。
だが――
「担当が、アルベルト……」
リチャードの眉が、わずかに動く。
彼は名前を知っていた。
名前を聞いただけ胸糞悪くなる程度には。
「……面倒なことにならなければ良いが」
◇◇◇
街を見下ろす宿の窓辺で、アルベルトは書状を読み返していた。
日時。
座標。
異常値。
それだけ。
「…さて、どうしましょうか」
静かな声。
彼は信じている。
神は無謬である、と。
だからこそ――
誤りがあるなら、それは人の側にある。
神は理由を説明しない。
説明する必要がないからだ。
ならば、理由を“白日の下に引きずり出す”のは、人の役目。
それが、神に仕える者の仕事だ。
「歪みは、痛みの中で最も雄弁になるのです」
それは彼にとって、祈りの言葉だった。
机上には、先ほどギルドから入手した当日の第7迷宮突入者のリスト。
リストには10数名ほど記載されているが、
「深層からの帰還者が2名」
アルベルトは、わずかに口角を上げた。
異常ログが示す“歪み”は、どちらかが原因となっている可能性が高い。
あるいはその両方か。
「…まずは、神官の方からお話を聞きましょうか」
そう呟き、彼は蝋燭を吹き消した。




