3
(サラ視点)
――終わった。
そう理解するのに、数秒かかった。
ケルベロスは動かない。
三つあった首は、すべて地に転がっている。
なのに。
私は、息ができなかった。
血の臭いが広間に満ちている。
それ以上に―カインが怖かった。
馬乗りになったまま、動かないカイン。
魔剣は、もうない。
だけど…
喉が、ひくりと鳴る。
さっきまで、確かに追い詰められていた。
魔剣が砕けた瞬間、終わったと思った。
それなのに。
彼は、素手で。
何の詠唱も、祝福もなく。
――首を、引き千切った。
私の知る“人間”の範疇を、明らかに越えている。
そして、何より恐ろしいのが…
(カインはケルベロスの魔力を吸収していた)
魔力を吸収し、循環させるのは神の権限。教会ではそう教わってきた。そして、それを乱すものは、神への反逆者であり、速やかに始末しなければならないとも。
「……カイン?」
恐る恐る呼びかける。
振り返った彼の目は、正気だった。
ただ。
底が、見えなかった。
「……サラ」
名前を呼ばれて、はっとする。
「転移スクロール。使えるか?」
その声は、いつもの幼馴染のものだった。
なのに、どうしても、重なって見えない。
「……え、ええ。まだ……残ってる」
震える手で答える。
カインは、立ち上がり、周囲を見渡した。
倒れた仲間たちに、ほんの一瞬だけ、視線を落とす。
そして。
「皆の識別票を回収して、すぐにここから出よう」
それだけ言った。
その背中を見ながら、私は思ってしまった。
――教会が、これを知ったら。
カインが異端狩りの対象になってしまうかもしれない。




