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魔力徴収。それは世界の循環構造を崩壊させる力だった。  作者: 唯野丈


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5/10

5

 ダンジョンから生還して、数日も経たないうちに街は騒がしくなった。


 ――第七迷宮、崩壊。


 ギルドの伝令が走り、門兵が慌ただしく配置につく。

 深層にまで至るダンジョンが、前触れもなく自壊するなど前代未聞だ。


 俺とサラは、宿の一室でその報せを聞いた。


「……来るね」


 サラがぽつりと言う。

 その声には、焦りが滲んでいた。


「当然だ。生還者がいる以上、ギルドは無視できない」


 ダンジョンは崩壊した。

 だが、突入記録は消えない。


 生き残ったのが二人だけであること。

 その直後に迷宮が消えたこと。


 偶然で済ませるには、出来過ぎている。


◇◇◇


 呼び出しは、その日の夕刻だった。


 ギルド本部。

 冒険者たちの喧騒とは隔絶された、奥の応接室。


 長机の向こうに座る男は、老年と呼ぶにはまだ早い。

 だが、その視線は鋭い。その男、リチャードは、若かりし頃に数々の勲功を立てた歴戦の冒険者だ。その功績から、現在はギルド長の職務についている。


「――カイン、サラ。帰還を確認した」


 ギルド長は、感情を交えずに言った。


「まずは生きて戻ったことを評価しよう。だが……」


 視線が、机上の書類に落ちる。


「第七迷宮への突入記録。

 パーティ名《蒼刃》、五名。

 帰還者、二名。

 その半が5日後、ダンジョン崩壊」


 静かな声だった。


「説明してもらえるかな?」


 俺は息を整え、言葉を選んだ。


「上層ボス撃破後、転移トラップにより深層に飛ばされました」


「ほう」


「仲間が命懸けで作ってくれた魔物の隙をつき、転移スクロールで逃げ帰りました」


 嘘は言っていない。

 だが、真実も言っていない。


 ギルド長は、すぐに否定しなかった。

 代わりに、サラへ視線を向ける。


「神官としての見解は?」


 一瞬、空気が張り詰める。


「……奇跡、だと思います」


 サラは静かに答えた。


「神の導きがなければ、生還は不可能でした」


 模範解答。

 だが、ギルド長の目は細まる。


「神、か」


「では最後に。

 君たちは――深層ボスと交戦したか?」


 沈黙。


「ボスかどうか確認できていません」


 俺は即答した。


「逃げるので精一杯でした」


 数秒。

 ギルド長は俺たちを見つめ、やがて書類を閉じた。


「……いいだろう」


 その声に、わずかな緩みもない。


「今日は帰りたまえ」


俺たちは、無言で一礼し、応接室から出ていった。


◇◇◇


(ギルド内)


「ギルド長」

ギルドの看板受付嬢リリーが声をかける。


「彼らを帰してよかったのですか?」


「今は泳がせる。C級冒険者程度が命を賭けて囮になったところで、深層の魔物からは逃げきれない。彼らの帰還日とダンジョン崩壊の日を鑑みると、深層で“何か”が起きた可能性は高い」


「だったら!」


「ダンジョンボスを討伐したとなると、自らの手柄だと触れ回るのが普通だ。それをしないということは、何か秘密がある。しばらく動向を記録する。依頼の傾向、人間関係、報酬の使い道までだ」


「分かりました」


リリーが一礼し、応接室を出ていく。


誰もいなくなった部屋で、すっかり冷めてしまった茶を煽りながら、リチャードが呟く。


「…新たな英雄の誕生か、それとも…」

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